ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーFの物語ー快刀乱麻

2020-12-25 22:55:04 | 大人の童話

 翌日、王の私室には、デザントとダリア、フレイア、ルージュサンがいた。

 ルージュサンが集めたのだ。

 ナザルとセランも着いてきた。

 挨拶もそこそこに、ルージュサンが本題に入った。

「私がここに来たのは、フレイア殿から『王妃の不貞の証拠が、ダコタ殿下に渡った』と、手紙を頂いたからです」

「姉上っ!」

 フレイアが途中で止めたが、ルージュサンは構わず続けた。

 ダリアは全身を強張らせている。

「大丈夫です。陛下はとうにご存じなので」

 僅かに体を浮き上がらせ、くずおれかけたダリアを、デザントが受け止める。

「どうして分かった?」

そのままの姿勢でデザントが尋ねた。

「陛下は正直な方です。以前頂いた手紙には『お前の妹と王子達の為に』という一文がありました。今回の話と合わせれば、偶然だとは思えません」

「そうか。続きを」

「相手がデュエール殿下だとは、証拠の手紙で初めて知りました。それは証拠としては不完全なものでしたし、私とフレイア殿達で、取り戻したのでご心配なく。ところで、陛下はラウル殿下に、王座を譲りたいのですよね?」

「その通りだ」

「ならば全てを公にしてしまえば良いのです。そしてデュエール殿下の王位継承権を復活させる。国民は殿下に同情的です。なんとかなるでしょう。『貴族に生まれた女性は直系王族の求愛を断ってはならない』。この規則を盾に取れば、王妃も護れます」

「それではラウルが知ってしまう!どれほど傷付くか」

 フレイアが小さく叫んだ。

 ルージュサンが溜め息をつく。

「それ位受け止められずに一国の王が務まりますか。あなた方は勝手に思い込み、思い遣り、秘め事にし、話を面倒にしてしまう」

 フレイアは呆然とし、デザントは憮然とした。ダリアは赤い顔で二人を見比べている。

 やがてデザントが口を開いた。

「他には?」

「ダコタ殿下が、フレイア殿と私達を殺めようとしたのは、ご存じですか?」

「いや、初耳だ」

 デザントは目を吊り上げ、ダリアは目を見開いた。

「本当です陛下」

 フレイアが肯定し、ナザルとセランも頷く。

「事実であれば王族の地位を剥奪する。息子のフォッグも同様だ。あれは息子を王座につけようと、無茶をするのだ」

「陛下はお世継になられた時、ご生母様やダコタ殿下と、別に暮らすようになられたのですよね。寂しさは時として、残された方に多くつのるものです。ダコタ殿下の根底にあるのは、引き裂かれた痛みです。陛下」

「この年でか」

 デザントは呆れたが、生母が陰で支え続けてくれていたことを、思い起こした。

「分かった。他には?」

「フォッグは花に関して、卓抜した才と実績があります。国策の一環として、お考えになっても宜しいかと存じます」

「検討しよう。ルージュサン、お前のことも今回のことと共に公にする。これで全てか?」

 フレイアが補足する。

「姉上とセラン=コラッド、そしてナザルは、ムール街道の峠で恐れられていた野犬を捕獲し、山賊をカナライ側に出ないようにしました。私達が襲われた時も、守り続けてくれたのです。彼らなくして、この件の解決はございませんでした」

「ほう」

 デザントは二人を見る目を改めた。 

「セラン=コラッド。礼を言う。褒美は何が良い?好きなものを申せ」

「光栄です。褒美については考えさせて下さい」

 セランがゆったりと答える。

「ナザル。よくやった。お転婆のお守りは大変だろうが、これからも尽くしてくれ」

「恐れ入ります」

 ナザルは緊張に顔を赤くしている。

フレイアが吹っ切れたように、顔を上げた。

「こう決まった以上、私が嫁がない理由がありません。三月前に打診があったサス国との縁談を、受けようと思います」

「おお、そうか」

 デザントの頬が弛み、すぐ、王の顔に戻った。

「けれど婚姻に伴う王位継承権の返上は認められん。ラウルではまだ心許ないからだ。ルージュサン、お前も同じだ」

「はい」

 ルージュサンが左の奥歯を、ほんの僅か、噛み締めた。

「殿下!欲しいものが決まりました」

 全員がセランに視線を向けた。

「ルージュサンの王位継承権返上の承認です」

 セランが続ける。

「ルージュサンは拾われ子として船に尽くし、養子としてガーランド家に尽くし、それをやっと終えようとしているところなのです。そしたら今度は血縁者の、いざこざに駆り出された。しかもまるで当然のように。彼女が今まで王族であることで、何か恩恵を受けたことがありましたか?」

セランはデザントの視線を外さない。

「彼女は出来ます。期待を上回る果実を返せます。けれどそれは我が身を顧みず、命を削った結果なのです。僕はもうこれ以上、彼女に何も背負わせたくないのです」

 セランがデザントを見つめ続ける。 

 やがてデザントが視線を外した。

「確かに何でも、と言ったな。ルージュサン、お前に継承権は重荷かね?」

ルージュサンがはっきりと答える。

「はい。陛下」

デザントが少し俯いて苦笑した。

「では、認めよう。ところでルージュサン、彼は一体、お前の何なんだね?」

「ああ」

ルージュサンは、今気付いたように紹介した。

「彼は私の婚約者です」

「ええっっ!?」

 セランが大声を上げた。

「聞いてません聞いてません。僕は何もそんなこと」

「いりませんそんなこと。紹介するのは私ですから」

ルージュサンがすまして言う。

 セランの口が『い』の形になった。

 そしてようやく、その内容を受け入れ始める。

「いつ決めたんですか。黙ってちゃ分からないでしょう?。何回目の求婚の時ですか。百三回目?百四回目?

「まだ百三回ではありませんでしたか?」

「えっ?確かに百四回ですよ。いつのを忘れたんですか?」

 ナザルがくすくすと笑いだす。

「俺は気付いてました。ルージュサンが貴方に歌ったという『船乗りの子守唄』は、大切な家族にしか歌わないものなんです」



楽園ーFの物語ー本当思い

2020-12-18 22:45:19 | 大人の童話

 ルージュサンは足音を忍ばせて廊下を渡り、玄関の扉を開けた。

 静かに戸を閉め門に向かうと、物陰から声が掛けられた。

「お早いお帰りだな」

 少し欠けた月が、その姿を照らし出す。 

 ダコタだった。

「書斎の物音で目を覚ましたら、やっぱりこれだ。交渉決裂だな」

「その通りです」

「手紙を返せ」

「お断りします」

「だろうな。いいぞ!出て来い!」

 庭のあちこちから、男達が立ち上がった。

 使用人達ではない、崩れた身なりをしている。

ルージュサンが懐に手を入れた。

「もう遅い」

ダコタが鼻で笑う。

「手を組まないなら邪魔なだけだ。殺せ」

 ルージュサンが取り出したのは、二本の筒だった。

 二つに折って、門と後方に放りなげる。

 煙が勢いよく吹き出した。

紫色の煙が上がる。上がり続ける。

「開門っ!!開門っっ!!」

突然、銅鑼に似た声が響いた。

 「フレイア=カナライ、客人を迎えに来た!開門っ!」

 男達が動きを止める。

 躊躇するダコタに襲い掛かるように、男の声が響き渡る。

「急ぎである!開門せねば、こちらで開けるっ!宜しいかっ!!」

 ダコタは腕を組んで横を向いている。

 門からガチャガチャと音がした。

 そして門が開けられる音。

 先頭は赤毛の女だった。夜目にも分かる血の色だ。

 そのすぐ左後ろにナザル、隣にセランだ。

 堂々と進む姿に、男達が道を開ける。

 女がルージュサンの前に立った。

「お待たせしました。姉上」

「初めまして。妹殿」

 二人はよく似ていた。

 見事な赤毛。愛くるしくも、整った顔立ち。均整が取れた体つき。

フレイアの方が少し、全体的に柔らかい。

 ダコタが嗤ってフレイアに行った。

「事が事だけに、父親に内緒で姉を呼んだか。さもなきゃたった三人で、乗り込みはすまい」

「こちらの事情には構わないで頂こう。客人は連れて帰る」

「構わないでいられるか。今四人とも始末しても、誰にも分からないということだろう?」

 ダコタが嫌な薄ら笑いを浮かべた。

「二人を殺せ!」

 男達が動くと同時に、セランが矢を吹いた。

 ルージュサンが、蹴りで、肘で、相手を倒していく。

ナザルは鞘を着けたまま、剣を奮う。

十人の男達は呆気なく、地に伏せた。<

ナザルが懐から縄を出すと、ルージュサンとセランも手伝い、素早く全員を縛り上げる。

 その間フレイアは、微動だにしない。

「外の兵を呼ぶまでもなかったな。この十人は預かっていく」

 淡々と言うフレイアを、ダコタの血走った目が、睨み付ける。

「この跳ねっ返りが!私が先に生まれた。私が兄だ。私こそが王なのだ!なのに私達は冷遇されて、デザントとお前達は!」

「少し違うでしょう。殿下」

 ルージュサンが手の埃を叩きながら言う。

「貴方は王になりたかったのではなくて、双子の片割れと離れたくなかった。 引き裂かれ、置いていかれた痛みでしょう。全ての元は」

 フレイア達が、ルージュサンを見る。

「その気持ちを誤魔化すため、あれやこれやと理屈を付け。五十三年?随分と迷走しましたね。だだ漏れですよ。貴方は謀に向きません」

 ダコタが低い声を絞り出す。

「分かったような口をきくな。お前達の次の代になれば、フォッグは王族ですらなくなる。直系の姓の『カナライ』どころか『カナライア』の姓まで奪われ、僅かな手切れ金でポイ、だ」

「大いに結構です。父上」

全員が一斉に玄関の方を見る。

横にフォッグが立っていた。

「私もじきに四十です。父上に付き合うのはもう止めて、愛する人と静かに暮らしたい」

 ダコタが目を剥いた。

「愛する人?女の影など一度も!」

 フォッグが寂しげに微笑む。

「父上は息子のことも、よくはご覧になってない」

 そして口をつぐんだ。

 セランが横からカラッと言う。

「メロです。メロ=ラットン。気付かなかったんですか?」

 ダコタが目を丸くして、フォッグを見た。

 フォッグがゆっくりと顎を引く。

 セランが続ける。

「使用人だから?男だから?そんな膜ばっかり張りたがるから、面倒なことになるんです。大体貴殿方は王の器じゃない。目が二つしかないじゃありませんか」



楽園ーFの物語ー誘惑

2020-12-12 22:16:03 | 大人の童話
ダコタは、食前酒のうちから、速いペースで杯を重ねた。
 酔いにつられて口が軽くなっていくと、フォッグがサーブ以外の出入を禁じた。
「私とデザントは双子なのです。私が先に生まれたのに、この国では後から生まれた方が兄。だから私は結婚した時、宮殿を追い出されたのだ。貰う手当ては雀の涙で、許されるのはささやかな趣味だけ。この屋敷さえ、王家からの借り物だ。おかしいと思いませんか?」
「それで婚外子とはいえ、王の第一子の私とフォッグを結婚させて、あちらを継がせようと思われたのですよね?」
ダコタが大きく頷いた。
「貴女は話しが早くて良い。私とデザントはいつも一緒で、何もかも同じだった。けれど長兄の耳が不自由になった途端、私達は別物にされてしまった。上から順に跡を取るのが絶対ならば、次の王は貴女だ。ルージュサン」
「妹や弟が黙っていると?」
「我々は切り札を持っている。上手く使えば押さえ込める」
 ダコタの顔は真っ赤で、肩が斜めになって来ている。
「父上、早めにお休みになられては?」
フォッグが曖昧な笑みで促した。
「そうか?」
 ダコタは怪訝そうな顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「そうか。花の話で気が合ったようだしな。思う存分、語り明かしてくれ」
 足元の覚束ないダコタの腰に軽く手を回し、フォッグが寝室まで送って行く。
 その姿を見送りながら、ルージュサンは顎先に片手を当てた。

二人でゆったりと夕食を終えると、フォッグは自室にルージュサンを誘った。
 薔薇談義で盛り上がり、従兄弟同士という気安さもあってか、口調も大分砕けている。
 続きの間はアイボリーを基調に薄茶と淡い緑、そしてアクセントに、程よく明るい色を配してある、居心地の良い部屋だった。
「今日はラットンさんはいないのですか?」
「使いに出しているんだ。戻りは十日後」
「なるほど」
「ここまで来るってことは、私達と組むってことでいいんだよね?」
フォッグがルージュサンの目を覗き込む。
「その前に『切り札』を見せて下さい」
「もっともだ」
フォッグが苦笑した。
「父の書斎にあるんだ。ちょっと待ってて」
 フォッグはすたすたと部屋を出て、程なくして戻って来た。
手には丸めた白い紙だ。
「確認して」
ルージュサンにポン、と渡す。
ルージュサンは一読し、静かに返した。
「王妃の不貞を盾に取って、妹達を、黙らせるつもりなのですね」
「まあ、そんなとこです」
フォッグは手紙をチェストの引き出しに入れた。
 そしてルージュサンの左手首を握る。
 「分かってるよね?これは契約なんだ」
 そのままゆっくりと寝台へと進み、静かに押し倒す。
「それは、誰の願いですか?」
ルージュサンの目が光った。
「それは、本当に貴方が、心から望んでいる人生なんですか」


楽園ーFの物語ー 薔薇の館

2020-12-05 09:32:35 | 大人の童話
「私は今、困っています」 
 迎えの馬車の中で、フォッグがルージュサンに笑いかけた。
 そうすると目尻が下がり、本当に困っているように見える。
「何故ですか?」
 ルージュサンは、少しも困っていない。
「私は、身長と顔と蹴鞠には、まあまあ自信があったんです。けれどコラッドさんを見て、私の顔などあだ物だと思い知ったし、背も高過ぎて均整を欠く。蹴鞠はメロにさえ敵わない」
「いつも彼と練習を?」
「はい。暇にあかせて」
「彼は好青年ですね」
フォッグが目を細めた。
「メロは素直で欲がない。隣にいるとほっとします」
「雇われて、長いのですか?」
「彼が二十歳の時からなので、十二年になります。コラッドさんは、どうなんですか?」
「四年前、一緒に拉致されたんです。以来雛の様に付いて来ます」
「雛?じゃあ恋人ではないんですね?」
フォッグが嬉しそうに瞬きをした。
「友人の息子ではあります。見た目だけでも置いておく価値はあるでしょう?」
ルージュサンが、悪戯っぽく微笑みかける。
「確かに!」
二人は声をたてて笑った。

 庭には何十種類もの、花が咲き乱れていた。
 クリーム、ピンク、淡いパープル。
 丸い五弁、縮れた小さな花、吊り鐘型。
まるで野の様に細やかな変化を見せるよう、全てが算し尽くされている。
 つる薔薇が渡されているアーチの奥には東屋が、庭の隅には温室が、美しく配されていた。
 馬車を降りるなり歓声を上げたルージュサンに、フォッグは少し驚きながら、庭の案内を始めた。
「暇にあかせていじっているんです。こんなに喜んで頂けるとは」
「これ程繊細な庭を、拝見したのは初めてです。このアーチに絡ませてある薔薇の、名前を教えて頂けますか?花弁の曲線が、とても美しい」
「『ポーラ』です。亡き母の名前を付けました」
フォッグが嬉しそうに語る。
「貴方が作られたのですね!もしやこの薔薇も貴方が?」
 東屋の入り口で、ルージュサンが蔓薔薇を手に取った。
 形は『ポーラ』と同じだが、クリーム色の花弁の縁から、淡いピンクが差し込んでいる。
「よく分かりますね。一番気に入ってます」
「あの温室で品種改良を?」
「楽しいですよ。右の白薔薇もそうです」
「こちらは葉の色も面白いですね。一体いくつ作られたのですか?」
「三十ちょっとです。そんなことより、薔薇がお好きなんですね。同好の士とは、嬉しい限りだ」
フォッグは満面の笑みだ。
「素晴らしい才能も、本人には当然のこと。案外気付きにくいものなのですね。それにしても素晴らしい」
 ルージュサンが溜め息を吐いた。

先ずは一通り、その後じっくりと庭を味わってから、フォッグとルージュサンは家屋に入って行った。
食堂では初老の男が、苛々と部屋の中を、行ったり来たりしていた。
二人に気付くと両腕を広げ、おおらかそうに微笑んでみせた。
「初めまして。ダコタ=カナライア、フォッグの父です。庭が随分、お気に召したご様子ですね」
「お招き有難うございます。ルージュサン=ガーラントと申します。本当に素晴らしい庭で、眼福でした」
「おや、そうですか」
ダコタが片眉を上げた。
「それでは息子と結婚しては如何ですか?毎日眺めて暮らせますよ」
「夫付きの庭ですか。じっくり検討させて頂きます」
 ルージュサンが笑顔で返す。
「是非お願い致します。貴女のように、一緒にいて楽しい女性は初めてです」
 フォッグも笑顔で頷く。
「ところで息子から聞いたんだが、ジャナ生まれの船育ちで、父親と妹がこの町に居るというのは本当かね?」
 ダコタが何気なさを装おって聞いた。
「弟もです。ご安心を。私は貴殿方が求めている者です。叔父上」
ルージュサンがダコタの視線を捕らえた。