ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園-Eの物語-巻き添えに道連れ

2022-02-25 21:09:42 | 大人の童話
 町を出ると、ムンとオグが先に、すぐ後にセランとルージュサンが続く形になった。
 黙って歩くムンとオグの、どちらへともなくセランが問いかけた。
《どうして使者になったんですか?》
 暫くの沈黙のあと、オグが口を開いた。
《十二年前、俺に息子が生まれた。俺は神の気が濃い一族の三男で、他にそれらしい子がいなかったから<神の子>だと皆思った。だが子供はどこをとっても凡庸だった。皆は、俺が親の勧めた相手じゃなく、町の学校の同窓生と結婚したせいだと俺とムンを責めた。ムンは俺の叔父さんで、町の学校に行きたいと言った時も、結婚の時も味方してくれたから、俺の我が儘の巻き添えになったんだ》
 ムンの背中が硬くなる。
 セランは質問を続けた。
《村ではあまり学校に行かないんですか?》
《俺が初めてだ。町に嫁いだ女が子連れで里帰りしたとき、話を聞いて、我が儘を言った。叔父さんが父を説き伏せて、叔母さんと一緒に真知に出してくれたんだ》
《学校を出て、役立ったことはないんですか?》
《作物の数を増やせた。水車の効率を上げられた。外の者と話すのにも役に立つ》
《やっぱり》
 セランがにっこりと笑った。
《大いに役立ってるじゃないですか。ただの我が儘で終わってたりしてない。それにオグさんの子供の頃には、山道の整備が始まっていたはずです。交易のことを考えても、合理的な判断だった。なのに不確かな推測で、責められたんですね。それならオグさんが巻き添えにしたっていうのは勘違いです》
《勘違いだって?》
 オグの口調が強くなる。
《それとも<皆のお陰で二人で旅が出来た>ですか?》
 セランがけろりと言う。
《両方当たりにしておこう》
 そう言ってムンが、小さく笑った。



楽園-Eの物語-花曇り

2022-02-18 21:27:59 | 大人の童話
 春に霞む空の下、見送りに出たのは共に暮らすフレイアとユリア、ナザル、ドラ、フィオーレ、オパール、通いの家政婦アンとローシェンナだった。
 今回の旅は、最小限の相手にしか知らせなかったのだ。
 二人が順に抱擁を終え、オパールを残すだけになっても、トパーズは起きてこなかった。
「起こしに行きましょう」
 家に戻ろうとするドラを、オパールが止めた。
「ねかせといて。おきるまではパパとママがいるゆめを見てられるの。わたしのぶんも」
「オパールっ」
 セランがたまらず抱き締めた。
「ザーザーぶりならよかったのに」
 オパールが呟く。
「僕もそう思う」
 セランの抱擁が強くなる。
「パパ、だいすき!」
 オパールも強くしがみつく。
「僕もだよ、オパール」
 セランの腕に、更に力がこもった。
「く、くるしい」
 オパールの顔が赤くなる。
「うわっ、ごめんっ!」
 セランは慌てて腕を離すと、オパールが肩で息をした。
「大丈夫?」
 セランがおずおずと覗き込む。
「へいきじゃないけどなれてるわ」
 オパールは諦めの目だ。
「いっつもごめんね」
 セランがオパールの額にキスをした。
「どういたしまして」
 オパールが頬にキスを返す。
 そのすぐ横に、ルージュサンが屈みこんだ。
「ご免ね。オパール」
 ルージュサンが優しく抱き締める。
「トパーズの分も、抱き締めさせてね。本当はいくら抱き締めても足りないのだけれど」
「ママ、だいすき・・・きらいになりそうだけど、きらいなところもだいすき」
 オパールの言葉が、涙に詰まった。





楽園-Eの物語-異文化交流

2022-02-11 21:23:02 | 大人の童話
 翌日の昼前、テーブルの上には二枚の地図が広げられていた。
 大まかな地図はオグ、かなり細かく描かれているものはルージュサンのものだ。
 ルージュサンはグリーン、セランは鮮やかなブルーの部屋着で並んで腰かけている。
 向かいにはムンとオグが、ナザルの服を着てゆったりと座っていた。
 ムンは丈が、オグは幅が余ったが、昨日の入浴とマッサージ、滋味に富んだ食事とふかふかの布団
、そして何より帰還の目処がついた為か、昨日より随分と穏やかな顔をしている。
 最初に身を乗り出したのはムンだった。
《まず、東の町へ。そこから砂漠を渡る》
 人差し指で地図をなぞりながら訥々と話す。
《どうしてですか?砂漠の北を抜けた方がずっと近いのに》
 セランが首を捻った。
《この道を来たからだ》
 ムンが答える。
《忘れ物でもしたんですか?》
 セランが不思議そうに聞く。
《来た道は戻るものだ》
 オグがぶっきらぼうに言う。
《そうなんですか。ところで馬ですか?歩きですか?》
《我らは生き物には乗らぬ》
 ムンが答える。
《そうなんですね。荷運びにも使いませんか?》
《砂漠の入り口にラクダを預けた。砂漠でそれを使う》
《誰に預けたのですか?》
 ルージュサンが聞いた。
《ウニという男だ。砂漠に入る時、オバニという男に、ラクダと案内人の手配を頼んだが、案内人がいなかった。砂漠を抜けた町で売れと言われ、道が分かるラクダを買った。売ろうとしたら買い叩かれたから、帰りに使うと預けた》
 ルージュサンが気遣うようにムンを見た。
《まだ居れば良いのですが。もし居なくても、お気を落とさないで下さい》
《何故か?》
《買う者や借りる者がいれば、ためらわないでしょう》
《預かり物なのにか?》
《あの砂漠の案内人達は、そういう部族の出なのです》
《それはおかしい。預かり物は預けた者の物だ》
 オグが口を挟んだ。
《彼等は砂漠の中でも、滅多に人の通らない村の出なのです。預かり物によっては痛み易いし、取りに来る者は珍しい。そこから生まれた習慣なのでしょう》
《それでもおかしい。変えるべきだ》
 腰を浮かせるオグを、ムンが制する。
《我らの決まりごとも同じだ。馬に乗らず、来た道を戻る。この人達にはおかしな話だ》
《厳しい冬を共に過ごす仲間を大切にし、迷わず村に戻れる。有益な決まりごとかと思います》
 ルージュサンの言葉に、ムンが薄く笑った。
《その通りだな。村の皆は何も考えずに従っている。お前達はいちいち考えるのか?》
《多くの人が争いを避ける知恵として、異文化を尊重しています。けれどルージュは違う》
セランがすっくと立ち上がった。
《情報を基に考察し、理解を深めて共感する。素晴らしい美徳です。その上愛情深く勇敢だ。それだけではありません》
左手を胸に当て、右腕を開いてセランが歩き出す。
《見ての通り、眩いばかりのこの美しさ!僕は常々思っているんです、ルージュの素晴らしさを世界中に知らしめるべきだとっ!》
セランは目を閉じ、右腕を高く掲げて二回転半くるりと回り、ピタリと止まった。
なびいた銀髪が身体に巻き付き、するりと落ちる。
青い清流をまとった精霊の様だ。
精霊は突然「ああっ」と叫び、頭を抱えて屈みこんだ。
「そしたら世界中の男達が大挙して押し掛けてしまうっ!弾き語りと極端な美貌以外に取り柄のない僕は、どうしたらいいんだっ!」  《何か分からんが、話を進めていいか?》
 ムンが提案する。
《勿論ですとも》
 ルージュサンが同意した。





 
 


楽園-Eの物語-伝説

2022-02-04 21:13:40 | 大人の童話
「昔、村長の息子の嫁が、不貞をしたと村を追われた。残された娘は継母に苛められ、冬の山に入って居なくなった。一年後、その事を聞いた母が血眼で娘を捜し、山の神に返してもらった。その時、神が約束をさせたのだ。娘には山の気が入り過ぎたので、娘の男系男子にはその気が凝って、百二十年に一度、神の子が生まれる。その子が十二歳になった年の春の祭りには、その子も捧げるように。そして皆が歌を終えた後、その子に近い女が一人残って、力の限り歌うように。その歌が終わったら、女を里に下ろすように、と。その言葉通り、村には百二十年毎に神の子が生まれた。けれど捧げる筈の神の子が、今年は村にいない。
だから私達は旅に出た。その血筋の男が数人、この百年で村を出ていたからだ。今まで、どこにもそれらしい者はいなかった。ここで最後だ」
 あまり流暢ではないオグの言葉に耳を傾けた後、セランが聞いた。
「神の子って、どんな子なんですか?」
「容姿が極めて美しい。眠れば傷が癒える。人の未来が見える。その子によって、人に聞こえないものが聞こえたり、鳥と話せたり、盲目だったりもする。後は、皆、中身は幼いままで、分別がない」
「じゃあ僕も違います。歳は三十六だし、一晩で治るのは指の骨折程度だし、未来なんて見えないし、特別な人の額に第三の目が見える位で、何より十分に分別のある大人です」
 ムン以外の全員が、呆れ顔でセランを見る。
 オグに通訳されて、ムンは難しい顔で呟いた。
《やはり、この男しかいない。でも、何故だ》
《あくまで私の仮説ですが》
 ルージュサンがムンの独り言を拾った。
《十三年前にローシェンナとバルシュ=コラッドが出会った時、常ならぬ衝撃を感じたそうです。本来その時に神の子を授かる筈が、既にバルシュと前妻との間にセランがいて、神の気が不十分に入ってしまっていた。もしくはローシェンナの娘とセランが出会う筈だったけれど、娘は既に嫁いでしまっていた。このどちらかだと思います。ローシェンナの祖父が村の出であることを勘案すると、村の血が拡散してしまったことによるズレかもしれません》
 ローシェンナと子供達に通訳をしてから、セランが聞いた。
《神の子がいないなら、いつも通りの祭りをすればいいんじゃないの?》
《その年が近づくと山が荒れ、冬が長くなる。今回は特に酷い。近くの村でも、山で死人が出てる。このままでは飢饉になるだろう》
 ムンは言葉を切り、セランを探るように見た。
《成長した神の子に会った話も多い。皆、幸せだったようだ。歌い続ける女も、全員無事に山を下ろされる。ただ今回は、いつもとは違う。どうなるか分からない。だから我々は来て欲しいとしか言えない》
《それらしいのは僕しかいないんですね》
《そうだ》
《じゃ、僕らが行くしかないですね。ね?ルージュサン》
 セランがルージュサンを見て、にっこりと笑った。 
「有難う。セラン」
 ルージュサンも蕩けるような笑みを返す。
 辺りに光の輪が飛び交うような美しさだ。
《と、いうことで、僕とルージュサンが行きます。詳しい話を聞かせて下さい》
「お待ちになって!!」 
 廊下への扉がバタンと開いた。
「子供達とフィオーレを置いて、どこに行くとおっしゃるの?命に関わることなら、代わりにわたくしが参ります!」
 フレイアだった。
 仁王立ちで腰に両手を当てている。
 後ろでユリアが、引き止めようとした右手を虚しく下げた。
「こんなに似ている姉妹ですもの。AとA'ぐらいのものですわ。人前で歌ったことは無いけれど、歌声もきっとそっくりです」
 セランと子供達は口を開け、ユリアはそっと目を逸らした。
「有難うフレイア。けれどセランに近いのは、やはり私ですから」
 ルージュサンは冷静だった。