ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーFの物語・バックヤードー転身

2021-06-25 21:27:20 | 大人の童話
 フレイアはサス国に嫁ぐことを 決めた。
 相手は七歳年上の、第五王子だ。
 恋愛絡みではない。
 幼い頃、庭で一度話したことがあるだけの間柄だ。
 ラウルの王位が正当となった以上、他国との結び付きを深めるのは、王家の者として、当然の務めだと思ったからだ。
 国からはナザルが付いて行くことになった。
 同行前に高額な手当てを受け取り、一生仕えるのだ。
一行は順調に旅程を終え、旅の疲れも取れぬ間に、婚礼となった。
 厳かな儀式の後、小規模な宴が催され、フレイアは王族達と顔を合わせた。
 王の姉であるカナライの前王妃が、数人に似ているのは勿論、大叔父を想わせる面差しの者もいる。
 小国同士、力を合わせながら、幾多の難局を乗り切ってきたのだ。
 両国に深い関わりがあることを、今更ながらフレイアは実感した。 
「ケダフは幼い頃から三度も他国に預けていてな、まあ、体のいい人質だ。それで婚期を逃してしまってな。突然そなたを娶りたいと言い出した時には、驚いたが嬉しかった。それが現実となった今日、これ程めでたいことは無い」
 上機嫌で杯を重ねる国王に、全員が同意の笑みを浮かべる。
 思いの外早く馴染めそうだと、フレイアは気持ちを軽くした。

 新居に向かう馬車の中で、フレイアとケダフは初めて二人きりになった。
「フレイアとお呼びしていいですか?私のことはケダフと呼んで下さい」
 ケダフが青い瞳で見詰める。
 少しけぶるような眼差しだ。
「承知致しました。ケダフ・・様を付けてはいけませんか?」
「座りが悪いですか?」
 ケダフが小さく笑った。
「では、フレイア様。したいことや興味があることはありますか?」
「そうですね。少し前に姉に会ったのですが、色々面白い話を聞きました。ですがまず、泳ぎでしょうか」
「大分勇気がありますね。ドレスでは泳ぎにくいし、下着姿でははしたない」
 ケダフが又、笑う。
「ケダフ様は何に興味がおありですか?」
「今日はフレイア様と言わないと」
「では私も訂正します」
 今度は二人、一緒に笑った。
 ひとしきり笑った後、フレイアは表情を改め、ケダフに向き直った。
「何故私をお求めになったのですか?」
 ケダフは微笑んだままだ。
「幼い頃、貴女もアダタイ国に要求されたことは、ご存知ですか?」
「存じています。カナライがそのまま要求を呑んでいれば、人質同士としてあの国で過ごしていたのかもしれません」
「そうですね。私はまだ幼い身でしたが、自分のような者がこれ以上増えないよう、祈っていました。そして同時に、貴女がどんな方で、どんな風にそだっているのか、とても気になっておりました」
「では、あの日庭で出会ったのは」
「はい」
 ケダフがフレイアの両手を包んだ。
「貴女を見かけて、庭に下りたのです」
微笑んだまま、フレイアの目の奥を覗き込むように見つめる。 
フレイアも同じように見つめ返す。
 そのままケダフの館に着いた。
 それは淡いベージュとアイボリーの石を積んだ、装飾の少ない建物だった。
 カナライでは王族としての最低限の体面は保ちつつ、質素倹約、質実剛健を旨としてきた。
 ケダフも同じ考えなのだろうと、フレイアは推測しながら歩を進める。
 そして入口の扉が開けられた。
 明るい色の絨毯、華やかな伝承織のタペストリー、金色が眩しいシャンデリア。
 優美な曲線で表された花瓶には、豪華な花が山盛りになっている。
 館の中は、花を食べ、レースに包まれて育ったような女性が、好みそうな調度品で満たされていた。
 フレイアが無表情でケダフを見た。
「これは貴方のご趣味ですか?」
「親類がこぞって結婚祝いをくれるというので、ユリアに取りまとめてもらいました。私が常日頃、血税を使いまくっているわけではありませんよ」
 ケダフが面白そうに言う。
「ああ、ドレス選びは母上と姉上達の娯楽ですから、お気を悪くなさらないで下さい」
「それは、拝見するのに覚悟が要りますね」
 ケダフは何度も小さく笑った。
 侍従と侍女も付いてくる。
 白い扉の前に立つと、ケダフが微笑んだ。
「今日はお疲れになったでしょう?湯を沸かしてあります。今日はゆっくりとお休み下さい」
「有難うございます。お休みなさいませ」
 ケダフの後ろ姿を見送って、フレイアは部屋に入った。 

 次の日、フレイアとケダフは庭を歩いていた。
 ケダフは花を一種類づつ、説明していく。
 フレイアは、膨らんだドレスの裾に注意しながら、付いていった。
 それでも時々、レースやリボンを小枝に引っ掛けてしまう。
 ケダフはその都度歩を止めて、
丁寧に枝を外してくれた。
 もどかしいような、面映ゆいような、不思議な気分でフレイアは歩く。
 少し高い木の下で、ケダフが止まった。
 振り向いて、懐から小さな箱を取り出す。
「ここで渡すと決めていました」
「何をでしょう?」
「開けてみて下さい」
 フレイアの手の上に、ケダフが箱を置いた。
 金具を外すと、青い布にブラックオパールの髪飾りが乗っていた。
 昆虫が象られ、エメラルドとブラックダイヤがあしらってある。
「これは、あの時の?」
 フレイアは同じ種類の木の下で、ケダフに聞かれたことを思い出した。
「やっと、捕ってあげられた」
 ケダフが微笑んで見詰めた。
 
 二人の公務は驚くほど少なく、一日の殆どを二人で過ごす。
「姉が三人、兄が四人いますからね。大人しくしているのが、仕事のようなものです」
 落ち着かない様子のフレイアを、ケダフはそういなした。
 晴れた日は庭を散策し、書斎では各々好みの本を読み、居間ではお茶を飲みながら語らう。
 レース編みに四苦八苦するフレイアの手を、ケダフが取って優しく教えてくれることもあった。
フレイアといる時、ケダフはいつも上機嫌だった。
 侍従や侍女達も、ケダフが明るくなったと喜んでいる。
 大切にされていることも、フレイアは感じていた。
 それだけに、疑問が湧く。
自分達はまだ『白い結婚』のままだ。
 何故、夜に来ないのか。
 聞けないまま、夏になった。


楽園ーFの物語・バックヤードー快刀乱麻

2021-06-18 21:47:13 | 大人の童話
 ダリアの元に、フレイアから使いがあった。
 まだ服も着替えていない早朝だ。
 例の件が無事片付いたので、王の私室で会おうという。
 これで二月ぶりに、ぐっすり眠れるに違いない。
 忌々しく思っていた鳥の声も、急に爽やかに感じられる。
 それにしても何故、王の私室なのだろう。
 朝食を終え、王の元へ向かったダリアは驚いた。
 開けられた部屋の中央には王、右にはフレイアとナザル。これは分かる。
 けれど、左に立つ精悍な女と、とんでもなく美しい男は誰だろう。
 女はフレイアに良く似ている・・・まさか。
「お前は、フレイアの!?」
「初めまして王妃様。私はルージュサン=ガーラント。フィリア=アダロンの娘です」
 ルージュサンが一礼する。
「フレイア。どういうことです?」
 ダリアがフレイアを見た。
「私がお呼びしたのです。そろそろ姉上の立場を、はっきりさせた方が良いかと」
「だからといって、何故私と会わせるのです。フレイアの身代わりに、人質に差し出そうとした私に」
「あり得る策です。前王が決めたことですし、王妃様に責任はございません。お気になさらず」
 ルージュサンがさばさばと言った。
 ダリアがその顔をまじまじと見る。
 怒りに任せて動いたものの、酷いことをしたと思った。
 慣れない苦労をしながらフィリアが築いた、細やかな幸せさえ奪ってしまったのだ。
申し訳なさに、父母を避け続けた。
 デザントも十年近く、よそよそしかったではないか。
 なのに、当人は。
 ルージュサンが微笑んだ。
「私は母は今、幸せです。それで十分ではありませんか?」
 ダリアの肩から踵まで、すうっと力が抜けた。
 デザントが駆け寄り、その背中に手を回す。
 ルージュサンが片眉を上げた。
「さて、私がここに来たのは、フレイア殿から『王妃の不貞の証拠がダコタ殿下に渡った』と、手紙を頂いたからです」
 ダリアの顔から血の気が引いた。
「大丈夫。殿下は昔からご存知です」
 デザントが軽く背中を叩いた。
 そうか、この手だ。
 この手は全てを分かった上で、私に触れていた。
 温かく触れ、長い時間を過ごしてきた。
 赦しはとうにあったのだ。
 その上に積み上げられた、確かな交感。
 ダリアはデザントを見つめ、その胴に両腕を回した。

 ルージュサンは、全てを公にすれば良いと言った。
 『直系王族の求愛を拒めない』規則を楯にして、王妃を守れる、と。
 その上でデュエールの王位継承権を復活させれば、ラウルが王になれるとも。
 ラウルが傷付くとの心配も一蹴した。
 快刀乱麻だった。 

 王の部屋を出、楽しい話でもしようと、フレイアはルージュサンを自室に誘った。
 どちらからともなく、見つめ合う。
 フレイアは染々と、姉と自分を比べた。
 そっくりな赤い縮れ毛、良く似た顔立ち。
 けれどもルージュサンの凛々しさは、自分には無い。
 バシューを王座に着けるには、まず自分が女王になるしかない。
 そう心に決めて、努めてきた。男勝りと言われる程に。
 けれどそれは、なんと中途半端なものだったのか。
 その上、無駄であったとは。
「ずっと、耐えてきたのですね」
 ルージュサンがゆったりと微笑んだ。
 慈愛に満ちた聖母のようなその眼差し。
「貴女は長い、長い間、その重さに耐え、大変な役割を全力で果たしてきた。たった十歳の時から。だからこそ、この解決があったのです。どんなに大変なことだったでしょう。なんと健気な」
 ルージュサンがフレイアの両肩に腕を回した。
「有難う。もう大丈夫ですよ。荷を下ろして良いのです。ゆっくりと休んで下さい。可愛い、可愛い、私の妹」
 フレイアの目に涙が滲み、溢れ出した。いつまでも止まらない。
 困るフレイアに、
「二十五年分です」
 ルージュサンが言い訳をくれた。


楽園ーFの物語・バックヤードー策略

2021-06-11 21:24:01 | 大人の童話
フレイアは、ルージュサンに手紙を出すことにした。
 王妃の不貞の証拠がダコタに渡った、と書いて使者に託すのだ。
 姉が居ること自体は、ダコタも気付いているはずだ。そちらに注意が向くように、目立つ馬車で発たせよう。
 姉は時間を惜しみ、海路を選ぶだろうから、密かに船を押さえて見張りを付けるのだ。
 姉とは何度も、書簡を交わした。
 その評判も耳に入っている。 
 彼女ならきっと、秘密裏に上手く処理してくれるだろう。
 いい加減、彼女の立場もはっきりさせておくべきだ。
 一石二鳥だ。 
 フレイアは一人、頷いた。 
 
 見張りのナザルから来た最初の連絡は、ルージュサンが予想通り船に乗ったというものだった。 
 向こうから近付き、同行することになったという。
 想定外だったのは、男の道連れがいたことだった。
 二度目の知らせは、金狼と恐れられていた野犬を捕らえ、峠の山賊がカナライ側に出ないようにしたとのものだった。
 ルージュサンと連れが都に着いてからは、見張りをメディに替えた。
 その日、二人は観光がてら、王室の評判を聞き回っていたとのことだった。

 二人は朝から、蹴鞠大会に出場。
 ルージュサンは優勝し、祝勝会では、ダコタの一人息子フォッグと接触。
 宿に帰るのを見届けて、今日は終わりだろう。
 メディは半ば安堵しながら、二人の後を付けた。
 推測通り、小路を左に曲がる。
 少し間を置いて覗き見ると、ルージュサンの姿が無かった。
 慌てて辺りを見渡すと、後ろから声を掛けられた。
「今晩は」
 ぎょっとして振り返ると、ルージュサンが微笑んでいた。
「今晩は。ご旅行の方ですか?」
 平静を装い、メディが返す。
「いえ、野暮用で。伝言を頼みたいのですが、念の為、身分証を見せて下さいませんか?」
 気付かれたのだ。
 メディが身を翻す。
 その左手を捕まれ、捻じ上げられた。
「手間を省きたいのです。ご協力頂けませんか?」
 言葉と行動が不一致だ。
「失礼致します」
 そう言って懐をまさぐられた。
 フレイア王女の印が打たれた、身分証を確認される。
「間違いありませんね。メディ=セーロさん。王女にお伝え下さい。明日の午後、ダコタ殿下の屋敷に伺うので、紫色の煙が上がったら、私が襲われる現場を押さえてください、と」
「いつから気付いておられたのですか?」
 メディの口調に悔しさが滲む。
「大丈夫です。これもきっと、折り込み済みですよ。安心してお伝え下さい。逆にもし、隠そうとなされば、ことは重大です」
 ゆったりとした微笑みにも、圧倒的な強制力を忍ばせることが出来るのだ、とメディは知った。

 夕刻からフレイアは、近くの民家で待機していた。
 先発隊のナザルとセラン、十二人の私兵も一緒だ。
 日が落ち切って、明るい月が東の空を飾っている。
 その右には、赤い星だ。
 上手くいくだろうか?。
 じりじりと、待つ。
 やっと煙が上がった。
 三人で駆け付ける。
「開門っ!!開門~っ!!」
 ナザルが声を張る。
 続けた警告にも回答が無い。
 ナザルとセランが鉄柵をよじ登り、閂を外した。
 素早く庭に駆け込む。
ならず者達の向こうに、赤毛の女の姿が見えた。
背筋が伸び、無駄な力が入っていない。
立ち姿が雄弁だ。
迷わず声を掛ける。
「お待たせしました。姉上」
「会うのは初めてですね。妹殿」
 二人の予想通り、ダコタは四人を殺そうとした。
 ナザルは鞘付きの剣をふるい、セランは吹き矢を構える。
 ルージュサンは、素手で相手を倒していく。
 フレイアは見惚れた。
 無駄の無い動きとは、こんなにも美しいものなのだろうか。
 瞬く間に捕り物は終わった。
ルージュサンは、ダコタの本当の思いを看破し、フォッグの望みも解放した。
全てが思い通りに進んだのだ。
けれどもフレイアには、浅い敗北感が残った。


楽園ーFの物語・バックヤードー再び青のサキシア

2021-06-04 23:10:46 | 大人の童話
 晴れ上がった空の下、真新しい墓標がよく映える。
 昨日据えたばかりの、立派な墓石だった。
 母親の好んだ、小さな花弁の青紫の花を供え、サキシアの祈りは長い。
 蹄の音に祈りを止め、サキシアは振り向いた。
いつものように背筋を伸ばし、さばさばと墓地を出ようとすると、フレイアが馬から下りるのが見えた。
 フレイアは馬の背から花を下ろし、サキシアを認めると黙礼した。
「サキシアさん。母の代りに謝らせて頂けませんか?」
 サキシアは無表情で見返した。
「何をですか?」
「前借りを許可しなかったせいで、お母上がお亡くなりになってしまった」
「王女様の責ではありませんし、もう、何か変わるものでもありません」
 サキシアの口元が僅かに歪む。
 フレイアはその笑みに、彼女が手紙を渡したことを、確信した。
「手紙をダコタ殿下に渡しましたね?」
 サキシアはくすりと笑い、視線を逸らした。
「王女様がそう決めてらっしゃる以上、私の答えに意味はありません」
「貴女を裁くことも出来るのですよ」
「何の罪ででしょうか?下げ渡された不用品は私の物。文書では頂いておりませんが、周知の事実です。それをねじ曲げてまで、私を裁くおつもりですか?」
 サキシアが再び、フレイアを見返す。
「そもそもあの手紙にある事実を、隠しておくことことこそ、民への裏切りではないのですか?」
 サキシアは一礼して、フレイアの横を通り過ぎた。
 二通のうち一通は、王への懺悔と懇願の手紙だった。 
 細かいことはぼかしてあって、王妃への手紙と合わせなければ、決定的な証拠にはならない。 
 サキシアは王への手紙だけをダコタに売ったのだ。
 そのお金をはたいて、墓石を買った。
 もしも王妃が、謝罪か墓参りに来てくれれば、もう一通の手紙は渡すつもりでいた。
 王女を相手にしても、思った程心は晴れなかった。
 仮に王妃が来たとしても、あまり変わらなかったかもしれない。
 王妃を信じ、懸命に仕えた十四年。 
 けれど、もういい。
 全ては終わったのだ。
 サキシアは家に戻って、残した手紙を燃やした。

 翌日、サキシアは隣町にいた。
 八年間通った、学校がある町だ。
 村からの道は、昔より整備されてはいたが、それでもかなり荒かった。
 子供の足で、毎日よく歩いたものだと思う。
 母校を見に来たわけではない。
母親が、仕事を請け負っていた仕立て屋に、お礼と挨拶に来たのだ。
 自分の腕も、売り込むつもりだった。
 サキシアが仕上げたショールを見て、美しい黒髪の女主人が、目を輝かせた。
「凄いわ!お母さんも上手かったけど、これは本当に凄い!ああ、息子にも見せたいわ!」
「ご子息がいらっしゃるのですか?」
「そうなの。綺麗なものを見極める目だけはあってね。姉から貰ったんだけど。言い年をして、嫁もとらずに、高望みばっかりして」
「叔母さん、外まで聞こえるよ!」
 仕立て屋の扉が勢いよく開けられた。
「俺は、綺麗で頭がよくて、気が強い女を探しているだけなんだ」
 サキシアが顔を向けた。
 見るからに陽気な男だ。
 おどけた顔が、板に付いている。
「ほら、いた」
 沸き上がる喜びが、男の顔に笑みを作った。
「サキシア!!俺だよ!ギャンだよ!」
 面食らいながらも、ガキ大将の面影を探すサキシアを、ギャンが見つめる。
「あの時は上手く言えなかったけど、キリッとした顔に、青い仮面を着けたみたいで、本当に凄く綺麗だと思ったんだ」