ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーFの物語ー蹴鞠大会

2020-11-27 22:23:23 | 大人の童話
 翌日、中央広場は、あちらこちらで人だかりが出来ていた。
 三ヶ月に一度の蹴鞠大会が開かれているのだ。
 円形の競技場で、自分の陣地に三回鞠を落とすと負けとなり、抜けていく。
 八人で競い合い、半数になる毎に陣地が広がっていく方式だ。
 中でも注目を集めているのは、ルージュサンだった。
 初めの内、彼女はその風貌で注目を集めていた。けれど次第に、その上手さに気付く者が出始めたのだ。
 難しい位置でも軽々と、ひたすら地道に返していく。けれども相手の隙を見逃さない。
 人が抜けて陣地が広くなるにつれ、その動きも大きくなる。
 頭頂で束ねた真っ赤な癖毛が、右へ左へ、前へ後ろへと靡いて、華やかな舞踊の様だ。
「行けー!」
「そこだー!」
様々な歓声に混じって『誰だ?あれは?』と、聞く声があると、すかさずセランが『ルージュサンです。僕の運命の相手です』と、教えて回る。
 予選が終わる頃には、ルージュサンコールが沸き起こっていた。
 決勝で対峙したのは、前回の勝者、メロだった。
 景品の酒一樽を次回の勝者へ、と辞退したり、対戦相手を褒め称えたり、
柔和な顔立ちと相まって、特に女性に人気が高い。
 長いラリーの後、ルージュサンにきわどい球が飛んできた。
鮮やかに身を翻し、逆にメロの隙を突く。
陣地ギリギリに落ちた鞠に、一際大きな歓声が上がった。
メロが落としたのは二回目だ。
そこでルージュサンの蹴り方が変わった。
どこに蹴られても、右後ろの端、 左後ろの端と交互に返し始めたのだ。
メロが動きに慣れたところで、不意に前に出る。
高く跳んで鞠を捉え、 前端ギリギリに叩き込んだ。
ーピイー!ー
笛の音が高く響いた。
「勝者、ルージュサン=ガーラント」
 会場がどっと沸いた。
メロがルージュサンに笑いかけた。
すると目尻が垂れて、急に幼く見える。
「お見事です。とてもご婦人とは思えない」
「そちらこそ。とても殿方とは思えない、粘り強さでした」
ルージュサンがウィンクで返し、握手をすると、会場は拍手の嵐だ。
 ルージュサンは人の波をかき分けて、大会本部の天幕へ向かった。
 そこで暫く話し合い、少し遅れて表彰式となった。
「準優勝、メロ=ラットン!」
 メロがゆっくりと台に登る。
 女達の、悲鳴に似た歓声が上がる。
「優勝、ルージュサン=ガーラント!」
ルージュサンが、少し高い台に上がった。
 メロと同じ高さに顔が来る。
「カナライの酒は旨い!」
ルージュサンの声が強く響く。
会場から賛同の声が上がった。
「人は優しくて情が厚い!」
再び賛同の声が上がる。
「最高の人達と最高の酒を!!今から皆で分け合いましょう!!」
 広場は惜しみ無い歓声と拍手、口笛の嵐だ。
大会本部の天幕には、屋台から買い取った山積みのカップと、酒二樽。そして賞品の酒二樽が、急遽用意されていた。
 屋台の主、セラン、ルージュサン、メロが、夫々に並んだ人々に注いで渡す。
「どこの生まれだ?」
「ジャナの港です」
「上手くなるコツは?」
「船で遊ぶことです」
男達の大多数が、ルージュサンの樽に押し寄せた。
酒を注ぐ間も質問責めだ。
セランの列は、殆ど女性だ。
 訳知り顔で話回っているのは、昨日蒸し風呂屋で合った女性だ。
 メロの列にはファンの女性と、冷やかしたい男が並び、とにかく、飲みた連中は店主の所だ。
 酒樽が空になっても、会場は盛り上がったまま、夕方からの舞踏会に突入した。

舞踏会が始まっても、場の中心はルージュサンだった。
 セランの美貌と共に人目を引き続け、踊りを教わる姿さえ、注目の的だ。
 そして動きを確かめるように、一節踊ると、次は滑らかに、次は緩急を付けてと、どんどん華やかになっていく。
 ルージュサンの赤毛と、緑地に金の刺繍が艶やかな長衣、セランの銀髪と、光沢のある上着の裾が翻る。
 一曲終わる頃には、皆踊りを止めて、手拍子を打っていた。
 曲が変わって、二人が広場の端に移ると、観客達が踊り手に戻り始める。
「あっ」
 突然セランが頬を染め、両方の手で挟み込んだ。
「どうしたんですか?」
 ルージュサンが覗き込む。
「困りました。貴女の手以外に、思いっきり触ってしまいました」
 ルージュサンが苦笑した。
「大丈夫です。踊りで触るのは、触ったうちに入りません」
「えっ?それは困ります。困れなくなってしまう」
 目を白黒させているセランに、声が掛けられた。
「なんだか、ややこしい困り方ですね」
 メロだった。
左後ろに、ひょろりとした姿がある。
 線の細い顔立ち、よく手入れされた栗色の髪。見るからに育ちが良さそうな、四十がらみの男だった。
「私の主、フォッグ=カナライアです」
 メロに紹介され、男が微笑んだ。
「初めまして。メロから聞いて飛んで来ました。話以上にお美しい。溢れ出る精気が煌めいて、目映いほどだ」
「お褒めにお預かり光栄です。ルージュサン=ガーラントと申します。貴方こそ、優雅な佇まいがお美しい」
ルージュサンが優雅に微笑み返す。
「何をおっしゃいますやら。お連れの方は、美という美で形作られている」
「ああ、紹介します。セラン=コラッドです」
ルージュサンがセランを振り返った。
「初めまして。セラン=コラッドと申します。ルージュサンの運命の相手です」
 フォッグが、その美貌に改めて目を細める。
「初めまして。私はフォッグ=カナライア。お連れの方を踊りに誘うと、貴方を更に困らせてしまうのでしょうね」
「特に困りもしません。けれども、良い気分ではありません」
「やはり止めておきましょう。折角の来訪者を、不愉快にしたくはありません。ところで貴女はジャナの出身だとか」
 そう言ってルージュサンに視線を移す。
「生まれはジャナですが、海育ちです」
「今回は観光で?」
「妹に呼ばれたのです。明後日訪ねて、用事が済めば早々に帰ります」
「それは残念です。折角のご縁ですから、明日にでも我が家にいらっしゃいませんか?近くで父と暮らしているんです」
「面白そうなご提案ですね」
「では、宿と、都合の良い時間を教えて頂けますか?」
 フォッグに気付いた人々が、少し遠巻きに四人を見つめていた。