goo blog サービス終了のお知らせ 

このゆびと~まれ!

「日々の暮らしの中から感動や発見を伝えたい」

故ナワリヌイが完全破壊したプーチン神話

2025年05月28日 | 政治・経済
今日も国際関係アナリスト・北野 幸伯さんのメルマガからお伝えします。

~~~~~~~~~~~~~
全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは! 北野です。

「プーチン最大の敵」として知られるアレクセイ・ナワリヌイは2024年2月16日、獄死しました。
1年と1日前です。

『BBC NEWS  JAPAN』2024年2月16日付。
〈ロシア野党指導者ナワリヌイ氏が死亡=ロシア刑務所当局
2024年2/16(金) 22:34配信BBC News
ロシアの刑務所当局は16日、近年のロシアで最も著名な野党指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が、収監されていた北極圏の刑務所で死亡したと発表した。〉
――

このニュースを聞いて
「嗚呼、ナワリヌイが死んでもう1年経ったのか~~~」
と嘆き、涙を流す日本人は少ないと思います。

というのも、あまり日本では知られていないからです。
しかし、28年モスクワに住んでいた私から見ると、ナワリヌイは間違いなく、【 プーチン最大の敵 】でした。

なぜ?
ナワリヌイは1976年生まれ。
ロシア一の政治系ユーチューバーでした。
チャンネル登録者数は、2025年2月時点で637万人。

大きな影響力を持っていた「反汚職基金」(FBK)の創設者でもあります。
彼の名を全世界にとどろかせたのは、1本の動画でした。

2017年3月に投稿した、
「オン・ヴァム・ニ・ディモン」
(彼は、あなたのディモンじゃないよ、意味は、メドベージェフは、君が思っているほど、いいやつじゃないよ)
という動画は、
メドベージェフ首相(当時)が複数の超巨大別荘を所有していることを暴露していました。
これまでに、再生回数は4700万回を超えています。

@実際の動画はこちら。↓

ロシア語の動画なので、見たのはほとんどロシア人でしょう。
この国の人口は、約1億4600万人なので、ロシア人の約三人に一人が見たことになります。

それで、「真相究明」を求める大規模デモが、ロシア全土で起こってきた。
ロシア政府は、デモ参加者の要求を、徹底的に無視しつづけることで、この危機を乗り切ります。
しかし、国民の多くがプーチン政権に幻滅したことは間違いありません。

プーチンはこの事件で、「ネットメディアのパワー」を実感したのでしょう。
ロシアのテレビは、2000年代からプーチンの支配下にあります。
テレビで、プーチンの悪口は、一切聞かれません。

では、インターネットは、どうでしょうか?
プーチンは、ネットの影響力を過小評価していて、かなり自由があったのです。
そして、インターネットは、テレビとは真逆で「反プーチン派の勢力圏」になっていました。

ところが、ナワリヌイのメドベージェフ別荘群暴露動画以降、ネット規制がどんどん厳しくなってきた。
そして、私自身の業務にも支障が出るようになってきました。
結果、私は2018年、「日本に完全帰国することを決意した」という流れです。

つまり、ナワリヌイの活動は、間接的に私の生活にも大きな影響を与えたことになります。
こんな流れを見ると、ナワリヌイは、「プーチン最大の敵」と言っても、過言ではありません。

さて、ナワリヌイは2020年8月20日、シベリアの都市トムスクからモスクワに向かう旅客機の中で、毒殺されそうになりました。
飛行機は、オムスクに緊急着陸し、ナワリヌイは病院に運ばれた。
彼の妻ユリヤは、「ロシアの病院にいると殺される」と思い、ドイツでの治療を求めます。

8月22日朝、ナワリヌイは、オムスクの病院から、ドイツ、ベルリンに搬送されました。
飛行機は、ドイツのNGO「シネマ・フォー・ピース財団」が手配したと発表されています。
ドイツでの検査の結果、ナワリヌイ毒殺未遂に使われたのは、神経剤ノビチョクであることが判明しました。

ノビチョクは、ソ連が開発した軍事用神経剤。
2018年に、ロシアの元二重スパイ・スクリパリと娘のユリヤ殺人未遂事件の時にも使用され、全世界に衝撃を与えました。

ドイツで一命をとりとめたナワリヌイは2020年12月14日、
「事件は解決された。私は、私を殺そうとしたすべての人を知っている」
という動画を公開。
@実際の動画はこちら↓

この動画の中で、ナワリヌイは、実行犯8人の名前と写真を公開。
そして、「このグループに殺人の命令を出しているのは、プーチンだ」と断言しています。
動画の中で明らかにされていますが、犯人捜しをしたのは、ナワリヌイ自身ではありません。
「ベリングキャット」という団体です。

ベリングキャットは2014年、イギリスで設立されました。
「ファクトチェック」と「オープンソースインテリジェンス」を専門にしている。
そのベリングキャットがナワリヌイに連絡をとり、「君を殺そうとした人たちを見つけた」と話したそうです。

この調査結果は、ドイツの週刊誌『デア・シュピーゲル』、スペインの日刊紙『エル・パイス』、アメリカCNNでも検証されました。

調査の結果、何がわかったのか?
・8人のFSB諜報員が、3年間ナワリヌイの尾行をつづけていた(動画内で、8人の実名と顔写真が公開されている)。
・8人の人物は皆、「化学」あるいは「医学」の教育をうけており、「ただの尾行」ではない。
・彼らは「シグナル科学センター」から化学兵器を受け取り、ナワリヌイ暗殺を試みた。

・8人のグループが、3年間ナワリヌイを追いつづけた。
これが、ボルトニコフFSB局長の許可なしで行われることはない。
・そして、ボルトニコフFSB局長が、プーチンの許可なしで、この作戦を指示することはありえない。
・よって、毒殺指令を出したのは、「プーチン自身」である。
以上のような論理構成になっていました。

これに対し、プーチンは2020年12月17日の記者会見で、
「毒殺したければ、毒殺しただろう」
と語り、容疑を否認します。

つまり、「ナワリヌイが生きていることが、私(プーチン)が無関係な証拠だ」と。
日本人には理解不能ですが、ロシアでは、このロジックが通用します。
ロシア人の多くは、プーチンのこの言葉を聞いて、「確かにその通りだ」と思ったのです。

2020年12月21日、ナワリヌイは、新たに
「私は、殺し屋に電話した、彼は〔犯行を〕認めた」
という動画を公開します。

@実際の動画はこちら。↓

ナワリヌイは、パトルシェフ元FSB長官、現安全保障会議書記の補佐官マクシム・ウスティーノフと名乗り、実行犯の「容疑者」に電話しました。
そして、「容疑者」クドゥリャフツェフは、飛行機が緊急着陸したオムスクで、ナワリヌイの服を回収し、毒が発見されないように洗ったことを認めたのです。

また、ナワリヌイの下着(パンツ)に毒が塗られたことを認めました(彼自身が毒を塗ったわけではないが、計画を知っていました)。
さらに、クドゥリャフツェフは電話で、「なぜナワリヌイはまだ生きているのか?」という質問に回答しています。

彼は、飛行機が緊急着陸せず、「もう少し長く飛んでいれば」ナワリヌイは死んだだろうと語った。
ナワリヌイが生き延びたもう一つの理由は、緊急着陸した後、すぐ救急車がかけつけ、適切な治療をしてしまったからだと。
 
この電話で、プーチンの「毒殺したければ、毒殺しただろう」というロジックが成立しないことになりました。 
つまり、FSBは毒殺を試みて、「失敗した」と。
ナワリヌイが2020年12月に投稿した二つの動画は、少なくともネットの民に、大きな衝撃を与えました。
 
2021年1月18日、ドイツからロシアに帰国したナワリヌイは、空港で逮捕されました。
翌1月19日、ナワリヌイの同志たちは、準備していた動画を公開。

その名は、
「プーチンのための宮殿。最大の賄賂の歴史」
簡単にいうと、黒海沿岸にある「プーチンの巨大別荘」に関する動画です。

@実際の動画はこちら。↓

建設費用は、推定1400億円。
建物以外も入れた総敷地面積は、モナコの39倍だとか。

この動画はものすごいスピードで拡散され、現在までに1億3400万人の人が見ています。
ロシア人の、「1.08人に一人」が見たことになります。

インターネットを使わない年配の人たち、子供たち以外は、「ほとんど見た」といえる数でしょう。
これは、「プーチン神話」に対する最も強烈な攻撃でした。
 
なぜか?
日本人には理解しがたいですが、ロシア国民の多くは、
「プーチンは、真の愛国者で、クリーンな政治家だ」
と信じていたのです。

メドベージェフの汚職動画を見た後でも、「周りは腐っているが、プーチンだけは違う」と思っていた。
ところが、この動画を見て、国民たちは「プーチンクリーン神話」がウソだったことを悟った。
この時点で「プーチン神話は崩壊した」といえるでしょう。

今まで、ロシア国民の多くは、プーチンに対して「尊敬」「信頼」「愛」といった感情をもっていました(これも、日本人には理解困難ですが)。
ところが、この動画を見てしまったら、これらの感情を抱きつづけることは困難でしょう。

当時私は、(有料講座)「パワーゲーム」などで、
「これで神話による統治は難しくなる。
これからは『恐怖による統治の時代』になりますよ」
と語っていました。

予想通り、プーチンはその後、急速に凶暴化していきました。
プーチンがウクライナ侵攻を開始したのは、この動画で神話が崩壊してから1年後でした。

偶然とは思えません。
何はともあれ、たった3本の動画でプーチン神話を根底から破壊したナワリヌイは、獄死しました。

プーチンは、ナワリヌイが死んで「ホッ」としたことでしょう。
しかし、ナワリヌイが壊した神話は、もう元には戻りません。

◆重要PS
「プーチン最大の敵」アレクセイ・ナワリヌイについて詳しく知りたい方は、彼自身の著書、

◆『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』
詳細↓
をご一読ください。
絶対お勧めです。

---owari---

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。