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日本の母子手帳、途上国を救う

2017年01月27日 | 日本

日本の母子手帳が今、世界に広がっている。

日本発の母子手帳がアジア・アフリカの途上国を中心に、世界30カ国以上で使われているのです。

 

母子手帳は妊娠・出産・子どもの健康の記録が一冊にまとめられていること、 保護者が手元に保管できる形態であることを兼ね備えた日本独自のシステムです。正式名称は「母子健康手帳」。

 

日本では、まず戦時中に妊産婦手帳がつくられました。 当時、厚生省に勤めていた瀬木三雄氏が、ドイツのある地方の妊婦健康記録の携行制度を参考に、日本でもその仕組みをつくったのです。

 

1942年(昭和17年)厚生省令で「妊産婦手帳規程」が公布され、世界最初の妊婦登録制度の発足と同時に、「妊産婦手帳」が作られました。妊産婦手帳を提示すると、当時は配給を優遇して受けられる特典があり、広く普及しました。

 

1948年に厚生省告示として「母子健康手帳」に改められ、妊産婦手帳が妊婦だけを対象としていたのに対し、母子手帳は母と子どもを一体として 健康管理するという観点から生まれました。世界で初めて、母親と子どもを1冊の手帳で管理するという体制ができたのです。

 

母子手帳は、妊娠中の母体と胎児、出産時とその後の母子の状況、そして子どもが6歳を迎えるまでを見守る健康記録ツールです。病院側でなく母親側が手元に持っていることで健康教育にも活用でき、いつでも過去の状況がわかるため母子の健康を見守る人びとにも役立てられます。

 

妊娠したら母子手帳を受取り、妊婦健診の結果を記入してもらい、赤ちゃんが生まれたら、子どもの体重や身長、予防接種の記録を書いてもらう。 日本ではあたりまえの光景ですが、妊娠中から幼児期までの健康記録をまとめた1冊の手帳をもっている国は世界でも数少ないのです。

 

母子手帳の成果は、日本の乳児死亡率に如実に現れています。1950年には開発途上国並みの出生1000人あたり60.1であったのが、その後急速に低下し、2006年には先進国でもトップクラスとなる2.6まで低下しました。わが国の乳児死亡率・新生児死亡率は、ここ20年以上、世界のトップレベルを維持しています。妊産婦死亡率は出産10万人当たりわずか4人です。

 

母子手帳の普及により、日本は「世界一乳児死亡率が低い国」と言えるのです。

 

米国や英国では、診察記録や成長曲線、予防接種歴を書き込む小児用の冊子が配布されています。フランスでは、女性健康手帳と、新生児・小児健康手帳は別々に配布されています。しかし、妊娠・出産・子どもの健康の記録が一冊にまとめられていること、 保護者が手元に保管できる形態であることを兼ね備えた母子手帳はなかったのです。

 

お母さんと赤ちゃんの情報を一緒に記録する母子手帳は日本だからこそ生み出せたツールなのです。たとえ母親と赤ちゃんといえども、個人は独立した存在と認識する欧米諸国では考えにくい発想なのです。

 

1984年にアメリカ合衆国で開催された国際シンポジウムで紹介された日本の母子手帳にヒントを得て、1990年にユタ州で母子手帳が作られました。それまでは、妊産婦のためのパンフレットや子どもの予防接種カードなどはありましたが、母子手帳はなかったそうです。

 

「母親の妊娠中記録と子どもの成長記録が1冊にまとめられた日本の母子手帳が、私たちにすばらしい着想を与えてくれた」と母子手帳の開発に関わった元ユタ州保健局のマクドナルドさん言っています。

 

母子手帳を各国に伝えてきた中村安秀大阪大教授は「母子手帳を海外に広げるにあたり、気をつけたことは『翻訳しない』ということ。保健、医療システムや文化、習慣は国ごとに違うから」と語るのです。妊娠、出産から子供の健康を引き続いて守る一冊の手帳という点と、病院や行政でなく保護者が持つという点は世界共通だが、内容は各国で異なるという。

 

近年は、アフリカ諸国にも普及してきた。アフリカ南西部アンゴラでは、日本の厚生労働相に当たる保健相が「これを全国に広げたい」と母子手帳を絶賛。母子手帳に関する知識を共有するため平成10年に東京で始まった「母子手帳国際会議」も、アフリカで開催されるようになったのです。

 

なぜ途上国が母子手帳に関心を持つのか。

戦後の日本のように、アフリカやアジアの途上国では、たくさんの妊娠中または産後の女性や子どもたちが命を落としています。世界で死亡する母子の9割以上を占めます。このような状況を変えるには、『妊娠』から『出産』『産後』にいたるまでの『継続ケア』が重要だと言われているのです。

 

たとえば、妊娠中に栄養や行動に気を付けたり、妊娠経過が順調かを定期的な健診で確かめたり、衛生的な環境でお産をしたり、少しでもリスクがある際には医療関係者が分娩に立ち会ったり、産まれたばかりの赤ちゃんの状態を観察したり、母乳で栄養をあたえたり、母体に無理が無いよう注意したり、といったことに気をつけて見守る人たち、その仕組みが必要なのです。

 

ベトナムでは、日本のNGOのサポートを受け、1998年にベンチェ省で母子手帳が使われ始めました。現在はベトナム保健省主導で全国版を作成し、日本の支援の元、全国展開の準備をしています。

 

ベンチェ省のある村では、生まれたばかりの赤ちゃんには母乳を与えてはならないという風習があり、コメのとぎ汁を与えていました。しかし、母子手帳の普及により、赤ちゃんには母乳で栄養を与えなければならないことが分かり、とぎ汁は迷信であったことが知れ渡ったのでした。このように、母子手帳には母子の健康を守るという健康教育の役割も果たしているのです。

 

この母子手帳の導入でベトナムの地方都市の赤ちゃんの死亡率が約半分になったといいます。

 

その他アジアの国では、インドネシア、タイ、ラオス、カンボジア、バングラデシュ、フィリピン、ミャンマー、モンゴルなどが母子手帳を採用しています。

 

タイでは母子手帳を採用後、妊産婦死亡率(出生10万対)は48(1984年)から9.8(2006年)となり、乳児死亡(出生1000対)も40.7(1984年)から11.3(2006年)に減少しました。

 

アフリカでは、ケニア、チュニジア、カメルーン、タンザニアが採用しました。

エイズ患者が多いアフリカのケニアでは、「母子手帳はミラクルだ!」 と言われているのです。母子感染を防ぐためには、母と子の健康データを一緒に把握できる母子手帳がとても有効なのです。

 

ヨーロッパではフランス、オランダが採用しています。

 

中東では、紛争が続き、情勢が安定しないパレスチナで、母子手帳は「いのちのパスポート」と呼ばれているのです。ある母親は言いました。「以前4回流産したけれど、手帳を読んで産前検診の大切さを知って、母子保健センターに行くようになりました。無事にこの子が生まれてとても幸せです」

 

海外の国々の母子手帳の作成、普及には、日本のJICA(国際協力機構)や青年海外協力隊の20年以上の長きにわたる支援があったのです。日本の母子手帳を押し付けるのではなくて、相手国の保健・医療システムや文化、習慣を尊重して、相手国の母子や医療関係者が最も使いやすい母子手帳をつくり上げてきたのです。

 

これが日本の心遣いであり、相手を尊重する姿勢なのです。このような活動が世界を真に豊かにする、幸せを広げる本当の支援ではないでしょうか。

 

---owari---

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4 コメント

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Unknown (このゆびと~まれ!です)
2017-01-30 13:58:16
すみれママさんへ

ご無沙汰しております。
コメント有難うございます。
ママさんのブログでのご活躍、時々拝見させてもらっています。

昨年末にパパさんの手術をブログで知ったのですが、お忙しいと思いまして、
連絡は差し控えさせていただきました。

私も心臓の手術をして4年半となりますが、経過は順調で日常生活に全く支障はありません。ランニングしても問題ありません。今でも3ヶ月ごとに診察はしていますが、お陰様で心臓に違和感はありません。

パパさんの経過が順調でありますように、ママさんの喘息が良くなりますように願っております。

ママさんは不良母ではないと思いますよ。

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Unknown (すみれママ)
2017-01-30 12:30:18
お久しぶりです。
喘息の具合が随分良くなってきました。
年末にはパパの心房細動の手術があり、
結果は少し良くなりましたがまだ様子見です。

母子手帳は「命のパスポート」と言われるほど大切なものなのですね。
しかし・・・私は引っ越しの時に紛失してしまいました。
子供は大きくなったので「まあいいか」と思っていましたが、
数年前に、はしかが流行った時に聞かれて困りました。
適当に「もう一回接種したら。」と言っておきました。
不良母です~(^^;)
返信する
こんにちは (このゆびと~まれ!です。)
2017-01-28 10:34:48
「頭の中にあることを」さんへ

コメントをいただき、有難うございました。
微力ながら、お役に立てましたら本望です。
日本のよさを知っていただきたくて、ブログを続けています。
お母さんと赤ちゃんの命を守る取り組みは大切ですね。
これからもご支援よろしくおねがいします。
返信する
母子手帳が… (頭の中にあることを)
2017-01-28 00:19:29
あることが当たり前だと思って、気にさえしたことがなかったです。
今回の内容は非常に勉強になりました!
どこの世界も赤ちゃんの命は宝物ですからね。
子供をもって本当の大切さに気づけます。
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