このゆびと~まれ!

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中学生450人に「和の国」の話をしてみた

2024年07月24日 | 日本
中学生たちは、我が国の「和の国」らしさを聞いて、何を思ったか。

(「なぜ、日本人は『おもてなし』の気持ちを持っているのか?」)
2019年10月中旬、千葉県柏市の麗澤中学で話をさせていただいた。中学生、それも全学年450人もの生徒たちに2時間も話すというのは初めての体験で、静かに聞いてくれるだろうか、と不安を抱きながらのスタートだった。

しかし、いざ話し始めると、そんな不安はすぐにすっ飛んでしまった。みな真剣な表情で聞いたり、一心にメモをとっている。日頃の躾が行き届いているのだろう。

話の始めに、先頃、日本中を沸かせたラグビーワールドカップをとりあげた。ウェールズ代表が公開練習で、北九州市のグランドに登場すると、5千人ものファンがウェールズ国歌“Land of My Fathers”を歌いながら、出迎えた。

ウェールズラグビー連盟のツイッターはそのビデオを流しながら、“There isn't much more we can say than just let you watch this.....”(これを見て貰う以上に、語れることはない)と感激を伝えた。

各国代表をその国の国歌で迎えるのは、ラグビー元日本代表主将・廣瀬俊朗氏の発案で、出場20カ国のカナ付き歌詞カードが公開された。廣瀬氏曰く「きちんとその国の言葉で話ができなくても、その国のアンセム(国歌)を歌えば心が通じる」との事だが、何千人ものファンが、それに賛同して相手国の国歌を歌うというのは、もはや個人的な好意だけでは説明がつかない。

そういう「おもてなし」を大切に思う文化を、多くの国民が共有しているからこそ、こんな光景が実現した、と話した。その後で、生徒たちに質問した。「みなさん、なぜ、日本人はこれほどの『おもてなし』の気持ちを持っていると思いますか?」 長いテーブルに3人ずつ座っていたので、各机で数分の議論の後、何グループかに回答を発表して貰った。  

(「東京オリンピックでも、外国人にたくさんおもてなしをして、日本をもっと好きになってもらいたいです」)
最初に手を挙げた生徒の答えは「それが昔から文化として根付いているから」だった。「なるほど。それはいいポイントですね。でも、なぜ、それが昔から文化として根付いていたのでしょう」とさらに聞き返した。さすがにこう聞かれると、答えられるグループはなかった。

そこで、私は「古代の日本人は遠方からやってくるのは神様だと思っていた」という説を紹介した。「まれびと」に関する折口信夫の説である。正月に山から下りてくる神々を門松でお迎えするのも、その一種である、と説明した。「おもてなし」の文化については、何人もの生徒が感じたところがあったようで、一人の中1の男子生徒は、こう感想文に書いてくれた。

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今日の伊勢さんのお話を聞いて、大切なのはおもてなしなのだということを改めて感じました。少し前に道徳の授業でおもてなしは日本の代表的な文化ということを学習しました。私も、おもてなしを持って生活していきたいなと思います。東京オリンピックでも、外国人にたくさんおもてなしをして、日本をもっと好きになってもらいたいです。
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(「日本のために戦ってくれていてすごいな」)
続いて、日本代表チーム31人中、半分強の16人が外国生まれであり、そのうち9人が日本国籍をとっている事を説明した。残りの7人は国籍こそ取得していないが、一度、日本代表としてプレーすると、他国(それが母国であっても)の代表となることはできない。すなわち、彼らは生涯、日本代表としてプレーするという決意を持って、参加しているのである。

「たまたま日本に生まれて、日本人という自覚もないまま暮らしている我々よりも、彼らははるかに日本国民として立派だと思いませんか」と私は語った。この言葉に、生徒たちはこう反応した。

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その外国人たちは「一生、日本人としてラグビーをやっていこう」と決心して国せきをとるらしい。私たちは何の決意もせずに生まれてきていることから、自分が小さく見えてしまう。(中1男子)
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特にラグビーワールドカップについての話が印象に残りました。日本代表の半分が外国人で、その中でも日本国籍をとっている人もいて、そのような人たちは、日本のために戦ってくれていてすごいなと思いました。(中3男子)
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(「1つの部分がくずれると全部がくずれてしまう」)
日本代表選手たちは、合宿最終日に日向市の大御(おおみ)神社にある「さざれ石」を見学し、全員で「君が代」を斉唱した。そこから「君が代」の中の「さざれ石の巌となりて」という歌詞の意味を知っていますか、と聞いてみた。「さざれ石」とは小さな石で、それが「巌(いわお)」、巨石となるというのは、どういう意味だろう、と。

実は、小さなさざれ石は長い間に、互いにセメントで固めたようにくっついて巨大な岩になる。これは日本の国民がそれぞれは小さな存在だが、多くの国民が力を合わせて立派な国を創っていることを象徴しているのです、と話した。ある中3の女生徒はこう書いている。

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「君が代」にのっているさざれ石のような小さな石(=国民1人1人)が巌(=共同体)となって1つの国となっているという歌の歌詞がとても心にひびきました。今、ラグビーがとても熱狂しているけど、ラグビーのスクラムもそれと一緒で、1つの部分がくずれると全部がくずれてしまうことから、1つ1つの部分をおろそかにしてはいけないんだなと思いました。
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「さざれ石」からスクラムを連想して、「1つ1つの部分をおろそかにしてはいけない」とまで考えているのは、私の説明をさらに深めた受け止め方で、こちらも勉強になった。

(「イギリスが共同体のまとまりのおかげで大きくなった」)
3年生は、この講演の後で、イギリスへの研修旅行を控えているとのことで、ラグビーを生んだ大英帝国について語った。

イギリスはヨーロッパの片隅の小さな国だったが、大英帝国の最盛期には地球上の面積の4分の1、人口の6分の1を支配し、なおかつ産業革命、金本位制、自由貿易、議会制民主主義、法治制度、英語などの政治・経済制度、文化を世界に広めた。まさに近代文明はイギリスが作ったのであり、この国を研修旅行先として選んだのは、先生方の見識の深さを示している。

その小さなイギリスが史上最強の大英帝国を築き上げた理由として、「偉人を顕彰する」文化がある事を説明した。たとえば、ロンドンの街のそこここにはウインストン・チャーチル、ウェリントン公、ネルソン提督などの偉人の像が立つ。ナショナル・ポートレイト・ギャラリーには、個人の肖像画、彫像、写真などが約1万点も所蔵・展示されている。

偉人の人生を描く伝記文学もイギリスでは盛んだ。その中で、サミュエル・スマイルズの『自助論』は、大英帝国を築いた偉人たちを題材とした人生論である。たとえば、ナポレオン軍を打ち破った初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリー(1769-1852)が借金返済を迫る債権者の前で縮こまっている光景から、その人格の高潔さを描いている。

この話から、ある3年女子は次のような感想を書いてくれた。

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イギリスは自分の国に尽くすという意志が一人一人にあるから近代国となり、世界を支配できたと知り、尽くすことの大切さが分かりました。共同体のために役に立つ人になろうとすれば、全体的に強くなり、自分自身も高められるので、自分の力を高め、みんなのためになれるよう頑張ります。
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それと同時に、イギリスも含めた近代の欧米諸国が1480年から1940年までの460年間に278回もの戦争をしてきた事を付言した。約1年8か月に一回のペースである。それに比べて、日本では1615年(豊臣氏滅亡)-1868年(大政奉還)の約250年間も平和が続いた。これを「徳川の平和」という。こんな感想もあった。

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はっきり言って日本ってかなりたくさん戦争しているほうだと思ったけれど、昔の日本の様子を聞いて、やっぱり平和っていいなと思いました。(中2男子)
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(「私たちが気軽に水が使えるのは、先人たちのおかげ」)
講演の結びは、一年生が水源林の見学に行ってきたというので、今上陛下が取り組まれている世界の水問題を取り上げた。

世界で6億63百万人もの人々が安心して飲める水源を身近に持たず、年間30万人の乳幼児が汚れた水を主要因とする下痢で命を落としている。アフリカでは土地はあり余るほどあるのに、水が不足しているために農耕ができず、食料不足に陥っている。水問題こそは現代人類が直面する最大の課題の一つである事を説明した。

私自身の体験でも、中国の天津で、外国人向けのそれなりのホテルに泊まったのに、水道からは砂の混じった茶色い水が出てくる。バスタブにお湯を貯めても砂混じりなので、どうしたらいいのか、と駐在員に聞いたら、しばらく待つと砂が底に沈むので、それからそっと砂を巻き上げないようにバスタブに入れば良いと教わった。

それに対して、我が国のご先祖様たちは水の神様を祀り、水が山から平野に安定的に流れるよう、河川を整備し無数のため池を作ってきた。水道の水をそのまま飲める国は世界にそれほどない、と話した。これについては、多くの生徒が感想を書いてくれた。

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今私達が当たり前に使えている水の背景には先祖の人々の努力があるということを初めて知り、びっくりしました。これから水を大切に使おうと思いました。(中2女子)
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普段、何気もなく蛇口をひねると、水が出て、手を洗ったり、飲んだりしている水は、他の国だと1時間かけてくみにいかなければなりません。今日、私たちが気軽に水が使えるのは、先人たちのおかげです。もしかしたら、数十年後には、こんなに水を気軽に使えないかもしれません。水を節約し、大切に使っていきたいとおもいました。(中3女子)
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(「共同体ということが大切なキーワード」)
2年女子の一人は講演全体をこう総括してくれた。

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今回の講座を受けて、最初にもおっしゃっていたが共同体ということが大切なキーワードだと思いました。日々生活をしていても、共同体という言葉はあまり聞かないけど、この講座では人として、国、助け合いなどは全て共同体ということが重要だと言っていると思いました。
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その共同体には先祖から我々を経て子孫につながっていく縦軸と、学校、地域、国、世界へと広がっていく横軸がある。

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縄文といったとても昔から今の日本の心が出来ていたと考えると、今までそれをつないできた先人たちに感謝したくなった。・・・日本のこのような大切な心持ちを日本人である私が知らないというのはとても恥ずかしくなった。もっと自国を知り、世界へと日本を発信し、後世の人間につないでいきたい。(中3男子)
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日本人が古代からさまざまな"おもてなしの心"をもち、先祖の人々が色々考えながら行動してきたおかげで今の安定した国家があるんだということを知りました。そう考えると自分も人のために何か尽くせることがないか、よく考えることが必要だと思いました。(中3男子)
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ぼくはこの話を聞いて、日本人のすごさを知りました。昔から日本人は助け合う精神を持っていて、江戸時代に一度も戦争がなかったのはすごいと思います。他にも今、水が使えるのは昔の人のおかげだし、色々と物が使えたりするにも、昔の人のおかげだと思います。
だから日本の先人たちに感謝しようと思いました。そして自分も日本人らしく自国の人にも他国の人にも助け合いとして、豊かな社会を作ろうと思います。(中3男子)
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(「日本人らしく協力していきたいです」)
こういう志を、まずは日々の行動に繋げていってもらいたい。そういう気持ちから、私は講演の結びとして「一燈照隅、万燈照国」という言葉を紹介した。一つのロウソクは片隅しか照らせないが、そういうロウソクが一万本も集まれば、国全体を照らせるという意味だ。この言葉を生徒たちは自分の生活の中で受け止めてくれたようだ。

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いざという時に「人々が協力して一つのことをなしとげる」このことのすばらしさを知りました。・・・これから合唱コンクールなどもはじまります。最後の合唱なので日本人らしく協力していきたいです。(3年男子)
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学校生活の中でも、クラスという共同体を意識して、より良い授業の受け方などができるといいと思いました。(中3女子)
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話し終えて、講演会場から退出する時、びっくりするような大きな拍手で送られた。それもこれらの感想に書かれたように自分の先人たちの歴史伝統を発見した嬉しい驚きからだろう。450人の生徒たちの一人一人が一本のロウソクとして、ご先祖様からいただいた火で周囲を明るく照らしていって欲しい、と思った。
 (文責:「国際派日本人養成講座」編集長・伊勢雅臣)

---owari---
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