末つ森でひとやすみ

映画や音楽、読書メモを中心とした備忘録です。のんびり、マイペースに書いていこうと思います。

11月に映画館で見た作品: 「旅するローマ教皇」ほか2作品

2023-11-30 21:46:30 | 映画のはなし
今月、映画館で見た作品の覚書きです。

  旅するローマ教皇 / 原題:In viaggio
・製作国: イタリア
・製作年: 2022年(日本公開: 2023年10月)
・鑑賞日: 2023.11.6.
  本作は、第266代ローマ教皇フランシスコが、
  2013年3月の就任後から昨年2022年までの間に各国を訪れた際の、
  アーカイブ映像を中心に取りまとめられた、ドキュメンタリーです。
  9年間で37回の旅を通じ、53ヶ国を訪れたという教皇フランシスコは、
  訪問先の国や地域で、カトリック教会の最高位に在りながら、
  信者ではない一般の人々にも分かりやすい言葉で語りかけ、
  我々を取り巻く世界の諸問題に、メッセージを発し続けています。
  深刻化する難民問題。環境破壊に起因した自然災害が引き起こす甚大な被害。
  終わらぬ地域紛争の戦火は激化し、遠のく平和と、拡大する世界の分断。
  そして、聖職者による未成年者への性的虐待と、
  教会が加担した先住民への差別と同化政策に対する、ローマ教皇からの謝罪。
  発する言葉の力で、教皇フランシスコのメッセージがじわじわと心に残るため、
  映像的には逆に、教皇の沈黙を映し出した場面が印象深く感じられ、
  巧みな編集と思いました。良質な作品です。


  サタデー・フィクション / 原題:蘭心大劇院 / 英題 Saturday FicitonIn
・製作国: 中国
・製作年: 2019年(日本公開: 2023年11月)
・鑑賞日: 2023.11.6.
  1941年12月。
  太平洋戦争開戦直前の上海租界を舞台とした、スパイものです。
  現実と、劇中劇の世界とを、モノクロの雰囲気溢れる映像で
  行ったり来たりする本作は、主演のコン・リーこそが、見どころ。
  コン・リーがスクリーンに映し出されると、
  彼女に目が吸い寄せられるように、彼女を中心に画が引き締まります。
  役者として場面を支配するコン・リーの存在感を、
  たっぷりと楽しむ映画でした。


  NTライブ: 善き人 / 原題:Good
・製作国: イギリス
・製作年: 2023年(日本公開: 2023年10月)
・鑑賞日: 2023.11.16.
  ドイツでナチスが政権を掌握した1933年から、
  アウシュヴィッツへの強制連行が拡大した1941年頃までを背景に、
  教養も常識も持ち合わせていた筈の、普通のドイツ人が、
  気づけばナチスへと取り込まれ、最早引き返すことも不可能な程に、
  言われるがままにナチスの政策に加担していく様を描きます。
  原作は、スコットランド出身で、ユダヤ系のルーツを持つ劇作家、
  C.P.テイラーの同名戯曲。2008年には、ヴィゴ主演の映画版
  製作されており、そちらは、日本では2012年に公開されました。
  NTライブ版では、主人公ハルダー役をD.テナントが務め、
  その他の登場人物を、E.リーヴィーとS.スモールが演じますが、
  まずは、後者二人の役者が衣装変えも無く、
  多くの登場人物を次々に演じ分けていく様が実に見事であり、
  他方、主役ハルダーの変貌を、対照的に一人の役者が演じることで、
  ストーリー終盤の衝撃が、より鮮明になったと思います。
  (ここから先は、未鑑賞者は知らない方が良い、ネタバレあり)
  私は映画版を公開当時に見て、話の展開は知っていたのですが、
  物理的制限のあるステージ空間を、照明とサウンドを変化させることで、
  場所や時の移ろいを表現し、二人の役者の台詞回しと身体パフォーマンスだけで、
  複数の人々を舞台上に出現させていくNTライブ版の本作において、
  主人公ハルダーに、まさか、ナチスの制服へ着替えさせる演出があるとは
  思いもせず、具体的に視覚化されたその姿は、大変ショックでした。
  あわせて、最後の最後に、メインの三人とは別の役者たちを登場させて
  アウシュヴィッツ収容所を描いたことも、自分は善人だ、仕方がなかったんだと、
  言い訳を重ね、流されてきた結果招いた、目を逸らすことを許されない現実として
  眼前に突きつけられた感が重く、何とも言えない気持ちになりました。
  見応えある充実の2時間半を、映画館で過ごせました。