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家族を見つめ続けた『やさしい猫』

2021年10月25日 | 読書

タイトルからペットの猫との暮らしや思い出話など想像したが大間違い。父を早くに無くした娘と母との二人だけの生活、そこへ後に家族となるスリランカ出身の男性が現れる。ほのぼのとした交流から母との再婚に進むも一時ストップ、それを乗り越えてハッピーな国際結婚となるも大問題が起きる。新たに父となった男性が在留資格の手続きに出向いた入国管理局で収容されてしまう。理由は不法残留、さらに偽装結婚を疑われ国外退去命令を受ける。物語の後半部は、撤回を求めて裁判を起こした家族の思いと周囲の熱い支援を描く。何度も絶望的になるシーンがあり、どのように展開していくのか目が離せない。圧巻は<著しく非人道的で正義に反する、裁量権を逸脱乱用するもので違法である>と提訴した「退去強制令書発付処分取消請求訴訟」でのユニークな弁護士と相手側とのやり取り。その弁護士の解説では「相手側が『反論する』と言うのは、原告に道理があるので分が悪いと思ったときの反応。無視しても勝てると思えば反論なんかしません」。高校生となった娘も必死の証人尋問に立つ。そしてこの間、1年以上にも及ぶ長期収容の実態、病気になっても何かと理由をつけてまともな医療を受けさせない様子など、この春に名古屋出入国在留管理局で収容されていた女性の死亡事件を思い出させる。ともかく、この物語は「退去命令の取消し」を勝ち取り、在留許可を得ることが出来た。勝訴率1%程度と言われる絶望的な退去強制訴訟。我々も他人事と思わず入管法の実態をよく知り、諸外国並みに改善していくことが必要ではなかろうか。つらい出来事の連続をユーモアと温かみで包み込むのは、やはり“猫”の存在か。その猫は、読み終わって気がつくと表紙裏カバーの絵に小さく描かれていた。あの家族が住んだアパートに“やさしい”視線を向けているように。

                                   



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