HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

手段ではなく目的?

2017-12-20 07:14:04 | Weblog
 三越伊勢丹がセール戦略を転換した。2012年の夏から後ろ倒しにしていたものを今冬からは1週間早めて1月4日から行うという。正月3カ日は店休日にするという案も出ていたが、それは行わず初売りは3日から(三越日本橋店を除いて)。3日は福袋やお節に飽きたお客に食品などを販売し、翌4日から一気に冬物のクリアランスを行うようだ。

 他の百貨店ではそごう・西武が元旦から、大丸松坂屋、高島屋は2日からだから、他社より2日遅いが、 三越伊勢丹にしか置いてないブランドがあり、お客はそれらを目当てにセールにやってくる。

 現に今夏のセールでは、三越伊勢丹は他店より約2週間遅れの7月12日がセール突入だったにも関わらず、夏物衣料や子供服をまとめ買いするお客や、コムデギャルソンなどのデザイナーブランド目当てのファンが殺到。集客力とセール時期はあまり関係ないことが証明された。

 年末の今、お客のテンションは完全にセール待ちだ。すでにネットではクリアランスがスタートし、ショップでもシークレットセールを行っている。「時期を遅らせてプロパー販売の期間を長くする」と、大西洋元社長が言い放った大義なんて、ほとんど無意味と言っていいだろう。

 回転の鈍い商品をいかに消化して現金化するか。あるいは売上げを上積みして資金繰りに目処を付けるか。厳しい経営環境に置かれている百貨店にとって、セールの後ろ倒しはそれだけキャッシュフローの時期を狭めることになる。賢明な経営者ならセール時期を他社より数日ずらしたにしても、消化期間を確実に確保する方が得策だと考えてもおかしくない。

 現実問題としてはセールを起爆剤にして、セール対象外の商品や梅春の先物など、プロパーの販売に力を入れた方がいい。店頭で秋冬の持ち越し在庫を見て意外に興ざめするお客もいるし、ついで買いと思っていた食品やワインの方に目が行って買ってしまうケースもあるだろう。バレンタインまでのつなぎで、デパ地下に期待した方がよほど現実的ではないだろうか。

 プロパー時期ですら閑散としている百貨店系アパレルが30〜50%オフになったところで、お客にはそれほど魅力的には映らない。売れ残った2万円の商品が1万4000円に値下がりしたとしても、購入するには大枚をはたかないといけないのだ。賢いお客がそう簡単に財布の紐を緩めるとは思わない。

 実店舗だろうと、ネットだろうと、お客にとって魅力的な商品のプロパー消化率は総じて高い。パッと見でいい商品は完売しているケースが多いのだ。それが期中に少しでも値引きされるとなおさらだ。ファッション衣料は値下がり傾向だし、クリアランスまで待って買い逃すより、今買っていた方が後悔しないで済むというのは世界共通のメンタリティなのである。

 だから、売れていない秋冬物を次のシーズンまでタンスに寝かせて着ようというテンションにはなりにくいと思う。合理的な考え方を叫ぶなら、低価格のファッション商品をワンシーズンで着崩した方がはるかにいいのだから。

 全てがそうだとは言わないが、魅力的な百貨店系アパレルは、プロパー消化率も良いはずである。お客は通販サイトなども並行してチェックしているから、売場に出かけなくても、同じ商品の回転や売れ行きの動向は把握している。「これは今が買い時」「様子見しよう」と、賢い買い物をしているのである。

 つまり、プロパー販売で売り切っていれば、それだけセールにおける目玉商品が少なくなる。お客のハートを狙い撃ちする「弾」というか、有効打が少なくなれば、売上げ増という勝利も厳しくなる。メーカーさんの話によると、お客の買い控えを想定して企画していると言うから、全体的に市場に投入される数量は抑制気味だ。

 セールにかける魅力的な商品も、今回辺りは不足しているのではないだろうか。それでも、百貨店側からセールの体裁を整えるために、セール用の委託商品を求められているようで、これではSPA化しているセレクトショップと何ら変わらない。セール専用品が売場に並べば、なおさらお客にとっては買う気を削がれてしまうかもしれない。まったく悪循環なのである。

 30年以上前、雑誌アンアンのタイトルにこんなものがあった。「とうとう、バーゲン」。当時はデザイナーブランドの全盛期だったし、商品はほとんどが国産で、生地や素資材のレベルもそこそこ高かった。ジャケットで5万円、セーターで2万円程度はしていたから、いきなり50%オフはお客にとって相当に魅力的だった。

 デザイナーブランドは、雑誌メディアにとっての重要なコンテンツだったし、ファッションビルや百貨店にとっても、デザイナーブランドのセール品は集客、売上げに欠くことのできない商材であった。だから、ブランドメーカー側に値下げ圧力がかかっていたのも事実だ。

 しかし、ブランドメーカーの経営者の中には、「出版社や出店先はそう言う(セール要請)けど、このままではプロパーで売れなくなる。戦略を練りなおさないと」と、危機感を抱いていた方もいた。結果的にDCブームが去って、今では衣料品自体が値崩れしているのだが。ただ、セールを「目的化」するのは明らかに間違っている。あくまで「手段」なのである。

 ファッション業界誌に執筆していると、過去には何度か編集者から「専門店のセール手法」についてルポをまとめてほしいとの依頼を受けた。ただ、アポ取りの段階で取材先に「セールは店が勝手にやっているだけ。お客さんには関係ないこと。特にプロパーで買っている人には」と、言い返されたことがある。

 やはり、メディアやディベロッパー(百貨店含め)はセールを飯のタネという目的化しているような感じで、メーカーや小売りが考える手段との乖離を感じてしまう。

 今冬のセールは三越伊勢丹が時期を通常に戻したことで話題になった。その結果が好調、不調だろうと、お客にとって魅力的な商品が少ないことは続いたままだ。これにはメーカー側にも責任があるのは言うまでもない。目に見えた景気回復、個人消費の旺盛さはないにしても東京オリンピックを控え、国民が長期的な希望を持ちやすくなったことから、景況感は改善しつつある。

 ただ、ファッション業界、小売業、特に店舗販売は若者が敬遠する傾向が強くなっており、全国的に人出が不足している。五輪特需の景況感は一時的に過ぎず、商品面の課題が業界にもたらす閉塞感は続いたままだ。セール結果の良し悪しではなく、抜本的、構造的な問題に踏み込まなければ、何の解決にもならない。

 三越伊勢丹のような場当たり的な施策をとったところで、自社はもちろん、瓦解始めている百貨店業界自体にとっても、何の効き目もないような気がする。

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