271828の滑り台Log

271828は自然対数の底に由来。時々ギリシャ・ブラジル♪

ノラとトラ

2012-09-15 08:46:19 | 読書
地方に住んでいると新刊も古書もアマゾンが便利で、ついつい買いすぎてしまいます。それでも週1回は前橋の紀伊国屋書店に出かけます。背表紙との対話は楽しみで、良い出会いがあったらその本を持って上の階のサンマルクでブラックコーヒーを飲みながらページをめくることが出来ます。紀伊国屋書店に行くと必ずチェックするのがちくま学芸文庫のMath & Scienceシリーズ、先日は唐木田健一さんの本を買ってしまった。彼の本は何冊か持っているので、これもお付き合いでしょうね。この書架にはちくま文庫も並んでいて、猫本が正面を向いて陳列されていました。
私の目を惹いたのが内田百間の『ノラや』です。ここ数年、小説を読まないので一番抵抗のあった著者のはずなのに手に取ったのは題名が『ノラや』だったからです。しかしパラパラとめくって書架に戻しました。帰宅してトラに餌を与えると百間先生のあの本が気になって仕方ありません。翌週、紀伊国屋に出かけてこの『ノラや』を買ってしまいました。その帰り道にはトラのためのノミ取り首輪(薬用)も買ってしまったのです。

トラは抱き上げるまでもなく、向こうから私に登山を試み一番体臭のきついわきの下に首を突っ込んでから、顔を見上げて顎やらほうをざらざらした舌で舐め上げるのです。でもその後、腕が無性に痒くなるのです。もう一つ、トラが喧嘩した時にこの首輪が少しはガードしてくれるという期待もあります。

帰宅するとトラはガレージのコンクリートのたたきの上で昼寝していました。車の下で寝ていることもあり、轢き殺さないかと心配しますが、セルモーターが回ると慌てて逃げ出します。
トラを招き寄せて首輪をかけます。

首輪を嫌がりもせず、もう無心にキャットフードを食べてくれます。これで本が読めます。

内田百間の『ノラや』は猫随筆の集大成で、読み始めると元々百間先生は猫好きではなかったことが分かります。むしろ猫には敵意を抱いていたらしい。今では禁止されている野鳥を飼う事が先生の趣味で、ある日飼っていたヒヨドリを野良猫に食い殺されるや怒り心頭に達し、物干し竿の先に出刃包丁をくくり付けて床下に出陣する有様でした。私も毎年ガレージに巣をかけるツバメ を野良猫にやられて、ガレージに来る猫は追い払ったものです。
こんな百間先生とノラとの出会いは「彼ハ猫デアル」に記されています。題名は内田百間の文学の師夏目漱石の猫の作品に因みます。
百間先生宅の庭に迷い込んだ子猫がふざけて水瓶に落ちたところを救い上げて餌を与えたことから、この猫は「ノラ」となってこの家にも先生と家族の心の中に住み着きます。ある日、ノラが姿を消すと先生は八方手を尽くして探索を開始します。新聞の折り込み広告は数度、英文のチラシまで作らせました。日記にも次のように落胆振りを書いています。

九月三日火曜日 ノラ161日
曇 夕半曇
夜十二時ペンをおいた時からノラのことを思い出し、或いはもう帰らないのではないかと思ったら可哀想で可愛くて声を立てて泣いた。


結局ノラは再び姿を見せることはありませんでした。次に迷い込んだノラに似た子猫をクルツと名づけて迎え入れます。尻尾が短いのでKurz(独語)、略してクルとの生活は5年以上に及びます。クルとの別れはゆっくり訪れ、病のクルを家族で見取る事が出来ました。

たかが猫のためにいい大人が、と思う人もいるかもしれません。百間がノラと分かれたときの年齢を計算してみると、現在の私の年齢とほとんど同じだと分かります。人事ではありません。

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