ウイルスは通常の細菌消毒液とは異なり、塩素系殺菌剤・漂白剤を使うノロからエボラまでエボラが侵入してくる前にウイルス対策を
http://hobab.fc2web.com/sub6-sterilization.htmから
消毒薬
滅菌(sterilization)とは、「細菌芽胞を含む全ての微生物を死滅させ、除去すること」。
消毒(disinfection)とは、「ヒトに病原性を有する大部分の微生物を死滅させるが、細菌芽胞は生存する状態」。
感染の予防は、手洗いの励行が、基本。
エタノール、ポビドンヨード、次亜塩素酸ナトリウムは、ウイルスを含めた、多くの微生物の消毒に有効(注1)。
エタノールは、採血の際などの皮膚表面の消毒、金属器具の消毒には、有用だが、創傷皮膚の消毒、粘膜の消毒には、使用禁忌。
ポビドンヨードは、創傷皮膚の消毒、粘膜の消毒には、有用だが、金属器具には、使用不可。
次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンなど)は、一般細菌や酵母を、0..01%(100ppm)の濃度の溶液に、20秒~10分漬せば、死滅出来るが、結核菌を死滅させるには、より高濃度の0.1%(1,000ppm)の溶液に、10分~30分漬す必要がある。
次亜塩素酸ナトリウムは、蛋白質と接触すると、NaOCl→NaClとなるので、低残留性の消毒薬である。しかし、次亜塩素酸ナトリウムは、有機物の影響を受けやすいので、消毒物を、洗浄した後、消毒に使用した方が、有効。また、次亜塩素酸ナトリウムは、金属腐食性がある(特に、0.5%=5000ppm以上の濃度)。また、次亜塩素酸ナトリウムは、プラスチックやゴム製品を劣化させる。
消毒用アルコール(エタノール)綿で、皮膚を清拭すると、皮膚の表面の一般細菌は、10秒程で、死滅する。しかし、皮膚の深層の細菌(毛嚢内の細菌)は、消毒されない。採血などの医療行為は、皮膚消毒で死滅しない、毛嚢内の細菌を、血管に押し込む危険性が伴う。
表1:消毒薬の殺菌スペクトラル
水 準 |
消毒薬 |
グ※1 ラ ム 陽 性 菌 |
グ※2 ラ ム 陰 性 菌 |
真菌 |
結 核 菌 |
ウイルス |
芽 胞 |
酵 母
|
糸 状 菌 |
H B V
|
H I V
|
エ ン ベ ロ ー プ 有 |
エ ン ベ ロ ー プ 無 |
高 |
グルタラール |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
中 |
次亜塩素酸ナトリウム |
○ |
○ |
○ |
○ |
○※3 |
○ |
○ |
○ |
○ |
△※3 |
ポビドンヨード |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
△※4 |
エタノール |
○ |
○ |
○ |
△※5 |
○ |
○ |
○ |
○ |
△※5 |
× |
低 |
グルコン酸クロルヘキシジン |
○※5 |
○※6 |
○ |
△ |
○ |
- |
- |
△ |
× |
× |
塩化ベンザルコニウム |
○ |
○※6 |
○ |
△ |
× |
- |
- |
△ |
× |
× |
○:有効 △:十分な効果が得られない場合がある ×:無効 -:効果を確認した報告がない。
※1:黄色ブドウ球菌(MRSAなど)、連鎖球菌、腸球菌など。
※2:大腸菌(O157など)、緑膿菌など。
※3:1,000ppm以上の高濃度で有効。
※4:ポビドンヨードは、クロストリジウム属(破傷風など)など一部の芽胞にも、有効だが、バチルス属などの芽胞には、無効とされる
※5:長時間の接触が必要な場合がある。
※6:セラチア・マルセッセンス、シュードモナス属、パークホルデリア・セパシア、フラボバクテリウム属、アルカリゲネス属などが抵抗性を示す場合がある。
Y's Text-New Edition 消毒薬テキストのIV-1の表35から引用(吉田製薬株式会社より、転載許諾を頂いた)。
一般細菌は、80℃10分間の熱水処理(熱水消毒)、100~1,000ppmの次亜塩素酸ナトリウム、エタノールで、消毒出来る。
ウイルスは、80℃10分間の熱水処理、500~5,000ppmの次亜塩素酸ナトリウム、エタノールで、消毒出来る。
1.エタノール
消毒用エタノール(70w/w%)は、一般細菌(グラム陽性菌、グラム陰性菌)、結核菌、真菌、一般ウイルス、HIV(AIDSウイルス)には有効だが、芽胞には、無効。
B型肝炎ウイルス(HBV)に関しては、チンパンジーでの実験で、80v/v%エタノールを用いて、11℃、2分間消毒すると、HBVが不活性化されたという報告がある。
エタノールの作用は、速効性で、短時間で効果を示す:一般細菌・酵母10秒~1分間、糸状真菌2~10分間、結核菌20分間、ウイルス1~30分間(注1)。一部の糸状菌は、長時間の接触が、殺滅に必要。
表2:消毒薬と作用時間
微生物 |
消毒用エタノール |
ヨードホール |
次亜塩素酸ナトリウム |
グルタラール |
一般細菌・酵母 |
10秒~1分 |
20秒~2分 |
20秒~10分(0.01~0.1%) |
20秒~2分(0.5%) |
糸状真菌 |
2~10分 |
10~30分 |
10~30分(0.01~0.1%) |
10~30分(2%) |
結核菌 |
20分 |
2~3時間 |
10~30分(0.1~2%) |
30分~1時間(2%) |
細菌芽胞 |
(無効) |
3時間 |
3時間(1%) |
3時間(2%) |
ウイルス |
1~30分 |
5~60分 |
1~30分(0.02~0.1%) |
1~30分(2%) |
B型肝炎ウイルス |
(効果あり) |
10分(20℃) |
20分~1時間(0.1~2%) |
20分~1時間(2%) |
エタノールは、刺激性があるので、創傷皮膚や、粘膜の消毒には、使用しない(使用禁忌)。エタノールは、眼科用には、使用しない。
採血や注射部位の消毒の消毒には、速効性と速乾性が求められるため、アルコール製剤を用いることが多い。エタノールを注射部位に十分量塗布し、乾燥してから、採血や注射をする。
エタノールは、揮発性が高いので、乾きが早く、使用しやすい。消毒用エタノールは、毒性が低く、飲用することも可能。
なお、エタノールには、引火性があるので、注意が必要。
エタノールは、プラスチックやゴム製品を劣化させる。
消毒部位に用いるアルコール綿球などは、あらかじめ万能壷などに調製されるが、アルコールは水よりも早く揮発するため、アルコール濃度が経時的に低下する。
血液、膿などが付着していると、含有されている蛋白質を凝固させ、内部までエタノールが浸透しないことがある。そのため、エタノールは、血液、膿などを、十分洗い落としてから使用する。
消毒用エタノールは、ノロウイルスには効き難い(塩素系の次亜塩素酸ナトリウムの方が良い)。
消毒用エタノール(70~80%の濃度のアルコール)は、一般細菌をは15秒以内(20℃)で不活化し、アデノウイルスをは2分(80%の濃度)で不活化させる。
消毒用エタノール(アルコール)は、濃度が50%以下では、殺菌効果が消失する。
皮膚(特に、顔面、頚部、腋窩、陰部など)には、常存菌が存在する。
皮膚の常在菌としては、Staphilococcus epidermidis、Micrococcus、Propionibacterium(毛包管内に生息する嫌気性菌)が主な菌。皮膚の常在菌は、菌数が通常103~104/1cm2だが、多い場合には106/1cm2程度存在する。
消毒用エタノールで皮膚を十分にアルコール消毒すると、一時的に無菌に近い状態になるが、毛包管や汗腺などに潜んでいる常在菌は殺菌されず、残存していた菌が皮膚に現れ、間もなく、元の状態に戻る。
2.ポビドンヨード
ポビドンヨード(povidone iodine:イソジン液など)は、ヨードホール・ヨード系の消毒薬。
ヨウ素分子は、微生物の細胞壁を素早く通過し、アミノ酸、及び、不飽和脂肪酸と複合体を形成し(不飽和脂肪酸のC=C結合に作用して、脂質を変性させる)、蛋白合成を障害し(重要な水素結合を阻害する)、細胞膜を変化させ、微生物を不活化する。
ポビドンヨードは、グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、ウイルス(HBV、HIVを含む)に、有効。HBVに対しては、ヨードホール(ポビドンヨード)は、20℃10分間で、不活化させる(有効ヨウ素80ppm=0.08%)。
ポビドンヨードは、クロストリジウム属(破傷風など)など一部の芽胞にも、有効だが、バチルス属などの芽胞には、無効とされる。
ポビドンヨードは、速効性で、生体への刺激が低く、比較的副作用が少ない消毒薬で、手術部位の皮膚や、創傷部位の皮膚の消毒にも、用いられている。ポビドンヨードは、粘膜消毒に、使用可能。しかし、ポビドンヨード(ヨードホール)は、金属器具には、使用不可。
ポビドンヨードは、10倍以上に希釈すると、細胞毒性が減弱する:術後の深い新鮮な傷には、10倍希釈で用いる。目や耳にも、希釈して使用する。
表3:消毒薬と有効微生物
区分 |
消毒薬 |
微生物 |
使用目的 |
備考 |
一 般 細 菌 |
M R S A |
真 菌 |
結 核 菌 |
芽 胞 |
ウ イ ル ス |
手 指 消 毒 |
創 傷 皮 膚 |
金 属 器 具 |
高水準 |
グルタラール |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
× |
× |
◎ |
内視鏡の消毒 |
中水準 |
エタノール |
◎ |
◎ |
○ |
◎ |
× |
○ |
◎ |
× |
◎ |
速効性 |
ポビドンヨード |
◎ |
◎ |
◎ |
△ |
○ |
○ |
◎ |
◎ |
× |
粘膜にも使用可能 |
次亜塩素酸Na |
◎ |
◎ |
◎ |
○ |
○ |
◎ |
× |
× |
× |
金属腐食性あり |
低水準 |
第四級アンモニウム塩 |
◎ |
○ |
○ |
× |
× |
× |
◎ |
◎ |
◎ |
経口毒性が高い |
クロルヘキシジン |
◎ |
○ |
○ |
× |
× |
× |
◎ |
◎ |
◎ |
粘膜には使用禁忌 |
◎:有効、○:ほぼ有効、△:有効な場合もある、×:無効を示す。なお、日医雑誌 第132巻・第9号1384頁の表1を参考に作成した。グルタラールは、グルタルアルデヒド(グルタールアルデヒド)とも呼ばれる。第四級アンモニウム塩としては、塩化ベンザルコニウム液、塩化ベンゼトニウム液、クロルヘキシジンとしては、ヒビテン液などがある。
ポビドンヨードは、皮膚消毒に用いると、褐色の被膜を形成するが、ハイポアルコールを用いて、脱色することが出来る。ハイポアルコールは、チオ硫酸ナトリウム8w/v%、エタノール48vol%を含有するヨード清拭脱色剤。
ポビドンヨードは、0.1%程度の低濃度で、殺菌力が高いが、有機物で不活化され易いので、7.5~10%の製剤が、良く使用される。
ポビドンヨードは、ヨウ素を、ポリビニルピロリドン(PVP:キャリア)に結合させた、水溶性の複合体。
ポビドンヨードは、1g中に、有効ヨウ素を100mg含む。
ポビドンヨードは、水溶液中で、平衡状態を保ち、水中の遊離ヨウ素濃度が減少するにつれて、徐々に遊離ヨウ素を放出する。
遊離ヨウ素が、殺菌作用を発揮する。殺菌力は、遊離ヨウ素濃度が高いほど強い。遊離ヨウ素濃度は、10%ポビドンヨード液(原液:有効ヨウ素濃度10,000ppm)中で、約1ppmであり、0.1%付近のポビドンヨード液中では、キャリアの保持力が最も弱くなるので、約25ppmと、最大濃度になる。遊離ヨウ素濃度は、0.01%ポビドンヨード液中では、8~9ppmと低下し、0.001%ポビドンヨード液中では、約1ppmにまで、低下する。
ポビドンヨードは、熱傷部位、腟、口腔粘膜などでは、吸収されやすいので、長期間、又は、広範囲に使用すると、血中ヨウ素濃度が上昇し、甲状腺代謝異常などの副作用が現れる。妊婦や授乳中の婦人に、長期間、又は、広範囲に使用しない。
ポビドンヨードは、石けん類によって殺菌作用が弱まる。
ポビドンヨードは、電気的な絶縁性を有しているので、電気メスを使用する場合には、本剤が対極板と皮膚の間に入らないように注意する。
ポビドンヨードは、眼に入らないようにする。眼に入った場合には、水でよく洗い流す。
ポビドンヨード液(イソジン液:ポビドンヨードを100mg/1mL含有)は、細菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538Pなど)に対しては60秒以内に、殺菌作用を現す。
ポビドンヨードの100倍希釈液は、ウイルス(単純ヘルペスウイルスなど)に対しては15秒以内に、殺ウイルス作用を現す(感染価を測定限度下に低下させる)。インフルエンザウイルスに対しては、100倍希釈液は15秒以内に、500倍希釈液は60秒以内に、単純ヘルペスウイルスに対しては、殺ウイルス作用を現す。100倍希釈液は、コクサッキーウイルスやエコーウイルスに対しては15秒以内に殺ウイルス作用を現すが、エンテロウイルスによっては30秒程、時間を要する。
日局ポビドンヨード(暗赤褐色の粉末)1gを水100mLに溶解(10mg/1mL)した液は、pHが1.5~3.5となる。
3.次亜塩素酸ナトリウム
家庭用消毒剤のミルトン(Milton、注2)などは、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)を成分とする。
次亜塩素酸ナトリウムは、時間さえかければすべての微生物を殺滅出来る(プリオンを除く)。
一般細菌、酵母は、0.01~0.1%(100ppm~1000ppm、注3)の次亜塩素酸ナトリウム液で、20秒~10分間処理すれば、死滅する。
結核菌は、.0.1~2%(1000~20000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液で、10~30分間処理すれば、死滅する。
枯草菌の芽胞は、0.01%(100ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液で処理すれば、5分以内に、99.9%が、死滅する。
一般のウイルスは、0.02~0.1%(200ppm~1,000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液で、1~30分、処理すれば、不活化される。
また、B型肝炎ウイルス(HBV)は、0.1~2%(1,000ppm~20,000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液で、20分~1時間の処理が、必要。
次亜塩素酸ナトリウムは、粘膜・皮膚(250~500ppm)、リネン(125ppm)、便器(125ppm)などの消毒に、有効である。例えば、リネンは、0.01~0.02%(100ppm~200ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液へ、5分間浸漬すると良い。
次亜塩素酸ナトリウムは、創傷皮膚の消毒、金属器具の消毒、手指の消毒(注4)には、使用しない。
次亜塩素酸ナトリウムは、漂白作用があり、リネンでも、毛、絹、ナイロン、アセテート、ポリウレタン、及び、色・柄物などには、使用出来ない。
温水を用いると、次亜塩素酸ナトリウムは、効果が短時間で現れる(82度、2分以上)。
次亜塩素酸ナトリウム(液)は、冷所保存(15℃以下)が必要。
次亜塩素酸ナトリウムは、酸性の洗剤・洗浄剤と併用すると、大量の塩素ガスが発生するので、併用は、禁忌。
次亜塩素酸ナトリウムは、 蛋白質と接触すると、NaOCl→NaClとなるので、低残留性の消毒薬である。その為、次亜塩素酸ナトリウムは、床などにこぼれた血液の消毒にも、好ましい。しかし、次亜塩素酸ナトリウムは、有機物の影響を受けやすいので、消毒物を、洗浄した後、消毒に使用した方が、有効。また、次亜塩素酸ナトリウムは、金属腐食性があったり(特に、0.5%=5000ppm以上の濃度)、プラスチックやゴム製品を劣化させる。
食中毒の予防の為に、まな板の消毒を行う場合、70℃の御湯に漬けて置く方(1分間漬けて置く)が、菌が完全に、死滅する。次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤(1分間漬けて置く)、中性洗剤(20秒間洗浄)、水道水(20秒間洗浄)では、菌は、完全に無くならない:まな板に残った菌の数は、水道水による洗浄640個、中性洗剤による洗浄380、塩素系漂白剤150、70℃の御湯0。塩素系漂白剤は、まな板に汚れが残っていると、消毒効果(殺菌効果)が低下するので、塩素系漂白剤は、まな板を良く洗ってから、使用する。
次亜塩素酸ナトリウムは、ノロウイルスの消毒には、塩素濃度で0.05~0.1%(500~1,000ppm)に希釈して用いる(ミルトン液なら、20~10倍希釈で用いる)。
便や吐物が付着したタオルや衣服は、希釈した液に、30分間、浸して、消毒する。