続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

マグリット『脅かされた殺人者』

2016-06-20 06:54:02 | 美術ノート

 『脅かされた殺人者』
 左右の壁にはそれぞれ棍棒を持った男と捕獲網を持った男がいる。
 部屋の内部にいる男は蓄音機の音に耳を傾けており、近くには仕事用らしきカバン、椅子には帽子とコートがそれぞれ置かれている。
 ベットの横たわる女の裸体は、口から血を吐いており、『殺人者』と題していることから、被害者であると想定される。
 そして外部には三人の男がその現場を直視しており、何とも寒々しい山々が背景に控えている。
 これらがこの『脅かされた殺人者』の条件である。

 殺人者は誰なのだろう。凶悪な犯罪とはかけ離れた穏やかな顔やポーズであり、眼差しは被害者と思われる裸体を見ていない。
 脅かされた・・・脅しているのは誰だろう。

 端的に言えば、この現場は逆さに見るべきなのかもしれない。つまり外部の三人の男の側から見るという仕掛けである。
 女(母かもしれない)の死に際し、三人の男(三人の息子)は、疑っている(脅している)。

 外部からは一人の男(父かもしれない)の後ろ姿が見えるだけであリ、少しうつむいているので嘆いているようにも首を傾げて真実を追求しているようにも見えるが、実のところ無関心ではないか。
 棍棒(暴力)を持った男や捕獲網(拘束/束縛)を持った男は彼らから見えない。つまり、想像の域である。
 これら三人は、別人とも同一人物の分解とも思える。

 外部の三人の男たちは真相を確かめるべく、男の背中を凝視している。
《なぜ女(母)は死んだのだろうか》

 脅しているのは外部の三人の男(息子)、脅かされているのは他の考え事(仕事)で頭がいっぱいの男と想像の域を出ないが彼もしくは誰かの暴力と束縛を疑っている。
 窓の外の男たち(息子)は、女(母)の首を絞めるに至った原因を懐疑している。

 マグリットの深層心理、情景は手前からでなく、ずっと奥(外部)から見た懐疑の現場であり、床板の木目が描かれていないのは、止まったままの眩い記憶そのものだからではないか。


(写真は『マグリット』西村書店刊より)


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