この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

シッコ。

2007-08-25 23:59:08 | 新作映画
 マイケル・ムーア監督、『シッコ』、8/25、Tジョイ久留米にて鑑賞。

 
 ムーアの前作『華氏911』を指して、ドキュメンタリーとして内容が偏っているからダメだ、そんなレビューを書いている人がいました。
 何アホなことをいってるんですか、といいたいです。
 元々ドキュメンタリーというのは公平なものでも何でもなく、内容は偏っているものなんです。
 大自然の素晴らしさをテーマとするドキュメンタリーで、物質文明の利便性を説く馬鹿がどこにいるっていうんでしょう?
 ドキュメンタリーはすべからく内容が偏るべし、です。
 とはいえ、『華氏911』がドキュメンタリーとして優れているかというと正直首をひねらざるを得ません。
 その理由は一言で言うと彼が作品の前面に出すぎているからです。でしゃばり過ぎています。
 例えばアザラシの子供が北極グマに襲われるシーンがあったとして、アザラシの子供が可哀相だからという理由で撮影スタッフが北極グマを追い払ったとしたらどうでしょう?
 観ている側としては興醒めするばかりで、感動もへったくれもありゃしません。
 ドキュメンタリーにおいて、アザラシの子供が北極グマに襲われたとしたら、カメラはただひたすらアザラシの子供が食い殺される様を追わなければならないのです。
 『華氏911』の中でイラク戦争で子供を亡くした母親が泣き崩れるシーンがあります。思わず彼女の元に駆け寄るムーア。
 人として、この行動は正しいです。絶対的に正しい。ただし、ジャーナリストとしてはそうではない。
 ドキュメンタリーであれば、カメラはただ冷酷に泣き崩れる母親の姿を撮り続けなければならない。
 そうでないと視聴者は母親の泣き崩れる姿に何かしら思うことがあったとしても、ムーアが駆け寄った時点でそれが停止してしまうからです。
 あのお母さんは可哀相だな、でもまぁムーアが何とかするのだろう、そう考えてしまいます。
 それじゃダメなんですよ。
 あのお母さんは可哀相だな、もしそばにいたら自分がその手を握って励ましてあげるのに、というふうに持って行かないと。
 そんな感じでムーアが全面的に出張るので、『華氏911』は扱っている題材はきわめてタイムリーながら、ムーアのでしゃばり感ばかりが鼻につき、観ている側に何かを訴える、そして考えさせる力が弱いのだと思います。
 その結果(というには些か酷ですが)、ブッシュは再選し、イラク戦争は継続し、日本はいまだに押し込み強盗の見張り役みたいな役目を押し付けられているのです。

 ムーアもその轍を踏まないように反省したのか、これまでの作品では見られないぐらい態度が控えめで、前半は顔すら見せないほどです。
 そのせいか、本作はドキュメンタリーとして非常に上出来で、アメリカの医療制度はこのままでいいの?と思わずにはいられません。
 アメリカの医療制度といいましたが、本作で取り上げられる健康保険に関する問題は日本人にとって他人事ではなく、むしろ超高齢化社会を迎え、国民健康保険の根幹が揺らいでいる現在、本作は日本人必見といってよいのではないでしょうか。
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5 コメント

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気になってる作品… (シンフォニー)
2007-08-26 08:12:19
TVCM観て…

なんとなく気になっていたんですよね…

この作品…タイムリーじゃないですかぁ~♪

観てみたくなりました…

しかし…このタイトルから…

真っ先に…放尿…

その次に…検尿…

さらにその次には…飲尿を(飲んだことはありませんよ…念のため)…

想ってしまうぼくは…

やっぱり…病んでるんでしょうか…

魂がぁ…(爆)

シンフォニーでした
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話には聞いていましたが。 (YUMIKA)
2007-08-26 16:12:04
アメリカの保険事情ってホントにヘンみたいですね。日本の国民皆保険制度にも問題がないとは言えませんが、いろいろ話を聞くだに日本人でよかったと思ってしまいます。国民保険だけでなく、財政が苦しいのは社会保険も一緒なんですけどね……。

たまにメタル界でもミュージシャンが難病に冒されてしまったけれども治療費があまりに大金のため工面が難しくて、仲間でチャリティコンサートや基金を設けてお金を集めるなんてことがあります。
ただ、それができるだけ彼らはまだよいのかもしれないですよね。何でもない一般市民は、それすらもなかなか難しいと思うので。
返信する
コメント、感謝です。 (せぷ)
2007-08-26 20:57:14
シンフォニーさん、YUMIKAさん、コメント、感謝です。

>シンフォニーさん
『シッコ』というタイトルから「尿」のことを思い出すのは何もシンフォニーさんだけではありません。
お袋に「今日『シッコ』を観に行ったよ」って報告したら、それだけでお袋はケラケラ笑ってましたから。
まぁどうにかならなかったものかなと思わないでもないですが、別タイトル、自分は思いつかないですねー。

>YUMIKAさん
世の中完璧なものなんてそうはないですから(もしかしたら皆無かもしれませんが)、フランスやイギリスやキューバ、そして日本の保険制度に問題がないとは思いませんが、アメリカのそれはひどすぎます。
でも日本が追従するのはフランスでもイギリスでもましてやキューバでもなく、アメリカなんですよね。
裁判員制度なて日本にはまったく必要ないというのに・・・。

メタル界も心優しいミュージシャンの方は多いのですね。
だてにステージ上で鶏の首を掻っ切ったり、口から火を吹いたり、ギターをめちゃくちゃに壊したりしていませんね!!(←あんまり関係ない。)
返信する
Unknown (shit_head)
2007-08-26 21:51:14
ありがとうございます!!

>メタル界も心優しいミュージシャンの方は多いのですね。だてにステージ上で鶏の首を掻っ切ったり、口から火を吹いたり、ギターをめちゃくちゃに壊したりしていませんね!!

オジーやジーンやカートを褒め称えているのですね!!スバらしいです!

アメリカって国民健康保険がないんですよねぇ?
貧乏人は病気になっても病院いけないぞー!
僕なんて絶対暮らせないや。
キューバは医療がただなんですよね?(前ニュースでやってた)スゲーですよね。
問題がないわけじゃないんでしょうけど、アメリカよりはずっとずっとマシなんでしょうね。

日本が追従するべきなのは、アメリカじゃないことは確かですよね。(笑)

この記事と皆さんのコメントを読んでいると、デンゼルさんの「ジョンQ」が思い出されますね。見ました?
貧乏人を食い物にするどっかのテキトーな保険のせいで、心臓病で死にそうな子供が手術を受けらなくなったデンゼルさんが、ERを占拠する映画。

あれって映画の出来はともかくとして、アメリカ社会が抱える問題点を深く考えさせられる話でした。

貧富社会が根っこにある気もしますよね。
金持ちならどんな高額な保険も納められるけど、中流以下の人たちはそんな余裕がないから、助かる命も冷酷に無視される。患者にとって必要な検査でもそれをしないでおけば、保険会社が医者にボーナスを支払うって話もどっかで聞いたことあります。

結局、アメリカは裕福な人たちのための社会ってのが問題なのかなぁ?日本もそーゆー点では変わらないかもしれないけど。
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コメント、感謝です。 (せぷ)
2007-08-26 23:28:04
そういえば、shit_headさんもメタル好きでしたっけ。
だったらYUMIKAさんと話が合うかも?
YUMIKAさんは頭のてっぺんから爪先までメタルクイーンですよ。笑。

そうそう、言われて思い出しました、『ジョンQ』。
仰る通りお世辞にもスリリングな映画とはいいがたいと思いますが、あれもまさに保険制度を題材にしていましたよね。
デンゼル・ワシントン主演だからハッピーエンドで終わりましたが、残念ながら現実はああ上手くは行かないですよね。

アメリカは民主主義の国で、国民の多くは貧しさに喘ぎ苦しんでいるというのに、どうして貧しい人々のための社会にはならないんでしょうね。
不思議といえば不思議です。
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