この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

イングロリアス・バスターズ。

2009-11-27 23:21:42 | 新作映画
 クエンティン・タランティーノ監督、ブラット・ピット主演、『イングロリアス・バスターズ』、11/23、Tジョイ久留米にて鑑賞。2009年45本目。

 誰にでも一人や二人、相性の良くない映画監督がいるだろう。
 自分にとってクエンティン・タランティーノはそんな映画監督の一人だ。
 合わないなと思ったのは何も「タランティーノは終わった」といわれた『キル・ビル』時代ではなく、人によっては彼の最高傑作と激賞する『デス・プルーフinグラインドハウス』を観てもそこまで面白いとは思わなかった(けれども何故か『グラインドハウス』の六枚仕様のDVDセットが手元にある)。

 合わないと思うなら観るなよ、そう仰る人もいるかもしれない。
 その通りだと思う。
 自分が何故相性が良くないと思っている映画監督の映画をわざわざ高い金を払って劇場に観に行くのか。
 それは、自分にはかつて映画好きの友人がいて、その友人はもうこの世にはいないのだけれど、彼が生きていれば観に行くであろう作品を彼の代わりに観に行くのが、自分なりの供養になるかもしれない、そう思ったからだ。
 ちなみに上述のDVDセットも遺族の方から形見として分けてもらった。

 さて、『イングロリアス・バスターズ』を観ての感想。
 タランティーノ、やっぱり自分とは合わんわ!!(絶賛している、多くの映画レビュアーの方々には申し訳ないが)ぶっちゃけ言って面白くなかった。
 
 映画『イングロリアス・バスターズ』が何故面白くなかったのか。
 理由は単純明快。
 タランティーノが故意に面白くないように演出しているから。

 例えば、タランティーノは第五章の脚本の最終稿で次のようなストーリーを書き上げている。
A.映写室で上映中の映画のフィルム交換をしようとするショシャナの前に彼女に恋心を抱くフレデリックが現れる。時間のないショシャナは隙を突いてフレデリックを銃で撃つが、彼の反撃に合い、彼女も致命傷を負う。最後の力を振り絞ってショシャナはフィルムの交換を終えて息絶える・・・。
 そして実際の映画でのストーリーはこう。
B.映写室で上映中の映画のフィルム交換を“終えた”ショシャナの前に彼女に恋心を抱くフレデリックが現れる。ショシャナは隙を突いてフレデリックを銃で撃つが、彼の反撃に合い、彼女も息絶える・・・。
 どちらがよりドラマティックであるかはいうまでもない(ドラマティックという言葉に語弊があるなら単純に個人的に好みであるかは、といいかえてもよい)。

 この映画ではそういった最終稿からの変更がいたるところにあるらしく、何故タランティーノが自分で書いた脚本通りに映画を撮らなかったのかは余人には理解の及ぶところではないが、そういうふうな改変をすれば映画がお話的につまらなくなるのも道理である(六十分で退出するほどでないにしても)。

 映画『イングロリアス・バスターズ』は、タランティーノの、タランティーノによる、タランティーノと彼の熱烈なファンのためのお祭りみたいなものなのだろう。
 過去に一度でも、彼の作品を観て「うわ、つまんねーな!」と思ったことのある人は、このお祭りに参加する資格がないのだ。
 この映画をこれから観ようと思っている人は、自らにその資格があるのかどうか問うてからチケットを買うことをお薦めする。

 お気に入り度は★☆、お薦め度は★☆(★は五つで満点、☆は★の半分)です。
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10 コメント

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1.5点・・ (小夏)
2009-11-28 13:32:48
うーん、厳しい。(笑)
あーでも、せぷさんの評価はわからなくはないですよ。
かくいうタラちゃん贔屓の自分でも、彼の作品はかなり好き嫌いが分かれますから。
『レザボア・ドッグス』『キル・ビル』は大好きだけど、『ジャッキー・ブラウン』『パルプ・フィクション』『キル・ビル2』は全然面白くないよ、みたいな。

タラちゃんは、「わざと~する」という試みを好んで採用するようなヒネたところがあるみたいですね。
そういう意味では「わざとつまらなくした」もありかな。
ちなみに、『キル・ビル』のときはいかにもオモシロ変テコ“ニッポン”が登場しましたけど、あれは日本ツウのタラちゃんが、アメリカ人から見た妙ちくりんな日本像を知り尽くしたうえでそれを忠実に再現してみせたそうです。
「わざとつまんなく~」「わざと変に~」「わざと汚く~」など、全てが彼にとって遊びの範疇なのかも・・・とかなり好意的に解釈。(笑)。
返信する
厳しいですか? (せぷ)
2009-11-29 14:46:36
>うーん、厳しい。(笑)
厳しいですか?笑。
でも、まず自分の評価のお薦め度は、めったに映画を見ない人へのものなので(具体的にいうとマ○ーコさん?笑。)、★☆が妥当なのです。
『イングロリアス・バスターズ』はめったに映画を観ない人に薦められる映画ではないでしょう?

また、同じ家族を皆殺しにされた少女の復讐記というのであれば、ヴァーホーヴェンの『ブラック・ブック』が自分は好きですね。
あちらをお気に入り度が★四つとすれば、『イングロリアス・バスターズ』はやはり★☆です。

>「わざとつまんなく~」「わざと変に~」「わざと汚く~」など、全てが彼にとって遊びの範疇なのかも
えぇ、そう思いますよ。
タランティーノファンはそこらへんがたまらないんだと思います。
自分のツボとはちょっとずれているのですが。。。
返信する
こんにちは (achi)
2010-05-22 02:11:46
はじめまして。
某ブログから辿って来ました。

私も一度見たときはピンとこなかったのですが、ショシャナとフレデリックの関係はとても面白いと思うんですよね。
もっとなんか親密な関係になってても良かったんじゃないかって。
映画の看板の張り替えをするショシャナ、それを眺めるフレデリック、傍から見ればロマンチックな光景だと思うんですよ。
あわよくば敵同士の恋愛関係になってもおかしくない。
そういう映画的な定石を敢えて違う方向に進めていって、ラストでは最悪に決裂してしまうところに凄さというか暴力に対する皮肉みたいなものを感じました。
なんとなく本作は映画マニアっぽいのに意外に真面目に作られているんじゃないかなと思うんですよね。

返信する
はじめまして。 (せぷ)
2010-05-23 11:47:06
はじめまして、achiさん。
レスが遅くなってすみません。
古い映画の記事への、特に否定的な内容のものに対しては、粘着質なコメントが多いので、てっきりこれもそうなのかと思っていたんですよね。

某ブログ、、、何となくわかります。
でもどこからにせよ、遊びに来てもらえたのはとても嬉しいことです。

『イングロリアス・バスターズ』、ネットで低い評価をしているのって自分だけのような気がします。
より多く映画を観ている人ほど評価が高いような?
でも自分は、あんまり好きじゃないんですよねぇ。
タランティーノの作品って、本作に限らず、自分が好きなシーンだけを継ぎはぎしたパッチワークのように思えるのです。
ワンシーンワンシーンは光っていても、全体的には妙に歪んでいるような気がします。

本作と同ジャンルの、ナチスに復讐するヒロインを題材にした作品であれば、自分はポール・ヴァーホーベン監督の『ブラック・ブック』の方が好きですね。
あちらの方がより緻密に、よりドラマチックに、より暴力的に作られていると思います。
もしachiさんが未見でしたら、是非一度ご覧になってください。
返信する
お祭り (achi)
2010-05-24 18:11:04
>『イングロリアス・バスターズ』、ネットで低い評価をしているのって自分だけのような気がします。
>より多く映画を観ている人ほど評価が高いような?
内心思っているのはせぷさんだけではないと思いますよ。
タランティーノの映画はよくわからんっていう知り合いがけっこういるんですよ。
私も正直、これは凄いと感じるシーンがある一方で見ていて面白さのわからない掛け合いがあったりします。
だからタランティーノの作品を評価している人(あるいは評価しない人)がどこが面白い、どこがつまらないと言うのかがすごく気になるんですよ。
M・ナイトシャマランなんかだとはっきりわかるんですけどね~。

>ワンシーンワンシーンは光っていても、全体的には妙に歪んでいるような気がします。
料理でも好きな具材だけ使ったら味がわからなくなりますからね。
まさにそういう料理が好きだという人のためのお祭りなのかもしれませんね。

>ポール・ヴァーホーベン監督の『ブラック・ブック』
トゥルーパーズの監督ですね。比較する意味も含めて見てみようと思います(^^
返信する
そうなのですか? (せぷ)
2010-05-25 00:18:15
>タランティーノの映画はよくわからんっていう知り合いがけっこういるんですよ。
そうなのですか?
それを聞いて少しホッとしました。
タランティーノのよさがわからないと真の映画ファンではない、みたいな風潮があるように思えるので。

>M・ナイトシャマランなんかだとはっきりわかるんですけどね~。
自分にとってシャマランはタランティーノ以上に捕えどころのない監督です。
彼が何を語り、どこを目指そうとしているのか、窺い知れません。
『エア・ベンダー』はもちろん観に行くつもりです。

>トゥルーパーズの監督ですね。比較する意味も含めて見てみようと思います(^^
そうですそうです。
『スターシップ・トゥルーパーズ』の頃は、ヴァイオレンスと破天荒さが売り、みたいなところがありましたけど、『ブラック・ブック』はそれらに加えて緻密な物語があるんです。
『イングロリアス・バスターズ』よりも自分は好きですね。
ご覧になったら、是非感想を聞かせて下さい。
返信する
ブラックブック (achi)
2010-06-11 22:09:27
かなり遅くなりましたが、せぷさんに勧められた『ブラックブック』見ました。
感想ですが、とっても面白かったです。ヴァーホーベンは本当に凄いですね。
『イングロリアスバスターズ』よりは…と言うのもわかる気がします。
正直なところ自分もどちらかと言えば『ブラックブック』が好きです。
何が好きかといえば、あまり注目されにくい悪意が映されているという点がいいですね。
裏切られて虐殺される人、中間管理職的立場の人間による搾取、戦争後の大衆の態度などは観ていて感激しました。
こういうタイプの暴力こそもっと糾弾されるべきなんですよね。
バスターズの暴力の応酬も良いのですが、『ブラックブック』の暴力とはまた違った感じですね。
あちらは痛みと笑いを感じましたが、『ブラックブック』は人間社会に不信を感じているところが素晴らしいです。
映画全体がサスペンス構造になっていて余計に隠れた暴力を訴えている感じもいいですね。

あとはやっぱり『チョコレートを食べる』シーンはおおっと思いましたね。
ここでチョコを食べるのか!というところで来たので驚きました。
『棺桶に蓋』もいいですが、『チョコレートを食べる』は映画冒頭からの感情が凝縮されているみたいでよかったです。
返信する
遅くなってすみません。 (せぷ)
2010-06-13 22:05:24
achiさん、レスを返すのが遅くなってすみません。
最近あまり体調が良くなくて、土曜日も『アイアンマン2』を観た後はひたすら爆睡してました。

『ブラックブック』、ご覧になってもらえたようでとても嬉しく思います。
映画であれ、本であれ、誰かに薦めてもその人がそれを見る(読む)ことは非常に稀なので。
さらに気に入ってもらえたようで何よりです。
ほっとしました。

『イングロリアス・バスターズ』と『ブラックブック』、ナチスに復讐する女性の話という枠で括ればジャンル的には非常に似ているといえると思いますが、好みでいえば圧倒的に後者ですね。

ノリと思いつきだけで話が進むような印象を受ける『イングロ~』に比べ(あくまで印象です)、『ブラック~』は非常に緻密な作品構成をしているように思えます。
伏線の張り方や小道具の使い方も上手いですよね。

特に自分はヴァーホーベンは暴力描写が長けているだけの監督と思っていたので、鑑賞して本当にビックリしました。
そういった意味でも『イングロ~』がただ単にタランティーノらしい作品だな、という感想しか持てないのに比べて、『ブラック~』の評価が高くなってしまうのです。
返信する
レスありがとうございます(^^; (achi)
2010-06-19 12:49:55
こちらこそ何度もレス頂いてありがとうございます。

映画に関して、私はまだまだ未熟なので、何か薦められることはとてもありがたく思います。

>特に自分はヴァーホーベンは暴力描写が長けているだけの監督と思っていたので、鑑賞して本当にビックリしました。
ヴァーホーベンといえば私は『ロボコップ』や『トータルリコール』をテレビで見て育ってきたので、『ブラックブック』を見た時の驚きはまさにせぷさんのそれでした。
出来の良さに反比例して、本作はそんなに知名度が高くないような?気がするのですがもっと評価されていい映画だと思いましたね。

土曜日といえば、その日私は『アウトレイジ』を観に行きました。
こちらは直接的な暴力が振るわれていて精神的に痛い思いをしました(笑)
観終わった後は緊張で少し体がだるかったですね~。
体調には気をつけたいものです(^^
返信する
いえいえ。 (せぷ)
2010-06-20 22:32:28
>こちらこそ何度もレス頂いてありがとうございます。
いえいえ、誹謗中傷の類いでなければコメントしてもらえるのは何度でも歓迎です。

>映画に関して、私はまだまだ未熟なので、何か薦められることはとてもありがたく思います。
えー、そうなのですか?
ブログを拝見させてもらいましたが、よく考察されていて、自分が爪の垢を煎じて飲ませてもらわないといけないな、と思いました。

>出来の良さに反比例して、本作はそんなに知名度が高くないような?
自分が『イングロリアス・バスターズ』よりも『ブラック・ブック』を強く推すのはまさにそこですね。
作品の認知度と出来は必ずしも一致しませんよね。

>土曜日といえば、その日私は『アウトレイジ』を観に行きました。
『アウトレイジ』は観に行かないかな。
自分はあまり北野武の良さがわからないので、、、ファンだったらゴメンなさい。

自分はジャンルを問わず、どの映画を観に行ってもすごく疲れます。
にも関わらず、しばしば映画のハシゴをしちゃいます。
五本続けて観たときはマジで死ぬかと思いました。笑。
まぁそれも悪くないかなって思ってます。
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