神崎宣武編(2007):乾杯の文化史、ドメス出版、287p.
10月に出た新刊です。
序章で語られていますが、「日本酒で乾杯!」運動に際し、「で、日本酒で乾杯ってどのくらい伝統があるの?」という疑問などから生まれた研究会の議論がとりまとめられたものです。
内容的には、「日本の酒礼」「比較の酒礼」の二部構成で、前半は日本における「乾杯!」の歴史、後半は中国、朝鮮半島、台湾などでの歴史が、さまざまな文献から語られていきます。学問的にも興味深い物ですし、読み物としても読み応え有り、です。
特に前半の「文明開化と乾杯」は、「乾杯!」という発声とともに乾杯する風習が生まれた時期のドキュメントで、面白い。
その結論は、、、、、実はこれは序章でも語られているのですが、結局、日本酒で乾杯という伝統は伝統というほどのものではなく、明治末期以降、西洋風の風習と中国の乾杯という言葉が結びついた、ということです。
しかし、編者は「期待にはそえない結論となった」「そのうえで、『日本酒で乾杯』運動を推進するのである」「これから『日本酒で乾杯』の慣行をしっかりつくっていく」とあくまで前向きです。まさに同感。
結構「へぇー」という事柄も多く、面白い本です。
最後に、問屋ごときが僭越ですが、気になったこと。
学術的研究として見た際、状況証拠からの推論に飛躍や「抜け」的な部分がいろいろあります。
例えば、「乾杯」という単語について、「大言海」では古い語例として平安時代の儀式書が挙げられていること、しかしそれは誤記かもしれず、明治以降、その儀式書の誤記が「再発見」された、的な議論になっています。
しかし、後半の中国の研究では、単語としての「乾杯」は12世紀-13世紀以降、幾多の書物で用いられていることが記されており、そうすると、文化的交流の中で、千年近く「乾杯」という単語が我が国に入ってきていないことの不思議さについて、もう少し検討を深めるべき、とも思います。
また、イギリスの飲酒習慣に関するくだりで、ホガースの版画「ビール通り」をひき、「飲酒が肯定的にとらえられていることがわかる」としていますが、確かホガースは「ジン・レーン(ジン横丁)」という版画で、ジンで堕落した人々をシニカルに描いていたはずで、この辺りはちょっと決めつけが過ぎるかな、と思いました。
とは言え、読み応えのある、業界人必読の書、と言えると思います。
(担当:酒類経済研究所)
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牛込・神楽坂 酒類卸 升本総本店
http://e-masumoto.com/default.aspx
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序章で語られていますが、「日本酒で乾杯!」運動に際し、「で、日本酒で乾杯ってどのくらい伝統があるの?」という疑問などから生まれた研究会の議論がとりまとめられたものです。
内容的には、「日本の酒礼」「比較の酒礼」の二部構成で、前半は日本における「乾杯!」の歴史、後半は中国、朝鮮半島、台湾などでの歴史が、さまざまな文献から語られていきます。学問的にも興味深い物ですし、読み物としても読み応え有り、です。
特に前半の「文明開化と乾杯」は、「乾杯!」という発声とともに乾杯する風習が生まれた時期のドキュメントで、面白い。
その結論は、、、、、実はこれは序章でも語られているのですが、結局、日本酒で乾杯という伝統は伝統というほどのものではなく、明治末期以降、西洋風の風習と中国の乾杯という言葉が結びついた、ということです。
しかし、編者は「期待にはそえない結論となった」「そのうえで、『日本酒で乾杯』運動を推進するのである」「これから『日本酒で乾杯』の慣行をしっかりつくっていく」とあくまで前向きです。まさに同感。
結構「へぇー」という事柄も多く、面白い本です。
最後に、問屋ごときが僭越ですが、気になったこと。
学術的研究として見た際、状況証拠からの推論に飛躍や「抜け」的な部分がいろいろあります。
例えば、「乾杯」という単語について、「大言海」では古い語例として平安時代の儀式書が挙げられていること、しかしそれは誤記かもしれず、明治以降、その儀式書の誤記が「再発見」された、的な議論になっています。
しかし、後半の中国の研究では、単語としての「乾杯」は12世紀-13世紀以降、幾多の書物で用いられていることが記されており、そうすると、文化的交流の中で、千年近く「乾杯」という単語が我が国に入ってきていないことの不思議さについて、もう少し検討を深めるべき、とも思います。
また、イギリスの飲酒習慣に関するくだりで、ホガースの版画「ビール通り」をひき、「飲酒が肯定的にとらえられていることがわかる」としていますが、確かホガースは「ジン・レーン(ジン横丁)」という版画で、ジンで堕落した人々をシニカルに描いていたはずで、この辺りはちょっと決めつけが過ぎるかな、と思いました。
とは言え、読み応えのある、業界人必読の書、と言えると思います。
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