4-1からの続きです。
おっかなびっくりのドライブ巡礼日。前半の予定を終えて、山の中から駅へと戻りました。
ほとんどすれ違う車もなかった山あいから次第に車が多くなり、町に戻ってきたなあと実感します。
ここで、町中にある13番札所にも寄りました。
○ 13番慈眼寺
御花畑駅からすぐのところにある、13番慈眼寺。
ショウと私は、最初の巡礼日にすでに参拝済みです。
私は巡礼を始める前もこのお寺に来ているため、これで3回目の参拝となります。
このお寺を見て秩父巡礼をしようと決心した、雰囲気のある好きな古刹です。
線香の束をまとめてあぶる装置があり、さっそくえっこさんとショウがワクワクしながら試していました。
火が付くまでに1分かかるため、自分でマッチの火を近づける方が早そうかな・・・。
でも、チャレンジャーな2人が好きさ!
ここは目のお寺。本堂横にはメグスリの木が生えています。
寺務所でメグスリのお茶をいただきました。
○ うさぎおいしかの国
えっこさんが御朱印をいただいている間、私たちは境内にいたうさぎに癒されていました。
モフモフでかわゆい~。
前にウサギを飼っていたというえっこさん、「ドイツに行って、檻の中で買うのはかわいそうだなあって思ったわ」とのこと。
ドイツの森にいるウサギなんて、絵になりすぎー。グリム兄弟の物語に出てきそう。
○ わらじかつ丼
仲見世通りでお昼にしました。
秩父名物、わらじかつ丼にします。
えっこさんが「花子がCMで食べてるから知ってる」と言います。
(お笑いの花子が?大阪のイメージが強いから、むしろ串カツを食べていそうだけど)と思ったら、『花子とアン』の女優さんのことでした。駅のポスター見たことあったわー。
出されたかつ丼は、どんぶりからはみ出ていて、ボリューム感たっぷり。
薄いので、サクサクした食感です。
えっこさんが「わらじだから、2枚あるのね」と言いました。そうか、気づかなかったわ!
味が付いていておいしいですが、食べ始めるとかなりの量。
さらに味噌ポテトも注文したので、おなかがパンッパンになりました。
ふー、食べた、食べた。
○ 見事な連携プレイ
さて、パワーチャージできたところで、再び出発―!
32番から駅に戻るまでも時間がかかり、気が付けば、もう3時をまわっています。
あと行きたいところは、34番、そして苔不動。
34番はマストですが、苔不動は巡礼寺ではないため、行きたいわけを2人に説明しなくてはいけません。
「私、"関東36不動"巡りもやっていて、そのお寺の一つが近くにあるから、寄れそうなら寄りたいの」
この時間になってくると気になるのは、お寺が閉まる時間です。
秩父札所は基本5時までですが、山中の方は4時に閉まるところもあるのだとか。
前もって確認しないと、さらにもう一度来なくてはならないという悲劇につながりそうです。
そんな話をしながら、私がエンジンをかけている間に、二人ともすばやくケータイを取り出し、ショウが苔不動、えっこさんが34番寺に「今日は何時まで開いてますか?」と聞いてくれました。
わー、なんという鮮やかな連携プレイ!さすがわが友!
どちらも5時まででした。両方まわれそうです。よかった。
まずは、遠い場所にある苔不動から先に行くことにしました。
○ 秩父から長瀞方面へ
近くにあるとはいっても、実際にはなかなかの距離。かなり長瀞の方に北上することになります。
幹線道路をひたすら北に車を走らせます。
途中、「34番水潜寺」の表示がありましたが、そこで曲がらず、進み続けます。
何もないような広々としたところで、お寺の看板を見逃して行きすぎたりしながら、カーナビの到着時間通りに着きました。
4時少し前に到着。秩父駅から1時間ほどかかりました。
でも、ここから34番寺は、そう遠くないはず。
うん、時間内に参拝できそうです。
○ 苔不動の読経レクチャー
ここは秩父七草の萩の寺。
もう季節は終わってしまいましたが、参道には萩が植えられていました。
お堂は締め切っています。これまでずっと御開帳のお寺を巡ってきたため、閉ざされた扉をとりわけ残念に感じます。
呼び鈴を押すと、住職の奥様然とした人が出てこられました。
御朱印をいただき、秩父巡礼の話から、四国遍路の話になりました。
お坊さんの修行の大変さをうかがいます。
ここは弘法大師の真言宗のお寺なので、遍路と縁が深いのでしょう。
お坊さんの苦労話を伺って、さてではそろそろ・・・と言いかけたところに、奥様が
「あなたたち、お参りするときにちゃんと読経してる?」と言いました。
「は、はい・・・。」
今回は、人が多くて団体に譲っていますが、なるべく読むようにしています。
「どんな風に読んでいるの?」
「え、どんな風にって…」
突然の質問の意図がわからず、混乱します。
すぐに答えられずにいると、奥様は
「ここで読んで御覧なさい」とお経の紙をえっこさんに渡しました。
えっこさんが「はんにゃ~はらみた~」と、おそるおそる一節読み終わると、奥様は
「はんーにゃーーはらみーたーー」と、朗々と唱えました。
「抑揚を持たせずに、長ーくのばすと、誰だも上手に聞こえるわよ」と言いました。
「あ、は、はい」
えっこさんが応対しているので、数歩後ろに下がって、ショウのもとへ言って「時間大丈夫かな」とささやくと、奥様に「ちゃんと聞いてー」と言われたので、あわててまた戻りました。
このままだと、延々と謎の読経レクチャーが続いてしまいそう。
でも、刻々とお寺が閉まる時間は近づいてきます。
どうしようと思いましたが、話が一段落したところで、思い切って「すみません、ちょっと急ぐので」とおいとまさせてもらいました。
「さっき、行くって電話したから、気合を入れて待っててくれたのかもね」とショウ。
確かにそうかも。
「お経は、教本を読むのが正式な読み方で、暗記するものではないのよ」にはじまり、知らないお経の話を教えていただけて、ためにはなりましたが・・・。
奥様、済みません。私たちに残された時間は、あとわずかしかないのです!
○ 攻めでいきます
車に戻り、カーナビ登録。
またもや何度か検索に詰まった挙句、今度は電話番号で拾い出せました。
毎回ナビ登録をするたびに悩まされました。
到着予定時刻は、4時45分。ナビ通りに到着すれば、なんとか時間内にたどりつけそうです。
ただ不安なのが、駐車場が離れてやしないかということ。
車から降りて歩いている間に、お寺が閉まったら、三人で号泣するしかありません!
いい大人三人が!でも泣いちゃうもんね!
もはや修行とか精神鍛錬どころではありません。
なので、泣かずに済むよう、道を急ぎます。
幹線道路を通るのかと思いきや、ナビはどんどん山の方へと連れて行きます。
あれよあれよと言う間に、くねくねの坂道に。
峠越えをさせるようです。
急いでいるから、直進道路がいいのにー!
でも、もう別ルートを探している暇などありません。行くしかないのです。
気持ちを入れ替え、山肌をガツガツ攻める運転に切り替えると、二人はすぐに気づきました。
えっこ「グイグイいくね~」
ショウ「イニシャルDだー。ドリフト!豆腐置かなきゃ!」
私「やんちゃな頃を思い出すわ!」(ウソですよ!)
前方に車が見えてきました。車間距離を置こうと思った矢先に、その車は道を開けてくれました。
「わー、車をよけさせたー」
「えー、そんなつもりなかったんだけど!」
と、わいわい言いながら峠越えは終わり、うす暗い山道を抜けてもすでに、あたりは夕暮れとなっていました。
暗すぎて、道路の先が見えづらくなっています。
さっき、目のお寺を参拝したばかりなのに。
ハイビームをつけたりしながら進んでいくと、またもや前方に車を見つけました。
4台ほどつながっています。どうやら、前の車がゆっくりなので、数珠つなぎになっているよう。
明らかに、一番後ろの車が先を急いでいます。
私たちがその後ろにつく前に、前の車2台が道をそれ、空気を読んだ次の車が道を譲ってくれました。
そこを、4台目の車と、それに続く私たちの車が弾丸と化して通り過ぎました。
私たちもなかなかのスピードできましたが、前の車はそれ以上に飛ばしています。
「こんな場所であんなに急いでるなんて、きっと前の車もお寺に向かっているんだね」
そう話していた通り、前の車はまっしぐらに走り続け、その後をきっちりついていった私たちと一緒に、34番寺の駐車場へと滑り込みました。
○ 34番水潜寺
到着したのは、ナビの予想より早い4時35分。なんとか大丈夫そうです。
でも、お寺までの参道は、先の見えない急坂になっていたので、3人で悲鳴をあげました。
「足が疲れたー」
「お尻の後ろが痛いー」
ほかに上って行く人たちも数名おり、もちろんみんな急ぎ足です。
まさに駆け込み参拝。
急坂を上りきったところにある境内には、十数名の参拝者がいました。
ここでは、午前中一緒だったツアーバスの団体にはもう会いませんでした。
きっと私たちが食事をとっている間に訪れたんでしょう。
ここまでくればもう安心。ゆっくりと参拝できる・・・はずながら、おそらくは参拝者全員が御朱印をいただくため、待つ時間も必要です。
手早く参拝をして、御朱印の列に並びました。
自分の番になった時に、お坊さんは、御朱印を書く手を休めずに
「どこから見えたんですか?横浜?おや、ご苦労様です」
「これで結願、おめでとうございます」
などとずっと話しかけてこられました。
2月の大雪の時に、このあたりは43cm雪が積もったとか、この前クマがすぐ近くに出没したとか。
ずっと話を続けながら御朱印をしたためる人は初めてで、驚きました。
○ コンプリート万歳
御朱印をいただき、散華をいただいて。
再び参拝をします。
これで、秩父三十四カ所、結願しました。
コンプリート、バンザーイ!
ショウとハイタッチします。
今回が初めて参加のえっこさんは、御朱印はまだ5つですが、「今回一番大変なところを周ったから、ほかはなんとかなるよ!」
「あとはがんばれば歩いてでも周れるから!」と、2人で励ましました。
彼女は家から近いので、周りやすそうですし。
水潜寺からもう少し奥に行ったところに、華厳の滝もあります。
もう時間を気にすることもないし、レンタカーはまだまだ借りられますが、すっかり暗くなってしまったため、「町に戻ろうか」ということになりました。
すっかり魂が抜けた状態の私たち。
えっこさんが「あ、般若心経読もうと思ってたのに忘れちゃった」と言うまで、読経することさえ忘れていました。
さっき、苔不動の奥様に、スパルタ特訓を受けたばかりなのにー!
○ そして5時
5時になり、どこからか「夕焼け小焼け」の音楽が流れてきたときには、3人とも口をそろえて「あー」と言いました。
これで、この日の巡礼はおしまい。
お寺は閉まり、巡礼者は宿に戻ります。
34番寺からあとは帰るだけ。
お寺のそばには満願の湯がありました。
「巡礼を終えた後にこんな名前の温泉があったら、そりゃ入りたくなっちゃうよね!」
でも、今回は入りません。
だって家に着くまでが遠足のように、レンタカー店に着くまでが真剣勝負。
温泉でリラックスした後、車を運転するなんて高度な技は、私にはできませーん。
先を急がぬ気楽な道のりですが、距離があるため、秩父駅前に戻ってきたときにはもう6時半になっていました。
レンタカーを返して、ドライブもおしまい。
この日は7時間40分、107km走りました!
ひ、百キロ越えー!ビギナーびっくり。
そんなに走ったの?秩父って広いんですね。
考えていたよりもけっこう長い時間、運転をし続けていたんだなあと思います。
でもずっと楽しかったので、つらさはありません。とっても満足です。
○ かえでサイダー・あの蒸しパン
本当は3人で、カンパイしたいところですが、さっき食べたわらじかつ丼が、まだおなかのなかにずっしりと残っているので、食事をしたい気分にはなりません。
電車が来るまで、軽くお茶することにしました。
2人がコーヒーを頼んでいるところで、私はかえでサイダーを頼みました。
秩父産というので!
本当に楓の味がするサイダーで、おいしくいただきました。
隣のお店には「あの蒸しパン」が売られていました。
みんなで「あの蒸しパン」とつぶやきます。
「あのって、どの?」と2人は首をひねっていますが、私だけピンときました。
「あの花」からとっているんですね。
○ エピローグ
2人と別れて、帰宅したら、どっと疲れが出て、ベッドからしばらく動けませんでした。
とても楽しい一日でしたが、ずっと運転手をやっていたのは、初めてのこと。
いい経験になりました!
事故もなく、よかったです。
この日の巡礼のお寺の詳細について、こちらにまとめてあります。
■ 秩父札所巡礼4(2014.11.9)
並行して、いくつかの観音巡礼を同時進行していますが、結願したのは、これが初めて。
期限があるので、集中して取り組んだためですが、やっぱり巡礼って、簡単にはいかないもの。
いろいろと大変だったなあと、しみじみ思い返します。
でも、その分、やりがいと達成感がありました。
えっこさん、ドイツから帰りたての忙しい時に、付き合ってくれてありがとう!
またお寺めぐりしましょうね。
そして、多忙な中を縫って秩父に向かい、一緒に巡ってくれたショウ。
なにもわからないアメリカ帰りのあなたを、ディープな巡礼に誘ってしまったけれど、最後まで頑張ってもらえて、感激です。
がんばったショウに、いいことが起こりますように!
私の願いもかないますように!
ところで、ショウは「この巡礼が最後までできますように」と願っていたそうです。
私も「御開帳期間中にすべて周れますように」と祈願していました。
一緒じゃーん!
そして二人とも、すでに願いがかなってるじゃーん(笑)!
● 秩父巡礼記外伝 index
おっかなびっくりのドライブ巡礼日。前半の予定を終えて、山の中から駅へと戻りました。
ほとんどすれ違う車もなかった山あいから次第に車が多くなり、町に戻ってきたなあと実感します。
ここで、町中にある13番札所にも寄りました。
○ 13番慈眼寺
御花畑駅からすぐのところにある、13番慈眼寺。
ショウと私は、最初の巡礼日にすでに参拝済みです。
私は巡礼を始める前もこのお寺に来ているため、これで3回目の参拝となります。
このお寺を見て秩父巡礼をしようと決心した、雰囲気のある好きな古刹です。
線香の束をまとめてあぶる装置があり、さっそくえっこさんとショウがワクワクしながら試していました。
火が付くまでに1分かかるため、自分でマッチの火を近づける方が早そうかな・・・。
でも、チャレンジャーな2人が好きさ!
ここは目のお寺。本堂横にはメグスリの木が生えています。
寺務所でメグスリのお茶をいただきました。
○ うさぎおいしかの国
えっこさんが御朱印をいただいている間、私たちは境内にいたうさぎに癒されていました。
モフモフでかわゆい~。
前にウサギを飼っていたというえっこさん、「ドイツに行って、檻の中で買うのはかわいそうだなあって思ったわ」とのこと。
ドイツの森にいるウサギなんて、絵になりすぎー。グリム兄弟の物語に出てきそう。
○ わらじかつ丼
仲見世通りでお昼にしました。
秩父名物、わらじかつ丼にします。
えっこさんが「花子がCMで食べてるから知ってる」と言います。
(お笑いの花子が?大阪のイメージが強いから、むしろ串カツを食べていそうだけど)と思ったら、『花子とアン』の女優さんのことでした。駅のポスター見たことあったわー。
出されたかつ丼は、どんぶりからはみ出ていて、ボリューム感たっぷり。
薄いので、サクサクした食感です。
えっこさんが「わらじだから、2枚あるのね」と言いました。そうか、気づかなかったわ!
味が付いていておいしいですが、食べ始めるとかなりの量。
さらに味噌ポテトも注文したので、おなかがパンッパンになりました。
ふー、食べた、食べた。
○ 見事な連携プレイ
さて、パワーチャージできたところで、再び出発―!
32番から駅に戻るまでも時間がかかり、気が付けば、もう3時をまわっています。
あと行きたいところは、34番、そして苔不動。
34番はマストですが、苔不動は巡礼寺ではないため、行きたいわけを2人に説明しなくてはいけません。
「私、"関東36不動"巡りもやっていて、そのお寺の一つが近くにあるから、寄れそうなら寄りたいの」
この時間になってくると気になるのは、お寺が閉まる時間です。
秩父札所は基本5時までですが、山中の方は4時に閉まるところもあるのだとか。
前もって確認しないと、さらにもう一度来なくてはならないという悲劇につながりそうです。
そんな話をしながら、私がエンジンをかけている間に、二人ともすばやくケータイを取り出し、ショウが苔不動、えっこさんが34番寺に「今日は何時まで開いてますか?」と聞いてくれました。
わー、なんという鮮やかな連携プレイ!さすがわが友!
どちらも5時まででした。両方まわれそうです。よかった。
まずは、遠い場所にある苔不動から先に行くことにしました。
○ 秩父から長瀞方面へ
近くにあるとはいっても、実際にはなかなかの距離。かなり長瀞の方に北上することになります。
幹線道路をひたすら北に車を走らせます。
途中、「34番水潜寺」の表示がありましたが、そこで曲がらず、進み続けます。
何もないような広々としたところで、お寺の看板を見逃して行きすぎたりしながら、カーナビの到着時間通りに着きました。
4時少し前に到着。秩父駅から1時間ほどかかりました。
でも、ここから34番寺は、そう遠くないはず。
うん、時間内に参拝できそうです。
○ 苔不動の読経レクチャー
ここは秩父七草の萩の寺。
もう季節は終わってしまいましたが、参道には萩が植えられていました。
お堂は締め切っています。これまでずっと御開帳のお寺を巡ってきたため、閉ざされた扉をとりわけ残念に感じます。
呼び鈴を押すと、住職の奥様然とした人が出てこられました。
御朱印をいただき、秩父巡礼の話から、四国遍路の話になりました。
お坊さんの修行の大変さをうかがいます。
ここは弘法大師の真言宗のお寺なので、遍路と縁が深いのでしょう。
お坊さんの苦労話を伺って、さてではそろそろ・・・と言いかけたところに、奥様が
「あなたたち、お参りするときにちゃんと読経してる?」と言いました。
「は、はい・・・。」
今回は、人が多くて団体に譲っていますが、なるべく読むようにしています。
「どんな風に読んでいるの?」
「え、どんな風にって…」
突然の質問の意図がわからず、混乱します。
すぐに答えられずにいると、奥様は
「ここで読んで御覧なさい」とお経の紙をえっこさんに渡しました。
えっこさんが「はんにゃ~はらみた~」と、おそるおそる一節読み終わると、奥様は
「はんーにゃーーはらみーたーー」と、朗々と唱えました。
「抑揚を持たせずに、長ーくのばすと、誰だも上手に聞こえるわよ」と言いました。
「あ、は、はい」
えっこさんが応対しているので、数歩後ろに下がって、ショウのもとへ言って「時間大丈夫かな」とささやくと、奥様に「ちゃんと聞いてー」と言われたので、あわててまた戻りました。
このままだと、延々と謎の読経レクチャーが続いてしまいそう。
でも、刻々とお寺が閉まる時間は近づいてきます。
どうしようと思いましたが、話が一段落したところで、思い切って「すみません、ちょっと急ぐので」とおいとまさせてもらいました。
「さっき、行くって電話したから、気合を入れて待っててくれたのかもね」とショウ。
確かにそうかも。
「お経は、教本を読むのが正式な読み方で、暗記するものではないのよ」にはじまり、知らないお経の話を教えていただけて、ためにはなりましたが・・・。
奥様、済みません。私たちに残された時間は、あとわずかしかないのです!
○ 攻めでいきます
車に戻り、カーナビ登録。
またもや何度か検索に詰まった挙句、今度は電話番号で拾い出せました。
毎回ナビ登録をするたびに悩まされました。
到着予定時刻は、4時45分。ナビ通りに到着すれば、なんとか時間内にたどりつけそうです。
ただ不安なのが、駐車場が離れてやしないかということ。
車から降りて歩いている間に、お寺が閉まったら、三人で号泣するしかありません!
いい大人三人が!でも泣いちゃうもんね!
もはや修行とか精神鍛錬どころではありません。
なので、泣かずに済むよう、道を急ぎます。
幹線道路を通るのかと思いきや、ナビはどんどん山の方へと連れて行きます。
あれよあれよと言う間に、くねくねの坂道に。
峠越えをさせるようです。
急いでいるから、直進道路がいいのにー!
でも、もう別ルートを探している暇などありません。行くしかないのです。
気持ちを入れ替え、山肌をガツガツ攻める運転に切り替えると、二人はすぐに気づきました。
えっこ「グイグイいくね~」
ショウ「イニシャルDだー。ドリフト!豆腐置かなきゃ!」
私「やんちゃな頃を思い出すわ!」(ウソですよ!)
前方に車が見えてきました。車間距離を置こうと思った矢先に、その車は道を開けてくれました。
「わー、車をよけさせたー」
「えー、そんなつもりなかったんだけど!」
と、わいわい言いながら峠越えは終わり、うす暗い山道を抜けてもすでに、あたりは夕暮れとなっていました。
暗すぎて、道路の先が見えづらくなっています。
さっき、目のお寺を参拝したばかりなのに。
ハイビームをつけたりしながら進んでいくと、またもや前方に車を見つけました。
4台ほどつながっています。どうやら、前の車がゆっくりなので、数珠つなぎになっているよう。
明らかに、一番後ろの車が先を急いでいます。
私たちがその後ろにつく前に、前の車2台が道をそれ、空気を読んだ次の車が道を譲ってくれました。
そこを、4台目の車と、それに続く私たちの車が弾丸と化して通り過ぎました。
私たちもなかなかのスピードできましたが、前の車はそれ以上に飛ばしています。
「こんな場所であんなに急いでるなんて、きっと前の車もお寺に向かっているんだね」
そう話していた通り、前の車はまっしぐらに走り続け、その後をきっちりついていった私たちと一緒に、34番寺の駐車場へと滑り込みました。
○ 34番水潜寺
到着したのは、ナビの予想より早い4時35分。なんとか大丈夫そうです。
でも、お寺までの参道は、先の見えない急坂になっていたので、3人で悲鳴をあげました。
「足が疲れたー」
「お尻の後ろが痛いー」
ほかに上って行く人たちも数名おり、もちろんみんな急ぎ足です。
まさに駆け込み参拝。
急坂を上りきったところにある境内には、十数名の参拝者がいました。
ここでは、午前中一緒だったツアーバスの団体にはもう会いませんでした。
きっと私たちが食事をとっている間に訪れたんでしょう。
ここまでくればもう安心。ゆっくりと参拝できる・・・はずながら、おそらくは参拝者全員が御朱印をいただくため、待つ時間も必要です。
手早く参拝をして、御朱印の列に並びました。
自分の番になった時に、お坊さんは、御朱印を書く手を休めずに
「どこから見えたんですか?横浜?おや、ご苦労様です」
「これで結願、おめでとうございます」
などとずっと話しかけてこられました。
2月の大雪の時に、このあたりは43cm雪が積もったとか、この前クマがすぐ近くに出没したとか。
ずっと話を続けながら御朱印をしたためる人は初めてで、驚きました。
○ コンプリート万歳
御朱印をいただき、散華をいただいて。
再び参拝をします。
これで、秩父三十四カ所、結願しました。
コンプリート、バンザーイ!
ショウとハイタッチします。
今回が初めて参加のえっこさんは、御朱印はまだ5つですが、「今回一番大変なところを周ったから、ほかはなんとかなるよ!」
「あとはがんばれば歩いてでも周れるから!」と、2人で励ましました。
彼女は家から近いので、周りやすそうですし。
水潜寺からもう少し奥に行ったところに、華厳の滝もあります。
もう時間を気にすることもないし、レンタカーはまだまだ借りられますが、すっかり暗くなってしまったため、「町に戻ろうか」ということになりました。
すっかり魂が抜けた状態の私たち。
えっこさんが「あ、般若心経読もうと思ってたのに忘れちゃった」と言うまで、読経することさえ忘れていました。
さっき、苔不動の奥様に、スパルタ特訓を受けたばかりなのにー!
○ そして5時
5時になり、どこからか「夕焼け小焼け」の音楽が流れてきたときには、3人とも口をそろえて「あー」と言いました。
これで、この日の巡礼はおしまい。
お寺は閉まり、巡礼者は宿に戻ります。
34番寺からあとは帰るだけ。
お寺のそばには満願の湯がありました。
「巡礼を終えた後にこんな名前の温泉があったら、そりゃ入りたくなっちゃうよね!」
でも、今回は入りません。
だって家に着くまでが遠足のように、レンタカー店に着くまでが真剣勝負。
温泉でリラックスした後、車を運転するなんて高度な技は、私にはできませーん。
先を急がぬ気楽な道のりですが、距離があるため、秩父駅前に戻ってきたときにはもう6時半になっていました。
レンタカーを返して、ドライブもおしまい。
この日は7時間40分、107km走りました!
ひ、百キロ越えー!ビギナーびっくり。
そんなに走ったの?秩父って広いんですね。
考えていたよりもけっこう長い時間、運転をし続けていたんだなあと思います。
でもずっと楽しかったので、つらさはありません。とっても満足です。
○ かえでサイダー・あの蒸しパン
本当は3人で、カンパイしたいところですが、さっき食べたわらじかつ丼が、まだおなかのなかにずっしりと残っているので、食事をしたい気分にはなりません。
電車が来るまで、軽くお茶することにしました。
2人がコーヒーを頼んでいるところで、私はかえでサイダーを頼みました。
秩父産というので!
本当に楓の味がするサイダーで、おいしくいただきました。
隣のお店には「あの蒸しパン」が売られていました。
みんなで「あの蒸しパン」とつぶやきます。
「あのって、どの?」と2人は首をひねっていますが、私だけピンときました。
「あの花」からとっているんですね。
○ エピローグ
2人と別れて、帰宅したら、どっと疲れが出て、ベッドからしばらく動けませんでした。
とても楽しい一日でしたが、ずっと運転手をやっていたのは、初めてのこと。
いい経験になりました!
事故もなく、よかったです。
この日の巡礼のお寺の詳細について、こちらにまとめてあります。
■ 秩父札所巡礼4(2014.11.9)
並行して、いくつかの観音巡礼を同時進行していますが、結願したのは、これが初めて。
期限があるので、集中して取り組んだためですが、やっぱり巡礼って、簡単にはいかないもの。
いろいろと大変だったなあと、しみじみ思い返します。
でも、その分、やりがいと達成感がありました。
えっこさん、ドイツから帰りたての忙しい時に、付き合ってくれてありがとう!
またお寺めぐりしましょうね。
そして、多忙な中を縫って秩父に向かい、一緒に巡ってくれたショウ。
なにもわからないアメリカ帰りのあなたを、ディープな巡礼に誘ってしまったけれど、最後まで頑張ってもらえて、感激です。
がんばったショウに、いいことが起こりますように!
私の願いもかないますように!
ところで、ショウは「この巡礼が最後までできますように」と願っていたそうです。
私も「御開帳期間中にすべて周れますように」と祈願していました。
一緒じゃーん!
そして二人とも、すでに願いがかなってるじゃーん(笑)!
● 秩父巡礼記外伝 index
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