長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

雰囲気だけで、何が悪い!? 夏の終わりにこの傑作  ~映画『呪われたジェシカ』~

2017年08月27日 22時47分58秒 | ホラー映画関係
映画『呪われたジェシカ』( Let's Scare Jessica to Death 1971年8月公開 89分 パラマウント)

 映画『呪われたジェシカ』は、アメリカ合衆国で製作されたホラー映画である。
 日本で長らくソフト商品化されていなかったために幻の作品とされていたが、2015年に初 DVD化された。

あらすじ
 30代の女性ジェシカは、神経を病んで入院していたがようやく退院し、アメリカ北東部コネティカット州の人里離れた空き家を購入して静養に来る。夫ダンカンや親友ウッディと田舎町で心安らかに快復を待つはずのジェシカだったが、逆に彼女は間もなく狂気と不安の渦に巻き込まれていく。3人は、空き家だったはずの邸宅に住んでいた女性エミリーに出会う。その後、町全体がエミリーの不思議な影響の下にあるらしいことがわかり、ジェシカの心はさらに乱れる。そして大昔に空き家に住んでいた一家の娘が結婚式の日に近くの湖で溺死したという悲劇を知り、ジェシカの恐怖はますます強くなる。
 果たして、空き家にいたエミリーの正体は湖で死にきれなかった娘なのか? 彼女は本当にジェシカに付きまとい、死ぬほどの恐怖を与えようとしているのか?


主なキャスティング
ジェシカ       …… ゾーラ=ランパート(34歳)
ジェシカの夫ダンカン …… バートン=ヘイマン(34歳)
ウッディ       …… ケヴィン=オコナー(33歳)
エミリー       …… マリクレア=コステロ(35歳)
骨董屋のサム     …… アラン=マンソン(53歳)
謎の少女       …… グレッチェン=コルベット(26歳)

主なスタッフ
監督・脚本 …… ジョン=D=ハンコック(32歳)
音楽    …… オーヴィル=ストーバー(24歳)
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付属資料・黒井ミサとその家族について

2017年08月14日 10時07分47秒 | ホラー映画関係
・この記事では、映画『エコエコアザラクII BIRTH OF THE WIZARD 』(1996年)の感想記事をつづる際に調べ直した、原作マンガ『エコエコアザラク』におけるミサの家族に関する描写をまとめています。
・今回原典資料としたのは、1998~99年に角川コミック文庫から刊行された『エコエコアザラク』全10巻(全186話)です。
・実写映画第1作『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS 』(1995年)の感想記事でまとめた通り、古賀新一のホラーマンガ『エコエコアザラク』シリーズは、映画『エコエコアザラクII』の公開時点までに『エコエコアザラク』(1975年9月~79年4月)、ミサが高校生となる『魔女黒井ミサ』(1980年代)、『エコエコアザラクⅡ』(1993~98年)の3シリーズが連載されていますが、今回調べる対象となったのはシーズン1にあたる『エコエコアザラク』のみとなります。
・タイトルの頭についた話数は、あくまで角川文庫版をベースに算定したものですので、実際の雑誌掲載順が違っていたり、収録されていないエピソードがある可能性がありますので、ご了承ください。


第28話『黒いカバンの秘密』…… 両親の魂の入った、意志を持って会話もできる縮小ミイラ人形が登場する。両親はかつてアメリカで活躍していた著名な魔術師で、世界各地の呪術の研究をした末に、南米エクアドル奥地の首狩り族の「不死身術」を使って人形化したという。
第31話『ミサのボーイフレンド』…… ミサの回想に両親が登場する。ミサの見えないボーイフレンド「正ちゃん」の存在を信じない極めてごく普通の夫婦。裕福な生活をしている。
第34話『絶叫』…… ミサの家が登場する。立派な門柱や煙突付き暖炉のある西洋屋敷で、ミサは「もともとイギリスの有名な魔術師ジェラルド=ガードナー(1884~1964年)が建造して妻と共に住んでいた邸宅だった」と語る。家人は登場しない。
第52話『檻の中の男』…… ミサの家が登場する。第34話のガードナー屋敷とは全く違う邸宅だが非常に広大な西洋屋敷。ミサを1年間調査しているトップ屋記者によると、ミサは日本や海外にも住居を転々としているという。家人は登場しない。
第54話『魔法の水着』…… 田舎から来たというミサの祖母が登場する(名前は言及されず)。祖母は見た目は普通の日本人女性だがイギリス・ヴィクトリア朝風の洋装をしている。祖母に黒魔術の素養は無いようである。ミサと祖母以外の家人は登場しない。余談だが、本話でミサが水泳と歌が苦手であることが言及される。
第59話『よみがえった老婆』…… ミサの祖母の住む「西村山」という地方村落が登場する。ミサの祖母は普通に和装で茅葺き屋根の家に住んでおり、梨農家をしているが夫(ミサの祖父)が病身になったため栽培が難しくなっている。祖母に黒魔術の素養は無い。
第71話『はく製コレクション』、第72話『予告された殺人』…… ミサの祖父母の住む西村山が登場する。ミサの祖父の病状は改善しているらしい。西村山には修行場を持つ禅宗の大きな寺院「妙光寺」があり、ミサは住職と親しい。ミサの祖父母によると、ミサは「母親似」であるという。
第91話『かかしの供養』…… 西村山に住むミサの祖母が登場する。ミサの祖父は登場しない。
第94話『妖蛾』…… ミサの自宅が登場する。雑木林のある広大な敷地だが、邸宅は一般的な二階建て住宅である。家人は登場しない。
第95話『大魔術師・黒井ミサ』~第100話『機械人形』、第116話『ミサの魔法カメラ』…… 久しぶりに登場した両親の縮小ミイラ人形を、ミサが魔王ルシファの力を使って生身の両親に還元する。ミサと両親は西洋の城館のような非常に立派な屋敷に住んでいる。復活したミサの父は友人の貿易会社に就職し、父母ともに黒魔術の素養があるような様子は全くない。ミサの父はヒゲを生やしていない。ミサの父は熱烈な巨人ファン。
第123話『幽霊城の秘密』…… ミサの母が登場し、ミサを黒魔術の修練のために3歳の時にイギリスの城に預けていたと語る。
第127話『聖夜物語』、第130話『隣は何をする人ぞ』、第132話『暗やみのボウリング』、第138話『しでむしの歌』、第143話『ビヤ・ガーデンの大魔術』、第146話『我が家は魔女一家』、第148話『怪談鍋島猫騒動』…… ミサの両親が登場する。ミサの母がインド魔術に精通していることが判明するが、母自身が駆使できるのは種のある奇術の範囲である。父の名前が「臣夫(とみお)」、母の名前が「奈々子」であることが判明する。父の会社での立場は部長。
第149話『強情っぱりの老人』…… 西村山のミサの祖母が登場する。祖父は登場しない。
第156話『はみだすパパの悪酔い』、第166話『教育とは耐えること!?』、第167話『バスは地獄の一丁目行き』、第176話『眠り薬と浮遊術』…… ミサの両親が登場する。 
第180話『チャボの墓』…… 西村山のミサの祖母が登場する。祖母がミサの父方(黒井臣夫の母)であることが判明する。
第181話『霊が呼んでいる』、第182話『追われる獅子舞い』、第185話『強欲の代償』…… ミサの両親が登場する。
※シーズン1『エコエコアザラク』の最終第186話『雪ふる夜の終電車』にミサの家族は登場せず、ミサも魔術を使わない。
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気持ちいいくらいに「だだんだん、だだん!!」でした。 ~映画『エコエコアザラクⅡ』~

2017年08月12日 23時14分09秒 | ホラー映画関係
 どうもみなさんこんばんは! そうだいでございます~。今日も一日、たいへんお疲れさまでございました!

 さぁ今回はもうちゃっちゃと本題に入りますが、まぁなんで今この映画なんだという疑問が湧き上がる一作の感想記事でございます。早速いっちゃお~。


映画『エコエコアザラクII BIRTH OF THE WIZARD 』(1996年4月公開 83分 ギャガ・コミュニケーションズ)
 映画『エコエコアザラクII BIRTH OF THE WIZARD 』は、少女ホラーマンガ『エコエコアザラク』シリーズ(1975~79年連載、その後も続編シリーズあり)の実写映画版第2作。
 主人公・黒井ミサが魔女として目覚める最初のエピソードを描いた作品。映画作品としては続編であるが、前年に公開された実写映画版第1作『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS 』よりも時系列では過去にあたる。本作は、以降に製作された映像化シリーズに先駆けて最初に「魔女でなかった頃の黒井ミサ」を描いた作品である。そのため、ミサ自身は前作よりも活躍しなくなったものの、より緊迫感のあるスリリングなアクションを見せる『ターミネーター』(1984年 アメリカ)的な展開の作品となっている。また、本作で重要な役を演じた白鳥智恵子は、のちの TVシリーズ版『エコエコアザラク』(1997年放送)でも別の役で出演している。

あらすじ
 明治十三(1880)年。ヨーロッパ伝来の魔術を伝承してきた斎呀(さいが)一族の住む寒村が、謎の大量虐殺により一夜にして消滅した。
 時は移って現代。考古学者が、斎呀一族の村の遺跡から女性のミイラを発掘した。このミイラこそが、大量虐殺を起こした張本人である凶悪な魔女・霧江の変わり果てた姿だった。霧江は100年以上の封印から息を吹き返し、現代の人々を血祭りにあげる。霧江の目的はただ一つ、強力な魔女の才能を秘めた現代の少女・黒井ミサの肉体を乗っ取り完全復活することだった。
 一方、ミサはごく普通の高校生として生活していた。しかし悲劇は、2学期の終業パーティを自宅で楽しんでいた時に起きる。霧江に肉体を乗っ取られた男が突如襲来し、ミサのクラスメイトを惨殺したのだ。ミサは間一髪のところで、斎呀と名乗る男に救われる。

主なキャスティング
黒井 ミサ       …… 吉野 公佳(20歳)
斎呀          …… 四方堂 亘(33歳)
高梨 翔子       …… 白鳥 智恵子(20歳)
翔子の父・高梨巡査部長 …… 大谷 朗(47歳)
ミサの先輩・寺田    …… 三橋 貴志(22歳)
ミサの同級生・千香   …… 藤枝 真琴(?歳)
ミサの同級生・岡崎   …… 北川 悠仁(19歳)
産婦人科医・大川邦夫  …… 斉藤 暁(43歳)
梶の助手・七月鏡子   …… 福家 美峰(30歳)
霧江          …… 富永 アミナ(23歳)
長老          …… 天本 英世(70歳)

主なスタッフ
監督・脚本        …… 佐藤 嗣麻子(32歳)
SFX スーパーバイザー   …… 山崎 貴(31歳)
スペシャルエフェクト   …… 白組
スタントコーディネーター …… 高橋 伸稔(28歳)
特殊造形         …… 竹谷 隆之(32歳)ほか
音響効果         …… 柴崎 憲治(40歳)
音楽           …… 片倉 三起也(ALI PROJECT)
主題歌『星月夜 ルシファー第四楽章』(歌:ALI PROJECT)
製作           …… ギャガ・コミュニケーションズ、円谷映像


 ということで、ね。ほんとに、なんで今これなんだろう!?
 ま、ホラー映画なんで夏向きかと思えば、この作品、思いッきりクリスマス直前の真冬が舞台なんですよね……和のホラーでもねぇし。

 今回この作品を選んだのは、最近やっとこの映画の DVDを購入したからという極めて私的な理由からなのですが、1980年代生まれのわたくしにとりましては、この『エコエコアザラク』シリーズは青春ど真ん中の私の心をブチ抜いてくれた思い出の作品なのであります。むか~しむかしの記事でも触れた通り、古賀新一のホラーマンガシリーズを原作とする稀代の魔女・黒井ミサを主人公とする『エコエコアザラク』の実写作品は数多く作られているのですが、その中でも特に私が大好きなのは、やっぱり初期の3作でありまして、今回取り上げるのはその第2作になります。えっ? 大好きなんだったら、なんで最初の第1作からやらないんだって? そりゃあーた、1作目の DVDの amazonでの価格を見てくださいよ……買うのは、もうちょっとがんばって働いてからね!!

 んで、さっそく本作を観た感想をつづっていきたいのですが、本編を観ていて各シーンでつらつら思ったことは、本文が終わった後にまとめてありますので、先に総論から言ってしまいましょう。


思ったよりも濃密な『ターミネーター』要素でひっぱるが……それだけで終わらない佐藤嗣麻子ロマンに、君はついていけるか!?


 こんな感じになるかなぁ。面白いは面白いんですが、ちょっと作品としてのバランスがあやうい。

 まず、この作品は当然ながら監督も主演も同じ前作から地続きになっている正統続編なのですが、時間軸的には「前日譚」になっているところがミソです。作中の「ミサのペンダント」という共通アイテムの存在からみても、おそらく佐藤嗣麻子監督の中に本作で語られる「ミサが魔女になったきっかけ」を制作する計画は、前作を撮影している時点から確定していたのではないでしょうか。
 なんで第1作と第2作で時間軸が逆転しているのか考えてみると、これはもう見比べてみれば瞭然なのですが、黒井ミサを演じる吉野公佳さんの演技の習熟度と、その吉野さんの魅力を100%以上引き出す監督との関係性をしっかり構築させておかなければ、第1作以上にミサが難しい役どころとなる本作を撮ることは不可能だという、佐藤嗣麻子監督の先見があったからだったのではないでしょうか。いかにも佐藤嗣麻子監督らしい繊細な思慮です。
 そうなんですよね。第1作でのミサはもう完全なプロの魔女なので少々のことでは動じない芯の強さと自信があり、そこが「そんなミサでさえ翻弄されてしまう強大な敵の登場!」とか「哀しい別れに馴れているはずのミサにも心の揺らぎが……」というドラマティックな展開を呼び込む振れ幅の大きさにつながっていたわけです。そして、ここでいうミサの強さ、動じなさが、撮影当時の吉野さんのやや硬い演技に不思議な説得力を持たせていたという、この魔術……佐藤嗣麻子監督が魔女じゃねぇか!

 そんな前作に比べて本作は、そこらへんにいる普通の女子高生が、100年以上ぶりに復活した魔女に対抗する魔術をマスターしなければならないという無理難題もいいところな境遇に叩き落されてしまうわけで、これはやっぱり「ふつうの女の子」と「魔女」の最低2つの個性を演じ分けなければならない難易度が生じているわけなのです。その点、本作での吉野さんは前半こそ「う~ん……大丈夫?」と気になってしまうぎこちなさこそあるものの、斎呀との再会によって覚醒した後はもはや独擅場といいますか、彼女特有の目の力が前面に押し出された最高の演技を見せてくれていたと思います。よくよく見ると吉野さんは大したアクションもこなしていないのですが、その殺気みなぎる目と低音の呪文詠唱が、「そりゃバフォメットもおっとり刀で加勢に駆けつけるわな」という大魔女の誕生を証明するものになっているのです。本作はワイヤーアクションや CG特撮もふんだんに取り入れられているのですが、やっぱり吉野さんの目力がいちばんの見どころになっちゃうんですよね!
 そういった意味でも、本作は佐藤嗣麻子監督のビジョンに吉野さんが応え、なんとか撮影に追いつき、間に合わせてくれた奇跡の一作とも言えると思います。映画監督の制作意図がみごとに的中、実現した好例なのではないでしょうか。

 ただその一方で、本作は主人公のミサの精神が非日常世界との遭遇によって揺れに揺れるという物語の構造上の不安定さが、結局作品全体のアンバランスさにまでつながってしまったという問題点も生じてしまったかと思えます。
 すなはち佐藤嗣麻子監督は、ミサが魔女に覚醒するためのキーキャラクターとして、本作オリジナルの斎呀という男性を用意したわけなのですが、その斎呀とミサとの関係性と、斎呀と魔女・霧江との因縁とをまとめて説明するためには、観客に落ち着いて見て理解してもらう、それ相応の時間が必要となります。ところが、それが冒頭から前半いっぱいにわたるまでさんざんジェットコースター的に走りまくってきた『ターミネーター』的追跡アクション&血みどろスプラッタ描写の直後に、違う映画が始まったかのようにえんえん10分間にわたり展開されてしまうために、強烈なスピードダウン感をもたらすものになってしまっていたのです。これはキツい!!
 ここが難しいところなんだなぁ! 佐藤嗣麻子監督の創るロマンチックな「時を超えた絆」に、観る人の脳みそがスムーズに乗り換えられたらいいんですけど、斎呀を演じる役者さんのセリフはぼそぼそっとしていて聞きづらいし、長老を演じる天本さんは逆にセリフは言うまでもなく達者ではあるのですが、所作が非常に演劇的でスローモーなんですよね。そして、よくよく事情を聞いてみれば、そもそも霧江が手の付けられない強力な魔女になっちゃったのは徹頭徹尾斎呀のせいやんけというマッチポンプ感が露呈してしまう、この哀しさよ! こんな男を助けるために命を懸けてくれるミサは、少女時代に「天使の羽根」という奇跡を見せてくれた恩があるとはいえ、魔女というよりも「菩薩」なのではないでしょうか。15歳のみそらで、えらい!! 日本も捨てたもんじゃねぇなぁ。

 とにもかくにも本作は、前作から視覚効果が格段にパワーアップしている豪華さと、次から次へと姿を変えて襲いかかってくる霧江の魔手から逃れるミサと斎呀のドラマチックな決死行が堪能できる娯楽作ですが、ミサがわけのわからない運命に翻弄されて親友たちを惨殺されてしまう「完全な被害者」になっている悲劇をフォローするキャラクターの立場がどうにも弱いためにストーリーに中だるみが生じてしまい、なんだかよくわかんないうちにミサがいつの間にか強くなって敵を倒して終わっちゃった、みたいな中途半端な印象を与えるものになってしまっていると思います。
 決して「失敗作!」とまでは言えないのですが……惜しいですよね。一匹狼的な松田優作っぽい演技も考えものです……そんな結論で、いいのか!?

 あと、これはキャラクター設定がそうなのだから仕方がないのですが、ミサの敵となる存在の姿(演じる俳優さん)がコロコロ変わってしまうのも、誰が敵なのかわからないスリリングさこそあれど、前作の敵ほどにはっきりしたインパクトを持てなくなってしまう弱みになってしまったかと思います。いやいや、前作の敵があのお方ですからね! 相手が悪すぎるのですが。洋の東西を問わず映画界のシリーズ化作品あるあるなのですが、出来が良すぎる1作目を持ってしまうと、次が大変ですよね。なんもか~んも、ぜんぶ大魔王カンノが悪いんじゃあ!!

 ところで、こういう主人公の「覚醒」を描くエピソードゼロ的な作品って、たいていミサが実は斎呀一族の末裔でした~みたいな血縁的因縁を持ってきて、ミサがこの悲劇に付き合わされる宿命的理由付けをしてきそうなものなんですが、本作って、そこらへんは全く無関係なんですよね。ただ、100年前の斎呀一族の長老がミサの誕生を予言してるだけっていう一方通行な関わり方。結局、黒井ミサという人間がどうしてそこまで強力な魔力を秘めているのかという理由については、いっさいの謎のままなのです。

 でも、実はそこら辺の「黒井ミサの魔力の源泉」のかたくななまでの禁域化は原作リスペクトといいますか、古賀新一先生のマンガでもそうでありまして、まず血縁的な遺伝ではなさそうなんですよ。教育環境的な影響は非常に大きいわけですが。

 ここからは原作マンガ『エコエコアザラク』第1シーズンのみに限った設定の話になるのですが、まず作中に登場するミサの血縁者は、「ミサの父・臣夫(とみお)」と「ミサの母・奈々子」と「ミサの父方の祖父母」の4名です。Wikipedia の記事によると、その他にミサの亡妹と叔父がいるそうなのですが、少なくとも角川コミック文庫版に収録されている186話の中には登場しませんでした。その後のシーズンで登場するのかな?
 あと、彼らと同じくらいの頻度でマンガに登場する「黒井医院の院長」という、メガネをかけてぶよぶよっとしたおでこのシワと常に見開いた両目が特徴の不気味な男性キャラクターがいるのですが、彼はシーズン1の作中ではミサ自身が血縁関係を否定していますし、院長本人もミサの父に対して執事のように強い忠誠心を持った人物として描かれています。縁戚関係にあるようには描写されていませんね。
 魔女の家族というと、どうしても『アダムス・ファミリー』や『魔法使いサリー』のように一族全員が異能を持っているような先入観を抱いてしまうのですが、その点に関して『エコエコアザラク』は、ミサとそれ以外の人々との間に非常に特徴的な線引きをしており、端的に言うと作中で非現実的な魔術を使うのはミサただ一人となっています。ミサの父方の祖父母なんか、ミサが魔女であることは知っていますが、本人たちは「西村山」という村落で梨農家をしているごくごく一般的な日本人の老夫婦ですね。ただ、中学生のミサにヌードモデルを強要するという週刊少年誌らしからぬ外道ぶりを見せる悪党には、文字通り身を挺して復讐に乗り出すことも辞さないミサの祖母の肝っ玉の太さは、明らかにミサに遺伝しているようです。

 そして、問題がちょっと複雑なのがミサの両親でして、最初はなんと「南米エクアドル奥地の首狩り族の不死身術によって縮小ミイラ人形と化した姿」で登場します。何を言っているのかわからねーと思うが、ほんとそうなのよ……
 ミサの言うことによりますと、ミサの両親はかつてアメリカで活動していた有名な魔術研究家で、世界中をめぐり各国の呪術を実地調査していたのですが、自分たちの命を永遠のものとする不死身術によって人形化し、ミサの守るスーツケースの中に住むこととなったのでした。
 しかし、シーズン1の中盤で、ミサはこの2人を魔王ルシファ御大の力を借りて「生身の人間」の還元することに成功します。どうして両親がわざわざ得た無限の命を、みすみす普通の人間と変わらない有限のものに戻してしまったのか? そのきっかけとなる出来事は、非常に少年マンガらしいきわめて日常的で些末なものなのですが、ミサが介助しないと自力で食事もできず、子どものいたずらにも抵抗できない人形となっている姿より、年老いても邪魔に感じる時があっても、暖かい包容力と喜怒哀楽の人間性を持った2人に戻って欲しいと願ったミサの心には、非常に人間臭いリアリティがあると思います。やっぱ15歳なんだもの、独り暮らしはイヤだったんですね。
 ほんで無事に復活した両親なのですが、あの魔王ルシファ大師匠の力を借りて復活したという割に、その後はビックリするほど平々凡々な家庭生活をミサと送っており、父・臣夫は貿易会社の部長としてあくせく働く企業人(熱烈な巨人ファン)、母・奈々子はたまに家に来るミサの友人たちにジュースをふるまう温厚な専業主婦としてたびたびエピソードに登場するにとどまっています。魔術研究から完全に足を洗っとる……
 いちおう、ミサとよく似た母・奈々子がインドの大魔術を披露する話もあるにはあるのですが、これは完全にトリックのある奇術だったというオチがあり、やはりモノホンの魔術を駆使するミサとは全く別次元の日常世界の範疇にあるものとなっています。あと、黒井奈々子がミサ同様に魔法を使う「コメディシリーズ」というナンセンスギャグ編もあるのですが、これは物語の筋も希薄で絵のタッチもかなり軽~い『奥さまは魔女』的な番外編なので、これは正伝からは除外してよいでしょう。
 結局、原作マンガにおいても、黒井ミサの強大な魔力の源泉は、遅くとも3歳の頃からイギリスの幽霊城に単身ホームステイするといった過酷な修練を重ねてきた努力のたまものであり、両親の教育方針と経済力こそ重要な基盤となってはいるものの、遺伝的にそういう血筋であるとか、そういうアドバンテージは全く語られていないのです。ここらへんの宿命とか血縁とかの徹底的な否定と、ミサ母子や祖母に観られる女性の強さ、たくましさの礼賛は、古賀新一さんの作家性を語る上でかなり重要な要素であるような気がします。見てくださいよ、ミサの父なんかお金を稼ぐことしか能のないモブ待遇だし、祖父なんかいつのまにかフェイドアウトしちゃってんだもんね! 扱いが露骨にザツ!!

 話を実写版映画に戻しますが、高校生だとか異様にとっつきにくい外見をしているとか、実写映画2作における吉野ミサは原作マンガとはまるで違う特徴を持ってはいるのですが、安易な血筋などの理由付けに全く頼らない「孤高、唯一無二の才能」という点では非常に原作に忠実な芯を持っているのです。あと、魔女になる前のミサを描いている作品として、本作におけるミサの両親がちゃんと「健在だが海外にいる」という原作準拠の設定となっているのも、しっかり筋を通していますよね。まぁ、吉野ミサは西洋のお城みたいな屋敷には住んでいませんが。

 そんなこんなで、本作『エコエコアザラクⅡ』は、佐藤嗣麻子監督の美学と吉野公佳さんのミサ像がみごとに結合した一作となっております。学園サスペンスホラーといったていの前作とは全く違うスリリングなアクションホラーとなっておりますが、『エイリアン2』や『ターミネーター2』に通じる世界観の広がりを感じさせる意欲作となっておりますので、おヒマな方はぜひ、異色のダークヒロイン・黒井ミサの誕生を見届けてくださいませ!!


≪以下、拾遺的な視聴メモメモ~≫
・前作『 WIZARD OF DARKNESS』も、何かにおびえて街中を疾走する OLというスピーディな展開から物語が始まっていたが、今作はさらに輪をかけて、身体を吹き飛ばされて木に叩きつけられるようなワイヤーアクションに特殊メイクによる血しぶき描写と、かなりド派手なバトルシーンで始まる。ここらへんは、本作で初参加となったスタントコーディネーターの高橋伸稔さんの香港仕込みの仕事が光る! さすがは世界のアクションスター・倉田保昭さんのお弟子さんだ!! 非常に景気がいい。
・冒頭から特撮界の伝説の俳優・天本英世さんが出てくるのがうれしい。天本さんは当時70歳ということで、さすがに外見に往年の溝呂木博士や死神博士のような狂気はまとっていない『平成教育委員会』モデルなのだが、それでもこのお方が出てくると、観ている側も思わず背筋がぴんと伸びてしまう。私そうだいも、生前の天本さんを一度お見かけすることができててよかった~♡
・前作に引き続いて特殊メイクによるスプラッタ表現も冒頭から快調なのだが、今作ではそれに加えて、タイトルロゴから本編中に至るまで惜しげもなく CG技術を投入しているところも新しい。前作とたった1年の時間差しかないのだが、その間に山崎貴ひきいる白組が格段の進歩を遂げていることが良くわかる。豪勢!
・高橋さんのアクションに加えて、特殊造形に雨宮慶太作品や『真』、『 ZO』、『 J』の単発仮面ライダー三部作で有名な竹谷隆之さんが新たに参加しているのも見逃せない。まず最初に登場する霧江のミイラからしてリアル感がハンパないもんね! ほんと、イタリアのカタコンベにいても全然違和感がない質感でありながら、次の瞬間には目が開いて起き上がりそうな生命感も残っているという不思議な魅力……ほんと、本作は何から何まで大盤振る舞いだなオイ!!
・ミイラ霧江が最初に襲った七月さんの額にナイフを埋め込む描写が完全 CG作画になっているのが、時代の趨勢を感じさせる。ちょっと前だったら、確実に七月さんの頭部のダミー人形を作って撮影する特殊造形パートでしたよね~。確かに、CG 合成のほうが手っ取り早いやねぇ。
・霧江の乗り移った七月さんの発言から、黒井ミサの誕生日が12月25日であることがわかる。キリスト教の裏返しとも言える黒魔術の使い手としてはこれ以上ない日付なのだが、実際にそうだったら一年のうちに買ってもらえるプレゼントが確実に一コ減っちゃうやつ~! 呪われておる……
・本作の時間設定は「黒井ミサが15歳の時の2学期の終業日」なので、ミサは「高校1年生」で、ミサが聖華学園高校の2年7組に転入してきた前作の「半年~1年くらい前の出来事」ということになる。2学期の終業日なので、ミサの誕生日も目前ですよね。
・ミサの同級生の岡崎くん役で、まさかのゆず・北川さんが登場! 北川さんは1995~97年頃にはもっぱら俳優として活動しており、本作の翌年の97年10月にゆずとしてのインディーズデビューを果たすこととなるのだ。ズバ抜けた華があるというわけではないのだが、その飾りっ気のなさが逆にナチュラルでいい感じである。それよりも、それで歌手を目指せるのかというくらいにひどい鼻声なのが気になる。たまたま風邪ひいてたのか?
・高校1年生の2学期の終業式の日の夜のパーティ……って言ってんのに、1カット目からミサの同級生の千香が思いッきり缶ビールあおってるよ! 大らかな時代だったのかのう……って平成でもダメに決まってんだろ!!
・パーティをしているリビングでミサたちの先輩男子が興じているブラウン管テレビのシューティングゲームもそうとうレトロなのだが、岡崎と千香が当時テレビ放映していたアメリカの人気 SF怪奇ドラマ『 X-ファイル』の話題で盛り上がっているのもかなりなつかしい。1990年代中盤だねぇ~!! でも、モルダー捜査官がカッコいいとやたらプッシュする千香は……どうなんだろう!?
・この終業パーティでの会話で、本作の時点でミサが一人暮らしをしており、両親が海外にいるらしいことがわかる。また、ミサの部屋もそんなに安いアパートではなさそうだし両親を「お父様」や「お母様」と呼んでいるので、ミサが経済的には安定した家庭環境にあることがわかる。
・「いけないこととわかっていてやっている」というていではあるのだが、やっぱり堂々と15歳の少女がビールを買う様子は、撮影しちゃダメなんじゃないか……『13日の金曜日』シリーズに代表されるように、「いけないことをする青少年」がホラー映画の被害者になるのは東西共通の鉄則なのだが、乱交パーティをさせるわけにいかないからと言って、未成年飲酒を代わりに持ってくるあたりに苦心のほどを感じる。難しいとこだな~!
・前作と違い、あけすけに恋だなんだという青春トークを楽しめる翔子という親友がいることが今作の重要なポイントなのだが、ミサ自身が異性との恋愛に全く興味がなく、「翔子とずっといたい」みたいなことを口走る幼さを残しているので、「魔女」とは違った意味で周囲から浮いた存在になっているところが面白い。お嬢様的な天然キャラ。
・前作ではついに現れなかった「ミサが気を許せる親友」という重要な翔子役を演じるのは、当時その豊満な肢体でグラビアアイドルとしても大人気だった女優の白鳥智恵子さん。ただし本作では、同じくグラビア活動でも大活躍だった吉野さんと同様にそっち系の魅力は意図的に封印されているため、当時の白鳥さんのイメージを知らない人が観ると、高校生にしてはやたら痩せている顔だけが印象に残る。大人びすぎてるんですよね……
・翔子ちゃん、アンタ警察官の娘なのか!? SNSの発達している21世紀だったら、あなたの素行は瞬時にお父さんのクビをはね飛ばしてしまうぞ……いや、1990年代でも充分にアウトよ。
・童顔をコンプレックスにしながらも、高嶺の花のミサに真剣な恋愛感情を抱く岡崎というキャラクター設定がいい感じだなぁ、と思っていたら、その数秒後にあのざまである。もったいないなぁ~、役的にも演じている北川さん的にも! のちに NHKのオリンピック公式テーマソングを手がけることになる歌手なんだぜ!? ちょっとその扱いはひどすぎるぞ!! しかも今作の製作、前作に引き続いて円谷映像さんなんでしょ? 円谷プロじゃないにしても、この人、のちにウルトラ兄弟の長兄の娘婿さんになるお方なんですからね!? まさに、「いくつもの日々を越えて たどり着いた今がある」!!
・ふだんは温厚でコミカルな役のイメージが強い斉藤暁さんだが、本作では魔女・霧江に乗り移られた冷酷無比な殺人マシーンをかなりコワく演じている。それにしても、血のりが大量に使われるのはいいのだが、ミサの部屋の壁紙やふすまの紙が全体的に薄く、特に血しぶきがかかる箇所いちめんにしわが寄っているのが気になる。撮影後にきれいにはがして撤収するためか……前作の「妙に狭い職員室」に続いて、貸しスタジオのかほりが濃厚!!
・ミサのアパートでの惨殺シーンで、犠牲者の顔が無惨に握りつぶされる描写があるのだが、よく見るとまだまだチープな CG画ではあるものの、動いている生身の俳優さんの顔がカット切り替え無しでいきなりつぶれるという構成が意外とショッキング。特殊メイク撮影ならばどこかで必ず入れなければならない「演者からダミー人形へのすり替え」が必要ないという、CG 特撮の利点が有効活用されているカットである。さすが、白組!
・自分が乗っ取っている斉藤暁さん演じる産婦人科医の下半身の骨が粉砕することもいとわず、アパートの高層階から飛び降りる霧江の執念がものすごいのだが、ここでも空中を舞う身体が CGで作画されている。ほんと、本作は使える場所は全部 CGでいくという攻めのスタンスである。しかしそれも、地面を芋虫のように這ってミサの脚にすがる斉藤さんのインパクトには全くかなわない。おにぎりが、白目のおにぎりが迫ってくるぅ!!
・霧江の追跡から逃れるために、斎呀が罪もない一般人をぶん殴って強奪した高級車が、んまぁ~車体もヘッドライトも四角い四角い。平成初期だな~!!
・斎呀の運転する車に轢かれる産婦人科医と、斎呀の車から脱出するミサのカースタントがかなり危険でレベルが高い。まぁ、スタントマンさんの身のこなしのキレが、明らかに俳優さんを超えているので安心して観られるのだが、ここらへんの質の高さも前作には無かったポイントである。女子高生の制服姿でのスタントって、生足でアスファルトに投げ出されてるのか!? 頭が下がるプロ根性です……
・斎呀から逃れたミサが一時保護されている交番も、ストーブの上にはやかんが乗ってるし、かなり寒そうな薄暗い雰囲気だしでたいがい平成、むしろ昭和という感じである。『鉄道員』か!? それにしても、ミサは3人もの人間が惨殺された部屋の住人なのだから、いったん交番とかじゃなくて厳重に本署に連れてくべき重要参考人なんじゃないの?
・交番の中で高梨巡査部長にいきなり撃たれる2人のおまわりさんも、リアクションのキレがいちいちかっこいい。そんなに派手に跳ぶかね!? 真面目に報告しようとしてんのに「うるさい。バン!バン!」はないよね。
・高梨巡査部長の肉体を乗っ取った霧江の秘技「空間結界術」が、CG もちゃんと使ってる大技なのに斎呀に一瞬で破られてしまうというポンコツっぷりが地味に面白い。あれ、霧江って、そんなに大したことないんじゃ……
・出た~、ホラー映画名物「車で逃げてる主人公たちを、たっぷりゆっくり徒歩で追いかける殺人鬼」!! ほんと、それでどうやって追いつけるんだろ。
・霧江に続いて、斎呀の展開した空間結界術も、(この時点では)黒魔術ど素人のミサが何気なく読んだ詠唱によって一瞬でパリーン!と破られてしまう。なに、このすさまじいまでの結界術デフレ!? 敵味方ともに田舎の家のしんばり棒レベルの強度……父ちゃん情けなくって涙が出てくらぁ!!
・斎呀を演じる四方堂さんのセリフが、小声でぼそぼそっとしゃべってるのでけっこう聞きづらい。物語全体の説明をしてくれる役にこの演技をされちゃうとかなりのストレスになる……と思うのは私だけ?
・本作でのミサは、基本的に相手の話を聞き続けるかたまに質問するかのどちらかしかしない、かなり受け身な立場なのだが、吉野さんの目の力がすごいので、ただそこにいるだけで絵になる「表情の説得力」は充分にある。セリフでの演技とはまったく別の魅力ですよね。
・本編の中盤に差しはさまれる、斎呀の記憶とミサの記憶が融合した回想シーンがかなり長く感じる(約10分間)。天本英世さん演じる長老の長ゼリフや夜空から舞い落ちる天使の羽根など、ロマンたっぷりの見どころはちゃんとあるのだが、そこまでの展開がかなりのハイテンポであるために、ここでゆったりとした、しかも時間軸が複雑にずれるシーンが連続してしまうと、正直言って集中力が途切れて離脱したくなる人も出てくるのではないだろうかと心配してしまう。演出的にあんまり良くはない手では……
・霧江の本体を演じる富永さんの「大笑い」の演技が、どうしても前作の大魔王カンノさんのそれと比較してしまうため、かなり稚拙で息苦しそうに見えてしまう。ま、相手が悪すぎるんですけどね……涙とおんなじで、笑い声をちゃんと出せるかどうかも芸のうちなんだねい。
・関東大学構内での決戦シーンで、逃げるミサと斎呀を笑顔で追う霧江が怖いのだが、「逃げても無駄よ、斎呀ー! ミサー!」と、ちゃんと斎呀を先に呼んでいるのが、いかにも女の子らしくてよろしい。100年以上の腐れ縁だもんね。
・斎呀に再会しても、ちゃんと「中身も斎呀」かどうか確認するための罠を仕掛けるあたり、覚醒前とは言ってもやはりミサは非凡な娘である。ここもそうだが、斎呀との少女時代に出逢った記憶を思い出してからの吉野さんの演技が、目に緊張感がみなぎっていて非常に頼もしい。斎呀があんなていたらくですから、なおさらね……
・関東大学の大講義室に描かれていた巨大な魔方陣と無造作に放置されていた10名ほどの犠牲者だが、そんな用意をする時間、霧江にあったのかな……と思っていたら、ちゃんとクライマックスに「最初に見つかった霧江のミイラはどこに行った?」の答えとして種明かしがされるのが、とっても理路整然としていてすばらしい。なるほど~、霧江はミサ探しに全力を注いでいたわけじゃなかったのね。
・ミサが召喚した悪魔が具体的に誰なのか劇中では言及されていないのだが、DVD のチャプター名によれば「バホメット」であるらしい。バフォメットといえば黒ミサを司る悪魔ということで、ミサが初めて召喚する悪魔としてこれ以上ない人選……じゃなくて悪魔選なのだが、一説によれば前作に登場した魔王ルシファの直属の部下らしい。でも、バフォメットといえばこれというヤギ頭の姿が、多少古臭いとはいえちゃんとフルCG で描かれている本作の方が、前作の「白塗り前衛舞踏ダンサー風ルシファ」よりもずっと迫力がありますよね。
・苦い勝利のあとにしらじらと夜が明け、クリスマスの準備が始まっている冬の雑踏の中をひとり歩くミサ……と、それを遠巻きに「なに、撮影?」とか「あれ、吉野公佳じゃない?」みたいなそわそわした感じで見る通行人のみなさま! ゲリラ撮影はこれだからおもしろい。
・最後の最後に、なんとな~く前作の「ミサのペンダントの中の毛髪」の主が誰か判明するような描写があるのだが、明確な答えをちゃんと出さないところに、いかにも佐藤嗣麻子監督作品らしい「余白の美」を感じる。うつむき涙する吉野さんのかんばせ、ほんとに美しいですね!
・そして、エンドロールへと続く最後のカットは、やっぱり一人で遠くへ去ってゆくミサの後ろ姿! たった2作目にして、伝統芸能のような様式美の域に達しておる……黒井ミサは仮面ライダーなみに孤独の似合うヒーローですな。どっちかというと『ゲゲゲの鬼太郎』のラストのコマに近いか。ゲッゲッ、ゲゲゲのゲ……
・エンドロールのキャスト表に「角松かのり(友情出演)」とクレジットされているのだが、どのシーンを観てもそれらしい女性が出てこない。出演したけどカットされちゃったのかな? そういえば、前作での退場の仕方もけっこう雑でしたね……
・アリプロジェクトはやっぱりいいなぁ~としみじみしながらエンドロールを眺めていたのだが、最後にひとつ。「〈美術協力〉サッポロビール」じゃねぇ! 未成年飲酒を描写してる映画に協力してんじゃないよ!! ほんと、おおらかな時代だったのね……


 ……そんなこんなで、この作品を踏まえた上での吉野ミサの新たなる闘いも観たかった気はするのですが、残念ながら監督・佐藤嗣麻子×主演・吉野公佳タッグによるミサの物語は、ここでおしまいとなってしまうのでありました。非常に残念!! でも、外見がすでに成熟してしまっている吉野さんをミサの依り代にするのも、限界ではあったんでしょうね。

 しかし、大いなる名声と知名度を得てしまった大魔術師・黒井ミサに久闊を叙するいとまなど、なかった!

 果たして、次なるミサの冒険に耐えられる存在感を持った女優さんはいるのか!? 吉野さんの構築したミサ像を超えることなど、できるのか!?

 その問いに、わりと早く答えてしまったのが、期待の2代目ミサを迎えた実写映画第3作なのでありました……いたよいたよ、ものすんごい娘さんが!!
 そっちのお話については、まったじっかい~。
 菅野さんとか吉野さんとか佐伯さんとか、1990年代はおもしろい女優さんがいっぱいいましたね~。今は、どうなんだろ?
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え、これ、池谷先生の遺作!?  ~実写映画版『銀魂』~

2017年08月02日 22時59分49秒 | 花咲ける「るろうに銀魂」ロード
 どうも、みなさまご無沙汰しております~。そうだいでございます。
 いや~、当ったり前のようにあっちいっすね。今年の夏も暑い暑い! でも、なんだかんだいってもう8月に入りましたか。実は、私の職場まわりで暑さでぶっ倒れた方がもう2名もいらっしゃるんですが、わたくしも本当に気をつけて日々あくせく働いておる次第でございます。この前なんか、週1のペースで2回も山形名物の山寺に登ってきてしまいました。1035段の石段でしたっけ。もちのろんで、どっちも見事な炎天下でしたねぇ。でもね、山寺自体は木陰もあってとっても涼しいところなんですよね。汗はそりゃまぁとめどないんですけれども。

 相も変わらず失敗、失敗で七転八倒しつつも毎日バタバタ生きておるんですが、やっぱり少しずつ仕事上の経験値は増えてきたようでして、精神的な余裕もできてきたようです。最近は大仕事の終わった時には山形県内の温泉地に泊まりに行く計画も立てられるようになりまして。
 先月は、月山の温泉に泊まりに行ってきまして、そのついでに前々から行ってみたかった「スタジオセディック 庄内オープンセット」(鶴岡市)にも行きました。日本でも有数の敷地面積を誇る時代劇撮影セットということで、戦国城郭の大手門に農村、宿場町などなど色々なオープンセットが常設されている場所でした。
 なかなかね、私が行った時は何の撮影もされていなかったのでただほっつき歩いて建物を見ていくだけだったのですが、ケチって買わなかったセット内バス乗車券も必要ですし、半日つぶすくらいのプランにしないと全部のセットは回れなかったですね。時代劇ファンにはたまらないんですが、できればもう毎日どこかで撮影やってるってくらいに繁盛して欲しいですよね……ちょっと山奥の土地ということもあって、当然お客さんはある程度いたんですが、どことなくさびれた感じはしておりました。可もなく不可もないいかにも観光地な味わいのご飯が大いに考えさせられるものがありました。不思議な場所だった……また行くかどうかは、わかんない!

 さて、今回は映画を観に行ったというお話なんですが、観たのはそりゃもう、どうにもこうにも避けて通るわけにはいかなかった、この作品!


実写映画版『銀魂』(2017年7月14日公開 131分 ワーナー・ブラザース)
 主要なストーリーは「カブト狩り(第83訓・84訓、第10巻)」のエピソードから「紅桜篇(第89訓~97訓、第11-12巻)」がベースとなっている。原作の主要登場人物のうち、お登勢や長谷川泰三などは本作に登場していない。

主なキャスティング
坂田 銀時    …… 小栗 旬(34歳)
志村 新八    …… 菅田 将暉(24歳)
神楽       …… 橋本 環奈(18歳)
桂 小太郎    …… 岡田 将生(27歳)
高杉 晋助    …… 堂本 剛(38歳)
武市 変平太   …… 佐藤 二朗(48歳)
来島 また子   …… 菜々緒(28歳)
岡田 似蔵    …… 新井 浩文(38歳)
近藤 勲     …… 六世 中村 勘九郎(35歳)
土方 十四郎   …… 柳楽 優弥(27歳)
沖田 総悟    …… 吉沢 亮(23歳)
村田 鉄子    …… 早見 あかり(22歳)
村田 鉄矢    …… 安田 顕(43歳)
平賀 源外    …… ムロ ツヨシ(41歳)
志村 妙     …… 長澤 まさみ(30歳)
結野 クリステル …… 古畑 星夏(21歳)
でに~ず店長   …… やべ きょうすけ(43歳)
青き衣の人    …… 清水 くるみ(23歳)
吉田 松陽(声) …… 山寺 宏一(56歳)

主なスタッフ
監督・脚本 …… 福田 雄一(49歳)
音楽    …… 瀬川 英史(52歳)
美術監督  …… 池谷 仙克(76歳 本作公開前の2016年10月に死去)
配給    …… ワーナー・ブラザース映画


 ……えぇ、特に前置きは抜きにして、さっそく本題に入りましょうかね、はい。

 もうね~、いつでしたっけ? 共に日本マンガ史上に燦然と輝く大傑作である、剣劇アクション時代劇『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』(1994~99年連載、2012年以降いくつかの番外編あり、2017年9月より続編連載予定)と、今まさに壮大な大団円を迎えつつあるという SF人情なんちゃって時代劇コメディー『銀魂』(2004年~連載中)とを、「明治維新という史実を基に自由に展開したフィクション作品」という共通項から比較していこうというくわだてをブチ上げたのって!?

 あの頃はヒマだった……「やりません」とは絶対に言いませんが、少なくともそんな時間は、今の私には無いのでありまして。でも、ほんとにやってみたいのよね、これ。

 原作マンガのことはさておきましても、両作はどちらも TVや劇場版という形でアニメ作品としても様々な展開をしており(これは2作品の共通項というわけではなく『ジャンプ』のヒットマンガ全ての常道ですが)、特に『るろうに剣心』は、連載終了後実に10年以上という時と世紀をまたいで2012年と2014年に大友啓史監督・佐藤健主演で実写版映画3部作が公開され、いずれも興行収入30億円超え、しめて約120億円というもんのすんごい大ヒットを記録しました。

 そしてついに今年2017年! すでにアニメ劇場版2作(2010、13年)を公開していた『銀魂』が実写映画版という禁断の扉を開けてしまう! さらに監督は、あの福田雄一監督!! ということで、これをスクリーンで観ないわけにはいかないわたくしなのでありました。いや、誰も絶対見ろとは言ってないんですけど、なんとなく、ねぇ。

 思えば、丸1年前の夏は、なにはなくとも『シン・ゴジラ』で熱狂していたわけでありまして、さぁ今年の夏映画はどんなフィーバーを提供してくれるのでありましょうかっと!


「おもしろかった! いろいろあったけどおもしろかった!」


 と、いうあたりでしょうかね、はい。

 おもしろかったよねぇ! うん、おもしろかった。私の他に観てる人も若い高校生くらいの人が多かったけど、声あげて笑ってるシーンもあったしねぇ。友達と一緒に見るにはもってこいの作品なんじゃないでしょうか。デートに向いてるかっていうと、そりゃけっこうな趣味の親和性がないと気まずくなっちゃうかもしれないけど……

 実は、個人的に「福田雄一監督」という部分でかなり気構えているところがありまして、前に観たあれのように「金かえせ」というところまでいっちゃったら哀しいなぁという思いを抱きながら劇場に足を運んだのですが、いや、ぜんぜん大丈夫! 終始にこにこと穏やかな表情で観終えることができました。


 今回の実写映画版の良かった点は、やはり「本気でバカなことをやっている俳優さんが多かった」という点と、「原作マンガのテンポに極めて近いスピーディなカット割りが随所にあった」という点。この2つに尽きると思います。

 俳優さんがたに関しては申すまでもありません。主人公・坂田銀時役の小栗旬さんの疲れた演技は「カッコいいのに確かに中年にさしかかっている男」という絶妙なラインを突いており、カブト狩りのシーンや村田兄妹、平賀源外との会話シーンを見てもわかる通り、実は作品の中でいちばんツッコミの引き出しが多いキャラクターであるという銀時の本質を的確に掴んだ八面六臂の大活躍をしております。今を時めく大スターである小栗さんであることもあってか、主人公でありつつも実は全編出ずっぱりというわけではなく、ちょいちょいしばらく出てこないこともある銀時なのですが、出ればちゃんと画面を引き締めてくれるので、存在感が薄れるという印象は全くありません。
 ほんと、小栗旬というお人はものすんごい役者さんだぞ……そりゃルパン三世も織田信長もやれるわ。軽い演技で魅せるって、天性の魅力とそうとうな努力のどっちも必要なんですよね。

 ゲ……ヒロイン・神楽役の橋本環奈さんの、この作品に賭ける「観る人全員をすべからく心配にさせる」入魂の演技も最高でした。これはね……「全てのキャリアを賭ける」とは、こういうことなのでしょうか。一体何が彼女をそうさせたのでしょうか。「実は戦闘民族」という、アクション面でまったく言い訳のきかない部分もかなり良かったですよね。来島また子との戦闘シーンのあのくるくる! 超余裕で敵をもてあそんでいるという無邪気さが実に見事でした。でも、橋本さんはアニメ版を礼儀正しく踏襲していながらも、しっかりと「ハスキー」というオリジナルな要素を神楽に加えていたのが素晴らしかった。単なるアニメ版の実写変換で終わらせない新たな神楽像の誕生をみましたね。

 あとは、あの屈指の名エピソード「カブト狩り」を映像化しただけあって、真選組の面々というか、近藤・土方・沖田の3人揃い踏みが実写化されたのはうれしかったですね。沖田は多少「どS」という要素を発揮するシーンが少ないとは感じましたが、土方は「いるだけでものすごく安心できるナンバー2」という存在感をいかんなく放ちつつも、ヘビースモーカー(当時)で尋常でないマヨラー、しかもあの近藤のおもり役という重責など様々な生活習慣から推察するに、確かにそのくらい疲れた感じでにごった目つきにはなるかなという説得力たっぷりの外見になっていました。さすがはヤギラさんです。
 そしてもう、橋本さんとゆうにタメをはるくらいに身体を張った演技をしてくれた六代目ときたら、もう……お父様に勝るとも劣らない役者馬鹿ぶりを拝見した思いで、目頭が熱くなってしまいました。モザイクかけてても、「あ、この人、ほんとにはいてない。」ってわかるもんなのね。私も男ですが、ちょっとひいてしまいました。

 この実写映画版の中核ストーリーをなす「紅桜篇」は、村田兄妹の作刀にかける情熱と岡田の攘夷志士たちへのゆがんだ愛憎が事件の引き金となっている長編エピソードなので、そのあたりに力が入ることは当然なのですが、やはりその中でも、単なるイロモノのようで実はそうではないという刀匠・村田鉄矢を演じた安田さんは、さすがという演技力の高さを見せてくれたと思います。
 セリフ全部を大声でしゃべるって、そう設定した原作の空知先生は、もしかしてそうとうな演劇マニアなんじゃないかってくらいに俳優さんにとって難しい負荷の掛け方で、言い方の小細工がまったくきかなくなるハードルなんですよね。それを重々承知した安田さんは、目の演技で見事にこの難題を乗り越えてくれたと思います。
 それにしても、今回この作品を観ていちばんびっくりしたのは、そういった安田さんの「目とアゴの開閉を異様にオーバーにする演技」が、ちょうど『仮面ライダー』であの稀代の名キャラクター「死神博士」を演じておられた頃の天本英世さんにそっくりだったってことでした!! そうか、天本さんの演技メソッドって、そういうことだったのか! どういうこと!?
 いや、死神博士はあんな大声でしゃべらないんだけど、顔の筋肉の動きがそっくりなんだよなぁ。天本さんはそんなに己に負荷をかけながら演じていたんだなぁ……いや、ただ単に下の歯が無かったからしゃべりにくかったってだけなのかもしんないけど。

 「スピーディなカット割り」っていうのはもう、「カブト狩り」の真選組3段ボケの展開とか、来島の「ほんとに吐いたー!!」の切り返しとかですよね。そりゃもう、観て確かめてもらうしかないっていう、ギャグマンガの見事な映像変換でした。実写化する時には、やりすぎかってくらいにカット割りを素早く細かくしないとマンガに追いつかないんですね。マンガにっていうか、人間の脳の理解スピードに追いつかないんだろうなぁ。ただ、そればっかりやってて2時間ちょいは、作る側も観る側も苦行でしかないわけで、そういった技法を要所要所にどう配置するかという構成力が肝要になってくるのでしょう。その点、今作は原作のいいところを巧妙に拾い上げてある程度の成功をおさめていたかと思いました。


 さぁ、まぁそんなこんなで「実写映画版『銀魂』、すっごくおもしろかったヨ! 『銀魂』サイコー♡」と穏便にしめたいところなのですが、そうは問屋がおろさねぇのがこの『長岡京エイリアン』と申しますか……わたくしのカルマっちゅうかなんちゅうか本中華。

 いや、とにかく今回は「おもしろかった!」という大前提の上で、「でも、ちょっぴり気になった点がある。」という視点に立脚して数点挙げさせていただきますので、決してわたくしめが目くじら立てて「ふざけんな!」「つまんねぇ!」と怒っているわけでは決してありません。
 っていうか、数年前のあれだって、そんなに怒ってたわけじゃないんですよ……でも、「良かった点」と「良くないと思った点」をきっちり2つの記事に分けちゃったのは確かに失策でしたでしょうか。片方の記事だけ読むと私がむっちゃくちゃ怒ってるようにしか感じられないんだもんなぁ。いやー、若かった、そしてヒマだったな、当時の私。自転車こいでちょっと遠くの映画館か。自転車自体、もう全然乗ってないなぁ。


 気になった点はね、実は良かったと思う点と表裏一体なんですよ。やっぱり、「一部の役者さんの扱い方」と「カット割り演出」なんです。いや、ただし今回は役者さんの資質に責任があるというのではなく、キャスティングと各自への演出に問題を感じた気がしました。

 「一部の役者さん」ていうか……私が気になったのは2人だけなんですけれどもね。
 そのうちの1人は、まぁ、やっぱり堂本剛さんの高杉晋助なんだよなぁ。

 わーぁたっ、いやいや、ちょっと待って! 話せばわかる!! 私は別に堂本さんがダメだとか言うつもりは毛頭ないんです!! そんな巨大なコンツェルンパワーを相手にどうのこうの申し上げるほど私もタイトロープダンサーではない!

 最初に「高杉に堂本さん」という報に触れた時、私は原作マンガの高杉というキャラクターの内、確かに「チャーミングな部分」もあることから、そこをオリジナルに膨らませた新しい高杉像を実写版で立ち上げるために堂本さんをキャスティングしたのだろうとみて、他のどのキャスティングよりも冒険的な采配になると予想して勝手に楽しみにしていたのです。

 ところがふたを開けてみれば、実写版の高杉像はいかにもアニメ版のトレースもいいところ。特に何のアレンジも無く、原作マンガかアニメ版における描写のまんま実写化という印象しか受けないシーンの羅列で終わっちゃったという感じなのです。
 最後の銀時との対決シーンは、確かに殺陣としては小柄な堂本さんの体型を巧みに取り入れた説得力のある戦闘スタイルではあったのですが、う~ん、小栗さん演じる銀時と互角に戦っているとはちょっと見えない戦力差を感じました。だいたい、着流し姿の素手で自分よりも大柄な人物と戦おうとすること自体が最初っからちとキビしい。
 『銀魂』や『るろうに剣心』にかぎらず、少年マンガに登場する悪役って、なんだかんだいっても結局は肉体的に主人公と渡り合える「マッチョさ」を持ってないといけないっていう縛りがありますよね。それで原作マンガの高杉も宇宙人のフリーザみたいな別次元の強さを持った生物と互角に戦わなきゃいけないみたいなハメに陥っているわけなのですが、そこは堂本さんが新しい世界を切り開いて、「強さに頼らない強敵」にして欲しかった……でもそれって難しいですよね。あのジョーカーさんだってちょいちょい筋肉モリモリになっちゃう時代だからなぁ。

 わっかんねぇんだよなぁ。確かにネームバリューや小栗さんの対極という意味で堂本さんの起用は非常に良かったと思うのですが、あの堂本さんをして、あの平凡もいい所の悪役演出。キャスティングした人は、あの堂本さんのどうにもこうにもぬぐいがたい「チャーミングさ」をどのくらい重大に捉えていたのでしょうか。しかもパンフレットの堂本さんご本人のコメントを参照すると、堂本さんは製作スタッフから「すね毛を剃ってくれ」という指示を受けていたようなのです。
 すね毛を剃れ……? それで、作中みたいなクールな悪役になれって? 一体どういうことなんだろう……かわいい外見と中身のギャップを見せたかったのか? いや、どうしたって外見のかわいさしか前に立たないだろう。ちょっと悪ぶったファッションにこりだしたゲゲゲの鬼太郎にしか見えないんですけど……
 だいたい、はっきりと顔を見せないまま中盤まで引っ張りに引っ張って、その上で満を持して神楽にその顔を見せるシーンからして、かなり安っぽい CGで堂本さんの瞳をヘンなピンクか紫かで光らせてたでしょ。なんだよ、それ! そういう CG処理の仕方って、ハナっから堂本さんの表情の演技に期待してないってことなんじゃないですか? 日本一の奈良県民・堂本さんに対して失礼だぞコノヤロー!!

 CG ね。私の偏見なのですが、どうも福田監督は、自作におけるCG 処理に関してちょっと甘いんじゃなかろうかと思えるフシがあります。今回は岡田が妖刀・紅桜に浸食された状態でのメカメカしいコード類の描写が残念で仕方なかったような気がしました。まるごと安っぽい CG頼みみたいな。そんなん、エリザベスの着ぐるみの撮影シーンひとつひとつにちまちま CG処理してる場合じゃないですって! もっと他にやるべきことがあるんじゃなかろうかと。

 う~ん……一言でいえば「堂本さんの無駄づかい」ということなんでしょうか。堂本さんを起用するんだったら、それなりに『るろうに剣心』で志々雄真実を藤原竜也さんが演じたようなアプローチとはまったく違う悪役像を創出するべきだし、堂本さんは間違いなくそれができる貴重な人材であると思ったのですが。どだい、かわいらしい人が魔人・子安武人とおんなじことをしたところでなんにもならないのです。

 さて、堂本さんの他にもうお1人、「これはどうか……」と思った役者さんというのは……もう、いっか、触れないようにしましょうかね。えぇ、えぇ、あのお人でございますよ。
 わかんない……福田監督も空知先生も、なんであの方をあれほど高評価しているのかがさっぱりわかんない。これはもう、私の感性が合わないんだろうなと判断いたしまして、正面きって「あの人やっぱりつまんない!」とは申しません。ご本人も、パンフレットで「全責任は福田が取りますので、私には優しくしてください。」とおっしゃっておられますし。
 前に見た時みたいに「誰かの物まね」という感じは無かったのですが、あれ、長回しにして全部使うほどおもしろいやり取りなのだろうか。少なくとも、私が見た回の客席から笑い声は上がらなかった。

 演出が、いい部分もいいと思わない部分も、やっぱり TV的なんですよねぇ。私がいいと思ったのはコントや TVCMで見られるような計算されつくした繊細なカット割り演出で、良くないと思ったのは、とりあえず芸人さんに何かやらせてそれをだらだらとカメラを回して撮り続けるようなバラエティ番組的手法なんです。そのどっちもが混在しているところに、福田監督の手法の惜しげもないオンパレードと同時に、その限界もはっきり見えているような気もするのですが、いかがでしょうか。

 さっきは CGに甘いと言いましたが、福田監督は俳優さんにも甘いような気がしました。ある俳優さんはパンフレットで「演出と言えるかも疑わしい」と語っていますが、和気あいあいとした撮影現場の空気が、シャープな演出や映像の編集を拒んでいるというか。小栗さんのアントニオ猪木の物まねとか源外の工房での赤い彗星ネタとか、やけに時間をたっぷりとって作中に出てきましたが、それなんなんだろうと。どうにも来てもらった役者さんの顔を立てるためだけにノーカットで使ってるとしか思えない時間があるんですよね。
 むろんのこと、そういうひどい脱線は原作マンガでもよく見られる風景ではあるのですが、原作マンガはたいてい無理矢理ともいえる手法で本筋につなげてくる異常な「筋の通しっぷり」があり、またそこが『銀魂』の『銀魂』たるゆえんであるわけです。

 そして、私が何よりも気になったのは、その「どれが本筋でどれが末節なのかがさっぱり読めてこないマングローブ感」が実写映画にあんまりなかったこと。それに尽きるのでした。本筋はひたすらに単純で、意味の無いシーンはひたすら意味が無いという徹底した空虚化。
 でも、これを空知先生以外の誰かに要求するのはどだい無理な話なのでしょうか。ましてや、決まった予算や製作スケジュールの中で起承転結を2時間前後におさめなければいけないし、アニメ劇場版の『新訳紅桜篇』のように無尽蔵にキャラクターを総登場させるわけにもいかないし。

 でも……少なくとも私は、お登勢さんもさっちゃんも長谷川さんも出てこない『銀魂』はちょっと……こざっぱりしすぎてるかな、という気はしました。あ、あと山崎さんも。


 ただ、これはもう「福田監督がそこをチョイスしたのだからしょうがない」と受けとめて、空知先生の語るように「福田さんの銀さん像なんだな」と見るべきなのです。何よりも、とかくやたらとマンガ作品の実写映像化が粗製乱造される昨今において、あの『銀魂』をここまで見事に実写化しおおせた剛腕を無条件に讃えるべきなのではないでしょうか。
 いや、無理矢理いい感じにまとめようとしてるんじゃなくて、本気でものすごい仕事だったと思うんですよ! だって、あんなにかわいい女の子が鼻ほじるわ〇〇吐くわ、歌舞伎界のサラブレッドが全裸になるわの乱痴気騒ぎなんですよ!?

 あ、最後に申し訳程度に実写映画版『るろうに剣心』との比較をちらっとやっときますが、この作品は志村姉弟の「あんまり流行ってない剣術道場経営」という要素を、ものの見事に「セリフ処理」だけで済ませて道場のセットを1ミリたりとも映像化しなかったところと、両作を比較する上での超重要参考人である「河上万斉」の存在を完膚なきまでカットしていたところに、かなり神経質に共通項になりそうな部分を回避しようとした意図を感じました。
 よく考えてみりゃ、どっちもワーナー映画なんですもんね。そりゃかぶらせて得なこたぁねぇか。だいたい、万斉の鋼鉄三味線みたいな攻撃するひと、『るろうに剣心』に出てましたよね。あれ、でも実写映画版ではそんなにその戦い方を前面に押し出してはいなかったっけな? 綾野さん。もう設定がこんがらがってわけわかりません。


 この夏、「最初で最後の実写化!」という啖呵を切った本作が30億円の大台に届こうかというスマッシュヒットとなり、仰々しくタイトルのおしりに『第1章』とかいう余計な文言を加えた作品がシケた花火になりそうという逆転現象も起きているわけですが、もしこの実写版『銀魂』に続編があるのならば、そしてそれに福田監督が引き続き登板するのであるのならば、それはぜひとも『ミツバ篇』のようにショートドラマシリーズの形式をとった方がいいのではなかろうかという気がしました。そっちのほうホーム戦っぽいですよね。

 まぁそんなこんなで、実写版『銀魂』、非常におもしろうございました。ありがとうございます!


 ……んで、「るろうに銀魂」企画はいつ始めるんでしょうか? まぁ……気楽に筆霊が降りるのを待ちましょ。荒俣先生はいい言葉考えつくなぁ!

 荒俣先生といえば、1988年の『帝都物語』では、池谷先生は特殊美術をやってらっしゃってたなぁ。『銀魂』の江戸は「帝都」ではないようなんですが、最後の仕事も江戸でしたねぇ。
 実相寺監督もユーモアを大いに解する方のようでしたから、お元気だったら絶対に『銀魂』の実写化に名乗りを上げてたと思います! でも、それがおもしろいかどうかは……黙祷!!
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