長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

39年ぶりの主演映画? じょうだんじゃないよっ  『仮面ライダー THE FIRST』の章

2010年12月30日 15時36分12秒 | 特撮あたり
《これまでのあらすじ》
 来年2011年の春に公開される新作で、1972年以来39年ぶりの映画主演を果たすこととなった伝説のヒーロー・仮面ライダー1号!
 しかし彼には、2005年の『仮面ライダー THE FIRST』と、2007年の『仮面ライダー THE NEXT』という2つのリメイク映画にも主演しているという黒歴史があったのだ!!


 ……黒歴史だって。失礼だよねぇ……
 でも、心を鬼にしてまず最初に言わなければならないのは、『仮面ライダー』のリメイクに挑戦した映画『仮面ライダーTHE FIRST』と『仮面ライダーTHE NEXT』が、失敗作であるということなんです!
 しかしもっと重要なのは、この2作を明らかな失敗作たらしめたのが、「失敗する可能性の高い挑戦」をあえてしたアグレッシブな心意気だったことです。結果として派手に失敗したわけではあるんですが、私としては実に「惜しい!」と思わせる2作でした。
 要するに、充分に語る価値のある作品ではあるのです! DVDを買う気にはなんないけど……1回は見てみるべきなんじゃ、ないかなぁ!?

 まずいろいろと説明させてもらいたいのですが、2005年に公開された映画『仮面ライダーTHE FIRST』は、1971~73年に放送された伝説のヒーロー番組『仮面ライダー』の初のリメイクとして制作された作品です。当然の事ながら、歴代の「仮面ライダー」シリーズの主人公がリメイクされたという例は他にありませんでした。
 ところが、全100回あった『仮面ライダー』をたかだか2時間の映画に圧縮することはどだいムリなお話。
 ということで、この『仮面ライダーTHE FIRST』は、どちらかというと、TVシリーズの『仮面ライダー』よりも、石ノ森章太郎によるマンガ版『仮面ライダー』を原作にしたものとなりました。

 ここでちょっと補足を。『仮面ライダー』の原作者は確かにあの石ノ森章太郎大先生ではあるのですが、TV版の放送と同時に連載が開始されたマンガ版『仮面ライダー』は、「原作」じゃあないんですね。ややっこしくてすみません!
 つまり、TV局からの「ヒーローもの特撮番組の企画があるのでキャラクターを考案してほしい。」という依頼を受けて石ノ森先生がアイデアを提供したのが『仮面ライダー』誕生の瞬間であって、その後に連載が開始されたマンガ版は石ノ森先生自身の手による「コミカライズ作品」だったわけなんです。
 こういった経緯もあってか、TV版とマンガ版とでは、おなじ『仮面ライダー』ではあっても内容や雰囲気においてかなりの相違が見られます。

 TV版では、世界征服の野望に燃える悪の組織「ショッカー」がかなりわかりやすく日本各地で悪事をはたらき、それを正義の味方「仮面ライダー」がかなりわかりやすくぶっ飛ばすという勧善懲悪ものになっています。子どもでも一瞬で理解できるような単純明快なヒーロー番組のお手本です。
 ところがその一方、石ノ森先生によるマンガ版は非常に複雑でスッキリしない最終回が印象的な作品に仕上がっているのです。いや、実は私はこのマンガ版がいちばん好きなんですけどね、「仮面ライダー」シリーズのなかでは。
 石ノ森先生によるマンガ版『仮面ライダー』は、全部で6つのエピソードから構成されており、TV版がまだノリノリで放映中だった1971年のうちに、本放送とはまったく違った最終回をむかえて終了しています。

 今回はあくまでリメイク映画のことを話したいので、マンガ版『仮面ライダー』の話題はこれ以上深くは突っ込まないのですが、結果としては、リメイク映画『仮面ライダーTHE FIRST』は、マンガ版の「やるせないテイスト」を強く受け継いだダークな作品になってしまいました。
 思えば、すでにこの時点で『仮面ライダーTHE FIRST』の悲劇は始まっていたのかもしれません。「単純明快なTV版」と「難解でやるせないマンガ版」という2つの親に引き裂かれるようなかっこうになってしまったのです。

 『仮面ライダーTHE FIRST』の監督をつとめたのは、TV版『仮面ライダー』のほぼ全話の制作に助監督としてたずさわっていた東映特撮界のベテラン・長石多加男。
 TV版の制作をみずから手がけてきた長石監督は、当然ながらやはり「昭和ライダーの復活」を念頭においていたようで、オープニングにちょっとだけ流れるTV版の有名すぎる主題歌『レッツゴー!!ライダーキック』(『せまるゥ~、ショッカぁ~』のやつ)や、悪の組織「ショッカー」の大幹部としてあの死神博士が登場する(死神博士役の名優・天本英世はすでに他界していたため過去の映像を流用した形での出演)演出など、随所で往年のTV版をほうふつとさせる味つけをほどこしていました。
 また、主人公・本郷猛(黄川田将也)とヒロイン・緑川あすか(小嶺麗奈)の淡い恋模様や、仮面ライダーと改造人間、またはショッカー戦闘員とのCG技術をあまり使わないガチでのアクションバトルを重視した映像づくりなども、おそらくは長石監督の長年のキャリアにもとづくテイストだったのではないでしょうか。

 しっかぁ~し! ここにきてついに悲劇は表面化してしまった……
 そういった長石監督の「原点回帰」方針に対して、脚本があまりに「現代に通用する新しい仮面ライダーのあり方」を模索する実験的精神に満ちたものになってしまっていたのです。
 さもありなん、脚本を担当したのは、「平成仮面ライダー」シリーズのほとんどの作品でメインライターをつとめてきた井上敏樹。常に「平成の時代におけるヒーロー像」を第一線で創造し続けてきた男です。彼は実は、「昭和仮面ライダー」シリーズのほとんどの作品でメインライターをつとめた脚本家・伊上勝(いがみ まさる)の息子でもあるのですが、父子でも「ヒーロー像」についての考え方はだいぶ違ったものであるようです。

 井上敏樹の脚本は、まず1970年代のなんとなくザツで元気だったころの日本が舞台ではありません。リアルタイム、2000年代のしらけきった日本で展開される物語なのです。まずここがオリジナルと全然ちがう。
 TV版では、わかりやすい悪の組織・ショッカーに対して、明快に闘いをいどむことを生きがいとする主人公・仮面ライダー1号こと本郷猛だったのですが、『THE FIRST』での本郷猛は、勝手によくわからない組織によって仮面ライダーに改造されてしまった自分の肉体に戸惑いながら、自分や親しい人たちに襲いかかってくる敵ととりあえず闘っていくというかなり受け身で悩みがちな人物として造形されているのです。つまり、『THE FIRST』での本郷猛は、まだまだ「正義のヒーロー」とはいいがたい状態なのです。
 おそらく井上脚本は、「正義のヒーロー」がなかなか成立しづらい複雑な現代という部分を、困惑する本郷猛の姿に投影したかったのではないでしょうか?
 なぜ「正義のヒーロー」が成立しにくいのかというと、明確な「悪」がいない時代だからなのでしょう。なにかを簡単に「悪」だと決めつけられないような時代。

 『仮面ライダーTHE FIRST』に登場する悪の組織・ショッカーは、名前こそTV版のショッカーとおんなじですが、組織の中身はだいぶちがっているような感じがします。
 『THE FIRST』のショッカーには、どことなくカルト教団を思わせるような強い信念ゆえの狂気があり、彼らなりの「正義」を感じさせるようなシーン展開があるのです。
 『THE FIRST』のショッカーの世界征服とは、人間を超えた「改造人間」が他の人間をみちびき、争いのない理想の社会を建設するということ。ショッカーはそのために現在ある古い社会構造を破壊し続けるのです。
 物語のあるシーン。改造人間の被験者に選ばれた城南大学の学生・本郷猛を拉致したショッカーの改造人間バット(コウモリ男 演じるのは津田寛治! こえぇ)は、満面の笑顔で猛に花束を渡して「おめでとう!」と声をかけます。
 またあるシーン。病院で自分が不治の病であることを知って自暴自棄になる青年(ウエンツ瑛士)の前に謎の美少女(小林涼子)が現れ、不治の病を治すかわりに理想の社会のためにいっしょに闘ってほしいと言葉をかけます。青年は少女と恋におち、ショッカーの科学力によって病気を完治させ、改造人間コブラ男となってバリバリ働きはじめるのでした……

 う~ん。なんか、こまっちゃうよねぇ。「勧善懲悪の活劇」なのか、「現代の混沌を映しだす諷刺劇」なのかがはっきりしないから、はなばなしいライダーとショッカーのアクションバトルも、いまいちのれないんだよなぁ。
 あと、実験精神にあふれた井上脚本のために、あえて物語の時間軸をあべこべにならべているシーン構成もあったりしたんですが、そのあたりの謎が結末になってはっきりしても、もともと物語自体がやるせない雰囲気になってるから、ぜんっぜんスッキリしない!
 ウエンツのコブラ男も、美少女の正体だった改造人間・へび姫メドウサもまとめて仮面ライダー1号と2号に問答無用にぶっ飛ばされちゃうし……なんかキッツイなぁ。

 このように『仮面ライダーTHE FIRST』は、「仮面ライダーのどこを受け継いで、どこを変えるのか。」という点で監督の演出と脚本の意図がバラバラな方向を目指してしまっていたために、結局は昭和ライダーの復活を期待していたファンと新しい平成ライダー物語のはじまりを期待していたファンの、どちらからも支持されない失敗作となってしまったのでした。うーん、特撮作品の名作っていうのは、作り手の才能や技術の高さも大切ですけど、それ以上に同じ方向を目指して作っていく団結力が必須条件ですからねぇ……『仮面ライダーTHE FIRST』の失敗は、残念ながらなるべくしてなったものだったのです。

 だが! だが、『THE FIRST』はタダではころびません。すばらしい見所もちゃんとあったのです。
 なんといっても必見なのは、激しいアクションが非常に絵になる、21世紀のヒーローとしてシャープにリファイン(改良)された仮面ライダー1号と2号のスーツでしょう。あの出渕裕(いずぶち ゆたか)によってデザインされた2人のライダーやショッカー改造人間軍団と戦闘員の新造形スーツは、昭和版のイメージを残しつつも平成でも充分に通用するかっこよさを持ったものとなりましたが、特に1号と2号は良かったなぁ。色合いもTV版の初期を強く意識したダークな配色になっています。
 いっぽうでクモ男、コウモリ男、コブラ男などといった「仮面ライダーシリーズ常連」の怪人たちは、それぞれの生物的特徴を反映させた「パワードスーツ」を着装した兵士が改造人間になるという解釈になっており、メタリックなクモ男が深夜のビル街を這いまわったり、黒いマントに西洋騎士の鎧のような飛行スーツを身にまとったコウモリ男が空を舞う姿は、古くささをまったく感じさせない魅力がありました。
 またアクションもものすごくスタンダードで王道な感じでねぇ。まさに肉弾戦といった言葉の似合う、きまじめさと先達への敬意にあふれたものでした。これを「つまんない」「物足りない」と簡単に言っちゃあいけねぇ! よく噛んで味わうべきアクションですよ。

 まぁ、そんなこんなで。私はレンタルDVDでこの『仮面ライダーTHE FIRST』を観た時、
「うむ、つまんない!! でも、ここで終わっちゃあ絶対にいけない作品だ。続編が観たい!」
 と強く感じました。
 そう感じたもっとも大きな理由は、「本郷猛がまだヒーローになっていない」という点です。
 今回本郷猛を演じた黄川田将也は、まだ自分の守るべきものがなんなのかをわかりかねたままの表情でエンディングを迎えていたように見えたのです。
 藤岡弘、さんほどの鋼鉄の人になれとは言いませんが、黄川田さんなりのヒーロー本郷猛の活躍する続編が観たい!

 そういった多くの声にこたえるべく、そして『仮面ライダーTHE FIRST』の失敗をむだにしないためにも、その2年後にあらためて制作されたのが! 『THE FIRST』の正式の続編となる『仮面ライダーTHE NEXT』だったのです。
 さぁ、果たして『THE NEXT』による『THE FIRST』のリベンジはなるのか? 平成版仮面ライダー1号の運命や、いかに? なんかド冒頭に結果を言っちゃってるような気もするんですが、字数もいつものようにかさんできちゃったんで、リメイク第2弾『仮面ライダーTHE NEXT』のお話はまた次の機会、つまりはまた来年だ~い。

 「仮面ライダー」で年またいじゃうのかよ、おい……

 実に『長岡京エイリアン』らしい年越しでございます。
 それじゃあまた。ぶいっ、すりゃあぁあぁあぁあ~!!!


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