長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

はげしすぎる悪の美学 『帝都大戦』 本章

2010年09月27日 05時54分57秒 | ホラー映画関係
 『帝都大戦』の前にまず語らせていただきたいのは、その前作のことです。1988年に10億円もの巨費を投じて映画化されたされたSF伝奇巨編『帝都物語』。
 まぁ豪華絢爛でございます。光学合成、ミニチュア、クレイアニメ、ロボット操作、操演、爆破……CG以外の特撮技術はこの1本でぜんぶ観られます! まさに80年代日本特撮界の集大成的作品。
 しかもキャスティングがさらに豪華! 勝新太郎、平幹二朗、原田美枝子、坂東玉三郎、高橋幸治、桂三枝。オールスターもオールスター。TBSのオールスター感謝祭10回分よりも豪華です。赤坂2丁目マラソンなんてやってる場合じゃないよ! 原作が現実の明治・大正時代を舞台にした大河小説であることもあって、幸田露伴や渋沢栄一、泉鏡花などの綺羅星のごとき実在の著名人がゾロゾロ登場するのですが、それらをいちいち大スターがやっちゃってんだからものすごい。余談ですが、その中で肝心かなめの正義の主人公役をやっているのはなんと!若きころの石田純一さん。別に不満はないけどさ……最終的に魔人加藤を倒すのは、石田さんじゃなくて巫女さんスタイルの原田美枝子さんです。だよねぇ~!!
 そうそう、その魔人・加藤保憲! この悪役キャラクターのインパクトが、それらのカネのかかった背景、映像、そして共演者たちを向こうにまわして充分に勝ってるんですよ。監督や脚本の計算や助けもあってのことなんですが、とんでもないことですよ、これ!
 とにかく外見が鮮烈なんです。あえて真っ黒に染められた帝国陸軍の将校の制服とマント、つねに手にはめている「ドーマンセーマン」の呪文記号・五芒星の染め抜かれた白手袋、そして!決め手となるのはやっぱり、見た人のほとんどが忘れられなくなる、ガチッと張り出たアゴの上に、冷徹さと狂気の両方をそなえた2つの眼が輝く異形の顔ですよ! この男・加藤こそが、帝都東京の壊滅を画策し、その大魔力によってあの関東大震災を引き起こした張本人なのであ~るゥッツ!! オラぁビックラこいたよ、ほんと……
 加藤保憲役を演じられた嶋田久作さんは、プログラマーやバンドマンをへて劇団の俳優をやっていた時に、当時ベストセラーになっていた『帝都物語』をもとにした公演に出演したことがきっかけで映画監督・実相寺昭雄の眼に留まり、映画初出演のこの作品からいきなりほぼ主演格の超抜擢とあいなったのだそうです。実相寺監督はのちに、嶋田さんをあの名探偵・明智小五郎役にすえて江戸川乱歩の作品を2度映画化しています。これもおもしろいですね! っていうかそっちは、中身は大乱歩のものじゃなくてモロに実相寺監督の作品になってるし、明智小五郎じゃなくて嶋田久作が活躍してる映画なんですけど。とにかく濃い~人たちです。
 実相寺監督の『帝都物語』の話もしたくてたまんないのですが、私は実相寺昭雄がほんっっとうに好きなので、あえてここでは深く入り込まないことにします。ただ、公開された当時の結果だけを言っておくと、1988年に公開された邦画での興行成績順位は第8位だったそうです。10億かけて8位。ということは要するに……まぁいいや。とにかく私が言いたいのは、『帝都物語』だ~いすき!!
 前作のことはここまでにしといて、私が語りたいのは、その次に制作された第2作『帝都大戦』のことなんすよ。
 30代なかばの男が、突然映画のスターダムに躍り出た! しかも未だかつてない強烈なインパクトを持った「悪役」として!
 謎の超新星・嶋田久作フィーバーも冷めやらぬ翌1989年、今度は『帝都物語』で倒されたはずの加藤保憲が太平洋戦争末期の東京に復活するという筋の続編『帝都大戦』が公開されました。
 正直なところ、この作品についてとやかく言葉をろうするのはむなしいような気がするんです……とにかくは、ちょっと観ていただきたい。私が言いたいのはただひとつ。
「確実に、観た人全員が後悔する映画」!!
 いや、けなしてるわけじゃないんすよ。観ちゃいけないと言いたいのでも決してありません。つまりね、この映画は「確実に」、「限りなく100%に近い確率で」、観た人をイヤな気分にさせる映画なんです。これ、すごくないですか!? まさに悪夢、目が覚めてもしばらくの間は「……」とうつむいてしまうような体験をさせてくれる。これを観たあと、映画館からスカッとした表情の人が出てくる想像がつきません。
 要するに、「魔人加藤がどんなに怖い人なのか」をわかりやすく説明してみせようとした映像集なんですね、これ。
 話の筋なんかわかんなくても本当にいいです。とにかく、前作『帝都物語』で加藤の帝都破壊計画をくじいた原田美枝子さんの娘という設定の南果歩さんを、戦争で死んでいった人々の怨念を吸い取ってカムバックした加藤がひたすらイビり倒すというだけの作品。それだけ! 気持ちいいまでにそれだけな内容を、いい年した大人であるはずのプロの方々が1時間半分つくっちゃった。
 とにかく、怖さと不快感についてはハンパありません。

 夢の中で、少女時代の果歩さんの髪の毛をつかんで引っ張りまわす加藤。
 B29の突然の空襲に逃げまどう帝都市民を、なぜか電柱のてっぺんにつっ立って眺めている加藤。ほれぼれするバランス感覚。
 果歩さんの養っている戦災孤児の少女を、果歩さんの夢の中で××××にして、その身体を××××ってニヤニヤする加藤。
 夢の中で、果歩さんの慕っているイケメン超能力者の××を突き破ってヌッと顔を出す加藤。
 最後のイケメン超能力者とのサイキック合戦であんなことになっちゃう加藤、などなど……

 よくやるよ……お化け屋敷だって、「楽しい遊園地の中」っていうブレーキはあるでしょ? 「それやっちゃあ、お客さんは楽しめないな」みたいな。この映画、それないもん。
 魔人加藤だけじゃないすよ。

 有名な野沢直子さんの名ゼリフ「大丈夫! 病院は撃たないからっ。」の次の瞬間の救いのない展開。
 加藤の念力で濡れ雑巾のように××られて××れる兵士。
 加藤の念力で飛んできた看板に当たって首がすっ×ぶ兵士。
 そんなかわいそうな兵士たちのリーダーで、投げようとした手榴弾が加藤の念力によって手から離れなくなってしまい、結局はドカンと爆×しちゃう斎藤洋介さん(この映画での斎藤さんの、登場した瞬間の「あ、この人ひどい目にあって死ぬな」オーラは最高です)。
 たいした能力もないのに、超能力を使うたんびにとろろいもみたいな自分のエクトプラズムを××してしまうイケメン超能力者。

 気持ちわりぃ……なんなんでしょ、この映画。前作『帝都物語』の大作らしい格調の高さなんか1ミクロンもありません。『帝都物語』がクラシック音楽ならば、『帝都大戦』はまさにデスメタル? いや、それじゃデスメタルやってる人に失礼よ。インダストリアルパンクかな? チューニングのずれたラジオ? 音楽じゃなくなっちゃった。
 そういえば、『帝都大戦』の音楽はものすごくイイです。もう人を怖がらせることしか考えてません。夏の怪談話のバックに流したりしても使えそうな名品です。
 でも忘れてはいけないのは、こんな作品の中でも、嶋田久作さんの演技だけには『帝都物語』で創造された「加藤保憲」がしっかり残っているところなんです。これは素晴らしいことです。「悪いことの映像化」の暴走しか見えてこないこの作品の中で、その中心にいる嶋田さんだけは、非常に冷静に悪役・加藤保憲らしく筋の通った「悪の道」をひた歩いているのです。カッコいいねぇ、華があるねぇ。

「身のほどを知れェエエエィイ!!」

 最後のエスパー合戦での加藤のこの一喝には本当にほれぼれします。
 それだけに……作品の確信犯的などうしようもなさは本当に惜しいんだよなぁ! 嶋田さん、もう加藤はやらないんだろうな。惜しいな~。
 『帝都大戦』。おすすめです。前作の『帝都物語』を観ておく必要はまったくありません。レンタルDVDショップとかでポイントがたまったりして、タダで何かが借りられるようになったら観てみてください。お金はあんまり出さないほうがいいかと……
 そこだけとってつけたようにキレイなジャニス=イアンのエンディングテーマまで、とにかくムチャクチャな逸品です。だまされたと思ってぜひ! ほんとにだまされるから。 
 

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