から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

華氏119 【感想】

2018-11-11 23:00:00 | 映画


マイケル・ムーアの映画はドキュメンタリーというより、彼の主張を世論に広めるためのプロパガンダだ。ゆえに面白い。中間選挙の直前で北米公開、目的は明快だ。但し、今回のムーア砲の標的は、トランプ個人にあらず。利権をむさぼるアメリカの腐敗政治そのものにメスを入れる。おのずと広範囲に及ぶテーマであるが、しっかりと情報と主張が整理されていて見事な仕上がりだ。オバマ前大統領、思わぬ飛び火を喰らう本作を見たら真っ青になるのでは?

それは笑えないジョークだった。
2年前のアメリカ大統領選挙。ヒラリーが勝つというより、トランプのような非人格者が大統領になるなんて思わなかった。映画の冒頭では、2年前の選挙戦に遡り、メディア、有識者、国民、全員が「アメリカ初の女性大統領誕生!」の光景を信じて疑わなかった状況を映し出す。ところがどっこい、結果はトランプに軍配。面白かったのは、トランプ自身、自分が当選するとは思っていなかったらしく、勝利のスピーチの舞台で戸惑っていたことだ。この導入部の語り口が鮮やかで一気に本作に引き込まれる。

偶然ではなく必然によって、トランプ大統領が誕生した。それは、近代における歴代大統領の政治、そして、州単位の地方政治のレベルでも発生してきた腐敗がいよいよ完成形に近づいたことを示す。本作ではミシガン州のフリントで起きた州知事による「無差別テロ」事件と、今もなお続く銃乱射事件を具体例として大きく取り上げる。前者は一部の富裕層に政治が加担した結果であり、後者は政治献金の後ろ盾である全米ライフル協会との癒着が背景にある。正すべきことはシンプルでわかっているのに、それを実現することができないアメリカ。歯がゆく腹が立つ。

失意と共に、ムーアは希望にも焦点を当てる。利権にとらわれない「普通」の一般人の政治参加と、SNSを駆使する若い次世代の存在が、この腐敗政治を絶つ兆しとして紹介される。特に、銃規制問題を中心に後者のムーブメンドは、自分が想像していた以上だった。アメリカという国のスケールを改めて感じる。ただ、この問題を解決するにはそれでもまだまだ時間がかかると思われる。それだけ、腐敗政治の根幹は深い。

「アメリカは滅びるか変わるかのどちらかだ」と、アウシュビッツの生き残りである政治学者の言葉が印象に残る。ムーアも同じ気持ちで、事態の緊急性を警告したかったに違いない。本作では、過去作と比べて「突撃」パフォーマンスは2つくらいで、これまでのような魅せるムーア映画とは一線を画す。その点はやや肩透かしをだったものの、彼にとっての覚悟の現れでもあると考えた。

SNSの社会になって、関連する映像は過去作と比べて比較にならないほど膨大になったはずだ。それをよくぞここまでまとめあげたもの。映像作家としても成熟している。ムーア自身によるパフォーマンスは減ったが、悪意ある毒っ気は健在。トランプの娘に対する性的な視線は気色悪く、ヒトラーが演説する映像にトランプの肉声を被せた編集に吹き出す。

ヒトラーも国民に選ばれて誕生したことを忘れてはならない。ナチスの台頭前のドイツは、自由な産業と文化に彩られた寛容の国だったという。それがヒトラーの政策によって一変した。現代のヒトラーこと、トランプは排斥感情を持つ国民によって選ばれ、分断するアメリカの上で政権を振るう。劇中の映像でも流れる、差別主義を声高に掲げる人間たちの醜さったらない。日本で生まれたことの幸福に甘んじながら、政治に無関心な自分を戒める。

【70点】

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