から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール 【感想】

2018-03-31 07:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。う~ん、イマイチ。
奥田民生を何よりも敬愛する男子が、仕事で知り合った女子に恋して狂わされるという話。もっと、変わった恋愛ドラマを予想していたが、中身は結構ノーマルだ。いつでもどこでもディープキスを交わす日本映画という点では珍しいかもしれない。惚れたもん勝ちな色恋において、浮気性な「狂わせるガール」よりも、「狂わされるボーイ」のほうに問題あり。下半身で物事を考える男子の単細胞ぶりがことさら強調され、共感も含め、見ていて恥ずかしくなる。「無視する女子」と「追いかける男子」という、ありがちな風景がよく描けているが、それ以上の伸びしろがないのが残念。奥田民生のスタイルに憧れているが、その生き様が主人公に全く活かされていない。映画というより原作時点の話かも。奥田民生だったらどうする?という切り口で主人公を描けてないのに、このタイトルはないだろう。奥田民生の存在が活かされているのは、劇中の音楽くらいだ。一連の事件の3年後、成長した風な主人公が出てくるが、女子との恋愛を経て何かを得たようにも見えないのでとても唐突。狂わせるガールを演じた水原希子は甘える姿よりも「不愉快です」とバッサリ切る姿のほうが魅力的。変わり者のコラムニストを演じた安藤サクラがとても楽しく、バイプレイヤーとしての力量も改めて感じた。
【60点】
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バーフバリ 王の凱旋 【感想】

2018-03-31 07:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。ネット上の絶賛の嵐に期待していたが、ノレたもん勝ちの映画だった。男子たるもの、愛と正義に生きるべし。
前作の「伝説の誕生」を失念し、パート2である本作を先に見てしまった。インドの神話を映画化しているようで、古代インドのマヒシュマティ王国で起きる王族内の骨肉の争い(?)を描く。世界観は「十戒」や「クレオパトラ」に近く壮大な宮殿セットが組まれており、アクションシーンは「300(スリーハンドレッド)」や「少林サッカー 」のように超人的かつ、ケレン味がたっぷりだ。主人公のバーフバリの顔面アップが映るたんびにイチイチ風があたって「イイ男」風を演出したり、キャラクターたちの心情を挿入歌がそのまんま代弁したり、スケールの大きい視覚効果も人工臭が強くチープな仕上がりだったりと、野暮ったいインド映画仕様についていけない場面も多々あったが、それらもひっくるめて本作の魅力と許容できれば大いに楽しめる。絢爛豪華な美術と衣装も見所だ。日本での公開時、インド映画では聞いたことのない「応援上映」があったのも頷ける。地位や名誉よりも、正義と愛に生き、国民からの絶大的な支持を得るバーフバリの姿はまさにカリスマだ。最高にカッコよいのだが、顔に風が当たってしまうとつい笑ってしまう。やっぱノーマルな映画として作られていたら、もっと熱中できたかもしれない。ラブロマンスもしっかり描かれ、男女が唇と唇を実際に重ねるキスシーンを見てインド映画も現代的になったなーと実感する。インドでいう男性の2枚目は日本人の価値観と少し異なるが、女性に関しては日本人が見てもみんな美しい。バーフバリの妻となるヒロインが強い女性として描かれているのも印象的だった。
【65点】
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幼な子われらに生まれ 【感想】

2018-03-30 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
去年見ていたら2017年の日本映画のベストは本作だった。家族の形成を描いた映画としては「そして父になる」以来の傑作。
血の繋がらない親子のいる家族が、母親の妊娠を機に揺れ動く様を描く。「パパ」と「お父さん」という2つの呼び名は、前者が実の父親に対するもので、後者が育ての親に対するもの。映画は一見、この2つの愛情が子どもにとって、どちらが本物であるか天秤にかけるように見せているが本質はそこにあらず。
平穏な家族に訪れる亀裂は、思春期を迎えた長女の自我の芽生えから始まる。血の繋がっていない親子関係だが、妻の連れ子である娘に対する愛情は間違いなく深い。仕事よりも家族を優先し何の落ち度もない完璧な父親が、ある日突然「あなたは父親じゃない」と遮断される。どうしたら家族として、もう一度繋がることができるのか?葛藤する家族の姿が描かれる。
綺麗ゴトではない家族の本音。全くズレることのない的確な人物描写が素晴らしく、すべての登場人物に感情移入してしまう。劇中で起こる状況を当事者として疑似体験しているようでもあった。自分の場合は特に主人公の父親に注目する。問題解決のために「理由」を把握することに急ぐが、「あなたは理由ばかり聞いて、わたしの想いを聞いたことがあるの?」という主人公の元妻のセリフにハッとさせられた。家族という近い関係であれ他人であることに違いなく、理解できないこともある。理解を欲する前に、話を聞き、相手を思いやることが必要なのだと感じる。これは家族に限った話ではないけど。
子煩悩であった父親が家族をあきらめてしまう瞬間や、暴力を振るい家族を破壊した男に残されていた父性など、人間の多面性も丁寧に描かれている。様々な出来事を経て、新たな家族の誕生を機に前進していく家族の希望に自身も救われる思いだった。
ひょうひょうとしながら家族への確かな愛を体現する浅野忠信や、母として女として正直な感情をぶつける田中麗奈、イチ役者としてクズ男(単なる悪人ではない)を熱演した宮藤官九郎など、役者陣の名演も印象に残った。
映画の完成度といい、世界に通じる普遍性を帯びていることからも、次のオスカー外国語映画賞の出品作としては本作を是非とも選出してほしい。
【80点】
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ロスト・シティZ 失われた黄金都市 【感想】

2018-03-30 07:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。これはこれで面白い。
実在したイギリス人探検家パーシー・フォーセットが、アマゾンの幻の遺跡を追い続ける様子を描く。日本の副題や、パッケージの外見からインディン・ジョーンズよろしくな冒険映画と予想したが、実体はかなり地味な伝記映画。2時間半近い長尺もあって、集中力が持つかと懸念したが、まったく苦にならず、パーシー・フォーセットの軌跡に思いを馳せ、すっかり魅せられた。日本での評判はすこぶる悪いようだが、ロッテンの評価の高さは確かだった。
時代は第一次世界大戦に入る前で、イギリスにおける階級社会が根強く残っていた頃。ちょうど、海外ドラマ「ダウントン・アビー」の時代と重なる。フォーセットは軍人であるが、不名誉な父親の家督を継いだことで、階級を上げることができずにいた。名誉挽回の一発逆転を狙って参加したのが、未知の領域である南米アマゾンの測量隊だ。
勲章を目当てに動いた男が、偶然に見つけた遺物の存在によって純粋な情熱に駆られる。そして一生をアマゾン探検に捧げることになる。雄大なジャングルのスケールにアマゾンという大自然への畏怖が充満する。そこに暮らす原住民たちとの交流を経て、自身の(欧米人たちの)無知と傲慢さを知る。100年近くも前にこんな先進的な感覚を持った欧米人がいたことに驚かされる。通信技術も何もなかった時代に存在した多くの障壁と困難。副題の「黄金都市」の存在の有無は重要でなくなるが、それでいい。歴史ドラマとしての趣が強く、特に焦点が置かれるのは主人公パーシー・フォーセットの生き様だ。家族が省みずに探検に向かう男の情熱が、反発していた子どもへも伝染したことに不思議な説得力がある。
フォーセットを演じるのはチャーリー・ハナム。ずっとマッチョ系俳優として出番が多かったが、ここに来てようやく演技派として本領を発揮する。また、自身のスター性を消し脇役に徹した、ロバート・パティンソンやトム・ホランドも良かった。
事実として明らかになっていない結末は、フィクションであり想像の領域だろう。しかし、当時の未開のアマゾンであれば、実際に起こり得た事態とも受け取れる。それは幻想的で美しく、フォーセットの見果てぬ夢の延長としてふさわしい結末であったように思う。
【70点】

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リメンバー・ミー 【感想】

2018-03-24 09:53:43 | 映画


一面に広がるマリーゴールドのオレンジ色、カラフルな照明光が紺碧の闇夜に輝く。死者の国はまさに天国だった。宝石箱のようなビジュアルに目を奪われっぱなしだ。亡くなった家族との絆は永遠に残り、彼らを想い続けることで魂は生き続ける。今ここにある人生はご先祖様から与えられことを実感。さながら「ファミリーヒストリー」のようで墓参りに行きたくなる。世界共通&普遍的なメッセージを謳い、「死者の日」というメキシコの記念日に着目するなど、絶好調のピクサーを予感させたが、脚本の粗さは否めず、やや期待し過ぎてしまったか。とはいえ、ラストは普通に泣かされたけど。

死者の国へ迷い込んでしまった少年ミゲルが、現世に戻るために自身のご先祖様に会いにいくという話。

ピクサー映画としては、初のヒスパニック系の人たちをキャラクターに据えたアニメ。先日の「ブラック・パンサー」といい、昨今のアメリカ映画の潮流だが、多様性を受け入れることで新たな可能性がどんどん広がっていく。本作の舞台はメキシコで、陽気な空気と人間の気質が心地よく、快活な主人公ミゲルの姿も可愛らしくて魅力的だ。

そこに水を差すのが、ミゲル少年の家族の掟だ。音楽を奏でるも聴くのもご法度。音楽のために家族を捨てた曽曽お爺ちゃんへの恨みが、音楽に転嫁されてしまったようで「音楽は悪くないのに」と違和感を持つ。その後、愛する孫が大切にしていたギターをお婆ちゃんが粉砕するシーンでいよいよ引いてしまった。後半への「フリ」であることは承知のうえだが、この序盤のシークエンスに限らず、どうにも描こうとするメッセージが先行している気がする。ストーリーがおざなりになっていて、らしくない。

主人公が迷い込む「死者の国」の作りこみは、さすがのピクサー、想像力に溢れて面白い。鮮やかな色彩で覆われた世界に、アトラクション感の強い仕掛けが次々と現れワクワクする。そこに暮らす死者たちが、現世の家族に会うことのできる「死者の日」。存命の家族がその故人(死者)の写真を飾っていないと現世に戻る「通行許可」が下りないというシステム。写真が飾られている=家族に想われている、という解釈で、家族に忘れられている死者は現世に戻ることができない。明るく楽しい画のなかに、グサリと響くメッセージが潜む。

死者の世界で唯一「生きた人間」である主人公は、現世に戻るために自分のご先祖を探す。その道のりでピクサーやディズニーアニメには欠かせない相棒が本作にも登場する。現世に戻ることのできないワケあり男であり、本作のテーマを膨らませる役割と予想するが、それに以上にもっと大きな役割を担うことになる。惜しいのは、その展開が中盤のうちの予想できてしまい、明らかになる終盤でサプライズをもって感動に浸ることができない。ピクサーにしては詰めが甘くて、これもらしくない。相棒のヘクターを演じた藤木直人の声優起用はハマっていた。

ほかにも、あんなに虐げられた音楽がラストで都合よく使われてしまうなど、いまいちノリ切れない部分もあるが、エモーショナルな映画であることは間違いなく、「coco」の原題にも通じる、愛の代弁者となったミゲルの歌声にすっかり泣かされてしまった。ご先祖が育んできた家族への愛が、今の自分が生まれたことに繋がっているという事実。死者に訪れる2回目の死が本当の死であり、先人への敬意を自戒をもって受け止める。主題歌の「リメンバー・ミー」も素晴らしく、「This Is Me」を抑えてオスカーを獲得したのも納得できる。そして、何よりメキシコへの愛を全面に押し出したのが本作の最大の魅力だ。ますますメキシコへ行きたくなった。

【65点】
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アウトサイダー 【感想】

2018-03-21 08:00:00 | 映画


注目監督によるNETFLIX映画の新作3本目。「ヒトラーの忘れもの」のマーチン・サントフリートの新作。良い意味で予想を裏切られた。北欧の監督がよくこんな映画を撮れたもの。安田大サーカスのhiroが、ジャレッド・レトと共演する日がくるとは。。。
戦後まもない日本で、ヤクザ社会で生きることを選んだ元米兵の男を描く。外国人が日本のヤクザを描くという事前情報だけで、勘違い映画を覚悟していたものの、しっかりした日本映画になっていて驚いた。監督はかなり日本の仁侠映画に精通しているようだ。もちろん外国人が撮る戦後の日本なので、随所に違和感のある風景が出てくるのだが、そのファンタジーも映画なりの味付けとして自然に受け入れられる。いまやすっかり見なくなった極道な人たちの生態が網羅されている。背中の広範囲に及ぶ刺青や(主人公の背中にもちゃんと彫られる)、落とし前の指切り、兄弟、親子の契りのサカズキといったヤクザ文化を、美しいものとして捉えられているようで面白い。友情と裏切りと復讐、「ザ・任侠映画」な物語はまさにオマージュ。男臭いドラマのなかに主人公と日本女子のロマンスが差し込まれるが邪魔することはなく、監督のセンスの良さが見える。本作のヒール的な役割を担う椎名桔平が非常にカッコイイ。主人公の兄弟となる浅野忠信含め、日本人キャストの存在感が光るなか、肝心のジャレッド・レトがパっとしないのが残念。完全に日本人俳優たちに喰われている。丹精なルックスに秘められた凶暴性を、もっと巧く表現できる人なのに活かしきれない。まー、あくまで主人公はヤクザということで。
【65点】
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アナイアレイション -全滅領域- 【感想】

2018-03-17 08:00:00 | 映画


注目監督によるNETFLIX映画の新作2本目。前作「エクス・マキナ」で鮮烈デビューを飾ったアレックス・ガーランドの新作。これは面白い。
ある日、宇宙から降ってきた光のベールに包まれ、隔離されたエリアに足を踏み入れる探検家5人の行く末を描く。物語の発端は消息を絶ったはずの主人公の夫が、1年ぶりに出征先から謎の帰還を果たしたことによる。別人のように変わった夫が、その後、謎の発作を起こしたことで、主人公がエリアの存在を知り、夫の謎を解き明かすために探検隊に加わることになる。
主人公は女性の生物学者で細胞や遺伝子の研究をしている。「老化は細胞活動の欠陥」というセリフのとおり、生命活動のすべては細胞によってなされており、この生物学的な視点が本作において重要な意味を持つ。エリアの中で起きていたのは人知では計り知れない生態系の変化で、いったい何が起きていて、それが何に起因しているのか、謎が深まるとともに、観ているこっちは答えを欲するようになる。因果関係という言葉のとおり、物事には必ず何かしらの原因があるものだ。ところが本作を見て感じたのは、「その概念すら地球人にしか持っていないのでは?」という仮説だ。最近だと去年の「メッセージ」を思い浮かべる。言葉の通じないエイリアンから地球に来た目的を探ろうとする様子が描かれており、目的たる「メッセージ」はある程度、観客側の想像に委ねる設計になっていた。これも前提として、原因が何かしらある話だ。
ところが本作については、その答えを見つけることが無意味に感じる。不思議な生態系の変化を、人間側は「破壊」と受け止める。実際、人間の命がエリアのなかで絶たれているからだ。ところが、エイリアンの視点からすれば、彼らが生きるための活動の一部であり、それは「創造」的行為ともいえそうだ。
「観客がいかようにでも感じてください」という映画がすこぶる苦手であるが、本作は別だ。理由が見当たらない世界を、人間の尺度で結論づけようとする思考が強引にすら感じてしまう。この不思議な感覚は、AIを描いた「エクス・マキナ」に通じるものがあって、アレックス・ガーランドが原作に魅せられ、脚本から担当していることに必然性を感じる。どこかで観たことがあるようで、見たことのない、不気味で美しいSFのビジュアルは独創的であり、好奇心と行き場のない浮遊感を増幅させる。ラストも締め方も好きだ。劇場鑑賞にも十分に堪えうるハイクオリティな映画だった。
【65点】
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Mute/ミュート 【感想】

2018-03-16 08:00:00 | 映画


注目監督によるNETFLIX映画の1本目。
まずは、ダンカン・ジョーンズの新作。やや期待ハズレだった前作の挽回なるか、と注目していたがよくわからない映画だった。
幼少期の事故により声を発することのできなくなった男が、失踪した恋人の探すという話。舞台のビジュアルは「ブレードランナー」にそっくりだが、事前に予告編で織り込み済みだったので、自分はさほど気にならず、むしろ楽しめたくらい。シーンの大半が日の差さない夜間であり、暗がりを照らすカラフルな照明の色が美しい。ところが、その魅惑的なビジュアルとは裏腹に話自体は地味でつまらない。恋人を一途に想う主人公が、ありとあらゆる可能性を信じてひたすら奔走する姿を追う。失踪の謎を解き明かすミステリーとしての旨みは薄く、同じキャラクターのなかをグルグル回っているばかりで窮屈。一目で強そうに見えるアレクサンダー・スカルスガルドのマッチョな長身スタイルは本作の世界観にフィットせず、劇中、主人公を揶揄する「でくのぼう」という表現があまってしまう。主人公に惹かれない。場所がアメリカではなく未来のベルリンだったり、主人公がアーミッシュという変わった宗教観を持つキャラであったり、展開に影響を与えるであろう設定がことごとくスルーされているのも気になる。主人公と平行して描かれるキーマンとなるアメリカ人との顛末もかなり消化不良で、ロードムービーに流れるラストもグダグダ。いったい、何を目指して作った映画なのか。。。「月に囚われた男」が、ダンカン・ジョーンズのビジナーズ・ラックだったとは思いたくない。
【55点】
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ブラック・パンサー 【感想】

2018-03-11 14:51:08 | 映画


尽きることないMCUの新境地。アフリカ系俳優で占められた初のアメコミヒーロー映画は、アフリカ系であることの誇りと愛に溢れ、画がいちいちカッコいい。アフリカ万歳。ヒーローたちの肉体に大いに発奮すると共に、ジャンルを選ばず、3打席連続のヒットをかましたライアン・クーグラーの才能に脱帽する。主人公だけでなく、脇役のキャラクターがもれなく魅力的なのも効いている。北米興行における歴史的ヒットは歓迎すべきトピックスだ。

2年前の「シビル・ウォー」で初登場した「ブラック・パンサー」ことティ・チャラが、父の死を受け、自国のワガンダの王位を継承、その直後に起こったワガンダの内紛を描く。

「潤沢なオイルマネー」という枕詞がつく中東アラブの大金持ち。彼らが莫大な富を築いた大きな理由は、自国の資源を自国の資産として守ったことだ。一方、本作の舞台となるアフリカは欧米列強の植民地化を受け、多くの地下資源を搾取され続けた歴史がある。独立を果たした今でも他国と比べると圧倒的に貧しい国が多い。もちろん、中東の石油とアフリカの鉱石のスケールの違いもあるだろうが、もしアフリカが植民地化を受けず、自国の資源を守ることができていたとしたら。。。と本作のワガンダを見て思う。

ワガンダには「ヴィブラニウム」という稀少で無限のエネルギーを持つ鉱石を大量に貯蔵している。キャプテンアメリカのシールドの素材として、聞いたことのある素材だ。ワガンダでは、そのヴィブラニウムを科学技術の発展に活かすことに成功し、驚くべき未来都市を形成している。ただし、他国からは貧しい小国として「仮」の姿を見せている。外国からの侵略をかわすためだ。本来のワガンダに入国することは、ワガンダ国民である「認証」が必要であり、外国からの侵入者は入れないシステムになっている。このワガンダの設定が実に良くできている。

ワガンダの世界観が面白い。飛行艇が空を飛び回る未来都市の姿だけでなく、アフリカならではの雄大な自然もしっかり共存する。その光景を目の当たりにして、人類のルーツたるアフリカに畏怖の念が沸き上がる。アフリカの伝統的なスタイルも活かされていて、生活や文化、キャラクターの衣装やメイクに至るまで、アフリカ色が全面に押し出される。アフリカの打楽器を使ったような音楽も風情を盛り上げる。主人公が王位を次ぐ儀式も昔の姿をそのまま残しているが、あくまで形式的なものとして実行されている。アフリカへの敬意と愛が常に意識される。

ついこの間のアカデミー賞で、脚本賞を受賞し話題となった「ゲット・アウト」。人種差別を軸に多くの風刺が描かれるなか、白人たちの黒人に対する劣等感が印象に残った。それは彼らの肉体だ。筋肉質でしなやかな体型は、アフリカ系人種の特徴であり、彼らにしかない魅力といって良い。本作では、その特性をアフリカ系として生まれたことの誇りや美しさとして捉える。とても素晴らしい視点だ。アクションシーンでは肉体の躍動にスポットが当てられる。王位継承の儀式における決闘シーンも、肉体を魅せる象徴的なシーンだ。

肉体の美しさは、男性陣ではなく女性陣もそうだ。ワガンダの国王を守る親衛隊は女性だけで構成されている。贅肉のない肉体から繰り出される戦闘能力の高さに説得力あり。とりわけ、親衛隊のリーダーであり、最強戦士オコエがめちゃくちゃカッコいい。彼女が槍を自在に操るシーンがかなりの見どころ。彼女を本作のキャラクターに据えたことは、MCUにとっても大きな成果といえる。演じる女優さん、「どこかで見たことあるなー」とずっと思っていたが、あとで「ウォーキング・デッド」のミショーンであることがわかる。どーりで強いワケだ。だけど、演じるダナイ・グリラは劇作家でもあるかなりのインテリらしい。

ほかにも登場するキャラクターたちは、みな個性的で魅力的だ。ティ・チャラの元恋人で女スパイ、妹の科学者、親友のワガンダの門番、対立する部族のゴリラなリーダー、物語の鍵を握る長老など、それぞれが重要な役割を果たす。演じるアフリカ系のキャストは皆、アフリカの色が濃い人たちばかりでキャスティングに関しても徹底している。昨年の「猿の惑星」での名演が記憶に新しいアンディー・サーキスは、久々に素顔を出して武器商人を演じているが、そのベタで暑苦しい悪役ぶりが実に楽しい。そして、本作で最も大きな成功要因となるのが主人公と対立するヒールの設定だ。

現在進行形で世界に起きている弱者への暴力。とりわけシリアにおける、大量虐殺は悲惨な状況だ。国民を守るべき大統領が、国民を殺しまくっている異常事態にも関わらず、国際社会をそれを傍観しているだけだ。対話による和平交渉はとっくのとうに忘れ去られている。そんな現状に対して「圧力には圧力をもって応える」という本作のヒールであるキルモンガーの主張に、共感する部分は多分にある。きっかけは自身の生い立ちに絡む個人的な恨みであるが、彼が主人公に変わって王位を奪おうとするのは、世界平和に向けた「理想」の実現のためである。演じるマイケル・B・ジョーダンが主人公に負けず劣らず、ダークヒーローとして存在感を放つ。

脇役たちにやや押され気味の主人公だが、これまでのMCUヒーローにはない「国王」という設定にあって、リーダー像を模索するキャラクターとして描かれる。侵すことのできなかった過去の誤りを認め、自分の信念をもって正義を成し遂げようとする姿に胸がアツくなる。キルモンガーの意志に共鳴する部分を残し、自国から世界へと広げた決断も感動的だった。惜しむらくは終盤のアクションシーンだ。「シビル・ウォー」もそうだったが、「内輪もめ」な戦いがスケールが小さく見えて、元々好きではないということと、せっかく肉体を見せるアクションなのに、クライマックスではすっかり視覚効果に埋もれてしまった。アフリカの大自然をバックに2人の戦いを見せて欲しかった。

いよいよ来月末に迫った「インフィニティ・ウォー」の公開。そのトレーラーでも、ワガンダの戦士と思われる人たちが映っており、アベンジャーズの大きな戦力になる模様だ。
本作の成功により準備は整った。サノスよ、待っておれ。

【75点】

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第90回アカデミー賞の結果と授賞式の感想。

2018-03-05 14:40:23 | 映画


先ほど第90回アカデミー賞の授賞式が終わった。あっという間の4時間だった。
結果と感想をまとめてみる。

作品賞:シェイプ・オブ・ウォーター(!)
監督賞:ギレルモ・デル・トロ(シェイプ・オブ・ウォーター)
主演男優賞:ゲイリー・オールドマン(ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男)
主演女優賞:フランシス・マクドーマンド(スリー・ビルボード)
助演男優賞:サム・ロックウェル(スリー・ビルボード)
助演女優賞:アリソン・ジャニー(アイ,トーニャ/史上最大のスキャンダル)

脚本賞:ゲット・アウト(!)
脚色賞:君の名前で僕を呼んで
撮影賞:ブレードランナー 2049
編集賞:ダンケルク

美術賞:シェイプ・オブ・ウォーター
衣装デザイン賞:ファントム・スレッド
メイキャップ&ヘアスタイリング賞:ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
視覚効果賞:ブレードランナー2049
録音賞:ダンケルク
音響効果賞:ダンケルク
作曲賞:シェイプ・オブ・ウォーター
主題歌賞:「リメンバー・ミー」(リメンバー・ミー)
アニメーション映画賞:リメンバー・ミー

作品賞は「スリー・ビルボード」ではなく「シェイプ・オブ・ウォーター」!!!
予想は思いっきり外れたが、かなり嬉しいサプライズ。このような映画がちゃんと評価されて、また新しい映画時代の到来を想う。今年の主役と予想していた「スリー・ビルボード」は監督賞で候補入りせず、大本命と思われた脚本賞でも受賞ならず、アカデミー会員からは思いのほか支持を得られなかったのかもしれない。間違いなく傑作だけれど。
全体的な受賞結果は、昨年と同様、いろんな作品にバラけて良かったと思う。ジミー・キンメルはさすがの司会ぶりだったが、多くの問題が山積した映画界において、昨年のマット・デイモンをイジり倒すような、はっちゃけたパフォーマンスは見せなかった。プレゼンターのコメントに関してもみんな少し抑え気味のように見えた。授賞式の間に挟まれるパフォーマンスも、歌曲賞にノミネートされた歌唱パフォーマンスのみに限定された。やや地味な印象だが、この世相なので仕方なしか。懸念していた女性参加者の衣装は、黒ずくめのGG賞から一転、女性らしさを出した華やかな色彩のドレスで溢れていた。受賞スピーチに関しては一様に「多様性」に言及。これは性別にかかわらず、人種間に関しても同様。今回も何度もヤリ玉に上がったトランプ大統領。ここまでハリウッドに嫌われる大統領は過去にも先にもいないだろう。見方を変えれば、ネタを提供してくれる有り難いキャラともいえる。

他、授賞式を見ていて思った感想は以下。

■ジミー・キンメルのオープニングスピーチ、お見事。映画人へのリスペクト、セクハラや銃規制の問題をしっかり抑え、程良い毒っ気のユーモアを差し込む。
■スピーチ時間の短縮のため、時間を計測するという試み、その手があったかww。景品はジェットスキーだが、欲しいかどうかは微妙。ま、半分ジョークか。
■紹介シーンで流れる過去の受賞作品の総まくりに感動。今回も編集の美技を見せられる。過去の感動がよみがえって胸がアツくなる。
■メイキャップ賞、日本人の辻さんが受賞。誇らしい。レッドカーペット上のインタビューで日差しを気にしながら、浮かれることなく冷静に答える姿がカッコいい。彼の評価はおそらく今に始まったことではなく、参加する作品に恵まれることも重要だと再認識する。
■長編ドキュメンタリー、ネットフリックスの「イカロス」が受賞。納得。面白かったもんね。
■ガエル・ガルシア・ベルナルの「リメンバー・ミー」、歌唱力は微妙だったかも。
■外国語映画賞は「ナチュラル・ウーマン」が受賞、近くでやっていないのでレンタル待ちしていたが、見に行こうかな。
■短編アニメ映画賞、まさかアカデミーの壇上でコービー・ブライアントが見れるとは。
■視覚効果賞、強豪揃いのなか無事「ブレードランナー」が受賞。ただ、今思うと最後となる「猿の惑星」に上げても良かったと思った。
■最注目だった編集賞は「ダンケルク」が勝利。まー納得。「ベイビー・ドライバー」を応援していたが作品賞に入らないとさすがに難しいか。
■中盤のサプライズショーが楽しかった。その企画の面白さもそうだが、観客あっての映画という視点が何気に素晴らしい。ちゃんと予告編の間に割り込んでいるみたいだし。
■脚本賞は「ゲット・アウト」!!!会場が驚きと歓喜で湧く。いかにこの映画がアメリカで愛されているかがわかった。
■撮影賞、ロジャー・ディーキンスが無事受賞。ホッとする。
■プレゼンターで登場した「ビック・シック」のクメイル・ナンジアニのコメントが一番印象的。説得力とユーモアがあって引き付けられる。
■歌唱パフォーマンスのキアラ・セトル。腕に大きなタトゥー。おそらく自分のルーツに関連する模様。映画の時よりも好印象。
■歌曲賞は「This is me」(グレイテスト・ショーマン)ではなく「リメンバ・ミー」というサプライズ。アカデミー会員は冷静だった。
■追悼シーンで、ゴジラのスーツアクターだった中島春雄が紹介される。さすがはハリウッド。解説の町山さんがナイスフォロー。
■監督賞はギレルモ・デル・トロが無事受賞。これでキュアロン、イニャリトゥを含めたメキシコ人監督3傑が監督賞受賞の快挙。凄い。
■ブランシス・マクドーマンドの受賞スピーチ。アカデミー史に残る名スピーチでシビれた。
■作品賞のプレゼンターは昨年に続き、あの2人。昨年の失敗に対して、寛容とチャンスを与えるアカデミー賞らしい配慮。


第90回アカデミー賞受賞予想
シェイプ・オブ・ウォーター 【感想】
スリー・ビルボード 【感想】
ゲット・アウト 【感想】
ダンケルク 【感想】
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シェイプ・オブ・ウォーター 【感想】

2018-03-04 15:43:56 | 映画


稀代の天才が究極のラブストーリーを描く。
残酷でグロテスクで妖艶で、とてつもなく美しい物語だ。ギレルモ・デル・トロの入魂の一作に震える。モンスター、ラブロマンス、歴史サスペンス、映画愛、様々な要素がシームレスに繋がり、美しい寓話として完成される。同時に、繋がることの美しさと排除することの醜さが鮮烈に描かれており、今の時代に通じるメッセージとして響く。画面の隅々にまでデル・トロの美学が注がれており、オープニングからエンディングまで、水と愛を調和させた流麗たる映像に酔いしれる。言葉を介さない2人のドラマにあって、音楽の使い方が秀逸。これまでの過去作以上に役者への演出面も光っており、総合芸術たる映画の完成度としてはデル・トロの最高傑作といって間違いない。また、本作の半魚人の姿を通して、これまでデル・トロがクリーチャーにこだわり続けてきた理由の一端が見えた気がする。愛という本能に生きたサリー・ホーキンスをはじめ、演技部門でオスカー候補となった3人の名演もさることながら、狂気のマイケル・シャノン、表現者のダグ・ジョーンズといった、他出演者たちのパフォーマンスにも強く引き付けられた。彼らがアカデミー賞の壇上で喜ぶ姿を見てみたい。デル・トロ映画のファンとして、イチ映画ファンとして本作に出会えたことは忘れがたい体験となった。

【90点】





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15時17分、パリ行き 【感想。。。。】

2018-03-03 09:00:00 | 映画


驚くほど退屈で、つまらない。

時計を見る、始まってから1時間が経過している、となると残りは30分だ。いつまでも続く3人の観光旅行の様子に、いったい自分は何を見せられているのかと困惑する。この映画を映画館で観ることを選んだのは自己責任であるが、時間と料金を返してほしい。

90分という短尺だが、この濃度ではそれでもキツく、この内容から何かを感じ取れというのは作り手の怠慢だ。この映画のエッセンスをまとめれば30分で済む映像作品になるだろうし、残りの60分は時間潰しに付き合わされているようだ。

主演の3人を実際の事件の当事者でキャスティングしたのは、リアリティーを狙ってのことだろうか。本作を見るとそれは明らかな失敗であることがわかるし、映画表現として見当違いな判断だったと思う。端役の俳優を含め、プロの役者と素人3人の演技力の差は明確にわかってしまうし、後半に連れて3人の演技がどんどん巧くなっていくものの「がんばったね」で終わる話だ。プロの役者は表現者であり、キャラクターの感情を観客に伝える役割を担う。リアリティーの再現に関しても同じことだ。それができない素人を起用することに、どんな価値があるのだろう。「アメリカン・スナイパー」の「赤ちゃん人形」のときも思ったが、イーストウッド監督はたまに常人にはあまり理解できないセンスを見せる。映画ファン全員が「イーストウッド信者」ではない。

3人の演技を注視すると映画が楽しめなくなるので、途中から気にしないようにする。ところが映画の内容もつまらない。あの事件の瞬間を描くために、特別でない人たちの特別でない人物形成を子ども時代にまで遡り、あそこまで時間を割いて描く必要ってどこにあるのか。そして運命の時間につながる、3人のヨーロッパ旅行の道のりを長々と追いかける。最終的にどれもこれも、事件に関係がないことがわかってズッコける。「普通の人たちの勇気が起こした奇跡」みたいなメッセージが透けるが、「普通」をアピールするために70%の助走は長すぎる。これを「必要なプロセス」と受け取るのは過大評価だ。あと、そもそも映画化に適した事件と思えず、何でもかんでも「実話」を映画化すればよいという話でもないだろう。設定の弱さを「当事者本人を主演に起用」という話題作りありきの企画で乗り切ったとも思える。映画館で観たことを後悔する久々の映画だった。

【40点】

本作を見て注目するのは1つ。「イーストウッド」ラベルによって、凡作が傑作と評される「キネマ旬報」において、本作も年間1位の特等席につけるかどうかだ。さすがに1位は無理でも、ベスト10は確実だろうか。どんな色をつけて絶賛してくれるのか、ある意味楽しみだ。
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ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ 【感想】

2018-03-02 23:03:53 | 映画


Mr.ビーンのような主人公の姿にコメディ映画と勝手に予想していたが、しっかりした恋愛ドラマだった。アメリカでの好評も頷ける良作。多民族国家=守るべき文化が異なる民族が隣り合う国家。同じ言葉を話して、同じ価値観を共有しても超えることのできない文化の違いは、ときに個人の生き方を縛ってしまう。本作の場合、イスラム教という宗教が主人公の恋愛の大きな障害物となる。しかし、これは宗教の違いに限った話ではない。コミュニティの最小単位である家族内の様々なルールでも起こり得る状況だ。理解の問題ではなく、受け入れることができるか否かの寛容性の問題であり、とても難しいテーマを扱っている。一筋縄ではいかない状況にも、自身の想いを優先して突破する主人公の姿が胸を打つ。ラストに待ち受けるサプライズに大いに救われた。

他民族国家であるアメリカだが、メディアを通して目にするカップルの多くは同じ肌の色だ。個人の好みの問題もあるだろうが、生活するコミュニティがそもそも違っていたり、本作のように宗教や文化の違いなどで自然と恋愛対象が限定されるのかもしれない。

主人公とその家族はパキスタンからの移民で、家族はみんな敬虔なイスラム教徒だ。物心ついた頃からアメリカに住んでいる主人公はイスラム教を崇拝しておらず、一応、家族のためにイスラム教徒の格好をしている。タクシーの運転手をしながらコメディアンとして舞台に立つ主人公は普通に社交的であり、白人である同じコメディアン仲間と友情を育んでいる。そんな彼がある日、彼の舞台を見た白人女子と出会い、恋に落ちる。

ワンナイトで終わるはずの関係が、何やかんやで何度も会うことになる。出会った彼女は彼にとって運命の人であり、彼女にとっても主人公は運命の人だったのだろう。彼らが愛を育む様子は、よく見る白人同士の恋愛映画のそれであり、深夜のトイレのクダリなど微笑ましく愛おしくなる2人の時間が心地よく流れていく。

ところが、2人の恋愛に大きな障害物が待ち受ける。主人公の家族が押し付けるイスラム教徒内の見合い婚だ。自由の国、アメリカにいても彼らには守るべきルールがある。毎晩のように彼の実家に訪れる結婚候補の訪問シーンが可笑しい。イスラム教徒内では昔から習慣化されたお作法のようなものだろう。映画では、訪問する側の女性の心情も描かれていて「この習慣に疲れたから、早いとこ結婚してしまいたい」と吐露するシーンが印象的だ。互いにアメリカ国民であり、見合い婚なんて望んでないのに自制しなければならない状況だ。これが幸せとは思えない。

この習慣に逆らうと、家族から勘当される。う~ん、間違っている。。。深刻な状況に陥ることがわかっている主人公は、当然、家族に白人の恋人の存在を知らせることはできない。見合い婚によって彼女との将来も見えない。そして、そのことが彼女にバレる。「イスラム教だから仕方ない」とは言えない。彼女が怒ったのはその習慣に対してではなく、「どうせ理解できない」と主人公が決めつけていたことだ。

タイトルの「ビッグ・シック(大きな病)」は、その後、別れてしまった彼女が患う重病を指す。彼女の入院を機に、会ったことのなかった彼女の両親との交流が始まる。これが事態を大きく変えていく。娘を傷つけた主人公に対して嫌悪する両親、マイナスから始まる主人公との交流が笑い感動ありで綴られていく。それは互いを知り、受け入れていく過程だ。一見、宗教に偏見を持たない両親だが、「9.11についてどう思った?」と主人公に切り出す。おそらく深い意味はなく、興味本位で聞いたまでと思うが、主人公は「残念なことだった」というほかない。あの事件はイスラム教と関係はないからだ。

今なおアメリカに蔓延る宗教差別や人種差別を現実として受け止めながらも、それを打破する人間の良心が根付いていることも本作は言及する。深刻なテーマを描きながらも大風呂敷を広げることなく、2人とその家族のパーソナルな物語に終始している点が本作の魅力である。「実話」という事実は劇中で初めて知ったが、どーりでキャラクターが誠実に描かれているわけだ。主人公の彼女へのまっすぐな想いと、勇気ある大きな決断に胸を打たれ、どんどん魅力的なキャラクターに見えてくる。コメディアンとして夢を追う主人公と、同じ仲間たちとの友情を交えたドラマとしても味わいあり。また、エンディングで明らかになるもう1つの事実に驚いた。かなり斬新な挑戦であるが、違和感なく完成度の高い映画になっていることに2度感心してしまった。

【70点】
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ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ 【感想】

2018-03-02 08:00:00 | 映画


昨年、劇場公開で見られなかった1本。レンタル開始日にソッコー借りて見る。やっぱり面白かった。
世界一有名な外食店といってもよい「マクドナルド」がチェーン店として拡大した背景を描く。一代で巨万の富と権力を得る「アメリカンドリーム」は強固な資本主義によって実現されることをまざまざと見せ付ける。そのダイナミズムよりも響くのは、留まることを知らない強欲の恐さだ。
本作の主人公である男はマクドナルドの「ファウンダー(創立者)」という肩書きを持つが、彼がマクドナルドを生み出したわけではない。現在の「早くて、安くて、美味しい(出来立て)」というファーストフードのシステムを作ったのは紛れもなくマクドナルドであり、その生みの親は別人のマクドナルド兄弟だった。主人公はもともと商才に秀でた人間ではなかったことが興味深く、彼の成功は「マクドナルド」のシステムとブランドが多くの人に受け入れられることを確信した点にある。その後の事業拡大は、優秀な人材と出会うことができた幸運に近い。本当の創立者であるマクドナルド兄弟は、事業の成功もさることながら、顧客の満足を優先してシステムを開発した。そのクオリティの担保が第一であり、店を広げることにはこだわらない。ビジネスパートナーとして始まった兄弟と主人公だったがウィンウィンの美談には終わらず、主人公が自らの力で「マクドナルド」を一切合財を兄弟の元から剥ぎ取る形で成功を手にする。兄弟が掲げた品質第一のスピリットも継承しない。金がモノを言う資本主義社会においては何ら問題のないルートであるが、その光景はなかなか残酷だ。本作はそうした感傷に浸ることを避け、「マクドナルド」というブランドがある意味、本来の姿で誕生した経緯を描き出す。主人公演じるマイケル・キートンの妙演に目を見張るが、兄弟を演じたニック・オファーマンとジョン・キャロル・リンチも素晴らしく見事な「受け」の演技を披露、これぞ「助演」という仕事ぶりだった。
【70点】
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リバース・エッジ 【感想】

2018-03-01 23:00:00 | 映画


原作漫画が読みたくなる。様々な問題を抱える高校生たちの青春ドラマ。死と対峙して生を実感するキャラクター設定がユニーク。いじめ、セックス、売春、同性愛、ドラッグといったテーマが散りばめられ、当時としてはかなりセンセーショナルな漫画だったと想像する。その原作を受け止める若いキャスト陣の体を張った熱演が印象的で、なかでもテレビの露出度も高い二階堂ふみのヌードシーンに、女優として生きる覚悟を見せられたようだった。1990年代半ばの時代設定にあって、現代に通じる普遍的なドラマとして見るより、時代モノとして見るのがスムーズ。その割にさほど時代の空気を感じられないのは残念。劇中の衣装や、スクリーンサイズだけでは不十分であり、もっと空気のザラつき感が欲しかった。

見終わった後に調べて納得したが、本作の時代設定は1993年~94年とのこと。自分が高校生のときに見たファッションと似ていると感じつつも、携帯電話がまったく登場しないあたりでもっと古い設定なのだと思った。「援助交際」という社会問題がクローズアップされ始めた頃で、本作でも高校生たちのセックスシーンが自然に描かれる。昨今の少女マンガ映画を初めとして、クリーンで嘘っぽい恋愛映画が多発しているなかで本作は異彩を放つ。

吉沢亮演じる主人公の男子は、同級生から暴力によるイジメを受ける。彼を助けるのが二階堂ふみ演じる同級生女子で、2人は次第に男女の垣根を越えて友情を深めていく。なぜ彼がイジメられていて、なぜ彼女が助けたのかはよくわからないが、本作にとってそうした動機付けはあまり重要ではないのかもしれない。男子は2つの秘密を抱えていて、1つは近くの川辺に「宝物」を隠していること、もう1つは自身の特異な性的志向だ。吉沢亮の表情が美しく、ミステリアスな雰囲気といい、まさにハマり役だ。

その男子に暴力を振るうのは、主人公の女子の恋人でもある同級生だ。当時流行ったであろう長髪の髪型だが、東京ラブストーリーの江口洋介ばりにサイドの長さを揃えたほうがもっと時代の色が出たと思う。何かにつけてセックスをしたがる男で、その欲求をそのまま恋人や浮気相手にぶつける。男子のほとぼしる性欲と、下半身で物事を考えてしまう時期の愚かさがよくわかる。濡れ場というよりも一方的な性欲処理であり、本作ではその様子を隠すことなく描く。

本作で耳に残るのは「ねちゃねちゃ」という粘性の音だ。キスシーンでの舌の絡み合いや、摂食障害をもつキャラの過食時における租借音だったりする。耳障りな音だが、人間が生きていることを実感させる1つのシーンとしても捉えられる。川辺にある、干からびて動かぬ宝物と、あらゆる感覚を刺激する彼らの生き様が対照的に映る。死の傍らにいて、生きる力が湧くという彼らの感覚は不思議と説得力がある。

同じ高校に通い、三者三様の境遇と想いを抱えて生きるキャラクターたちが登場する。映画は彼らの動きを傍観して追いかける。インタビュー形式でキャラクターたちの心情に迫る様子はドキュメンタリーのようでもある。展開の狭間で挿入される、釣りをする2人の雑魚トークが秀逸で面白い。何かに夢中になる青春もあれば、惰性に生きる青春もある。終始クールな視点の本作は、「自分だったらこうする」的な青春映画のセオリーである共感型とは一線を画す。見る人を選びそうだが、映画でしか描けない映像表現を含め、見応えのある日本映画だった。

【65点】
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