2018年のサプライズ。
「驚いた」「面白い」「凄い」を通り越して「感動」の映画。エンドロールを見送りながら、脳内でスタンディングオベーションする。チープなゾンビ映画の外見からはまったく想像できなかった。この映画は夢を追う映画人への讃歌ではないか。終盤にかけて、笑うよりも涙してしまう。「one cut of the dead」は映画人たちの情熱と覚悟を表した言葉だっ。喝采。
廃墟を舞台に、ゾンビ映画(ドラマ)を撮影している途中で思わぬ事件が発生するという話。
ネット上のあまりの評判の高さに興味を引かれていたものの、同様の現象であった「バーフバリ」に自分はノれず、「映画は嗜好品」の認識を改めたところだったし、上映館が本当に少なく、見ることを諦めていたが、公開から1ヶ月後、拡大公開により近所のシネコンで上映されることとなった。割引も効いて、オンラインで座席も予約。何という幸運。さっそく観にいった。
で、これがまあとんでもない傑作だった。
脚本良し、演出良し、キャラクター良し。自分が好きな映画の条件をすべて揃える。
昨年に続き、今年の日本映画にハマっていない自分にとっては会心の一撃。
本作への評価は人によって多少バラつくだろうが、おそらく誰が見ても面白い娯楽作。
少なくとも、本作をスルーして2018年の映画は総括できないだろう。
「この映画は二度はじまる」というのが、ポスターのコピーだ。特別な仕掛けが用意されていると察し、あらゆる事前情報をシャットアウトして見た。案の定、何も知らなかった分、驚きも大きかった。
「二度はじまる」の部分だけ言及する。
その言葉から想像するとおり、映画は2つに分かれる。前半の超絶映像(あるいはグダグダ映像)に圧倒され、後半で明らかになるドラマに笑って泣く。前半で感じた不可解なキャラクターの言動が、抜群のユーモアを湛えながら、後半で綺麗に説明されていく。伏線回収とは別モノ。それが用意周到な道筋ではなく、ハプニングに継ぐハプニングが奇跡的に繋がって着地するというもの。「想定外」の連続を緻密な計算によって組み立てた脚本に唸りまくった。
展開を転がす引き金が、キャラクターたちの多様な個性によるものだからさらに面白い。監督、役者、カメラマン、録音、メイク、助手、プロデューサーなどなど、撮影現場で登場するキャラクターたちにもれなく個性と役割をもたせ、機能させていく。映画製作にありがちな、監督と役者の摩擦もコメディに活かされていて、映画を無事に撮り切りたい監督と、アイドル上がりで「事務所的にNG」を口に出す若手女優、何かと演技論を持ち出す面倒な若手俳優、そこに状況をかき回す、監督の妻で元女優の女が加わり、抱腹絶倒の狂騒劇が繰り広げられる。思わぬ救世主となる、監督の娘の才能の開花もドラマチックだ。とにかく面白くて堪らない。
終盤にかけて、劇中のドラマはどんどんヒートアップし、それに呼応するように劇場も笑いで沸く。そんななか、自分は熱いものがこみ上げてきた。前半で描かれるのは、我々がスクリーンを通してみる役者たちの姿だが、後半に描かれるのは、その撮影の裏側の話。裏方である様々なスタッフの連携プレーによって、映画撮影が遂行されていることに改めて気づかされる。いつもの映画鑑賞で、エンドロールに長々と流れるスタッフ紹介だが、それぞれの役割をもったスタッフの尽力があって、ようやく1つの映画が完成されるのだ。あの1人1人が作品の功労者といえる。
本作はそんな暑苦しいメッセージを打ち出すものではない。ただ、何とか成功させようと奔走する監督、役者、スタッフたちの姿が、映画に魅せられ、映画を製作する夢を叶えた、映画人たちの情熱と重なる。映画ファンとしては、涙なしには見られなくなる。
「止めるな!」を実行したラストには、清々しい達成感と、得難い充実感が待ち受ける。そして、特別な映画を見てしまったという興奮と高揚感に満たされた。
【90点】