再びトレドの街、大聖堂に戻る。
<エル・グレコ>(1541-1614 /スペイン/マニエリスム)のこの傑作に初めて出会ったのが、02年の冬、ところはミュンヘンのアルテ・ピナコテーク。
本来ならば、97年のトレドで見る筈の絵だったのだが、残念なことに案内人はそこには目もくれず、さっさと<次の目的地>に向かったことは既に書いた。
本題に入る前に、少し寄り道をする。
ミュンヘン市街の広大な公園の中にデア・モデルネ、ノイエ、そしてアルテの三つのピナコテーク(絵画の収蔵所)がある。
デア・モデルネは、ヨーロッパ最大の規模を誇る近代アート、ノイエにはゴッホ、セザンヌなど18世紀から19世紀にかけての印象派から近代・現代絵画を中心に展示されている。
目指すアルテには、中世宗教、ゴシックからルネッサンス、マニエリスムを経てバロックまでの絵画を中心に展示されている。
ちなみに、キリストに擬して描いたがゆえにカタリナ が、「生意気な奴」と怒る<アルブレヒト・デューラー>(1471-1528/ドイツ/ルネサンス)の「1500年の自画像」(写真上)も、ここアルテに架かる。
そのアルテ・ピナコテークの正面の大きな重いドアを押して入る。
一見して「ドイツ人だよね」と見紛うことのない受付の中年女性、1cm角の小さなアルミのバッジを「付けなさい」と言う。
ロビーを横切り突き当りの大階段を昇ると、真っ直ぐに続く廊下の片側に展示室が並ぶ。
フランス、イタリアからスペイン、そして、フランドルからドイツ、さらに、15世紀から17世紀絵画へと、年も押し詰まる12月の末の美術館、鑑賞する人もまばらな展示室をゆっくりと巡った。
そして、ここでこの傑作と出会った。
スペインの画家の作品が展示されている部屋の中央で振り向くと、途中にある幾つかの展示室の向う、正面に見える絵がひときわ目を引く。
幾つかの展示室の中央の通路の木枠を、額縁に見立てる演出に物怖じすることもなく、“ 主役として当然だろうこの扱いは ” と主張してやまないその作品は、マニエリスムの最後を飾るグレコの傑作、「聖衣剥奪」(写真下)だった。
キリストが十字架かけられる直前、衣服を剥がれる姿が主題。
彼はそれまで見られなかった鮮やかな紅で聖衣を描き、この作品を一層際立たせている。
この作品のバリアント・異同作品がトレド大聖堂の聖具室に続く絵画館にあるが、それは次回に。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.576