ルドン作品の収蔵を誇るのはオルセー美術館。中4階の太陽光を遮った暗い部屋に作品が架かる。
ルドン夫人が好んで身の回りに置いていた貝殻を主題に描いたのが「貝殻」。
主題を巨大に変身させると、それはパリのプチ・パレ美術館が収蔵する「ヴィーナスの誕生」の女神が乗る小舟になるが、ここでは実物どおりに抑制されて描かれている。
ルドンは、その夫人を対象に数点の作品を描いているが、そのひとつが「左向きのルドン夫人の肖像」で、好きな作品のひとつだ。
この作品は、“ 全く無駄のない一本の線が、横顔と胸部の輪郭線を画し、サンギー ヌは柔らかく顔と髪に影をつけ、パステルによる補彩は衣服を際立たせ ” また、 “ 稀にみる質を備え、その慎みと優美さは対象のルドン夫人の様々な美質を反映している ”(美術出版社刊)と評されている。
サンギーヌとは、コンテ・クレヨン4色のひとつ赤褐色のこと。
同時代の印象派の画家たちが、光の変化をキャンバスに切り取ろうと屋外に画題を求めたとき、この画家は、人間の内面や神秘的な世界を黒という色彩を用い、画家自身が、“ モノクロームのパステル ” と呼んだ木炭とリトグラフによる黒の表現を追及、眼球、首、怪物など奇怪な作品を手がけ、木炭画「笑う蜘蛛」などを発表した。
それは、生後わずか半年で長男ジャンを亡くしたことが投影されたのか?
長男の死から三年次男アリが誕生、かつてない幸福に満たされた時を迎える。
岐阜県美術館が、素描や版画を中心にルドン作品の収蔵を誇ることを知らなかった。
同美術館の素描「蜘蛛」などを中心に、その「ルドン展」(朝日新聞社ほか主催)が、7月10日から姫路市美術館で開かれる。
ところで今日は、わが町の知事を選ぶ投票日。
この町では、地方分権や行政コストの節減という風が読めないのか、読もうともしないのか知らないが、物欲しげに体制におもねる大企業労組の幹部とそれを横目にほくそ笑む守旧が、官僚上がりの候補者をともに担ぐお定まりの選挙が過去から何回も続き、選良への期待とは裏腹にやるかたない思いが澱のように残る。
そんな日は、フランス象徴主義の画家オディロン・ルドンの作品が気持ちを幾分か癒してくれる。