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No533『息もできない』~悪態をつきながらも、惹かれてゆく二人~

暴力の連鎖だ。
家に暴力をふるう者がいることほどの悲劇はない。
家に帰れば、そいつがいて、暴力をふるう。
帰りたくない。でも、ほかに帰る場所もない。逃げ場がない。
父親が母親に暴力をふるう。
その姿を子どもがみる不幸。

主人公サンフンは、取立て屋。
激しく殴り倒しては債権を回収していく。
子分にも容赦はない。

でも、サンフンの過去や事情が知れるにつれ、
彼の暴力の中に、深い痛みがあることがわかってくる。
相変わらず殴り続けているのだが、
この男の心もどこか悲鳴をあげているように見えてくる。

高校生ヨニとの予期せぬ出会い。
互いに、汚い言葉をぶつけあい、
ぶっきらぼうで、とても愛ともいえない。
でも、何かが二人をつなげる。
互いの傷や痛みを感じとっているような…。

二人の微妙な距離感がいい。
息もできない環境で、なんとか生き抜いているそれぞれが
二人でいるときは、
どこか悪態をつきながらも自然になれる。
乱暴な言葉のやりとりの中に、
心を許しあう悪友のような優しさが育っていく。

初めは、いけすかないちんぴらにみえたサンフンと
可愛くない女子高生のヨニとが
どんどん魅力的にみえていって、
二人でいるときにだけみせる笑顔がいい。
ふくれっつらの少年もいい。

暴力は絶対許せない。
だから、家族に暴力をふるおうとするヨニの弟や父は、最低な奴と思った。
それでも、家族だから、離れられない。
ヨニの背負う運命は重い。

監督は、同じような過ちを犯した者として、サンフンの父親を登場させた。
サンフンは、決して父親を許さない。
彼の心も人生も、父親ゆえに、狂ってしまったのだから。
罪を償うことなんてできない。
でも、
罪の深さを悔い、恥じている父親の本当の心を知ったとき、
サンフンは、変わった。
父を許し、自分の人生を新たに生き直すことも、
できたかもしれない・・・そのはずだった。

家族という業は深い。

観終わって、劇場を出たとたん、なんだか涙がぼろぼろと流れそうになった。
幸せを予感させるその直前に悲劇が起きるのは
映画の常なのだけれど、でも、悲し過ぎる。

取立てやの親分も人がよく魅力的だったり、人物設定がうまい。
過去をカットバックで少しずつほのめかしていくあたり、
脚本も上手い。

ぜひお薦め。大阪では心斎橋シネマートでの上映。
平日夜7時40分からと遅めの上映時間もあり。
スクリーンが大きくて、コーヒーもおいしかった。
5月中旬から京都シネマ、7月に神戸KAVCでも上映予定。
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