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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

7月19日・黒沢清のラスト

2017-07-19 | 映画
7月19日は、「踊り子」の画家エドガー・ドガが生まれた日(1834年)だが、映画監督、黒沢清の誕生日でもある。

黒沢清は、1955年、兵庫県神戸で生まれた。高校時代から映画を撮っていた黒沢は、東京の大学に進み、蓮實重彦の映画表現論を受講し、強い影響を受けた。長谷川和彦監督の名作「太陽を盗んだ男」や、相米慎二監督の話題作「セーラー服と機関銃」に関わった後、28歳のとき、ピンク映画「神田川淫乱戦争」で監督デビュー。
以後、「CURE」「大いなる幻影」「カリスマ」「回路」「アカルイミライ」「ドッペルゲンガー」「叫」「トウキョウソナタ」「リアル~完全なる首長竜の日~」「岸辺の旅」などを発表。2015年現在、東京芸術大学の大学院映像研究科教授でもある。

現代では「世界のクロサワ」とは、黒沢清のことである。
はじめて観た黒沢清作品は世評高い「CURE」だった。とても怖いサイコ・スリラーなのだけれど、全編になんともいえない緊張感とうっ屈した思いが満ちていて、
「こんな作り手の息づかいを感じさせる映画を撮る監督が日本にもいたのか」
と衝撃を受けた。

「CURE」は、印象に残る名シーンが多い作品で、自分はとくにラストシーンにしびれた。主演の役所広司が黙々とご飯を食べつづけるシーンなのだけれど、あの画面全体からあふれこぼれてくる不穏な緊張感といったらなかった。映画というのは、こんなこともできるのかと感服した。

黒沢作品の「大いなる幻影」や「回路」には、映画には出て来ない隠された仮定があるそうで、時代は近未来で、ユーラシア大陸は戦争などひどい状況になっていて、その端にある島国、日本は世界から落ちこぼれ、忘れ去られている存在、という隠し前提の上にストーリーが組み立てられているのだという。

黒沢作品「トウキョウソナタ」の、日本人が日本を防衛してくれている米国軍兵士に志願して入隊していくという近未来の事態にも驚かされた。あの仮定は、いまなお衝撃的であり続けている。
「トウキョウソナタ」のラストシーンも、「CURE」とはまたちがった意味で忘れがたい名場面で、そうやって考えていくと、黒沢清という監督は、基本的には「ホラーの監督」ととらえられているようだけれど、実は「ラストシーンの監督」と言うべきなのかもしれない。いずれにせよ、恐るべき感性の人である。
(2017年7月19日)



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