パピとママ映画のblog

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不機嫌なママにメルシィ! ★★.5

2015年02月14日 | は行の映画
『マリー・アントワネット』、『イヴ・サンローラン』などのギョーム・ガリエンヌが、自らの半生を描いた戯曲を映画化。裕福な名門家庭に生まれ母親に女の子のように育てられたギヨームが、さまざまな苦難を経て本当の自分の姿を見つけ出していく。初監督となる本作で母と自身の一人二役に挑み、セザール賞5部門で受賞するなど高く評価された。『いつか、きっと』などのアンドレ・マルコン、『マリー・アントワネットに別れをつげて』などのダイアン・クルーガーが看護師のインゲボルグ役で共演している。
あらすじ:3人兄弟の末っ子として生を授かったギヨーム(ギョーム・ガリエンヌ)は、母親(ギョーム・ガリエンヌ)から女の子のように育てられた。エレガントな母をまねて女らしくふるまい、周囲からゲイだと思われていたが、息子を男らしくさせたい父(アンドレ・マルコン)が強制的に入学させた男子校ではいじめに遭い、イギリスの学校に転校するも男子生徒に失恋。そんな人生に疑問を抱いたギヨームは、本当の自分を探す旅に出るが……。

<感想>フランスの演技派俳優であるギョーム・ガリエンヌが、脚本・監督・主演と女装をして母親と息子の一人二役を演じる自伝的戯曲の映画化である。
何ともすごい才能である。子供の時から女性に惹かれていたという、いわばガリエンヌ自身の年代記のようなお話になっていて、この領域に興味のない私にはストーリーに没頭できなかった。ですが、それなりに興味深くは拝見しました。しかし、客観的に本作とガリエンヌを評価する気はない。「イヴ・サンローラン」で、イヴを支える役を演じていたのを観て、あの作品での彼の演技は大変しっかりとして良かったと思う。ですが、どうもすぐにはこの映画の彼の二役とは結び付かなかった。

肉体的・精神的な面から多様なセクシュアリティが認められつつある昨今には、タイムリーな描き方かもしれないが、男性が女性を演じる面白みも、母子の二役を兼ねる意味も、ちと手ぬるいように見えた。

確かに主人公のギョームが、変にカリスマ性のある母親から女の子のように育てられるうちに、仕草、声色、空気まで嬉々として母親の真似をするようになる。成長するにつれ、異常なほど腕をあげ、母親と母親の物真似をする息子の両方を演じる技術には、唖然とさせられるが、それが家族までもが見間違えだすとは。

ある夏スペインを旅行すると、地元の人たちから「女の子みたいな踊り方ね」と馬鹿にされる。するとギョームは飛び跳ねて嬉しがる。「ママが喜ぶよ!!」この異様過ぎる笑顔が、観客には大いなる謎で、「どうして女の子になるとママが喜ぶの?」を提示するのだ。
そして、ナヨナヨする息子を怒る父親の視点。案ずる祖母の視点。自分たちの平穏な生活のために見てみぬふりをし続ける兄二人の視点。

れに、馬鹿にする学友たちの視点って、ちょっと中年太りの高校生って変ですから、呆れたナルシストだと言い切る精神科医の視点。
という、周りをぐるりと囲む“他者の視点”を借りて何とか自身を客観視しようとするギョームがいる。
物語は、ギョームがあの手この手で自分の性的アイデンティティを探す旅になっているが、「僕は同性愛者の男でも女の子でもない。異性愛者の男なのだ」「ママは僕が他の女を愛するようになるのを恐れて邪魔をしていた」と。最終的にはそれを発見しましたと言われても、だから何なのかという感じは否めない。
そこまでに至るコメディを楽しめばいいとしても、思いのほか下ネタに始終するフレンチ流のギャグは、なかなかに敷居が高いようだ。
冒頭で、白い能面のような化粧をしたギヨームと「世阿弥の写真」を繰り返し映す、スクリーンで孤軍奮闘する彼の姿は、おそらく日本の「お能」のイメージをしているのだろう。最後の「僕は女に恋をしたので、女と結婚をするよ」というオチだけは、まだ心が現実に着地していないに感じました。

一人二役なので、母親と息子が似ているのが当然なのだが、モデルとなる母親が魅力的に見えないので、母親のようになる息子の努力がコメディにしかならないのだ。つまりは、近寄って見たら悲劇だが、引いて見たら喜劇だというタイプのコメディを、自分の恥ずかし体験を笑い飛ばして楽しませる、そのセンスが素晴らしいと思う。
過保護で甘ったれたナルシズムを売りにしているのに耐えられず、シーンの最後を曖昧にしたまま、舞台へと引き戻す、演劇と映画のもたれ合う作劇が最悪である。ただし、祖母役のフランソワーズ・ファビアンはさすがに上手く場を引き締めてくれて良かった。
このテーマはギョームが死ぬまでずっと続くものだし、これからも長い時間をかけて自分で解決する問題なのだろう。
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