長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

324. 出水平野、ツル類取材旅行 その三(最終回)

2018-03-03 18:55:00 | 野鳥・自然
2/11(日)。鹿児島県出水平野のツル類取材旅行も最終日となった。朝、5:00起床。野鳥たちの朝は早い。6:15、車に乗りホテルを出るとまず東干拓にあるツル達の塒に向かった。20分弱で目的地。ここも農作業用の一般道から観察させてもらうため対向車や地元の農作業の車には細心の注意をしつつ移動し、干拓中央部の車除けスペースに停車し、ツル類の朝の飛翔を待つことにした。ここまでは初日にお会いした地元ベテランバーダーのM氏のアドバイスどおりに行動する。

<東干拓・早朝のツル類の飛翔を観察する>

エンジンを切って車中からツル達の声や動きに五感を集中させた。昨日とは打って変わって雨は上がっていて天気はまずまずである。風は少し強い。しばらくすると、まだ青黒い朝の空をツル達の小群がほうぼうからこの干拓地を目掛けて飛んできた。”クックルルー、クックルルー" ”グワッグルルー、グワッグルルー" 寒空を早いスピードで給餌場へと向かうナベヅルとマナヅルの声が響き渡る。それはそれは見事な光景である。帰宅してから制作する大判木版画のためにしっかりと瞼に焼き付けておかなければならない。次から次へと飛んで来ては干拓地の東端や中央部に舞い降りる。静かに車を降り双眼鏡だけでその様子を眺めていた。その数とスピードは強風に押され速度を増し、人の動体視力が追いつかなくなって来た頃ピークに達した。いったいどのくらい空を見上げていたんだろうか。周囲が白々と明るくなってきたかと思ったら東の空に朝日が現れ始めた。そして飛翔するツル達の数もまるで台風が去った後のように少なくなっていった。飛翔姿を堪能し、ここでまたいったんホテルに帰る。

<東干拓~福ノ江港周辺の野鳥たち>

ホテルで朝食をとり、帰りの荷造りをしてチェックアウトを済ませてから再び行動開始。来る前の計画では「ツルだけ見るのではなく山間部にも入って九州南部特産のヤマドリの亜種コシジロヤマドリを観に行こう」とか「最終日の帰り道、河口干潟に立ち寄ってカモメ科の珍鳥オオズグロカモメを観て行こう」などと話していたのだが、「今回はやはりツル達の作品を制作するための取材なのだから時間いっぱいツル達を観察して帰ろう」ということに2人で決定した。そしてもう一度明るくなった東干拓に戻り、水田をゆっくりと歩いたり休息するナベヅルやマナヅルの家族群を観察、撮影しながら移動した。途中、冬水田んぼで15羽のツクシガモの群れを観たり、水田上を低く飛び回るアトリの大群を観たり、堤防で休むミヤマガラスの群れを発見したりしてけっこう楽しめた。3日目に入って当たり前となってしまったが、こうした西南日本に多い冬鳥が観られるのも九州ならではのことである。
それから初日、M氏がカラムクドリやギンムクドリなど希少なムクドリ類を観ることがあるという近くの福ノ江港周辺に移動する。狭い農道を海側へ向かってゆっくりと走って行くとポッカリと小さな溜池の真横に出た。ここでも水面を泳ぐ1羽のツクシガモを発見。双眼鏡で池を見渡しているとヨシ原近くに白いサギ大の水鳥が12羽休息しているのを見つけた。「ヘラかクロツラだね」連れ合いが言った。昔からのバーダーは種名を省略するクセがある。ヘラサギかクロツラヘラサギだが嘴を背中に突っ込んでいるので特徴が見えずどちらなのかは識別できない。やむをえず、この状態をカメラに収めて移動。児童公園の近くで車を止めてコンビニ弁当でお昼にする。窓の外をふと見上げると「雪だ!」。小雪がチラチラと降ってきた。スマホで天気予報を調べると南九州には今晩にかけて大雪警報が出ていた。

<ツル展望所でツル達の渡りを観察する>

「どうする?ウカウカしていると高速道路上で雪に遭遇するかも…一応スタッドレス・タイヤだけど」と、不安そうに連れ合い。「速足でツル展望所に寄ってスナップ写真を撮ってツル達へ最後のお別れをしてから帰ろう」ということで意見がまとまり西干拓へと移動。ツル展望所の駐車場に着いてもまだ小雪はチラチラとしていた。周辺を少し散策し、ツル類の大群を背景に記念写真を撮ってから展望所3階へ上がった。連れ合いには1つ見落としていたことがあった。それは「そろそろツルの北帰行が始まっている。滞在中に1度、ツルの渡りの飛翔をする姿が観たい」というのである。しばらくの間、広大な干拓地に広がるツル達の大群を眺めたり、空に注意したりしていた時、14:00頃「あっ、あれそうじゃない!」と連れ合いがはるか彼方の空を指差した。見上げるとナベヅルとマナヅルの混群が上昇気流に乗ってグングンと高度を上げて飛んで行くのが見えた。「そうだ、渡りだね!」さらに丁寧に観て行くといくつもの混群が上昇していくのが解る。飛んで行ったツルたちはこれからロシアのウスリー川流域、アムール川流域、中国東北部などの繁殖地へと向かったのである。最後の最後にとても感動的なシーンを見せてくれたツル達に感謝。ここでタイムリミット。展望所を降りて駐車場まで来ると、まだ小雪がチラチラしていた。天候悪化が心配なので名残惜しいが予定よりも早めに熊本空港へ向かって出水の町を後にした。

※今回この取材旅行をするにあたり事前にアドバイスをいただいた鳥の世界のT先輩と地元ベテランバーダーで詳細なガイドをしていただいたM氏にこの場をおかりして感謝いたします。
画像はトップが早朝のナベヅルの飛翔。下が向かって左から東干拓のツル類の飛翔風景、ナベヅルの家族、マナヅルの家族、溜池で休息するヘラサギ類、ミヤマガラス。