長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

236.『村田慶之輔先生を偲ぶ会』に出席する。

2016-03-15 20:56:08 | 

12日。昨年、3月に他界された美術評論家の『村田慶之輔先生を偲ぶ会』に出席してきた。村田先生は昭和5年生まれで、早稲田大学の文学部を卒業後、神奈川県の教育委員会、文化庁文化部芸術課、国立国際美術館学芸課、高岡市美術館、川崎市岡本太郎美術館館長、軽井沢ニューアートミュージアム名誉館長などを歴任された方である。

僕が村田さんに初めてお会いしたのはバブル真っただ中の東京の画廊でだった。当時、村田さんの世代から今の60代ぐらいまでの美術評論家は、熱心に画廊の企画展を廻られていた。この時期画廊でもいろいろな評論家の方にお会いしたものだ。そして美術雑誌や新聞に展覧会評の文章を書かれていた。バブルが弾け美術の世界も不況のあおりを受けて、リーマンショックなどが立て続きに起こる中に時代も変わり、こうした世代の美術評論家に画廊の企画展会場でお会いする機会も減っていってしまった。

僕自身、個展会場で村田さんにお会いし、ご批評いただいたのは年譜からたどると高岡市美術館を退職する少し前だった。当時会場にいらっっしゃると、まずその鋭い眼差しで作品を1点1点時間をかけて丁寧にご覧になった。よく他の作家や美術関係者から「村田さんは厳しい批評で有名だ」というようなことを聞いていたが何故か僕は作品をけなされたという経験がない。確かに頭の回転が良く言いたいことをズバズバと早口でおっしゃるタイプであるが、その言葉には裏表はなかった。そしてたいていは「こうしたらどうか」「こう変わっていくこともできるじゃないか」という明快で的確なアドバイスだった。一番印象に残っているのは銅版画の連作を一つのテーマで50点以上制作した後の個展会場で正直に「ここに来て行き詰っているんです」という相談をしたところ、もう一度会場を廻られて会場の隅に飾られていた小作品を指さして「これ面白いじゃない、この方向で展開していったらどう」と指摘されたことだ。その作品はこの個展の中でも自分自身ではさほど重要ではない位置づけのものだったので、その理由を伺うと実に的を得ていて目から鱗が落ち、その後、新シリーズを展開できたのである。

偲ぶ会の会場である日比谷の帝国ホテル17階の会場に着くと入口は大勢の出席者であふれ受付に並ぶ人の列が隣のレストランまで続いていた。覚悟して一番後ろに並んで待っているとエレベーターから次々に人が降りてくる。中には著名な美術家の方の顔も見える。日本画家のN島氏、洋画家のI江氏、K谷氏、銅版画家のY本女史などそうそうたるメンバーである。並ぶ人の話のようすから若い世代の美術家も多くいて、おそらく村田さんは、ごく最近まで若手の面倒を見られていたんだろう。

ようやく会場に入ると遺影が用意されていて順番に白い花を献花し、バイキングの会場に入った。空いている席に着いたが、たいへんな出席者の数である。これも全て村田さんの人柄と人の出会いを大切にする姿勢によるものだろう。会場の中央にも遺影があり、その前で発起人、ご家族の挨拶が始まった。みんな口々に「村田氏は形式的なことを嫌った人なので今日はざっくばらんに思い出話をして氏の好きだったワインを楽しく飲みましょう」という意味のことを言っていた。そのスピーチの通りに会場は明るく楽しい「偲ぶ会」となった。おそらく村田さんも会場に来ていて一つ一つのテーブルを訪れていたのかも知れない。歓談、献杯の後、「贈る言葉」として先ほどみかけた洋画家のK谷氏、銅版画家のY本女史と続いてからは、あっという間に閉会の時間となった。楽しい時間は長くは続かないのが常である。

会場を出て銀座の画廊巡りをしようと歩き始めると思いの外、酔っている。酔い覚ましに目前の日比谷公園をブラブラと歩くことにした。小さな池の近くのベンチに座って休んでいると目の前の水辺に都会の真ん中では珍しいアオサギの成鳥が、じっと羽を休めていた。その凛とした姿と鋭い眼差しが何故か生前の村田さんの姿に重なって見えた。「ここに今、村田さんがいたとしたら僕にどんなアドバイスを送ってくれるのだろう?」 妄想だが頭の中をある言葉が村田さんの早口の声で聞こえてきた「あなた作家なら、こんなところで飲んでいる暇はないでしょう。それから前に言っていたオリジナルの博物誌の連作は完成したの?ビュッフォンとは一味違ったものを作るんでしょう?」 村田さん、今まで本当にありがとうございました。どうか安らかに。 

画像はトップが会場内に設営された村田さんの遺影。下が向かって左から帝国ホテル外観、ロビーのシャンデリア、会場風景、挨拶をする村田夫人、日比谷公園のアオサギ。

 

            



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1 コメント

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ありがとうございました。 (uccello)
2016-03-24 00:38:57
ブロガーのみなさん、いつもマイブログにお立ち寄りいただきありがとうございます。いいね!をいただいた方々、感謝します。

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