My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

MIT卒業!

2010-06-16 12:10:47 | MBA: MBA授業

ご報告が大変遅くなりましたが、私Lilacは、6月4日に晴れてMITを卒業しました!
良かった良かった。
卒業式目録に自分の名前とThesisのタイトルを見つけたときは、正直とても嬉しかったです。

ご報告を兼ねて、MITの卒業式について書いておこうと思います。

MIT Sloanの卒業式は、6月3日のConvocation(学部ごとの卒業式)から始まった。
集合は午後3時厳守、ってことだから2時50分程度に行ったが、結局3時半過ぎまで裏の暑いところで待たされる。

クラスごとに集まるので、久しぶりに1年生のときのコアチームの皆と久しぶりに会った。
初めてチームになったあのときからもう2年。
2年間、色んなこと勉強して、みんな今までの自分らしさを残しつつも、きっと色々なことを達成し、いろいろと成長したんだろう。

そしてConvocationが始まる。
卒業生代表答辞をのべたのは、アフリカ系アメリカ人でもあり、色んな意味でマイノリティの女の子だった。
ユーモアのセンスもあり、時には真剣で感動させる節もあり、バランスの取れた素晴らしいスピーチだった。
すごいな。
私もアメリカのトップスクールで卒業式答辞を述べるまでになってみたかったな、とちょっと思った。

あとはいろんな人が少しずつ挨拶して、1時間ほどで終了。

その後は祝賀会に向かう。
かなりの人は、父母も含めた家族が来ているので、なかなかすごい規模の会だった。
アメリカって、MBAの卒業式にもお母さん、お父さんが来るのね。
中には親戚総出で14人も家族が来ている、という人もおり、すごかった。

ウチの母にも来る?って一応誘ったのだが、「それじゃヘリコプターペアレントでしょう」と一蹴された。
確かにアメリカでは80年代だったか「最近の親は卒業式にまで付いてくるとは・・・」といった感じでヘリコプターペアレントが話題になった。
だから私もそれ以上強く押さなかったのだが、蓋を開けてみたら、留学生は日本人含め、かなりの人の家族が来ている(笑)。
アメリカ人も半分くらいは親が来てる、という感じだ。

アメリカじゃトップスクールに入って卒業する、というのは大変なことだから、大学院の卒業式にまで親が来るのも今では良くあることだそうだ。
この分じゃ、ヘリコプターペアレント(ヘリコプターのようにどこまでも子供についてくる、という意味でそう呼ぶ)はアメリカではもう死語かもしれないね(笑)

そして翌日。
朝7時45分に集合しろ!時間厳守。というお触れが出ていたが、
卒業式自体は10時開始のはずなので、どうせ昨日のように待たされるだけだろう、と高をくくって8時15分に到着。
読みは当たり、結局8時45分までにチェックインを済ませれば良いとのことだった。

今年のMITの卒業生は2500人だという。
それだけの人数が混乱を避けて名前順に並べるための、MITのオペレーション力の凄さを思い知らされる卒業式だった。

チェックインは巨大な体育館で行われた。
50人ずつ、学部・名前順に50組に分けられ、それぞれの組の中で更に名前順に番号が振られる。
このような番号を振られたところに、番号順に整列し、順にMITのドームに向かって行進していくのだ。

ちなみに、写真に写ってる白い制服はUS Navy(海軍)らしい。
このほかにも薄い青色のUS Air Force(空軍)や、緑色の軍服のUS Army(陸軍)の集団が見られた。

MITは通常、学士と修士は黒のガウン、博士は黒またはグレーのガウンにフードを着用する。
ところが、軍人の場合は、制服の方がガウンより格式が上、とされてるので制服を着るんだそうだ。
逆に言うと、博士号を別のところで取った人は、博士号の方が格式が上なので、そのガウンを着てきても良いらしい。

へええ。
卒業式って、フォーマリズム(形式論)の骨頂みたいなところがあるから、面白いもんだねね。

結局この列に並んでから30分以上待たされたあげく、漸く進み始める。
しかし、その進みは牛のようにのろく、少しずつしか進まない。

やっと外に出る。が、まだ並ぶ。

マサチューセッツ州の中心の道路である、マサチューセッツアベニューを完全にジャックして進む我々。

で、何がすごいかという話だが、とにかくオペレーションが優れているのだ。
私の組は43組だったが、ずっと30組の人たちと隣りあわせで二列で進んでいた。
後で分かったのだが、これは43組と30組が会場で隣り合わせに並んで座るからなのだ。
このように、後で会場で隣り合わせに座る人たちが、隣りあわせで行進するように、最初から設計されているのだ。

それから、道の途中に職員のオバサンが何人も立って、何度も点呼を取り、全員いるか確認し、列が乱れないようチェックする仕組みになっている。
緑のオバサンが、一人一人の名前と番号を確認している。
それ以外にも職員が途中に立って、全体をチェックしている。
こういう仕事の配分も、全て事前に打ちあわされ、皆がきちんと仕事をこなすからできるのだ。

日本の大学ですら、名前順に並んで点呼をとる、なんてやらないだろう。
多分勝手にバラバラ座るだけだと思われる。

いわんや、普通の人が「並ぶ」なんてことも出来ないアメリカの大学で、これを達成できる用意周到さ。
アメリカに2年もすむと、これをアメリカでやるのが如何に大変なことがわかる。
すごい。
こんなちゃんとやってるのはMITだけじゃないかと、私は思う。
流石MIT。世界最強の理系の大学だけあるぜ。
それもこれも、2500人全員に、卒業式の場で卒業証書を渡し、MITという小さな学校の連帯感を強めるためなのだ。

漸く、ドームのある会場に入っていく。
この時点で既に10時30分。
行進が始まってからもう1時間以上たっている。

そして、漸く全員が入ったところで、漸く式が始まる。

卒業式では、大学院と学部のそれぞれの学生委員会の会長が、答辞を述べる。
MITは、余りの自殺者の多さから「首席」とかいう制度がずいぶん前から無くなったのだとか・・。
大学院の答辞を述べたAlexは、確かスキー合宿で一緒に行った人だった。
凄く元気で、まるでオバマ大統領みたいなスピーチをし、とても面白かった。

その後は、大学の偉い人など、いろいろな人たちのスピーチが始まる。
ここで、手馴れたMITの卒業生達は、次々とガウンからお菓子や果物を出して食べ始める。
中にはトランプを取り出して、ポーカーでもやろうと周りに配り始める人がいる。

これは「教授のスピーチはつまらない」とアピールするためのもので、MITの卒業式の伝統の一つなのだそうだ。
とはいえ、この人たちもお菓子を食べたりしてるのは、あくまで教授や学長のスピーチの間だけで、
卒業生の挨拶や、現役生が卒業証書をもらってる間は、敬意を示して絶対にそういうことはしないのだ。

面白いなあ、と思った。

1時間くらいの形式的な挨拶だのなんだののあと、ついに2500人全員が卒業証書をもらう番。
次々に名前を呼ばれてもらっていく。

名前が呼ばれると、人によっては、大きな歓声が上がる。
私も知ってる人が呼ばれたときは、頑張って歓声を上げた。
実は私も名前が呼ばれたとき、ちょっとした歓声が上がっており、卒業証書を受け取って席に戻ったら、
先に証書をもらっていた皆が握手や抱擁で出迎えてくれて、とても嬉しかった。
友達が沢山出来てよかったな、と思った。
「いちねんせいになったら」の歌ではないが、MBAの目的の一つは友達をたくさんつくること(またの名をネットワーキング)なわけで。

それから、私は自分の指導教官を教官の列の中に発見して、ちょっとだけ話した。
私の卒業をとても喜んでいて、私はとても嬉しかった。
彼は、私に学術的なことだけではなくて、アメリカの歴史や文化、いろんなことを教えてくれた。
彼がいなければ、私はここまで色んなチャンスに恵まれて、いろんなことを学ぶことは出来なかっただろう。

スピーチ中にお菓子を食べる以外にもう一つのMITの重要な伝統は、帽子に色んなデザインを施すこと。
凝ったデザインのひとがいろいろいる。
中にはヘリコプターの模型をつけて、最後に帽子を皆が空に投げたとき、一つだけずっと落ちてこないで空に浮かんでいる、
という偉業を達成した学生もいた(笑)

3時間半にわたる長丁場。
でも、みんなで写真を撮ってるうちに、嬉しさがこみ上げてきた。

有難う、みんな。
クラスメート、先生、そして周囲の支えてくれた家族と友人達。

  

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じゃあMBAを意味あるものにするには?(後半)

2010-05-06 09:36:11 | MBA: MBA授業

前記事「MBAは今更意味あるの?」 「じゃあMBAを意味あるものにするには(前半)」の続きです。

ところで私、こんな記事かいてますが、「MBAはストイックに頑張って過ごさなきゃ意味なし」とは全く思ってないです。
人それぞれ、いろんなMBAがあると思ってます。

ただ、米国MBAに行くのが高くなった割に(機会費用2000万~)、MBAに行くことの価値は下がってるのは確かだということ。
もし、「MBAに来たら、明るい未来が勝手に開ける」と思ってるとしたら、それは違う。
未来は自分で開かなくては、開けないよ!でも、開けばいくらでも開けるよ、というのがこの記事の趣旨です。

だけどねぇ。
それだって、例えばお金にしても「ご両親が超金持ち」とかでローン返済とか心配する必要なく、
「留学って経験が出来ればいいんです♪」という人は、普通に来ればいい。
持ち前の性格で、わらしべ長者みたいに、何も考えてなくても、色んなものを掴んでいけるひとだっているでしょう。
事情は色々だと思うから、それぞれがそれぞれのMBAを楽しめばいいんじゃないか、と思う。

というわけでこの記事の正しい使い方
これから留学しよう、と言う人、特に既に留学が決まっている方が
「こういう考え方もあるのか、僕/私も頑張ろう!」とポジティブな方向に持っていくのに使う。
変にプレッシャーを感じすぎて、生き方をねじ曲げられるようなことがあるなら、読まなくていいです。
人生色々。MBAもいろんな使い方がある。
これはあくまで一例なので。

というわけで、長い前置きでしたが、前記事の続きです。
前記事は・・・
1. 具体的な自己革新目標を持ち、その中に破壊的な自己革新目標を含める
2. 持続的な目標は複数持ち、目標の「ポートフォリオ」を組み、MBAで得られるリソースの状況に応じて更新する
3.常に自分をUncomfortable Zone(つらいと思う状況)に置く

うわーん、固い文章だったなぁ。今読み返すと・・。
今日のは「持続的な自己革新」の具体的なとこを書きます。

4. ビジネス上、英語で普通にコミュニケーションが出来るようになる

これがMBAに来る大きな目標の一つ、という人は多いと思う。
私もそうだった。
外資系にいて、英語を使うことは多々あったのだが、苦労してたし、限界を感じていた。
何とかしたい、と突破口を探していたのだ。

「普通にコミュニケーションが出来るには、どうなればいいのか?」と考えて、私が実践してたことを3つ書いておく。

1) 英語で専門分野を語れるようになる→教科書は全て英語で読み、授業中は大量に発言する

日本人には、教科書を全部英語で読むのは大変、と日本語訳を輸入して読んでる人を良く見かけるが、
英語で専門分野について話せるようになりたいなら、絶対こういうことはやめた方がいいと思う。

英語で教科書を読むと、(例え今まで日本語で理解してたとしても)
その専門分野について、論理構造が英語のまま頭に叩き込まれ、専門用語も英語で入ってくる。
そうすると、自然と英語で考えられるようになるのだ。

これは授業中に多く発言しよう、と思ってるときも役に立つ。
タダでさえ、英語が分かりにくいのに、専門用語を正しく英語で表現できなかったら、全く以って話が通じない。
でも、英語で読んで、考えておけば、割と発言も出来る。

授業中、多く発言するのも大切で、結局、話すのなんか場数を踏むしかないので、
自分の考えたことを、習った専門知識を使って、解説したりすることで、英語で話す力もついてくるわけ。

2) 英語環境で、チームワークをマネージ・リードできるようになる→ チームでの貢献の量を増やす

MBAでは通常、入学時に多様性を考慮したチームを一つ組まされたりするし、
学校によっては、その後も全ての授業でチーム活動が必須になったりするだろう。

こういうところで、自分の貢献度がチームの人数分の一以上になってる状態を常にキープすること。
英語力が大したことない状態で、これを行うためにはかなりの努力を要する。
例えば、「人よりたくさん調べてくる(もちろん英語で)」とかで貢献度を高められるならそれでもいい。
専門知識があって、その分野を深く理解してる、っていうのでもいい。
チーム全体の議論を有機的にまとめることで価値が発揮できるなら、それでもいい。

貢献度を高めると何がいいかというと、信頼されたり、チームの中での発言力が増し、
責任を持って、チームのメンバーの正確を考えながら、リードする機会も増えてくる。
そうすると、日本語圏でやってきたのと似たような環境が、英語でも到来することになる。

日本人のMBAの多くの人が2年経っても、
「英語環境だと中々リーダーシップを取ってやっていく、ということが出来ない」と言うのを良く見るが、
これは私はそもそも貢献度が低く、チームの信頼が薄くて、そういう状況に持っていけないんじゃないかと思っている。

ネックは貢献度だと思う。
いきなりチームをリードしようとするのではなく、まずは、チームでの貢献度を上げるように、努力をすること。

貢献度を上げるには、プロジェクトの全体感をハッキリ持ち、落としどころを事前に認識しておくこと。
その上で、自分が「多め」にやること。
この辺は、英語圏だって、日本語圏だって、初心者がリーダーシップを取るには同じことだ。

3) 英語圏のビジネスカルチャーを理解して、溶け込めるようになる
→MBAのプロジェクト型授業や、米国企業でインターンなどで、英語で仕事する経験を出来るだけ積む

最近はどのMBAにも、実際の企業にコンサルを行う、というプロジェクト型の授業が増えていると思うから、
こういう機会を活用して実践を踏んでいくのが大切と思う。

例えば、私のスローンの同期の一人は、社費で会社の規約でインターンはしたくても出来なかったから、
プロジェクト型の授業を3期連続で4つも取って、いろんな米国企業と一緒に働く経験を積んでいた。
単に米国企業と働くだけでなく、他の国の学生とコンサルティングのチームを組んでマネージするのも
大きな経験になるだろう。
プロジェクト型の授業は、通常負担が大きいので、いくつもやる学生は珍しく、彼はストイックに頑張っていたと思う。

米国企業でインターンが可能なら、それはまた別の経験になる。
短い期間で、その企業の独特の文化ややり方に適応しつつ、結果を出すのは、相当のストレッチだ。
単なる英語力以上の、文化適応力を身につけることが出来、
これが実際に英語で仕事をするのに大切だと思う。

4) 英語圏の人たちの感覚・文化・習慣を理解する→ネイティブの気持ちになって面白がる

英語力って、発音や文法の正しい英語を話すことはもちろん大事だし、中身があることは当然大切だが、
それよりも、英語圏の文化や習慣などが理解できないために、通じないことが多々ある。

私が心がけていたのは、英語圏ネイティブの人たちが、どのようにものを考えるのか、を理解すること。
彼等が面白い、と思うものを理解して、面白いと思うようになること。
一緒に体験すること。
歴史や文化を勉強して、それについて一緒に語り合うこと。
これを2年間やってるうちに、自然と「英語圏の人たちの感覚」が少しずつわかるようになってきて、
前よりも、コミュニケーションがスムーズに行くようになってきた。

5. 英語圏でお金をもらう仕事経験をする。

前項に似てるんだけど、MBAという場で「練習」するのと、実際に英語を使って仕事をしてお金をもらう経験は全く違う。
やっぱりお金を稼ぐのは、真剣勝負だ。

例えば、私はいま授業のTAをやってるけど、これは色々苦労もあるが、とても勉強になる。
学生からの要求が高いので、最初はそれに応対するのが大変だが、だんだん慣れてくる。
大量にEmailが来るから、読むのも速くなる。
どれも、仕事で、お金をもらってるから、「やらなくてはならない」ので、毎日頑張ってやる。
そうするうちに、いつの間にか色んな能力が身についてるのだ。

インターンも、最近は2-4週間とか短いものもあるし、日本でのインターンだけでなく、
組み合わせで、米国のものもやってみたらいいと思う。
インターンについては、MBA:就活とインターン カテゴリで色々記事を載せてるので、そちらを参考に。

とにかく。
英語を使って、お金を稼ぐ、という経験をするのは、留学しないと中々経験できないことの一つだ。
そこから学ぶことはたくさんあるので、機会があれば絶対にやってみることをオススメ。

6. 2年間で、「T字型」に自分が成長できるように設計する。
必ず専門分野を一つ作り、MBA中の誰にも負けないし、英語でもリードできる、という分野を作る。

MBAに来ると、選択科目を広く浅く取って、どの分野も深めずに卒業する人は割と多い。
ところが、MBAで習うようなマーケティング、ファイナンスなどの知識は、本もたくさん出ており、
そういうGeneralistの価値は低くなっている。
もちろん、MBAを出た人として、基礎知識があることは期待されるので、一応全部カバーするのは大切。
T字の横棒も一応マスターするのは大切。

しかし、それだけじゃ通用しなくなってる、と思う。
このMBA知識がコモディティ化してる今、必ずT字の縦棒と同じ、深く掘り込む分野がないと。
ファイナンスでも、マーケティングでも、何でもいいが、
「この分野では世界中のMBAの人と比べても絶対に負けない」という分野を一つ作ること。
「私はMBAでこの分野をしっかり極めてきました」といえる分野を作る。

ちなみに私の場合は、イノベーション・マネジメント。
この2年間で、この分野の論文・本は集中して、相当読んできたし、考えも進めてきた。
MBA現役学生程度であれば、世界で私を越える人はそうはいないのでは?とかげながら思ってる。
逆に言うと、2年しかないので、一分野に集中しないとここまでのレベルに到達するのは難しかったと思う。

こういう一つに秀でた力があれば、今後のキャリアにも間違えなく役に立つ。

長くなりましたが、こんなもんです。

ここまで書いてきたことが出来れば、私は正直、数千万円の授業料は高くない、と思って来た。
もうすぐ、2年間のMBAが終わろうとしていて、やりきれなかったことはもちろんたくさんあるが、
本当に来てよかった、と思っている。
留学中は、本当に色々苦労したこともたくさんあるし、今まさに苦労してるところだけど、
得られたことの大きさを考えると、「楽しかった」と思える。

今後留学される方が、悔いのない、楽しい留学生活を送られることを、いのっております。

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じゃあMBAを意味あるものにするには?(前半)

2010-05-03 07:09:54 | MBA: MBA授業

以前の記事「今、米国MBAに行く意味はどれだけあるのか」の続きで、
じゃあ、どうやって、MBAに行く意味を高めればいいのか、という話。

最初に言っておくと、MBAをどう活用するかなんて人によって様々だ。
それを、全体を言及できるようムリに一般化すると、無意味な言葉の羅列になってしまうのが、この記事の難しいところだった。
でも、出来るだけVividに(明確に)、具体化もしつつ、皆に当てはまるよう一般化を試みてみた。

自分でも書ききれた気がしないので、上梓するのをためらっていたのだが、
いつまでも寝かしておいても仕方ないので、一応議論のたたき台として出して、
皆に叩いてもらいながら、後で更新していくことにした。
まあ、ブログなわけだし。

というわけで、私が特に大事と思う、6つのポイントを書いてみることにした。
今日はとりあえず最初の3つを書く。

1. 具体的な自己革新目標を持ち、その中に「今の自分を根本的に変える」ような破壊的な自己革新目標を含める

まず、将来自分が何やりたいのか、そのためにMBAという場がどう活用して、現在の自分をどう変革していくべきか、を明確に考え、目標を立てる。

クリステンセンの「破壊的イノベーション」と「持続的イノベーション」ではないが、私は自己革新には二種類あると思う。

一つは、英語力を高めるとか、ファイナンスのマスターになるとか、自分の性格とか根本的に変えなくても割と出来る、「持続的」自己革新。
もう一つは前のエントリに書いたように、将来自分が達成したいことに比べると、根本的に今の自分を変えないといけない、「破壊的」自己革新。

私の場合は「個人の才覚と瞬発力に頼らない自分になる」だったが、
逆に「人に頼らず、個人の力で人を引っ張っていけるようにする個人力をつける」でも、
本人がIt's high time to change...(もう変わんなきゃ潮時でしょ)と思うものなら何でもいいと思う。

まあ、せっかく仕事から離れて、2000万円以上の機会費用を払うことを考えると、
じっくり内省し、将来を考える時間があるし、人間関係でも時間の使い方でも色んな実験が出来るので、
破壊的に自分を変える目標を含めるのが理想的だと思う。

2. 持続的な自己革新目標は複数持ち、目標の「ポートフォリオ」を組み、
MBAで得られるリソースの状況に応じて更新する

それに加えて、それ以外の持続的な自己革新目標も、明確に持っておくべき。
2年間と2000万円の機会費用を投資することを考えると、
確実に何かを得られるように、両立可能な目標は複数持っているほうが良いと思う。

で、2年間という限られた時間を、何を優先させて、どのくらいの時間を使うか、考える。
言ってみれば「目標のポートフォリオ」を組むわけだ。

またMBAに来てから、色んなリソースがあることを知ると思うので、それに応じて、
自分の目標のポートフォリオも少しずつ更新していくのが良いと思う。

例えば、私の場合、優先順位順に、次の具体的な目標があった。

-イノベーションマネジメント分野では、研究の最前線も学び、日本に帰ってから何冊か本が出せるくらいの知識と人脈と考察を深めておく。
全米中のMBAに今いる人と比べても、自分がこの分野なら一番語れる、と思えるくらいになる

-完全英語環境でも、ある程度の規模の組織をリードできるだけの英語コミュニケーション力・理解力をつける。
特に複数のバックグラウンドを持った人の集まる組織で齟齬があったとき「あいつらわかってない」で終わらせず、
双方の考え方の違いを文化、歴史、背景知識を含めて理解し補足し、建設的に全体をリードできるような人になる

-基礎が無かった経済学、ファイナンスの分野で、英語でも業界の人とある程度話し、インサイトが出せるくらいの、一通りの基礎を身につける

-仕事してるときは行けないような旅行をたくさんして、ワインもたくさん飲み、それをきっかけに友達をたくさん作る

具体的に目標を持ったら、MBAの中のどういうリソースを使ってそれを実現するかを考える。
例えば、上の最初の目標は、最初、イノベーション関連の授業を大量に取りつつ、
論文などをたくさん読んで、自分も論文を書くってことかな、くらいにしか思ってなかった。

ところが、MBAで時を過ごすうち、それ以上にリソースがあることを知った。
$100Kビジネスコンテストの主催者が出来る、と知ったときは、授業が忙しいと分かっても飛びついて、
その結果、英語環境でも、自分の弱点は同じであることを知り、コミュニケーションの仕方を学んだ。
先生から、TAをやってみないか、と言われたときは、これはチャンス!と思って受け入れた。
実際に、それをきっかけに先生の弟子や知り合いの研究者をきっかけに、人脈も広がった。
修士論文を書く、という手があることを知り、それもやってみることにした。

得られるリソースによって、達成目標も少し変わることもあると思う。
上の目標は今でも変わらないが、このブログが有名になって、皆様にいただけるフィードバックから
(ネガティブなのも含めて)学ぶことが増え、
「日本語での発信の仕方を学ぶ」というのも、今の私の目標の一つに加わり、時間配分もかわっていった。

逆に「旅行」は、今後もいつでも出来るんだからいいや、と思えるようになり、最近はずっと旅行にも行ってない。

3.常に自分をUncomfortable Zone(つらいと思う状況)に置く

どこのMBAでも最初に習うと思うが、人は「Uncomfortable Zone」に置かれたとき飛躍的に成長する。
勉強が好きな人は、大してつらくもなく勉強を続けることで「持続的な成長」はある程度可能だろう。
しかし、上に書いた「破壊的な自己革新」が起こって大きく成長するのは、「つらい」と思うときなのだ。

つらすぎて燃え尽きてしまっては元も子もないが、「快適」と感じるところよりはストレッチする。
それを2年間意識して続けてる人と、そうでない人は、本当に、2年間で圧倒的に差が出る。
仕事では自然とストレッチさせられるが、学生は楽しようと思えば出来るから。

特に30代とか、割と年いってからMBAに行く人は、このことは明確に心に留めておいたほうがいい。
年をとると、どんな環境でも、自分が快適と思える逃げ場を作るのがうまくなる。
それをやっていたら、破壊的な成長は出来ない。

細かくは書かないが、私はかなり苦労して、自分の行動パターンもずいぶんと変えた。
このブログもそれを助ける一助となったと思う。コメントへの返答など。

自分を変えるとき、成長するとき、必ず「つらい」瞬間が続く。
それを受け入れて、頑張っているうちに、いつの間にか大きく成長するのだ。

持続的な成長でも、短期間に大きく成長しようとしたら、「Uncomfortable zone」に突入するのは必須だ。
例えば私は
英語での発言になれるため、「授業では必ず1時間1回は発言する」というのも課した。
クラスの状況に応じて、達成しないときもあったけど、どんなに予習が間に合ってないときでも、
必ず何か意味のあることが言えるよう、頭をフル回転させて考えた。
楽はしないように心がけた。

人生二度目の修士論文を書くことに決めたのもそうだ。
TAを二つもやり、通常の授業をとりながら、論文を書く、というのが苦行であることは分かっていた。
でも、自分が本を書きたい、と常々思っているけれど、
「自分の考えをブログのような形で何となくではなく、きちんと完成させる」ことが苦手なのは分かっていたので、
敢えてやることにした。

こんなのもある。私の会社の先輩には
「毎週末、必ず同じMBAの学生が集まるバーに行き、ネイティブの学生に5人以上話しかけて、
1時間以上会話を持たせる、を目標に1年間やる」という目標を立てて実践した人がいた。

実際にやってみると分かるが、これは結構きつい。
無視こそされないが、英語のせいで話が進まず、
相手が飲み物を取りに行ってしまう(そして自分から去る)、ということも多々あり、心がめげそうになる。
しかし、その彼はこれを自分に課して、その2年間で相当流暢に英語がしゃべれるようになった

「安心できる快適な場所」に逃げ込まず、自分をUncomfortable zoneに置く。
仕事では常に求められるが、そうではない学生だからこそ、意識してやるのが大切だと思う。

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人が組織のために倫理を犯してしまう時-クリステンセン教授のメッセージ

2010-04-26 03:20:17 | MBA: MBA授業

米国ではゴールドマンサックスの不祥事が連日のように新聞の一面をにぎわせている。
それに関連して、先月、「イノベーションのジレンマ」で有名なクリステンセン教授が、MITで講義をしたときに話していた内容を、忘れないように書いておく。

クリステンセン教授の授業は4回シリーズで行われた。
2時間の長時間授業だが、400人収容のホールが前シリーズに渡って満席で、立ち見も。
イノベーションのジレンマ(Innovator's dilemma)」や続編「イノベーションの解(Innovator's solution)」
に書かれていた内容に加え、2000年代に行われた彼の研究が主な講演内容。

確か3回目の講演で、授業のうち30分を使って教授がした話。
スライドには「Don't Go Jail」と書いてある。
「私のハーバード時代の同級生のうち、3人もが逮捕された。まだ服役中の人もいる。
 一人はインサイダー取引、一人はある大企業での会計不正・・・」

昔から悪人だった、というなら分かる。
でも、どの友人も学生時代からクラスの人たちの信頼が厚く、リーダーシップを取っていた人たちだった。
間違っても不正などしないであろう、と思うような高潔な人たちだった。
そんな人たちが、何故このような事態になるのか。

人は、組織に入り、組織の人間として動いてしまうと、だんだん自分が当たり前に思っていた規律を無くしていく。
最初は、自分や家族の約束や規律から。
そうしてだんだん自分の倫理に関するところまで・・。
一度、その規律を無くしてしまうと、ある意味なし崩しに、人としての最低限の倫理観にまで突入してしまう。
だから、どんな状況でも、自分の規律を守ることから始めるのは大切なのだ。
多くの場合、自分がそういう行動に出ても、実は組織はちゃんと回ったりするのだ。

そうして、クリステンセン教授の大学時代と、
大手コンサルティングファームに勤めていた時代の話を一つずつシェアしてくれた。

クリステンセン教授は、大学時代はイギリスのオックスフォードの経済学部だったが、
背の高い彼は(190センチ以上はある)、大学バスケットボールのチームで主要選手として活躍していたそうだ。
ある年、全英大学トーナメントでチームが勝ち進み、ついに宿敵の大学と準決勝で戦うことになった。
チームにとっては、ここ一番の大事な試合だ。
ところが、その試合開催が、日曜になったのだという。

クリステンセン教授は宗教上の理由で、小さいときに神に「日曜日は安息を取る」ことを誓っていた。
日曜に球技を行うことは、自分がずっと守ってきた規律を破ることになる。

でも、ここは大事な試合だ。
コーチも、チームもみんな自分の活躍に期待している。
この期待を裏切ることは、自分の規律を破ることより大きなことなんじゃないか?
そう思って、試合先のホテルの部屋で悶々と悩んだ。

悩んだ末、コーチに相談に行くと、コーチは
「そうか。良く分かるが、君の貢献が無くなったら、チームは崩壊だ。
 君は非常に優秀な選手で、前回の試合だって君無しには進めなかった。
 ちゃんと理由があるんだから、この一度だけ規律を破るのを、神様も許してくれるよ」
という。

またホテルの部屋に帰り、一人悩む。
「今回だけ破るっていうのもアリなんじゃないか?あれだけみんなが期待してるんだから。」

1日近く悩んだ後、
「長い人生の中で、今回よりも大切なことが日曜日に起こる可能性はゼロじゃない。
 もし今回規律を破ってしまったら、またそんな瞬間が来たとき、
 「あの時よりも、今回のほうがずっと重要だ」と結論して、また破ることになるだろう。
 だから今破ったら、なし崩しになる。やめよう。コーチとチームにちゃんと言おう」
という結論に至り、みんなに話にいった。

結局、補欠要員がチームに入り、チームは無事勝ち進んだ。
「実は自分なんかいなくても良かったのでは?」という一抹の不安を覚えたが、
チーム全体が自分を求めてる時に、自分が規律を守っても、組織は回るんだ、という自信が持てた。

その後、大手コンサルティングファームで働くようになって、「どうしても日曜に働かなくては」
という事態になったときがあった。
そのときも、結局周囲を説得して、無事回避することが出来たのだそうだ。
もし、大学時代に自分が戒律を破っていたら、ここでも同じように破っていたかもしれない、という。

「日曜に安息を取る」などというのは、見る人が見れば、下らない規律に思えるかもしれない。
何故そんなもののために、組織全体の利益を損ねるのか?と言う人は必ずいる。
同様に下らないと見えるかもしれないものとして、「土曜は妻と過ごす」というのもあるだろう。

でも「全ての曜日で働けない」と言ってるわけじゃない。
ただの一週間に一度だけ、(妻との約束も入れると2度だけ)、働けない日がある。
本当にその日に働かないと、組織は回らないのだろうか?
そして、蓋を開けてみると、そんなことはないのだ。

この話は考えさせられた。
インサイダーや不正会計などの組織犯罪に至ってしまうのも全く同じ原理なのだ。
自分の利益のためだけだったら、彼等だって不正を起こしたりはしない。
追い込まれた状況で、「この情報を話すことが、この会社を救うんだ。顧客のためになるんだ。」
と言われ、自分の倫理を犯してしまう。
或いは、周囲のみんながやってるのに、自分だけやらないわけには行かない、という理由で、
自分の倫理観を破ってしまう。

でも、そのときに考えるべき。
「自分がこの倫理観を犯さないと、本当に組織は回らないだろうか?」
「本当に自分もやらないと、ダメになっちゃうだろうか?」
そして、そんなことは絶対に無いのだ。

それから、自分が「やらない」と決断したことを、きちんと組織に説明するのも大切だと思う。
個人的な倫理観で「やらない」と決めたことを、ちゃんと伝えて、承認してもらう。

MBAにいるような私たち若い学生は、組織の下っ端か、せいぜい小さなベンチャーの社長くらいなので、
20年後に、組織を守るために自分の倫理を破るような行為を求められることがすぐには想像できない。

でも、クリステンセン教授が言ったように、それは小さなことでも同じことなのだ。
どんなに回りに期待され、周りが平気でやっていたとしても、
自分が小さな頃から心に決めてるようなことを破らない、とか。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
クレイトン・クリステンセン,玉田 俊平太
翔泳社


最終講義の後、有志で取った写真。
クリステンセン教授は中央後ろ。

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GE ジェフ・イメルト会長に会う (15.398 CEO Perspective)

2010-03-04 13:17:03 | MBA: MBA授業

ご無沙汰です。
何と、10日近くも書いてなかったですね。
旅行行ってたとかではなく、ボストンにいたけど、とても忙しかったのでした。

その間に、GEのJeff Immelt氏が講演に来たり、IBMの上級研究員が講演したり、
「サマーウォーズ」の細田守さんが来たり、更に私自身の講演がボストンにてあったり。
10日も日本語を書いてないと、書くのが下手になるので、読みにくいかもだけど、頑張って書くです。

まず生イメルトに会ってきた話から。
前にコストコの記事で紹介した、「CEO Perspective」という授業のゲスト講演者としてスローンにやってきた。
アメリカでは(日本でも?)経営の神様とされてるジャック・ウェルチの後継者。
今でこそ、「ウェルチとは別の意味ですごい経営者」と認められてるけど、就任初期(2001年9月)は、
就任翌日に起こったテロのせいで保険事業が赤字、航空機エンジン事業が不振などで株価が急落。
信頼を回復するのに3年近くかかり、かなりの辛酸をなめてしまったお方である。

ちなみにGEというのは、General Electric の略。
発電用タービンや航空機エンジンなど重電分野を中心に、60以上の事業を持っている企業だ。
世界最大級の事業規模(約20兆円。トヨタよりちょっと小さい)
前に電球の記事で書いたように、もともとエジソンが発明した電球で独占的地位を築いて儲けた企業であり、
それを原資に、重電分野に次々に進出していった。

近年は、企業買収や撤退が盛ん。
医療機器も最近は有名だが、これも企業買収を軸に拡大したもの。
それも、ひとつの分野で圧倒的な優位性が保てなければ、すぐに撤退する。
成長分野で、圧倒的優位が持てる可能性がある分野は、買収して進出する。
こういう企業を、金融投資でいろんな種類の商品を分散して持つのを「ポートフォリオ」というのになぞらえて、「ポートフォリオ企業」とよんだりする。

この方です(APより転載)。

教室に入ってきたとき、その存在感の大きさに圧倒される。
背も高いし、肩幅も広く、更にその周りにオーラが・・って感じの人だ。

で、講演はというと、どうやら全く話すネタとかは用意してこなかったようである。
紹介されて、軽く話した後、学生に向かって
「今後10年の世界では何が重要になると思うか?」と問うた。
「ビジネススクールなんだからそのくらい答えられなきゃダメだろう」とけしかけて、学生に手を上げさせて答えさせる。
更に、
「その中でGEにとって重要な変化は何か?」
「GEはその変化に対してどのように応えていくべきか?」
という問いに答えさせ、それに対してちょっとコメントするだけで、40分近く持たせてしまった。

この3つはまさに重要な質問で、すぐに出てくる辺りは流石だが、それで持たせちゃうってどうよ、と私は正直残念だった。
まあCEOは忙しいのだから仕方が無い。
特に世界で最大の企業のひとつで、世界中を飛び回っているGEのCEO、来てくれただけ有難う、だ。
思えば、コストコのCEOは、プレゼン資料を用意してきたのはとてもエライと思った。
もっとも実際に作ってるのはCEO室の若いスタッフとかなんだろうけど。
GEだって、作ろうと思えばそんなスタッフいくらでもいるはずだが、そこにアテンションを置かないって事なんだろう。

というわけで、最初の40分でジェフ・イメルト氏への過大なる期待が一瞬はがれた。
しかし、残りの80分の質疑応答でのイメルト氏の答えは、非常に面白くて、とても刺激された。
ドラマチックではないけれど、なるほど、流石だと思わせるものが多かった。

今日は文章力に全く自信が無いので箇条書きで。

・アメリカはひどい国なので変わるべきとは思う。しかし企業はもう国の枠なんかに縛られる必要は無い。

すごい、ここまで言っちゃうのか、というのに感銘を受けた。
どの国でもそうだが、アメリカでも、行政や法律、教育、医療といった部分は非常に非効率で、経済界の足をひっぱっていることが多い。
「根本的に変えなきゃこの国はダメになる」と思ってる人は多い。
アメリカを日本に置き換えたら、日本人も同じ感覚じゃなかろうか。

だけど、GEは既に事業収益の60%が海外、従業員も60%が海外にいる。
だから、べつにGEはアメリカの企業じゃないので、そんなダメな国と一緒に潰れるつもりは無い、
企業が国の枠に縛られる必要は全く無い、というメッセージだった。

・GEの最大の敵は韓国政府とサルコジだ。

これは非常に面白いと思った。
企業でGEの敵になるようなところはほとんどない、無敵だ、と言うことだ。
なぜなら、GEの事業運営の方針として、強大な敵がいるような分野からは撤退するし、
そうでないところは次々に拡大を進めて、無敵というわけ。
まさにポートフォリオ経営の奥義。

ところが、原子力事業のように、政策圧力をかけてくる分野は別だ。
この場合、国が自国企業を守ろうとして様々な政策で圧力をかけてくる、韓国やフランスが敵になる、というわけだ。

ちなみに最大の顧客はTEPCO(東京電力)だそうです。
Tokyo Electronics ...の略だ、と訳していたけど、GEの最大の顧客が日本企業だとすぐに分かったMBA生は少ないんだろうな・・。

・IBMはすごい企業だと思う。

IBMについて「ひとつの事業だけであれだけ稼げる産業を作り、維持しているのはすごい」と言っていた。
60以上の事業を抱えるGEのCEOは、そういうものの見方をするのか~、と新鮮だった。
まあ最近ITの歴史を勉強してても思うけど、「ソフトウェア」というものにしても、PCにしても、
現在のIT産業を支える多くのものが、IBMから派生して出てきたことを考えると、
IBM無しでは今の世の中はありえないわけで・・・。

ちなみに尊敬するCEOはCISCOのチェンバース氏だそうだ。

・今後は素材産業が面白い

一週間も前なので、どういう質問に対してこの答えが出てきたか忘れたが、
今後、面白くなる産業として、素材産業に着目しているという。

GEが本当に素材産業に参入するのかは不明だが、だとしたらとても面白い。
GEは、最初に成功した電球産業からして「システム全体」を売ることで儲けている企業であり、今でもそれを得意としている。
電球も、電球だけでなくヒューズとか電線とかソケットとか全体のシステムを作って売っていた。
発電タービンだって成功したのは、ただのタービン売りから脱したことが大きいし、
医療機器が成功しているのだって、サービスと絡めた全部売りをしているのが大きいと思う。
まあ、色んな解釈はあると思うが、私の見立てでは、GEはポートフォリオ経営なのが肝なのではなく、
システム全体を構築し、売る、というところが特徴的だと思っている。

そのGEが、素材産業に参入するなんてことがあるのか?
するとしたらどうやって参入するのか?

素材産業には日本が世界で独占シェアをとってる分野が多い。
東レとか帝人とか信越化学とか。
「技術で勝てる」部分が多いので、日本人の感覚にもあってるのかもしれない。

「着目してる」と言っているだけなので、参入に興味があると言ってるわけではないが、
それにしても素材産業をどう活用しようとしているのかが気になる。

・CEOとしての時間の30%は人材育成に、次の20-30%は世界中の変化の最先端の情報を入れるのにつかっている

学生からの最後の質問に、私が当てられたので、こんな質問をしてみた。
「GEは地域的にも分野的にも非常に幅広くカバーしている企業であり、CEOとして、その全ての最先端を理解し、マネージするのは難しいことだと思う。
CEOとして企業運営する上で、最も鍵になるのは何か?
CEOとして限られた時間のなかで、何に時間を優先して振り分けているのか?」

英語力が余り無いので、この程度の質問になってしまったが、イメルト氏ははっきり理解してくれたようで、ちゃんと答えてくれた。
学生の中には私が聞いた質問の真意が分からなくて、「何だそれ?」と思った人もいるようだ。
私の中では、これは「CEOにしか聞けない、しなければならない質問」だったのだが。
(他の質問はCEOじゃなくても聞ける)

CEOも普通に家族がいたりして、24時間365日しかない人間である。
ところが、各事業部のトップから次々にミーティングの要請が入り、出張の要請が入り、講演や取材の要請が入り・・・
その上、誰もお願いはしないが、企業成長のためにやるべきことがたくさんある。
本当にこのミーティングに出るのは意味があるのか?
この講演に行くのはイミがあるのか?
数ある要請の中から、恐らく90%以上を断って、重要な10%を選び出し、かなり明示的に優先順位を考えて、時間配分しなければ、企業を路頭に迷わせることになるだろう。
コンサルタントとして、大企業のCEOと直接お仕事をした経験があるが、彼らが本当に頭の中で心底悩んでいる問題のひとつがこれだった。

イメルト氏によると、彼が最も時間を費やしているのは人材育成であり、次は正しい判断力をするための情報収集だという。
一週間で世界中の新聞・雑誌を40誌購読しているのだそうだ。
つまり、自分の時間の60%近くは、誰にも要請されないが、CEOとして10年後のGEを正しい方向に導いていくための作業に費やしているということだ。

以上。
思い出した順に書き連ねていったけれど、なるほどと思わせることのおおい、かめばかむほど味が出る講演だった。
やっぱり、こういう超大企業の有名CEOに直接会って、話せる、というのは学ぶものがあるものなのだな、と思った。

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100年前の技術から現代への教訓を学ぶ(15.365 Disruptive Technology)

2010-02-21 15:00:39 | MBA: MBA授業

今日は私がTAをやっている、Utterback先生のDisruptive Technologyの授業を紹介。
授業では、イノベーションがどのように起こり、普及し、進化していくか、の普遍的な基本法則を学ぶ。
現代技術だけじゃなく、電球、ガラス工業、氷産業など、
ボストン発の歴史的な技術を振り返って学ぶんだけど、
昔の技術からの学びが、現代の技術にも通じるところがたくさんあって、非常に面白い。

先週は、白熱電球の技術を振り返り、技術が進化や普及の過程に現代の技術との共通点を学び、
現代の技術に生かせる教訓を学ぶ。


当時の電球を見せて、電球の歴史を解説するUtterback先生。
右側のスクリーンに写ってるのは、テレコンで授業に参加してる学生。

1) 技術力だけでは勝てない。業界や消費者の動き方を変えないのは新技術普及の鍵

白熱電球を発明して、最初に発明した普及させたのはご存知エジソン。
1880年代の半ばの話だ。
ところがこの電球ってのは、発明したからってすぐ評価されて、わーって普及したわけではない。

当時、人々は長いこと、鯨油や灯油を燃やして燈すランプを使っていた。
それが巨大な天然ガス会社が、ガスのインフラを整備し、ガス灯に置き換わろうとしていた。
公共の施設だけでなく、家庭でもガス灯が使われ始めていた。
価格も、それまで使っていた鯨油や灯油に比べれば安いし、明るいから、人々はどんどんガス灯に移行していた。

白熱電球が発明されたのは、まさにこの頃なのだ。
ちょうど次世代DVDは、HD-DVDかBlurayかと争われていたように、、
次世代ランプは、ガスか電気かという争いが行われたわけである。
エジソンの一番の敵は、ガス会社だった。

この戦いに、エジソンは、消費者や業者の動きを出来るだけ変えないで普及させる方法をもって望んだ。

例えば、電球のソケットって、灯油機器のソケットにそっくり。
これはエジソンが、灯油ランプを使ってた人々が、同じ感覚でランプの交換が出来るように工夫したものだ、と言われる

それに、灯油ランプと同じ形であれば、それまで灯油ランプを作っていた人たちに、電球を作ってもらうことが可能だ。
電球が普及しても、灯油ランプを作っていた人たちは失業せずにすむだろう。
灯油ランプ業界団体から、強い反対を受けずに技術をサポートしてもらうことが出来るだろう。

このように、消費者やサプライヤーなど、バリューチェーンの自分以外のプレーヤーの動き方を変えない工夫を凝らす、というのは技術を普及させる上で重要なポイントだ。

これは現代の技術でも同じことが言える。(注:追記)
例えば半導体では、長いことCISCと呼ばれる論理演算方式が使われていたが、半導体の規模が大きくなるにつれ、複雑性が増してきた。
そこでRISCと呼ばれる、簡略化された演算方式の半導体が開発された。
これは技術的には非常に優れたものだった。

ところが、RISCは、CISCと異なる言語のため、顧客は新しい言語を学ばなければRISCが使えない。
サプライヤーもRISCには新しい設計装置や製造装置が必要になり、新たな投資が必要だった。
CPUの周囲のチップなどを提供してた会社も、RISCに併せた対応チップの開発が必要になった。
そんなわけで、RISCによって、バリューチェーンの全てのプレーヤーが今までのCISCと異なる動き方と投資を要求されたので、結局RISCは限定的なところでしか普及しなかった。

このように、新技術によって、バリューチェーンの他のプレーヤーの負荷が出来るだけ少ないことは、技術普及に非常に大切な要素なのだ。

(追記)「はてな」の一部の人がCISC/RISCの話にこだわってるみたいなんで、続きを書いておく。
その後、演算容量が増えるにつれ、チップメーカーにとってはCISCは非常に非効率になってきた。
で、どうしたかというと、Intelが「CISCの皮をかぶせたけど中身はRISC」というチップを開発して普及させたのだ。
つまり、中身はRISCで効率的に動くけど、サプライヤーや顧客など周囲の人たちが、CISCのときと動き方を変えなくてすむようにしたのだ。
この話も、如何にバリューチェーンの他のプレーヤーの負荷が少ないことが重要かを物語っている。

(追記:CISC/RISCの例は、授業でカバーしたものではなく、私が以下の文献を元に書き加えました。
Allan Afuah, Nik Bahman (1995) "The Hypercube of Innovation" Reserach Policy
詳しくはこの論文を参照してください。
こちらにはバリューチェーンの他のプレーヤーの負荷を減らすことが技術普及にどのような影響を与えるかについて、スパコン、電気自動車など他の例も載ってます)

2)既存技術は新技術が出てきたとき、大幅に性能アップする

エジソンが電球を商用化したときに使っていたのは、炭のフィラメントだった。
特に日本産の竹を燃やして作った炭が、最も耐久時間が長かった、というのは有名な話だ。
炭のフィラメントのおかげで、エジソンの作った会社(現在のGE)は大きなシェアを獲得していた。
ところがここに、強力な「次世代技術」が現れる。

1910年、ヨーロッパのガス会社がタングステンのフィラメントを発明した。
タングステンの方が、炭よりもずっと明るく、長時間持続することが分かってきた。

それがこれ。

ところが、頑固なエジソンは、炭のフィラメントにこだわった。
炭を使って、タングステンよりも明るく、長時間持続するフィラメントを作ろうと研究開発を進めたのである。

その結果、うまれたのがこちらの写真の左側にある、炭のフィラメント。
右側のタングステンより、より明るいのが分かると思う。

Sカーブでは、ひとつの技術が限界を迎え、新技術の性能がだんだん上がり、旧技術のパフォーマンスを超える、というのが典型パターンである。

ところが実際には、新技術に追い立てられた旧技術は、新技術よりも高いパフォーマンスを見せたりするのである。

この「旧技術プレーヤーによるあがき」も現在のいろんな技術分野で見られる。
新技術が出てくることで、旧来の技術の性能は圧倒的に進化したりするのだ。
大体、旧技術を持ってるプレーヤーの方が大企業で、たくさん投資できるので、進化も大きくなる。
新規プレーヤーは常に、この旧技術のあがきを覚悟しておく必要がある、と言う話。

また、普通の技術論などの授業では、よく技術はSカーブの形で進化する、と習うが、
実際の技術のパフォーマンスメジャーを見てみると、Sカーブに沿わない形で進化する技術はたくさんある。
Sカーブは概念的には正しいが、ちゃんとみると反例もたくさんあるという話。

3) 技術以外の要素が大切。最終的には技術でなく、システム・アーキテクチャ管理力で勝つ

タングステンに追い立てられて、劇的な進化をとげたエジソンの炭のフィラメントも、結局技術的限界を迎える。
長期間耐久性のあるタングステンに勝つことは、どうしても出来なかったのだ。
GEの炭のフィラメントは、タングステンフィラメントにとって変わられていった。
それで、GEも遅らばせながら、タングステンフィラメントの開発・販売に着手する。

ところが、技術で負けたGEは、シェアを落とすことなく、電球事業で他社に勝ち続ける。
何故か?

それは、GEは、電球だけでなく、電球ソケットや電線やヒューズといった、システム全体を提供できる会社だったからだ。
それに長年のトップシェアのおかげで、GE系列の電気屋さんがたくさんあった。
タングステンフィラメントを開発した企業は、耐久時間や明るさ、という技術的にはGEより優れていたが、
人々はそういう技術力より、「GEにお願いすれば全て整う」という理由でGEを選んだのだ。

要素技術ではなく、アーキテクチャを支配し、システム全体を提供する力が重要、というのは現代のどの技術にも言える。
例えば、マイクロソフトのWindows OSは、技術的にはAppleのマッキントッシュに劣っていたかもしれないが、
Windowsのほうが対応アプリケーションが豊富だったなどの理由で、人々はWindowsを選んだりした。
あるいは、インテルよりNECの半導体の方が技術的には優れていたかもしれないが、
PC全体のアーキテクチャを支配し、他の要素との整合性が高かったインテルが顧客に選ばれた、など。

(追記:こちらの事例も他の論文などを参考に、私が追加しました)


真剣に授業を聞く学生たち。30代、40代の学生も多い。

以上、白熱電球なんて100年も前の技術から、現代の技術にも生かせる教訓が導き出せる、という話でした。
まとめておくと
1) 業界や顧客などの動き方を出来るだけ変えない工夫は、新技術普及の鍵
2) 新技術が出てくると、旧技術は圧倒的な進化を遂げたりするから、新技術は覚悟しておくべき。
 あとSカーブは概念的には正しいが、全ての技術がそういうTrajectoryを経るわけではない。
3) 技術力より、システムの総合力やアーキテクチャーの管理力が、顧客に選ばれる鍵

ということでした。

白熱電球の歴史については下記の先生の本にも詳しくかかれてるのでご参考まで。

Mastering the Dynamics of Innovation: How Companies Can Seize Opportunities in the Face of Technological Change

Harvard Business School Pr
James M. Utterback

(画像をクリックするとAmazonのページに行きます)

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一国で起きた通貨危機は何故他国に伝染するのか (15.018 Global-)

2010-02-16 12:39:27 | MBA: MBA授業

元大統領経済政策アドバイザーのKristin Forbesが教える、マクロ経済学のクラスが面白い。
過去20年に各国で起こった経済危機を、開放マクロ経済学の考え方で一つ一つ紐解いていく授業。

先週のクラスでは、アジア経済危機の原因と、そもそも一国で起きる経済危機がどうして他国に甚大な影響を及ぼすまでになるのか、という話をやった。
後半の通貨危機の伝染(Contagion)の話が面白いので、
今回の米金融危機と、いま連日のように話題になってるギリシャの経済危機を横目に見ながら、ちょっとまとめてみる。

経済危機が他国に伝染する経路は主に5つある。

1)The Competitiveness effect (競争力効果)

これは、経済危機によってその国の通貨価値が下がり、その国の競争力が上がってしまうことで、他国の産業が影響を受ける効果。
製造業などを主とする国がこの影響を与えやすいし、受けやすい。

一瞬耳を疑うかもしれないが、通貨価値が落ちると、その国のものが安くなるので、競争力が上がる。
例えば円安になると他国から見て日本で生産したものが安くなるので、日本のものがより売れるようになる。

これの効果が実際に見られたのは1997年の韓国の経済危機による大幅な通貨下落。
ウォンが一気に安くなってしまったため、半導体などの韓国製品の価格競争力が上がり、日本や台湾の製造業の業績を落としたと言われている。
具体的にはDRAMの国際価格が一気に下がり、特に日本メーカーのシェア後退に拍車をかけた。

2) Income effect (収入効果)

これもIncomeを収入と訳すのが正しいのか知らんけど、危機を起こした国が経済大国だった場合、その国に輸出している国に甚大な悪影響を起こす、というもの。
例えば、今回の米金融危機の場合は、米国の消費が低迷したため、日本の車メーカーや家電メーカーが甚大な影響を受けたのは記憶に新しい。

この効果も1)と同様、数ヶ月単位の時間をかけてじわじわと他国に伝染する。

3) Credit Crunch (金融緊縮)

これは通貨危機を起こした国がやはり経済大国で、他国に大量に投資していた場合、
危機の際投資額が圧倒的に減るため、それまで投資を受けていた国が甚大な影響を受けるというもの。

Kristin Forbesの解説によると、1990年代初めに日本のバブルが崩壊したときがこれに当たるという。
それまで日本の銀行が持っていた米国債や近隣アジア諸国債権を、どんどん手放したため、米国はじめ、周りの国々が影響を受けたのだとか。

最近の例だと、米金融危機で、米国からの諸外国への株式・債権投資が圧倒的に減ったので、
特に米国の機関投資家で持っていたような中南米のマーケットは甚大な影響を受けた。

4) The Forced Portfolio Recomposition (強制ポートフォリオ矯正)

ますます和訳が怪しくなってきた・・。
金融機関や機関投資家は、一定のリスク基準を満たすように、各国の株式・債券を組み合わせて投資している。
ところが、ある国で経済危機がおきて、その国の債権や株式のリスクが高くなると、
このリスク基準を満たすために、他のリスクが高い国のものを手放す必要が出て来る。
そのため、手放された国が大きな影響を受ける、ということ。

例えば、米金融危機の際、米国や欧州の投資家が保有していたサブプライム関連の金融投資のリスクが上がってしまったわけだが、そのために、中南米や東ヨーロッパのリスク債を手放す必要が出てきた。
このために、中南米や東欧のマーケットは甚大な影響を受けた。

過去に遡ると、1998年のロシア危機の際、ロシア関連の投資のリスク基準が軒並み下がったので、
それを保有していた米国の投資機関が、同じくリスクの高い中南米の投資比率を下げないとならなくなってしまった。
そのために、ロシアの経済危機が、中南米にまで伝播してしまった、という。

つい直近のギリシャの危機でも、この効果は見られた。
ギリシャの債権のリスク度が急に上がってしまったため、
それを保有していた欧州の金融機関は、リスク基準を満たすため、リスクが高いほかの国の債権-具体的にはポルトガルなど-を手放す必要がでてきて、早速ポルトガルに伝播している。

1)や2)の効果に比べてこの効果が波及する速度は早く、1日~1週間程度である。

5)The wake-up call

もはや和訳なし。
要は、ある国で経済危機が起こったとき、その国と同じような経済構造や財務構造を持つ国も、実はやばいんじゃないか、と思われて価値が下がること。

この波及効果はどの金融危機でも結構起こっている。
例えばアジア危機の時は、韓国の銀行システムが弱いのが問題、と分かったとたん、
「他のアジアの国の銀行システムも実は同じようにやばいんじゃないのか?」となって、他の国の債券や株式も売られてしまった。

直近の米金融危機のときも、サブプライムを大量保有する米国の投資銀行がやばい、と分かったとたん、
同様にサブプライム債を保有する欧州の銀行までターゲットになった。

あるいは先週のギリシャも、周辺国のブルガリアとかハンガリー、ルーマニアなども「ギリシャと同じようにやばいんじゃないか」と思われて、軒並み債権が売られた。
統一通貨のユーロ自体も売られて120円程度まで下がってしまったが、これも一種のWake-up Callと言える。
要は、Euro圏全体がヤバイと思われているのだ。
(通貨が異なる英国やアイルランドに波及して無いことを見ると通貨のWake up callと言える)

この効果も4)と同様、短期間で、1日~1週間の単位で影響がでる。

以上、経済危機が他国に伝播する5つの主な経路でした。
こういうのを知っていると、今回のギリシャみたいなケースがあったときに、あ、これは4) Portfolio と 5) Wake-up call の効果で経済危機が伝染してるんだな、と理解できてニュースが面白くなる。
いや、伝染してる人たちには全く面白くない話だとは思うが・・・

参考文献)Kristin Forbes (2000), "How Do Currency Crises Spread Internationally?" Corporate Finance Review, 2000, Nov/Dec

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急成長の米小売、コストコ社長に会う(15.398 CEO Perspective)

2010-02-05 09:37:32 | MBA: MBA授業

今学期とってる授業のひとつに、CEO Perspectiveというのがある。
これは著名なグローバル企業のCEOを招いて講演してもらう、という授業で、
今後GEのイメルト氏や、SAPやフォードの社長が来る予定。

当然学生にも大人気。
教室は150席全て埋まり、階段に座ったり立ち見が出るほどの盛況だった。

初回の昨日は、アメリカでは急成長の小売業、コストコJim Sinegal氏。

コストコは日本にも進出してるので、知ってる方も多いかもだが、倉庫型の店舗に、大容量の食料品や日用品が積んであるような会員制スーパー。
(私が西海岸にいたときにCostCoにいった時の記事はこちら
ちゃんとしたナショナルブランドが、その辺のスーパーより圧倒的に安い値段で売っている、ということで顧客を集め、大成功したリテーラーだ。
(例えばコーラはこの前決裂する前までは、コカコーラのみの扱いだったし、
 男物ワイシャツはブルックス・ブラザーズ、ジーンズはリーバイスをそろえている。)

1983年に、倉庫を改造した店舗で、卸を中抜きして消費者に直接販売するモデルを開始。

それが、2009年の売上げは米国の小売ではウォルマート、クローガーについで第三位になったそうだ。
(ドラッグストアのCVSを入れると4位)
2004年頃は、ホームデポとかターゲット、Walgreen、Safewayなどが上位にいたはず。
いつのまにか、それらを抜かして急成長していたとは!

そんなコストコを一代で成長させたJim Sinegal氏は、Forbes100のグローバル大企業社長というより、
中西部の白人のおっちゃん風の、小柄で朴訥な感じの人だった。
(本人はピッツバーグのご出身)


(写真のスライドは、1999年に日本に進出したときの写真)

結論からいうと、小難しいことばかり言うMBAにはちょうどいい刺激の人だった。
たった27年で、ひとつの倉庫を売上げ7兆円の大企業にまで成長させた社長とはこんな人なのか。

以下、とても印象的だったことを、メモ書き風にまとめておく。

・すごくシンプルにものを考える人だった
一時間の講演は、1983年の創業以来、いつ何をしてきたか、という紹介だけだった。
経営哲学とか、ましてやわけわからんフレームワークとかを持ち出すような人ではなかった。

学生が難しい質問をしても、シンプルに答えが返って来る。
こちらが難しく考えてるのがアホみたいに思える人だった。

・企業理念もすごくシンプル
「品質の高いものを、出来るだけ手間を省くことで安く売る」を徹底している。
それを世界中で展開してる。

・とはいえ小売業のローカライズはやっぱり大変。
「俺の息子(東アジア担当)は日本に12年住んで、はじめて日本のビジネスを成功と言えるまで持っていけた」

質問タイムのとき、私も一応質問してみた。
曰く「ウォルマートやカルフールなど他のグローバルな小売業は、東アジアに進出してことごとく失敗してるが、コストコは韓国でも日本でも台湾でも割と成功している。違いは何だと思うか?」

彼の答えは「他は知らないが、自分たちは米国と同じことをやってる。30%以上の品は米国と同じブランドを入れているし、店舗の仕組みも同じ」
というものだったが、確かにそうかもしれないが、ある程度のカスタマイズは国ごとに必要なはず。

それに対して、「とはいっても他の国で事業を成功させるのは大変」だ、という上記コメント。
米国から指示するんじゃなく「12年日本に住んだ」というのが、一言でその大変さを表しててすごいと思ったね。

少し付け加えると、日本でウォルマートやカルフールが失敗したのは、最も競争が激しいセグメントに突っ込んでしまったから、というのもある。
一方、後述するように、コストコが狙った位置づけは、日本では誰もやってない、無競争なセグメントだった、という戦略の問題だった、と私は見ている。

と私が考えることを、このおっちゃん(失礼)は感覚的にシンプルに分かってる感じであった。

・顧客満足度を上げるには、顧客の期待値をコントロールする
「カスタマーサービスを提供して無いのに、顧客満足度カスタマーサービス部門で一位」なのだそうだ。
要は消費者は、コストコは倉庫だと思ってるから、サービスなんて最初から何も期待してない。
それなのに、店員が思ったより親切だから、カスタマーサービスで満足するのだ。

かなり逆説的ではあるが、相手の満足度を上げるには、相手の期待値がこちらの提供できるものより下げておくのは常に大切という話。

・品数は多いが、一品目のブランド数を絞ることで、サプライヤーへの強い交渉力(Bargaining power)を維持
例えば朝食シリアル。
シリアルを朝食に食べるのが当たり前の米国では、
スーパーに行くと、4,5メーカー、40-50ブランドくらい取り揃えてるのが普通。
ところがCostCoでは、味の種類ごとに一種類ずつ、計12ブランドしか入れてないんだそうだ。

ミネラルウォーターは一種類。
トイレットペーパーは2種類。
でもって、品質やブランドの高いものだけを入れている。

どういうことかというと、コストコは安いことで顧客を引きつけてるので、品数そろえなくても顧客は来る。
コストコがブランドを絞ると、サプライヤーは、コストコに入れてもらうために色々努力する。
よってコストコはサプライヤーへの強い交渉力を維持することが出来る。

下手にブランド数を増やすと、場所がとられるだけでなく、選ぶのがコストコでなく消費者に移ってしまうから、バーゲニングパワーを失ってしまうのだ。

という長ったらしい解説は私がつけたものであって、Jim Sinegal氏本人は、「一品目のブランド数は絞る」としか言わないのだった。
あくまでシンプル。

・「品質の高いものを安く売る」という明確なバリュープロポジション-まさにブルーオーシャン。
これも私による解説で恐縮だが、それまで小売業には、コストコみたいな位置づけの企業はなかった。
コストコに比べると、ウォルマートは品質の低いものを安く売ってるだけだし、Safewayは高いものを高く売ってるだけだ。
コストコは、従業員とかの手間を省いて、大容量で売る、ということで、高いものを安く売る。
いわば、誰もいない市場セグメントに入ったので無競争で、しかもそれがボリュームゾーンだった、というわけだ。
それが、コストコの一番の勝因だと私は思う。

あー、なんか、彼がシンプルに考えてることを、こんなに長ったらしく解説してる自分がアホみたいに思えてきたよ。
従業員15万人のグローバル企業を率いるためにはこの「シンプルさ」が必要なんだな。
これが一番の学びだった気もする。

(お願い)この記事の引用は構いませんが、全文転載は避けてください。
MBAの授業なので権利問題がややこしくなるからです。よろしくお願いします。

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独占企業の方が、研究開発は盛んになる (15.013 Industrial Economics)

2009-12-18 10:38:29 | MBA: MBA授業

このブログでも何度も取り上げてきた、Pindyck先生の産業経済学だが、
個人的に最も面白く、考えさせられたのは、最後の授業のこのコメントだった。

「一社独占の産業と、競争の激しい産業では、どちらが研究開発への投資がなされ、開発が盛んになると思うか?」
この問いに対して、クラスの9割の学生が、「競争が激しい方が開発が進む」と答えたが、先生の答えはNoだった。

実は、独占企業の方が、研究開発により多くのお金が投資し、その結果、技術開発も進む。」

これは一瞬、直感に反するよね。
独占企業は、競争がないのだから、わざわざ研究開発に投資する動機に乏しいんじゃないか、と思う。
逆に競争が激しいほど、研究開発に投資して、他社を先んじようとするのではないか、と直感的には思う。

ところが、歴史を見ても、研究開発により投資して来たのは独占企業なのだ。

実際、1970年代から世界の研究開発を引っ張ってきたのは、全て独占企業だった
例えば、アメリカの電話産業を独占していた、AT&T(ベル研)。
メインフレーム市場を独占していた、IBM。
カメラフィルム市場を独占していた、Kodak。
コピー機市場を独占していた、Xerox (Parc)。
こういったところは、独占時代はいわゆる「中央研究所」を作り、多額の研究投資をし、ノーベル賞を大量に出し、現代のIT社会の基礎技術を作ってきた。
しかし、分割やら何やらで、独占的地位を失うとともに、研究開発費は圧倒的に削減されていった。

確かに、これらの例を見ると、市場独占の度合いと研究開発費は比例しているようだ。

授業では時間の問題でここまでだったのだが、興味があったので、更に調べたり、考えたりしてみた。

1.独占企業は、高い利益率のために、原資があるから、研究開発に多額の投資が可能。
一方で競争が激しい分野は、利幅が薄いので、研究開発に投資が出来ない。

AT&T、IBM、コダックといった企業が、研究開発に多額の投資が出来たのは何故か、を考えると、ひとえに独占であることで得られていた莫大な利益率のおかげだ。
往時のコダック社の、研究開発を除く営業利益率なんて、80%を超える(粗利は90%)というし、
IBMのメインフレームも60%近くに達していたという。
(数字は要確認。でも感覚的にはそんなにずれてないだろう。)
この莫大な利益率が、毎年収益の10%~20%などという、
莫大な研究開発費を支えていた。

一方、競争の激しい産業では、当然価格競争も激しいから、高い利幅を維持するのが大変難しい。
その結果、研究開発費に収益の10%以上も掛けるなんて不可能だ。
複数社集まったって、割合が低いことには変わりない。

そうすると、単純に独占企業のいる産業では、産業全体の収益の多くを研究開発に投資できるが、
競争の激しい分野では、そもそも市場全体の収益のほんの一部しか研究開発に投資できない、ということになる。

また、今まで独占企業で利幅が大きかったために、研究開発に多く投資できていた企業も、
独占状態が解消されれば、AT&TやIBMがそうだったように、研究開発費を大きく削減していかなくてはならなくなるのだ。

2.独占企業は、自社の独占的地位を守るため、多大な参入障壁を築くために、研究開発に莫大な投資をする

調べてみたら、下記の著名な論文を発見。
独占企業は、研究開発に大量の投資が出来るぐらい儲かる独占的な地位を維持するため、参入障壁を築くために研究開発に投資するのだ、というのが、下記論文の趣旨。

Preemptive Patenting and the Persistence of Monopoly

Richard J. Gilbert and David M. G. Newbery
The American Economic Review, Vol. 72, No. 3 (Jun., 1982), pp. 514-526

30年前の論文だけど、今でも色んなところに引用され、学ぶところの多いものだ。
要は、今は独占状態であっても、いつ新規参入者が入ってくるか分からない。
だから、入ってこないように参入障壁を大きくするため、研究開発にいそしむのだという

研究開発は、多くの分野では、実際の競争によって推進されるのではなく、「参入者が入ってくるかも」という脅威によって推進される、ということであった。
(もちろん例外もあり、それも他論文で議論されている)

------------------------------------------

というわけで、単に研究開発を進ませる、という目的なら、実は独占状態の方が理想的なのだ。
それだけ投資できるお金があるからね。
たくさんのイノベーションを生んだ、ゼロックスのパロアルト研や、AT&Tのベル研のようなものが理想なら、
独占市場にもう一度ならなければ難しい、という、現代の競争志向とは全く逆の結論が出てくるのであった。

ちなみに、これを国を挙げてやってるのが中国らしい。

例えば携帯電話業界では、敢えて世界標準の技術ではなく、中国独自の技術を開発することで、他社の中国市場への参入を防ぎ、中国企業による、独占状態を作り出しているのだという。
しばらく独占状態を続けることで、中国企業に莫大な利益を上げさせ続ける。
こうすることで、5年後・10年後には、国からの援助がなくても民間だけで、世界の標準的技術をリードできるだけの、研究開発の原資を作ってあげてる、ということだ。

日本企業が、このような護送船団で、研究開発費を確保する方向に行くことはもうありえない。
しかし、これからも日本の製造業が勝ち続けていくためには、無駄な競争で研究開発の原資が減るようなことにならないよう、ある程度も業界再編も重要、ということだろう。

まあ、最もこれからはビジネスモデルのイノベーションが鍵、という話もあるからね。
むやみに研究開発費を投じることが真のイノベーションにつながるのか?というのは要議論。

追記)数々の破壊的イノベーションも、それ自体は、IBM、XeroxやAT&T、RCAなどの独占大企業から生まれてきたと言うことには注目すべき。
したがって、独占大企業が破壊的イノベーションを生みだせない、というよくある議論は間違い。
(HPのインクジェットプリンタ、Xeroxの数々、RCAの液晶、Kodakの有機EL然り)
これらの破壊的イノベーションは、実は独占企業の多大な研究開発費から生まれた基礎技術に拠っていることが多い。
問題は、彼ら自身はイノベーションを生みながらも、組織的な理由でそれを商品に出来ないこと。
→ 過去記事「自社事業を破壊するイノベーションが出てきたとき」参照。

追記2) ローゼンブルームの「Engines of innovation」に、米国の独占企業が研究開発に力を入れる理由には、Anti-trust法(独占禁止法)の脅威もある、とあります。
要は現状で利益を上げている独占事業が、いつAnti-trust法に引っかかって分割命令が出るか分からないので、新たな利益の柱を作らなければ、ということで研究開発にお金をつぎ込む、ということです。

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「DCFは使えない!」-企業価値評価の業界における違い (15.535)

2009-12-16 11:28:31 | MBA: MBA授業

昨日、少し時間があったので、MBAの授業に関する過去記事を整理。
15.535 など、MIT専用のタグと、授業名をつけて、検索しやすくしました。
是非MITを志望してエッセイを書いてる人などは、利用していただけたら幸いです。

で、忘れないうちに、今学期受けていて、とても面白かったのに、一度もブログに登場しなかったAccountingの授業について。

この授業の正式名称は、Business Analysis Using Financial Statements。
初日の授業に行ったら、先生が二人いた。
お二人とも、Charles River Consultingという、有名な会計コンサルティングファームから来た現役のコンサルタント。
うち一人は、現役のコンサルタントをやりながら、Wharton、Sternなどファイナンスに強い学校を初めとして、Harvard、Kelloggなど、20以上のトップビジネススクールで教鞭をとってきたベテランだ。
毎年違う学校で教えるんだけど、今年はSloanで教える、ということらしかった。

で、この二人の話が初日から躍動感があってとても面白かったので、履修することにした。

どの授業でも、「いや教科書にはこう書いてあるけど、実際のところは、こう」という話がたくさん埋め込まれている。

中でも、私が一番印象に残ったのは、記事タイトルのとおり
「DCFなんてね、実際には余り使えないんだ。頻繁に使うのはやっぱりマルチプルなんだよ。」
という言葉と、それに続く授業だった。

意味不明?
あ、ごめん。
ファイナンスにおける、Valuation(企業価値評価)の話です。

ファイナンス系のお仕事をすると、企業のM&Aとか、事業の評価とか、このValuationを行うことが多々でてくる。
マルチプル、というのは企業の規模や株価などから、既に企業価値が分かっている他企業との比で、価値を求める方法。
一方、DCF(Discounted Cash Flow)法、というのは、企業・事業が生み出す将来のキャッシュフローを予測して、それを企業・事業のリスクに応じて割り引いて(discount)、価値を求める方法だ。

ビジネススクールというのは、大概どこもそうだが、教える側も教わる側も、このDCFがやりたくて仕方ない。
ファイナンスにおける企業価値評価の万能の方法だと勘違いしてる人すら、学生にはいる。
まるで、DCF教の教祖と信者という感じだ。

なぜなら、DCFというのは、まだ方法論としては不完全な方法なので、教える教授の側には、これを研究している人がたくさんいる。
そして、DCFが最新の、より科学的な方法だと信じてるわけだから、教授は教えたいのだ。
また、学生の方も、なんか複雑でかっこいい方法だし、
投資銀行やコンサルティングファームなどの人気業界がこぞってこれを使うので、習いたくて仕方がない。

一方で、「マルチプル」というのは良く使われるやり方ながら、簡単なので、わざわざ習おうとする人は少ない。

こんなDCF礼賛な状況のビジネススクールで、「DCFなんて実践のファイナンスでは使えない!」と言い切るのはすごいことだ。
そして、その言葉だけでなく、私が以前からDCFをやっていて疑問に思っていたことがいろいろと授業で議論されて、とても気持ちの良い授業だった。

何故、DCFが実践で使えないか、というと理由はこうだ。

実際にファイナンスをやってる側では、企業の価値を計算するときなど、時間があと1日もない、などということも多々ある。
そういうときに、手間がかかり、情報がたくさん必要となるDCFではなく、マルチプルを使うほうが、現実的なやり方なのだ、というのが彼らの主張だ。

実際、投資銀行などで、買収先の企業価値を評価するときは、ゼロから計算するDCFなどより、直近の同じ業界の買収案件などの方が意味を持つ。
DCFもやるけど、途中いくつも仮定を置くときに、いくらでも都合の良いように仮定を置くことが出来てしまうから、あくまで「補足資料」的役割なのだ。
メインにはならない。

授業では、時間がない中で、どうやってマルチプルの精度を上げるか、という実践な話に入る。

そして、DCFを否定するだけではなく、逆にどんな時に、どのようにDCFを使うべきか、ということもちゃんと扱ってくれた。
例えば、企業と長い時間かけて、努力目標などを議論していける場合は、仮定がたくさん置けるDCFの方が適している。
DCFのなかで、何が「バリュードライバー」になるかを議論し、企業価値をあげるための戦略立案につなげていくことが出来るのだ。
これは私にはとても納得がいく話だった。

実は、私の勤めているコンサルティングファームは、それこそDCF教を最も熱心に布教してる企業で、DCFのバイブルともいえる本もたくさん出している。
コンサルティングのプロジェクトでも、当然メインで使うのはDCFだ。
(だからファイナンスバックグラウンドじゃない私も、DCFだけはよく出来た)

ただし、その場合、「都合の良い仮定が置ける」投資銀行とは状況が大分違う。
なぜなら、将来のキャッシュフローを予測するために必要となる、将来の収益成長率や原価率、レバレッジ率などといった数値は、「仮定」ではなく、「目標」や「バリュードライバー」となる
のだ。

実際のプロジェクトでは、成長率や原価率などのレバーをいろいろに変えながら、クライアントさんを交えて話し合う。
「この原価率を仮定すると、将来の事業価値はこれだけになりますが、そもそもこの原価率とこの成長率って両立可能ですかね?」
こうやって決めた成長率や原価率は、もはや仮定ではない。
クライアントさんの企業が達成すべき目標となる。
一度それを達成する、と決めたら、じゃあどうやってその収益成長やコスト率を達成するべきか、という戦略の話になる。

当たり前だけど、他社との比で求める「マルチプル」ではこういう話はできない。
一方で、企業の売り買いをすることが目的の投資銀行の場合は、お客さんと成長率やコスト率について握る必要は無いわけで、もっと客観的に、他との比較でマルチプルを使うわけだ。

このように、業界や目的に応じて、企業価値評価でメインで使う方法が大分違ってくるわけだ。

自分が当たり前だと思って使ってきた方法の意味を、客観的に判断できるようになった、と言う意味で、とても役に立った授業だった。

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あなたのプレゼンは何故つまらないのか?

2009-12-14 13:51:11 | MBA: MBA授業

先週、ある授業に外部からの講演者が来た。
その授業に来る講演者は普段は面白いのだが、その日に来た人は最悪だった。
プレゼンが全く面白くない。
英語は完璧に分かるのに、全く耳に入ってこないのだ。

話し方は非常に良い。
英語はアクセントもなく、非常に分かりやすいし、話し方も洗練されている。
話す姿勢とか、ポーズの置き方とか、MBAで習うようなプレゼンスキルが駆使されている。
1時間も見ていると、彼女が学校では優等生だったのだろうな、と言うことが分かる。

それなのに、あれほどつまらないなんてことがあるのか。
MBAプレゼンスキルの意義を一瞬疑った。

あまりにつまらないので、聞くのをやめ、「何故この人のプレゼンがつまらないのか」を分析した。
周囲から見たら真面目にノートを取ってるようにしか見えなかったと思うが。

以下、私の気が付いたポイント。
正直、誰もが陥りやすい罠だと思うから、自戒も込めて。

1.スライドの字が小さすぎて読めない。当然興味も沸きようがない→スライドの文字は16ポイント以上で

ひとつ気が付いたのは、彼女のプレゼン資料がとても読みにくいことだ。
資料自体は、よく構成されている。
MBAで習うようなフレームワークなども使われていて、まとまっている。

しかしパワーポイントに使われてる文字が12ポイントくらいで、全く字が読めないのだ。
フレームワークは分かるが、中身が分からん。
一生懸命中身を理解しようと思っても、読めないんじゃどうしようもない。

配布資料ならともかく、スライドで投影する資料は16ポイント以上を使うべきだと私は思う。
聴衆の数にも拠るけど、40人もいるクラスだと、全く読めないもん。
世の中目の良い人ばかりではない。
読めなければ、当然興味のレベルも下がる。
どうしても小さい字を使う必要があるなら、配布資料を配るべきだと思う。

2.聴衆が何に興味を持ってるかに全く注意を払ってくれず、自分が話したいことを話してる→まずは聴衆が興味のある話題に振るべし

その授業はTech系の人が集まってる授業だった。
ところが、プレゼン者のバックグラウンドは農業系で、そもそも皆そんなに興味のない分野。
それなのに、彼女は、
まるで農業に興味がある人向けに話すような感じで話し続ける。
こっちの興味と全くかぶらないから、全然面白くない。

これは私の持論だが、プレゼンをする人は、聴衆が一体何に興味がある、どんな人なのかということを最初に考えるべきだと思う。
それで、もし自分の話が聴衆にとって、興味がないトピックなら、まずは聴衆が興味のある共通の話題などに振って、興味を持たせ、徐々に自分の分野に話を引っ張っていくべきだ

例えば農業でのR&DとTech系のR&Dの共通点を話したらよいかもしれない。
あるいは農業でのR&Dの問題点を具体的に話して、問題のありかが分かるようにしたら良いかもしれない。

または、聴衆に農業に対して持ってる印象を最初に直接聞いてみたら良いかもしれない。
そうすれば、聴衆は自分のことを聞かれているので、より興味を持つはずだ。

または、誰が聞いても面白いような話やジョークを話せばよいかもしれない。
そうすることで、ツカミが出来る。

3.聴衆の反応を見ていない。→聴衆をよく観察し、反応に応じて自分のプレゼンスタイルや内容を変えよう

クラスの他の人を見ると、隣の学生は寝てるし、本当に皆つまらなそうに聞いている。
問題は、プレゼンしてる彼女がそのことに全く気が付いてなさそうだ、ということだ。

よく見ると、彼女はみんなの顔を見回してるようで、全く見ていないのだ。
一人の顔に滞在する時間が0.5秒くらいしかない。
更に、自分の作ったプレゼン資料を見るべく、パソコン画面を注視してる。
これでは、みんなの反応には気が付きようがない。

要するに、プレゼンをすることだけに100%自分の注意が向けられてしまい、One wayのコミュニケーションになってしまってる
これでは良いプレゼンが出来るわけがない。

プレゼン者は、まずは聴衆をよく観察することが大切だ。
もし理解されていなさそうなら、詳しい説明や具体例を出すことで、より理解してもらえるだろう。
または聴衆に質問を投げかけることで、より興味を深めることが出来るだろう。

あるべきプレゼンとは、聞く側が話す側と同じ問題意識を共有し、Two-wayで議論が進むことだと思う。
聴衆の反応に応じて、適宜自分の話し方や話す内容を変えられるよう、常に相手の気持ちになって考えるのが大切だと思う

4.話が抽象的で、具体的な問題が何か分からない→抽象的な話はインサイトがあるときだけ。そうじゃないなら具体的に。

たとえ農業系の話に興味がなかったとしても、具体的に問題提起をしてくれれば、それなりに皆興味を持つはずだ。

ところが実際に彼女が話すのは、とても抽象的なレベルだけ。
抽象的でも、インサイトがある新しい話なら興味を持つが、それこそMBAで習うような当たり前のことを話してるだけなのだ。

例えば、R&Dの際「ゲートマネジメント」といって、ひとつのプロジェクトに対し、複数の意思決定ポイントを設ける考え方がある。
そうすることで、成長性のないプロジェクトに投資し続けたりすることを防ぐことが出来る。
ところが、そんなの、MBAでは耳にタコができるくらい聞いてるわけで、そんな話だけ聞いても面白くない。

聞きたいのは、農業でのR&Dで、実際のとこ具体的にゲートマネジメントがどのように遂行されてるか、その問題点は具体的に何か、と言うことなのだが、彼女はそういう具体的な話を全くしないのだ
だから、彼女が抱えてる問題がナンなのか、何が特徴なのか、ということが全く分からず、「そんなの知ってるよ」という話をするだけに終わっている。

これでは、興味のもちようがないのである。

抽象的な話をするつもりなら、それだけで面白い、インサイトのある、新しい話をすべき。
そうでないなら、具体的な話を挿入すべき。

5.Q&Aでの質問の答えが「質問を封じ込める」のが目的の回答→聴衆の興味を喚起し深める建設的な応答をすべし

最後に一応Q&Aが行われたが、これがまた、とてもつまらなかった。
というのは、質問がどんなに良くても、彼女はその質問を終わらせるための答えしかしないのだ。
まるで質問を封じ込めることが目的の、株主総会での質疑応答みたいだ。

講演など、議論を深める場での理想的な質疑応答は、聴衆から新たな疑問点が沸いて議論になり、興味を更に深められるようなものだと思う。
それを、それ以上疑問が出て、会社のイメージを悪くするようなことにならないよう、封じ込める、という感じのことをやられると、もうつまらない。
講演者の器の大きさが問われると思う。

6.聴衆の立場から見て、このプレゼンをどれだけ面白いものにするか、と言うことを考えてない→考えろ

彼女は話を聞いていて、いいとこのMBAをでて、学校では優等生だったのだろうな、という人だった。
しかし、聴衆に対する興味や、熱意や、人としての器の大きさを全く感じないのだ。
上のQ&Aで見られるように、完全に守りに入ってしまっている。

これじゃどんなにプレゼンスキルがあったって、全く面白くないのだ。
精神論をやるつもりはないが、「プレゼンを面白くしよう」という意識が強いかどうか、
そのためには努力を惜しまず、自分の使った時間をSunk costだと思える器の大きさは重要だと思った。

よく映画や小説で
「プレゼン資料を用意してきたが、今日の皆さんを見て、使わないことにしました」
という人がいるが、あの心意気が非常に大切だと思う。
どんなに良い資料を作ってきたって、それが刺さらなければ意味がないのだ

プレゼンをやる以上、100%聴衆が楽しみ、何かを得られるようによーく考えるべきだと思う。

以上、自分でも気をつけないと陥ってる罠かもしれないと思うので書いてみた。

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あと2週間で今学期も終わりなので・・

2009-12-01 02:03:24 | MBA: MBA授業

ワインの製造コストの記事が話題になってるところですが、Sloanもあと2週間で冬休み。
今週・来週の私は3本のファイナル・レポートの締め切りと、試験2本に追われることになり、かなり忙しくなる。
なので、ブログの更新も、出来るときに更新、というスタイルになると思うのでご了承ください。

MBAも早いものであと半年。
みんな、残り少ない時間の中で、友人の絆を深めようと、最近はいくつもディナーや食事会が企画されている。
私も先週水曜から今日まで、6連荘でディナーが入ってる。
日本人とのディナー、同じクラスを取ってる人とのディナー、チームディナー、同じ会社出身の人とのディナーなどなど。

そこで話すのは、「MBA後、どうするの?」という話。
今年は、昨年よりもMBAの就職状況が大分よくなってきたようで、もう半分くらいの人は進路が決まって来ているようだ。
(昨年の2年生は、卒業直前の4月の時点で半分、という感じだった。)
特に、米政府の極端な金融緩和により、景気がよくなった金融機関が積極的に採用を始めた、というのが大きい。

留学生は、米国に残るべきか、国に帰るべきか悩んでる人が多い。
自分の将来のことだけじゃなく、国に残した家族のこと、結婚のこと。
MBA後の就職先が決まってる人は、どうキャリアプランを立てていくか、真剣に悩んでる。
みんな、悩むことは同じだね。

私はどういうわけか相談される役で、話をうんうんと聞いて、自分の経験談や意見を述べる。
みんな賢いので、話を聞くと、その人にとってベストだと思える選択肢を選んでると思う。
でも、きっと、自分の決定に不安があって、誰かに後押しして欲しいんだよね。

そうやって、悩みを聞いたり、オープンに自分の話をすると、とても仲良くなれるね。
こうして同じ時を過ごした人たちと、これからも、ずっと連絡を取り合っていたいな、と思う。

あとはこの半年で、出来る限り色々勉強しないとね。
というわけで、勉強してきます。

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おむつの話 (15.013 Industrial Economics)

2009-11-06 15:07:02 | MBA: MBA授業

MBAでもたまに日本のケースが取り上げられることがある。

2週間くらいか前の「産業経済学」の授業で、花王のケースが取り上げられたことがあった。
(また「産業経済学」。最近こればっかやね。)
1970年代後半、P&Gが紙おむつ「パンパース」で日本に攻勢をかけてきたが、花王はどう出るか?というケース。

おむつ事業のNPVやオプションバリューを求め・・・みたいなMBAファイナンス的なのもやるが、
おむつの性質を考えたり、国ごとのマーケティング戦略の違いを見るのが面白かった。

おむつみたいな製品を「Experienced Goods」というそうだ。
経験商品とでも訳すんだろうか?
理系の私は、経済学なんてMBA来て初めてやったので、日本語で何ていうかはよく知らず。

で、その意味は何かと言うと、消費者が自分が経験して良いと思ったものに引きずられ、それがベストだと思って囲い込まれてしまう性質の商品のこと、だそうだ。

例えば、化粧品がそうだ。
女子の皆さんは良く分かると思うが、「このブランドが私の肌に一番合う」と信じているブランドがあり、そればっかり買い求める傾向があるんじゃないか。
他のブランド全てを試したわけじゃないし、成分的には実はそこまでバリエーションが無い製品であるのに、「他のは合わない」と思い込んでしまってる、みたいな。
私なんかも、基礎化粧品だけは日本からカネボウを調達してる。
やっぱり、他のは肌に合わない、と信じてるのだ。

おむつはこの手の製品の典型。
「このおむつを使ったら子供が泣き出した」とか「このおむつだと安心して寝ている」といった、
どこまで科学的に違いが実証できるかわからない「経験」によって、消費者はおむつを選んでいる。
そして、一度「これだ!」と思ったら、絶対に変えない。

私と同じ会社のポルトガルオフィス出身のBernardoが、クラスでしてくれた話がまさに消費者行動の典型で面白かった。

最近、初めての子供が生まれた彼は、ブラジルに妻と乳児を連れて遊びに行ったそうだ。
彼の赤ちゃんのおむつは「パンパース」のみ。
他のでは泣いてしまうと信じている。

ところが、ブラジルには、「パンパース」という名では売られておらず、見つからない。
そこで、彼の奥さんは、P&Gのブラジル支社の電話番号を調べて電話し、「パンパース」のブラジル版を発見して、遠くの店まで買いに行ったのだそうだ。
近くのドラッグストアには、別のブランドのおむつは売っているのに、である。

消費者が一度「これだ!」と思ったら中々ひっくり返らない、Experienced Goodsの典型である。

じゃあ、こういう商品はどうやって売るべきか?
「試供品」が一番の解となる。
タダで配って試してもらって、「これいいわ」と思ってもらったら、しめたものである。
消費者はここでほぼ固定化される。

一方で、こういう商品には「テレビなどマスメディアでの広告」はほとんど効かないという。
テレビCMは金がかかる割に、個人の経験には余り影響を及ぼさないからだ。
実際、アメリカでは、おむつのCMが流れたりすることはほとんど無い。

ところが、日本ではおむつといえばテレビCMがほとんどだ。
だから、P&Gも花王もものすごい勢いでテレビCMに金を費やすわけだが、これは、アメリカ人には非常に意外な話だったらしい。

Pindyck先生が、日本で放映されているパンパースのCMを3本ほど見せてくれた。
どれも、可愛いぞうさんが、赤ちゃんと一緒におむつをはく練習をしたり、赤ちゃんがぞうさんの世話をする、という可愛らしいもの。
学生はみんなかなり真剣に見ていた。

何故、Experienced Goodsであるおむつを、日本ではCMで宣伝するのか?
それは、日本では長いこと「布のおむつ」が使われていて、それをひっくり返すのには、皆を啓蒙する必要があったから。
「布おむつ」は母親と子供の絆を結ぶものと当時は信じられていたそうで、これをひっくり返す必要があった。
また、「紙おむつ」を使って、母親が楽をすることが、母親失格ではないということだ、と友人など周囲の人を啓蒙する必要があったのだ、とPindyck先生は語っていた。

当時のことは知らないから、Pindyck先生の推論がどれだけ正しいか知らないけど、
私は、先生の話をまさに実証するような経験談があったので、クラスで話してみた。

実は私は小さい頃は布オムツであったらしい。
母がマメな人だったので、一日10枚も取り替えて、毎日のように洗濯していたそうだ。
「○○ちゃん(私の名前)はいつも、自分でまだおむつしてるのに、おむつ干すの手伝ってくれたのよ」
と母は良く嬉しそうに語っていた。
つまり、布おむつを娘と一緒に干すという行為で、母は娘との絆を確認していたわけで、まさにPindyck先生の言うとおりだったわけだ。
ゴミ箱に捨ててしまう紙おむつでは、この「絆」はありえないのだった。

ところが、次に生まれた弟は、紙おむつだった。
これも、面白いことに、その頃くらいから盛んになっていた紙おむつのテレビCMを見た、母の母親や義母が、
「布おむつは大変だから、こっちを使いなさいよ。最近はこういう便利なのもあるのよ」
と、紙おむつを大量に買ってきたのだという。
母は、紙おむつを使うのは、母親業をサボることのように罪悪感を感じていたのだが、義母が買ってきたので、使い始めたのだという。

「母親業」について文句を言うのは、通常その母や義母だろう。
まさにテレビCMは、ウチの場合、その義母たちを説得するのに有効だったわけで、周囲の啓蒙に役立っていたわけだ。
啓蒙するだけでなく、ウチの母の代わりに消費行動にまで移っていたという。

この話を聞いたPindyck先生は、「じゃあ君と君の弟はどっちが幸せだったのかな?」と冗談を言っていて、面白かったが、クラスからも大きく反響があった。

クラスメートの何人かと授業が終わった後に話して、「あの話は具体的でとても面白かった」とか「おむつを自分で干していたなんて可愛い」とか、まあいろんな反響があった。

MBAが終わって、皆各自の職業に戻り、授業で習った大方のことを忘れてしまうかもしれない。
が、いつまでも覚えているのは、こういうクラスメートが語ったインパクトのある経験談や、それにまつわる理論だけだったりする。
誰かが「学校を出て多くのことを忘れたあとに、残っているのが教育である」と言っていたが、まさにそうなのだろう。

MBAでは、各自学生が積極的に発言して、授業に貢献することが大切だ、と言われるのだが、こういうことなのだなあ、とちょっと思った。

話がずれまくったが、おむつの話でした。

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何故デルタ航空はJALが欲しいのか (15.013 Industrial Economics)

2009-11-04 10:40:12 | MBA: MBA授業

MITスローンは、他のMBAに比べて航空業界のケーススタディが圧倒的に多い。
去年の記事でも書いたけど、会計でも、組織論でも、確率統計論の授業でも、航空業界ばかり。

最近私がハマッてる、Pindyck先生の「産業経済学」(Industrial Economics)の授業もすごい力の入れようだ。
週に二回授業があるんだけど、先週は2回ともエアラインで、今週は2回とも航空機メーカー(ボーイングとエアバス)だ。
もちろん、航空業界をテーマにしながらも、似た構造を持った産業についても同時に考えるんだけど、
これだけやると、自然と普段のニュースでも航空業界に目が行ってしまうね。

で、まあ本題なんだけど、先週の記事で書いたように、デルタ航空がJALとの提携を狙って頑張ってるようだ。
先週のWall Street Journalの記事によると、デルタ航空はゴールドマンサックスを雇ったり、PR会社を雇ったり、どうすればJALを手に入れられるか懸命に模索している。
一方で、JALと同じワンワールドのアメリカン航空も、太平洋路線のコードシェアを失いたくないので、必死で戦っている。
二社は、基本的にはJALに資本注入をする方向での提携を考えているようだ。

日本の皆様から見ると、「何故そんなにJALみたいな会社が欲しいんだろ?」って思うかもしれない。
国内線だって、地方の政治家の利権でがんじがらめで、儲からない路線をたくさん抱えているし、
国際線だって、取引してる納入会社が役人の天下りばかりで、これまたコスト削減の難しい会社。

そんなJALにも、誇れる資産があるんですね。
それは、アメリカの各都市と日本を結ぶ、太平洋路線
デルタは、この太平洋路線が死ぬほど欲しい。
もっと言うと、JALが持っている成田路線の権利が欲しいのである。

既にコードシェアしてるアメリカンはともかく、昨年ノースウェストを買収して、成田・関空の太平洋路線を大量に手に入れたデルタが、それ以上に太平洋路線が欲しいのか
というのはちょっと不思議でもある。

しかし、太平洋路線(とくに成田路線)はそれだけ儲かるってことなのだ

「産業経済学」の授業からの意味合いと、授業後にPindyck先生と議論したところによると、
太平洋路線が儲かる理由は次の2つ。

1)競争が圧倒的に少ないため、極端な価格競争が起こりにくく、儲かりやすい
2)ビジネス客が圧倒的に多いので、マージンが多い

それぞれ詳しい説明をば。

1)太平洋路線は競争が少ないから、儲かりやすい
アメリカの航空会社から見ると、大きな市場として、
・アメリカ国内線
・大西洋路線
・太平洋路線
・南米・近隣諸島路線
の4つがあるが、この中で、太平洋路線を除く3つは非常に競争が激しい。

これはアメリカに暮らしてると感覚的にも分かる。

国内線の航空券を買おうとすると、航空会社のセレクションが10くらいあるのが普通だ。
例えばボストンからサンフランシスコに行く場合のセレクションはこんな感じ。

アメリカン、ユナイテッド、デルタの3大エアラインはもちろん、
それぞれの傘下のUSエアウェイズやノースウェスト
コンチネンタル、エアトランなどの中小系。
バージンやジェットブルーといった、新興エアラインもある。

この10社近くで、ボストン・サンフランシスコ間なんてアメリカの端から端まで、
2700マイルもある距離を、往復で300ドル前後で提供するという、低価格で争ってるわけよ。
(この値段でどうやって儲けてるのかホントに不思議だ。
一方でJALの国内線は何であんなに高いのかと・・・)

90年代~2000年代の合併合戦で、相当数が淘汰されたけど、アメリカの航空会社はまだこんなにある

ヨーロッパの各国が出してる航空会社と競う大西洋路線と、南米の格安航空会社と競う南米路線も、基本的には同じ。
競争が激しく、儲からない。

ところが、成田-アメリカ間を飛ばせる権利を持っているのは以下の6社だけだ。
・JAL
・ANA
・アメリカン航空
・ユナイテッド航空
・デルタ航空(ノースウエスト航空)
・コンチネンタル航空

また、各社が持っている便数も非常に限られている。
(関空もほぼ同様の状況だが需要が少ないので、成田線が大切)

実際には、タイ航空や中華航空、大韓航空など、アジアの航空会社が大量に成田経由でアメリカに行っているにも関わらず、他の航空会社は成田で客を乗せてアメリカに飛ばす権利は無い
このような、途中で客を乗せる権利をBeyond Right(以遠権)と言うが、成田空港は以遠権を他国に認めていないのだ。
(訂正:現在は中華航空、大韓航空、アシアナ航空、シンガポール航空に以遠権が認められ、成田からロサンゼルス、ホノルル、グアムなどに就航してます)

こういうことが何故起こっているか、というと、まあ日本政府が日本の航空会社(主にJAL)を守ろうとしているから。
ついでに、これらの路線を持っているアメリカの一部の航空会社が、ちょっと美味しい思いをさせてもらっている。
競争が少ないので、成田路線は上記の国内線で争ってるようなアメリカの航空会社から見れば、ちゃんとリーンにやれば、確実に儲かる貴重な路線なのだ。

その中でも、一番美味しい時間帯の乗り入れを持ってるのはやはりJALだ。
ノースウエストの買収で成田路線を手に入れて、この美味しさが理解できたデルタは、このJALのもってる路線がのどから手が出るほど欲しいに違いない。

2)ビジネス客が多いため、マージンが多い

「産業経済学」の授業でもやったけど、航空会社を利用するお客さんは主に2種類のセグメントに分かれる。
ビジネス客と、レジャー客だ。

ビジネス客は、儲かる。
便数が多くてフレキシブル、とか時間帯が遅くて便利、という理由で少々値段が高い便も選ばれる。
ビジネスクラスやプレミアム・エコノミーなどのコストはそこまで違わないのに、値段が圧倒的に高い席を選んでもらえることも多い。

一方レジャー客は、価格重視で、薄利多売。
お客は格安航空券を血眼で捜すし、旅行会社からの値引き交渉も激しい。
当然エコノミー席が中心。
金持ちの客でもマイレージを使ってアップグレードする程度で、基本エコノミー席しか売れない。

で、成田路線は、ビジネス客が圧倒的に多い、という特徴がある。
だから、儲かるのだ。

結局、アメリカ人はヨーロッパに行くほどには日本には行かないし、ヨーロッパに比べても、里帰りニーズも少ない。
そうすると、どうしてもレジャー客というのは少なくなってしまうのだろう。
アメリカの航空会社から見ると、大西洋路線や国内線はレジャー客が多いわけで、そこだけ見ても太平洋は儲かる路線、ということになる。

実際、仕事で太平洋をよく横断する人は、ビジネスクラスが満席になってることが多いのをよく見かけるんじゃないか。
こんなことは、他の国際線ではそんなに起こらないことだ。

特にJALは、「一番遅くに出発できる便」など、ビジネス客が一番好む時間帯を確保している。
そのおかげなのか、JALが日本企業との関係が強いからかは分からないが、同じ成田路線を走る他の航空会社と比べても、ビジネス客が多い。

このような理由で、太平洋路線(特に成田路線)は儲かる。
特にJALは一番美味しいところを持っている。
アメリカ国内の激しい競争で鍛えられた、筋肉質のデルタ航空から見れば、あれが手に入れば絶対に儲かる、というところだろう。

以上、まとめると
・デルタ航空は、JALとの提携を成功させるため、あらゆる手立てを尽くしている
・なぜなら、JALが持っている太平洋路線(主に成田路線)がどうしても欲しいからだ
・成田路線は構造的に儲かる。理由は二つ
・ひとつは、成田が乗り入れの権利を絞ってるから、アメリカ国内・大西洋線に比べても競争が圧倒的に少ない。
・二つ目は、成田-太平洋路線は圧倒的にビジネス客が多く、儲かる
・その中でも、JALは特に儲かりやすい権益を確保している。
・したがって、アメリカ国内の競争で鍛えられた、コスト競争力のあるデルタから見れば、JALの権益を手に入れれば絶対に儲かると踏んでいる

こういうことを自然と考えられるようになる授業を受けられるってのは幸せだ。
MITスローンに来て本当に良かった、と思う。

せっかくなのでPindyck先生の著書を紹介しておくです。

追記)筆者は別にDeltaがJALを買収すべきとも、した方が良くなるとも思ってないです。
実際には、JALの国際線に限っても、処々の問題があって、コスト構造を変えるのは容易ではないはず。
国交省の「支援」なしには苦労するでしょう。
そこをDeltaが分かってるのか、分かった上で国交省とも話し合いに入ってるのかなどの詳細は部外者の私には不明。
それでも、彼らがどう考えてるか、っていうのを経済の知識を元に考えるのは役に立つでしょ?

追記2)ついでに、そんなDeltaの野望をくじくのは、成田・羽田のオープンスカイだったりします。
今回のJALの破綻でオープンスカイ実現は遠のいた!?

Microeconomics (Pie)
Robert Pindyck, Daniel Rubenfeld


Pearson Education (US)

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歴戦エンジニアとのチームディスカッション (15.912 Tech Strategy)

2009-10-14 11:50:05 | MBA: MBA授業

今週は、月曜がColumbus Dayというお休み。(他の学校は知らないがMITはちゃんと休む)
でも、火曜日の今日は「月曜日の時間割」なので、私にとっては授業が4コマ入ってる日が二連荘になる。
かなり大変。

それに加えて、宿題やチームで議論しながらやる宿題などが山ほどあって、大変なことになってる。

今日も5時半に授業が終わった後、ミーティングを2本終わらせて、やっと家に帰ってきたところ・・・
今から個人ワークの宿題2本と、ケースリーディングが3本。
寝れるのか?

いや、ブログ書いてる暇あったら寝ればって感じだよね。
私もそう思う・・・。

今日一番大変だったのは、例のカザフスタン人もいるTech Strategyのチームミーティング。
私以外の二人は、SDM(Sloan Design Management)というコースから来ている。
もう一人は、某携帯メーカーから来ているソフトウェアエンジニアの女性Dさん。

SDMは前に詳しく書いたとおり、MITスローンの中のエンジニア向けの1年制コース。
メーカーなどで10年・15年とエンジニアをやってきた人たちが、マネジメントに方向転換するために来る、ちょっとシニアなコースだ。

何が大変かというと、みんな自分の意見とこだわりがあって、譲らない、
よって、ミーティングが延々と終わらない。
今日も、先週から何度も議論を重ねてる内容を、更に午後7時から3時間も議論。
で、今日帰ってから手直しして、また明日議論するらしい。

ちなみに、MBA生だけでやると、ミーティングは早い。
MBA生ってのは、効率を優先する、チームの他の人の意見を尊重して、その上に乗っかって議論するなど、共通のカルチャーがある。
何より「レポートで良い点を取ればよい」という共通の目標があるから、必要以上にこだわらないのだ。
社会人経験も2,3年とかしか無いから、そもそもこだわりの持ちようが無い。
(もちろん、同じ会社の人どおしの議論よりは効率悪いかもだけど、それでも早い)

でも、SDMの人たちは、皆社会人経験も長いし、こと技術のことになるとすごいこだわる。
抽象的な議論を許してくれず、ものすごい細かいレベルまで具体化する。
技術者同士で技術のことで意見が合わないと、喧々諤々やる。
英語表現も緻密にこだわる。

MBA生が、2時間で9割やって満足するところを、SDMの人たちは、20時間かけて99%までやるって感じだ。

これは、ものすごい時間がかかるんだけど、すごく勉強になる。
「点を取る」という目的からは、ここまでこだわるのは効率が悪いのかもしれない。
(実際、そのこだわりのため、先生が授業で言ってたポイントを落としたりして、すごく良い点は取れなかったり-こういうことは点取り虫のMBAでは絶対起こらない)

実際、カザフスタンの官僚のAさんは、しゃべり英語は微妙だが、書き英語になると、ものすごい上手く、レトリック(修飾辞)にもこだわる。
ワードチョイスもすごくこだわる。
私など足元にも及ばないほど、大量の英語を読んだ結果なのだ、ということが良くわかる。

ソフトウェアエンジニアのDさんは、ものすごい論理的で、深く、正しい指摘をする。
特に技術のことになると、ものすごいリサーチ能力があるし、上手いまとめ方をする。
技術には彼女ほど詳しくない私が想像力を駆使して書いた、ふわふわした議論などは全て突っ込みが入る。
ここまで自分の議論に突っ込みが入るのは、コンサル会社でのミーティング以来で、久しぶりに会社に帰った気分だ。

そんなわけで、「点取り」のMBAから見れば効率が悪いかもしれないが、私として学ぶところは沢山ある。
大変だけど、いいチームだ。

私のほうは、フレームワークを使って、全体感があるようにまとめる(一応そういうのを教える授業なので・・・)。
皆の議論をフレームワークに上手く落として、アウフヘーベンする。
無駄な情報を切り落として短いメッセージにする(だってレポートの枚数、2ページまでだし・・・)。
議論を効率化する、といった極めてMBA的(コンサル的?)な貢献。

自分がこういうポジションなのは多少驚きもある。
というのは、コンサルティングファームにいたときは、自分は極めてエンジニアっぽい人だったから。

でも、4年半も働いて、更にMBAなんかに行ってるうち、「MBA側の人」になっちゃったらしい。
私が、そのまま博士を出てエンジニアになってたら、きっとDさんみたいになってただろう(何か私と似てるし)。
だから、彼らと議論してると、自分の原点に帰りつつ、一方で今の自分を客観的に評価して、方向修正をしていける。
MBA的に効率を優先するだけじゃ、産まれるものは少ないだろうし、
かといってエンジニア的にこだわりすぎても、効率が悪く、却って何も出てこなかったりする。
どちらも持ち合わせた、バランスの取れた方に行かなくてはね。

せっかくMITっていう多様なバックグラウンドがいるMBAに来てるんだから、こういういろんな人と切磋琢磨できることを幸せに思おう。
(多少睡眠時間が少なくなったって!)

ひとつ心配なのは、来年の春学期、こんなシニアですごい人たちのTA(注:DさんとAさんは今学期で卒業)なんて、本当に務まるんかいな、ということだけど。
この数ヶ月間、それだけ勉強して成長しろってことだよね・・・

疲れて帰ってきたので、いそぎラーメン作って食べました。
実は昼もラーメン作って食べた。
卵とねぎもちゃんと入れて、栄養満点(だと思う)です!

つかれたときのラーメンは最高に美味しい!

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