My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

イノベーションってそもそも何さ?

2009-10-02 09:50:20 | MBA: 研究&TA

朝起きたら、熱が37度まで下がっていた。体も痛くない。
チキン・ヌードルの神様が降臨したのかな。
これならスペイン語の授業行けるかな・・と思っていたが、また寝てしまい、すっかり寝飛ばしてしまった。

お昼にルームメートのYEが、レトルトのおかゆを作ってくれた。
韓国海苔とか入って韓国風。おいしい。

夕方には熱が完全に下がってきた。
やはりただの風邪だったか。皆さん本当にご心配おかけいたしました・・・。
いつまでも寝てるわけには行かないので、ベッドに横になったままできることとして、たまっている本読みからはじめる。

火曜は、Utterback先生と会って、来学期授業に向けたブレストをしてきた。
(寝不足の原因になった、自分の研究のほうは時間切れで話せなかったのは残念)
忘れないうちに、内容を。

私が来学期、TAとして担当するのは二つ。
ひとつは、SDM(スローン・デザイン・マネジメント)の必修の技術戦略論の授業。
もうひとつはMBAの選択の破壊的イノベーションに関する授業。

SDMとは、スローンにある、MOTとシステム工学とインダストリアル・デザインの考え方をあわせたような、1年制の大学院。
学生のほとんどは、10年・15年とエンジニアとしての経験を積んできた人がほとんどで、社費も多い。
会社が、この人はこれからマネジメントに転じさせよう、と考えている優秀なエンジニアが世界中から集まってきてるわけだ。
以前書いたカザフスタン人のように、国から派遣されている官僚もいる。(もちろん私費もたくさんいる)
技術戦略論は今までSDMの必修じゃなかったのだが、来年度のカリキュラムから取り入れられることになり、いま、その授業の設計をしているというわけ。

来年2月からSDMに来るつもりで勉強されている皆様。
すみません、わたくしめが技術戦略のTAになります。
役に立つTAになる予定ですのでよろしくです。

今学期の私の仕事は、先生のブレストに付き合うこと。
そして関連論文を大量に読んで、TAとして勤まるように準備すること。

ジム・クラークやクリステンセンをはじめとし、あれだけ沢山の大家を育ててきた先生と、ブレストをするのは、勉強になるし、何より楽しい。
先生から出てくるアイデアは、常に的を得ているし、広い。
私は、いま読んでいる論文から内容的にそれを補完するのと、
コンサルタントとして鍛えたやり方でブレストを進めるすることで貢献している感じか。

余談だけど、うちの会社では、大学を出て間もない若手コンサルタントが、大企業の40代のミドルマネジメントとも、ブレストや議論ができるように相当鍛えられる。
軸を出す、ポジションを取る、ソリューションスペースを広げる・・・
相手の言ったことの具体例を出す(例を引き出す)など。
最近は、うちの会社の出身者が、こういう話を小出しに本にして儲けるのがはやってるみたいだから、このブレスト力も本にしたら売れるかもね(笑)
余談終わり。

ブレストの結果、授業の大枠の方針はまとめると、
・Value CreationとValue Captureは同じくらいの比重で扱う
・デザインによるイノベーションや、仕組み・組織構造の変化によるイノベーションも扱う
・MITで生まれたイノベーションの考え方をできるだけ埋め込み(Re-manufacturing、User centric、Open innovationなど)、関連の教授もできるだけ呼ぶ

Value CreationとValue Captureをどのくらいの比重で扱うか、は先生は悩みどころだったようだ。
Value Creationとはイノベーションの元となるアイディアや技術が生まれるところ。
Value Captureとは、それを商品化して、経済活動に落とし、利益を得ていくところ。

SDMの学生は今まで、ずっとValue Creationの方に携わってきたし、今後もどちらかといえばValue Creationをどう増やしていくか、に関わる学生がほとんどだと思われる。
(つまり、研究開発センターの所長とか、マネジメント職といっても、そういう職)
先生自身も、そこまでValue Captureの方に寄ろうとは思っていなかった。
でも私と話していて、考えを変えたらしい。

私のほうも、先生と話していて、基本に立ち返らされた。
ドラッカーのイノベーションの定義を思い出す。

Innovation is the means by which the entrepreneur either creates new wealth-producing resources or endows existing resources with enhanced potential for creating wealth.
(イノベーションとは起業家が新しい富を生み出すリソースを作り出すか、
既にあるリソースを使って新たに富を生み出すポテンシャルを高める行為のことだ)
Peter. Drucker "Innovation and Entrepreneurship" (1985)

経済学は、富が限られているときに、それを無駄なく分配する方法を教えるものだ。
政治や倫理とは、その富をどのような優先順位で分配するかを決めるものである。
そして、イノベーションとは、人類の富自体を増やすこと。

つまりパイを分けるのでなく、パイ自体を増やすこと、というのが本来のイノベーションの定義なのであった。
(わすれたけど、シュンペーターの定義も多分そうだ)
だから、Value CreationのないValue Captureはイノベーションにはならない。

ところが、Value Creationをしても、Value Captureをちゃんとやって、それを金銭経済に落とさなければ、富にならないのだ。

ゼロックスのパロアルト研究所が、window systemを開発しても、
マイクロソフトがそれを商品化して世の中に広めなければ、人類の富にはならなかったわけだ。
だから、よくマイクロソフトを「ゼロックスの研究成果を奪った」かのように言う人がいるけど、私はちゃんと商品化して世の中に広めたマイクロソフトはエライと思っている。
(もちろん儲けすぎで、富の分配が非効率になっているのは経済学的には問題。)

Value CreationとValue Captureはセットでイノベーションにはじめてなるのだ。

もちろん、商品化すればタダで売っても人類の富にはなるわけだが、
この世の中が金銭経済を主軸として動いている以上、継続的なValue Creationを行うには、どこかで金にすることが重要だ。
儲からなければ、せっかくイノベーションを起こす素地があっても、継続的には起こらなくなってしまうだろう。

だから、長いことエンジニアをやってきたSDMの人たちは、Value Creationに対する思い入れが大きいと思うけど、私はちゃんとValue Captureもやって欲しいと思っている。

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4 Comments

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はじめまして (yub)
2009-10-02 14:07:24
唐突ですが面白いテーマだったので。。。

「イノベーションって何さ?」っていうのはちょっと難しくてよくわからないんですが、
「"いいもの"って何さ?」だったらエンジニアにも伝わるかな~と思いました。

・"いいもの"ってValueCaptureも含めて考えたほうがみんな幸せになれるよね
 (せっかくのいいアイデアが死んだらもったいないし)
・"よりいいもの"を作るためにValueCaptureのフィードバックがヒントになることもあるよね

っていうのを伝えられたらいいんじゃないかなぁ。
ValueCaptureってのは世の中とのコミュニケーション効率ですよと。
返信する
Value Capture (Lilac)
2009-10-03 00:09:17
>yubさま

コメント有難うございます。
タイトルの軽妙さの割には内容が複雑すぎましたかね・・

>ValueCaptureってのは世の中とのコミュニケーション効率ですよ

いやー、Value captureは、製品化して世の中に広める+お金にすることだと私は思いますけどね。
それが、次のイノベーションの糧になる、と。
返信する
そうですね (yub)
2009-10-04 02:03:14
それはおっしゃるとおりだとおもいます。
で、それはたぶんValue captureの定義なんですよね?
そこは僕が意見できるとこじゃないので。。。

Value captureも重要だぜってことをエンジニアに伝える/納得してもらうためには、その行為自体を彼らが興味を持つ視点で再定義して伝えてあげるといいのでは?ということを言いたかったんですよね。

商売って自分が作り出した(と思ってる)価値を世の中にコミュニケーションしていく(問いかけていく)行為だとおもうから、ValueCaptureした結果(売上げかな?)は世の中からのレスポンスってとらえていいんじゃないかな~って。

返信する
エンジニアの価値観を変える (Lilac)
2009-10-04 09:40:24
>yubさま

コメント有難うございます。

>Value captureも重要だぜってことをエンジニアに伝える/納得してもらうためには、その行為自体を彼らが興味を持つ視点で再定義して伝えてあげるといいのでは?ということを言いたかったんですよね。

なるほど良くわかりました。
エンジニアに伝えたいなら、エンジニアの価値観で伝えないと伝わらないよ、という忠告だったのですね。

恐らく・・・
私はSDMやMBAに来たエンジニアに対しては、その価値観が変わるような経験をして欲しいと思っているんだと思います。
なぜならValue captureは、その「儲からなくても世の中の役に立てばいいんです」という価値観も変えてもらわなければ、実際に組織を動かして行っていくのは難しいと思うから・・・
本来の「役に立ちたい!」という価値観を失う必要はありませんが、「儲けなければ立ち行かなくなる」という価値観も、企業のマネージャーとしては身につけていかなればならない。

そのために、
ちゃんとValue captureをしないと、シスコやマイクロソフトのようなところに持ってかれてしまうよ!というホラー・ストーリーをしたり、
ポジションとって敢えて「マイクロソフトはすごい」と言って、怒りを感じさせたり。

何がうまく行くのかはわかりませんが・・・

ただ、おっしゃるように、「役に立ちたい!」みたいな根本的な価値観に触れなければ、きっかけにもなってもらえないんでしょうけどね・・・。

考えてみます。
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