My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

スマートフォン戦争の勝敗はついたのか

2012-05-12 23:58:06 | 2. イノベーション・技術経営

もう一週間も前のことになるが、今回のゴールデンウィークは、いろいろなニュースが流れてきた。特に一番印象的だったのは、夜中に私のTwitterに飛び込んできたCNETのこちらのニュース。分かっていたこととはいえ、今更グラフでちゃんと見せられると結構ショックだった。

Apple, Samsung put hammerlock on smartphone profits−CNET (2012/5/4)

携帯電話市場における「プロフィットプール」つまりその業界の企業が出している利益全体を、誰がどのように分け合っているのか。Asymco社が算出した結果、2011年第四四半期において、アップルが全体の73%、サムスンが26%、台湾のHTCが1%を取っているという報告がされたという。

そのニュースに掲載されていた、2007年からの業界のプロフィットプールのシェア変遷を描いたグラフがこちらである。
このプロフィットプールは、携帯電話業界全体なので、スマートフォンだけではない。特に2007年のころ、最大の利益を誇っていたNokiaは、スマートフォンではなく、主に新興国などで発売していたシンプルな携帯電話で業界全体の6割もの利益を得ていたのだろう。それがいまや殆ど利益を得られず、利益を出しているのはApple、Samsung。過去からの推移を見ると、その方向は固定化しつつある。

図中のSEはSony Ericsson、RIMはResearch In Motionつまりブラックベリー、SamがSamsung。後は会社名のまま。 


Credit: Asymco;  Through: CNET

このグラフから明らかに言えることが4つある。

1. もはやスマートフォンだけが勝ち組であり、スマートフォンにうまく移行できなかった携帯電話の王者は全て負け組に

旧来の携帯電話の王者であり、2007年には業界の6割の利益を享受していたNokiaの影は、2011年にはもはや無い。通話とメール機能を絞り、シンプルで安く使いやすいNokiaの携帯は、いまだに新興国におけるシェアはそれなりに大きいが、Android携帯などの攻勢に会い、かつての利益率を保てなくなってしまったのだろう。

私がMITに留学していた2009年頃、周辺でNokiaでアルバイトをしていた学生が結構いた。当時のNokiaは、Appleによるスマートフォン攻勢を迎え撃つために、独自のスマートフォン向けのOSを開発したり、マイクロソフトと共同開発しようとしたり、色々と模索しており、そのOSの開発や経営戦略策定のためにMITの学生がたくさん雇われていたようだ。しかし、この「独自OS」戦略は結局うまくいかず、Nokiaはヒットするスマートフォンの機種を出せずに終わってしまった。スマートフォンは、使えるアプリがどれだけリリースされるかなど、ネットワーク効果が重要であり、Winner takes Allの世界だ。デファクトを取れないOSはまったく普及せず、結局開発費だけがかさむ結果となってしまったのだろう。

2. スマートフォンにおけるAndroid v.s. Appleの戦いは、Appleの勝ち

次にいえるのが、勝ち組であるスマートフォンの中でも、明らかな勝ち組はAndroid陣営ではなく、Appleである、ということだ。上のグラフの中では、Androidによるスマートフォンを出しているのが、HTC、LG、Sony Ericsson、Samsungであるが、これら4社を合わせた利益は徐々に下がってきており3割に満たず、Appleが業界利益の7割を占めているほどに増加している。Appleの一人勝ちとなってしまった。

何故Android陣営は利益率が低いのか?主に考えられる理由は二つでは無いだろうか。

ひとつはただでさえAppleより価格が取れない中で、Android陣営内での差別化が難しいため価格競争が進んでいること。Android携帯は、ただでさえAppleのiPhoneに比べて価格を落として販売している。そのうえ、同じAndroidを使っている以上は、使えるアプリも同じなので、差別化が難しい。形状とか、色々違いはあるだろうが、価格に転嫁できるほどの差別化要素にはならない。その結果価格競争に陥っているのではないか、ということだ。

もうひとつはAndroidを利用するための開発費がかなりかさんでいるのではないか、ということ。MITには、GoogleでAndroidを開発していた人から、携帯電話会社でAndroidの開発をしていた人まで大量にいたが、彼らによると、GoogleがリリースしたAndroidは、そのままでは使い物にならず、各携帯電話会社がかなりの開発費をかけて、普通に携帯電話に使えるように開発を進め、その結果各社が開発費を相当負担することになったという。某携帯電話会社のAndroid開発部隊にいたMITの友人は、その企業が先んじてAndroidの応用開発を始めて、相当の開発費を使ってしまったのに、リリースが遅れたので赤字を生んだと話していた。GoogleのAndroid部隊にいたMITの友人は「Androidは無料だというが、あれはGoogleの宣伝であって、実際にはベースと鍵になるソフトの断片しかリリースできていない。実際の製品にするには企業が相当の開発費を使わなければ使い物にならないから「無料」では無いんだよ」と話していた。開発費は当然AppleがiPhoneを開発する際にもかかるだろうが、Android陣営は各社がそれぞれに開発費をかけているという無駄が生じている分、全体として損をしている可能性があるだろう。

3. Android陣営の中で唯一利益を出しているのはSamsungだけ

もうひとつ面白いのが、利益があまり出ていないAndroid陣営のうち、圧倒的に利益を出しているのはSamsungだけだということだ。LGやソニーエリクソン、そしてこのグラフに載っていないその他の日本や台湾の携帯電話会社が利益を出せずにいるのに対し、Samsungだけが大きな利益を出している。やはりGalaxy携帯などAndroid陣営の中で先んじてブランドを構築することに成功したため、それなりの価格プレミアムとシェアが取れていることが大きいのだろう。トップダウン組織ならではの、最初にどーんと先行技術に投資して、いち早く先端技術を提供することでシェアを取り、プレミアムを確保して利益率を取るというサムスンのやり方は、携帯電話業界でも成功しているといえるだろう。

4. 携帯電話業界において、旧来の携帯からスマートフォンに移行して利益を出し続けているのはSamsungだけ。ゲームのルールの変更にさっさと気がついて投資戦略や自社の体制を変えられたのが鍵。

最後に、旧来の携帯電話時代からずっと利益を出し続けているのはSamsungだけであるということにも注目しておきたい。いわゆる「イノベーションのジレンマ」とは少し異なるが、必要となる技術が変わり、勝つためのモデルが異なってきた場合に、新しい技術に移行して勝ち続けるというのは簡単なことではない。通常勝ち組企業は、自社が勝ち続けることが出来た仕組みに固執し、新しく必要になるモデルに移行できずに負けてしまうことが多い。たとえばNokiaの場合は、独自の安いOSに基づく垂直統合の構造で、安価な携帯電話を作り、ボリュームゾーン中心に大量に売ってきたのが旧来の携帯電話での勝ちモデルだったが、Appleに対抗して遅れて独自OSに取り掛かったのが負けた理由かもしれない。彼らがSamsungと同様、Androidを活用してボリュームゾーン向けのスマートフォンに早急に移行できていれば、Samsung並みには利益率を維持できた可能性もあるだろう。

一方Samsungは、ゲームのルールが変わってきたのを早急に察知して、Galaxy携帯のようなものをいち早く出すなど、新しい体制に移行できている。これが技術が変わっても利益を出し続けていられる理由だろう。

携帯電話業界のように、技術が次々に進歩する世界では、勝つためのモデルが変わってくることは多い。そして、もともとの勝ち組だった企業が、自社のモデルに固執して、新しい技術で負け組となってしまうことが頻繁に起こる業界だ。携帯電話というものを開発し、1G携帯では王者だったモトローラが、2G, 3G携帯でNokiaに負けていったように。現在のスマートフォンでは、完全に勝ち組となったAppleであるが、ポスト・スマートフォンでは、心して変化に対応していかなければ、負け組となってしまう可能性は高いだろう。特に、垂直統合によって強みを発揮している企業は、一般的には業界の変化には弱いこともあり、Appleは注意して業界動向を注視し、変化に投資していく必要があるだろう。

(Special Thanks to @linsbar, @Kelangdbn, @muta33 and @mghinditweklar for additional Twitter discussion)

(追記)「市場シェアで見ればAndroidの方が高いはずでおかしい」という声をTwitter等で頂きますが、市場シェアが高くても利益率が高いとは限りません。寧ろ、Android陣営は利益率を犠牲にして、市場シェアを取っているという言い方も出来るかもしれません。

(参考)市場において、製品の「ドミナント・デザイン」(市場でこの製品はこの形状、形とみんなが認めるデザイン)が決まってくると、市場に残れる企業数が減っていく、というのがUtterback先生の研究。理由は、ドミナント・デザインが決まるとWinner takes Allの様相が強まるので、利益が出る企業数が限られるようになるから。私もMITにいたとき実証研究をやったんだけど、たとえば液晶テレビの場合は以下。ドミナント・デザインが決まったと思われる2005年以降、Exitする企業が増えて、市場にいる企業数が減っていった。スマートフォンにおいても、これと同様のことがもう起こり始めているといえるだろう。

その他、Utterback先生の本ではあらゆる業界において検証がされているので紹介しておく。

Mastering the Dynamics of Innovation
Harvard Business School Pr

この本の日本語版は絶版になってるので、英語版を紹介しておく

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9 Comments

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タブレットならAndoridにも可能性あり? (HW)
2012-05-14 01:00:38
持ち運び可能なコンピュータ+電話だと画面サイズなどに複数の選択肢がある意味はそれほどないのかもしれません。革新的なインターフェースを開発しその優位を守りきったiphoneの勝利ということでしょうか。まあ、私も今はガラケーですが、iphoneにお財布ケータイがつけばそれでいいのかなと思ってしまいます。
一方で、タブレットについては、まだ、これが決定版というのは出ていないと思いますし、最終的な進化系として複数のものに修練していく可能性があると思うのです。そうであれば、少ないものに絞って開発しているappleより、多くの試行錯誤がなされるだろうAndroid陣営により可能性があるのではないかと思います。
Unknown (Unknown)
2012-05-14 13:55:18
k詳しいことは分りませんが、appleの独り勝ちらしいことは何となくわかりました。
やは!面白い (カールバーグ)
2012-05-15 00:04:00
なかなか、いいですね。このグラフ。販売端末台数とかでは、真実は見えない。
スマホ戦争 (freedom)
2012-05-15 01:17:08
勝負はついています。勝者はAppleでもSAMSUNGでもなく「Qualcomm」です。
一般にはあまり知られていないかもしれませんが、iPhoneもGALAXYもスマホの基幹部品であるチップセットはQualcommが供給しており、スマホ全体の80%近くのシェアをおさえています。3Gの基本特許もQualcommが持っており、ほぼ全ての携帯端末メーカーはQualcommに上納金(特許料)を納めてスマホを作らせてもらっているわけです。
パソコンの覇者がIBM、Compaq、HP、と変遷していっても中身は一貫してIntelが君臨し続けているのと同じ構図です。
スマホは既にLilacさん得意のコモディテイー化されていて部品を集めて誰でも作れる段階になっています。ユーザーはアプリが動けば端末のメーカーにこだわりは薄いでしょう。価格競争しかないですね。Appleはこの価格競争に直接は巻き込まれないシステムを作っていますがあまりにも価格差ができると少しは追随せざるを得なくなるでしょう。

Nokiaは先月、格付け会社にジャンクに格下げされて更にネガティブのコメントがついています。即ち倒産寸前の危ない会社だということですよね。GSMの世界ではまだ一定の役割があると思いますが、復活はかなり難しいでしょう。
iPhone がでてきた貴重な時間にNokiaはQualcommと特許戦争をしていたことも凋落の要因かと思います。本業で苦労するよりも特許で手っ取り早くもうけている同業他社を見てきたこと、また携帯電話の業界を切り開いたというプライドもあり、簡単にQualcommに屈服できなかったために本業で勝負するのではなく法廷で勝負していたわけですね。
先日、インドでNokiaの携帯端末は1,000円〜2,000円位で売られていました。日本でNokiaの長靴を1万円で買いました。どちらが利益を上げやすいかは明らかですよね。通信機器部門が危ないので健全な長靴部門は最近分離されてようですが、あきらめたのかな。5万円の端末を売っている会社と千円の端末を売っている会社が利益で勝負するのは元々無理な話でもあります。規模を追わず縮小してGSMで生き延びるしかないのではないでしょうか。ヨーロッパやアフリカ、アジアはまだまだGSMが主流ですから
SAMSUNGは一見勝っているようでかなりの綱渡りですね。Appleに目の敵にされていますし、一部機種は自社でチップセットを作っていますが、Qualcommに莫大な特許料を支払わねばならず、呪縛から逃れようとドコモと富士通の特許と技術力に頼ろうとしていますが日本側はどうするでしょうかね。
端末の売上は昨年世界1になり、今年に入って、過去最高を更新しているのに輸出は20%以上減らしています。4月は37%も減らしたことがニュースになっていました。SAMSUNGはGDPの1/4近くを占めており1企業の政策でGDPが数%も減ってしまうという大事件です。イゴンヒは刑事で有罪判決を3度も受けながら、金の影響力とはいえ国の恩赦で赦してもらっているのにSAMSUNGにとっては利益でも国家を傾けていて国民の反発は必至です。
業界の一番の注目はHuaweiですよね。人民解放軍のフロント企業とも言われており、アメリカはスパイ企業として警告を発していますし、この前オーストラリアは安全保障局の勧告で光ファイバー計画の入札から排除しましたが、日本では既に経団連に加盟しており大きな問題にはならないでしょう。昨年スマホ市場に参入し1万円のスマホで攻勢をかけ、既にLGのシェアに追いついており、2月に発表された最新機種では、性能はiPhoneやGALAXYも上回っており、これがうまくいけば来年の今頃はAppleやSAMSUNGと肩を並べているでしょう。Huaweiは新機種ではチップセットも自社で開発しておりQualcommの呪縛から逃れられるし、中国の人治社会に守られているから更に有利ですね。
日本メーカーに希望はあるでしょうか。技術力はあっても収益につなげていませんからね。端末メーカーでは富士通とシャープくらいは残るかな。ソニーはエリクソンから分離してどう勝負するかな。
Unknown (yuzuru)
2012-05-16 11:59:17
シェアの奪い合いなのか、
パイ自体が広がっているのか、
自助努力の利益率向上なのか
を考える上で販売台数、利益の実値推移が見たいですね。
#営業利益の推移は下記にありました。
http://www.asymco.com/2012/05/03/the-phone-market-in-2012-a-tale-of-two-disruptions/
女性の台頭 (タッチペン店長)
2012-05-25 20:53:45
このデータでは性別のデータがありませんが、日本でも楽天のスマートフォン利用データが伸びている情報があり、その使用頻度で女性が多くいるのが原因だと書いてありました。

アップルの「女性好み」を意識したデザインや操作性などが支持されているのも大きな要因ではないでしょうか。
オープンであること (Vaccaj)
2012-05-26 21:24:36
まだ、Androidの負けを断じるのは尚早と思います。
ビッグプレイヤーだけを見るのではなくて、
DHGateあたりでAndroid製品の山を見て下さい。
http://www.dhgate.com/wholesale/android+cell+phone.html
これがオープンであることの強みです。
Appleは常にこれらの挑戦者からの挑戦を受けなければなりません。
アップルの弱み (若手機関投資家)
2012-06-11 23:21:51
素晴らしい記事ありがとうございます。アンドロイドにそんな弱点があったとは・・・

ただ、販売シェアでアンドロイドに負けているということはネットワークの外部性から徐々に競争力を失うときがします。
初コメ (黎人)
2012-06-18 19:50:49
すごくわかりやすいグラフですね!

あっぷるとか、よくわからないけど、なんか最近の世界の情報進出って、すごいですよね!

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