My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

自社事業を破壊するイノベーションが出てきたとき

2009-09-10 16:20:00 | 2. イノベーション・技術経営

先週書いた「イノベーションが部署単位でしか起こらないことについて」という記事に、渡辺千賀さんからリンクをいただいた。
ありがとうございます!
これに関して書きたいことがあるんですが、順番的には、イノベーションのジレンマのことを紹介してからそっちに行こうと思う。
2回シリーズで。

自社事業を破壊するようなイノベーションが出てきたとき、企業はどう対応すべきか。

そもそも、「イノベーションに破壊される」って何よ?
と思うかも。
いろいろありますよ~。

有名どころでは、メインフレームに対する、アプリ+ウィンドウズ+PCとか。
固定電話に対するIP電話とか。
レーザープリンタに対するインクジェットとか。
最近は、ラップトップPCに対する、ネットブックも破壊的イノベーションではないか(参考記事)。

「破壊的イノベーション」の特徴は、今までの技術を代替するような非常に安価なテクノロジーだってこと。
更に、最初出てきた頃は、品質が非常に悪いくせに、高かったり、自社と全く違う顧客をターゲットしてたりして、全く敵とも思っていない。
それが、いつの間にか自社市場を脅かすくらいに成長している・・・
いざ、遅まきにその市場に参入しようとしても、コスト構造や顧客層、売り方なんかが全然違うので、うまく行かない。
結局、今まで持っていた市場をほとんど取られて終わる。
それが「破壊的イノベーション」の怖さ。

IP電話が出てきた90年代の終わり頃、誰が固定電話を覆すと思っていただろうか?
あんなに音質が悪くて、プツプツ切れる。
物好きな一部の個人のお客は使うかもだけど、固定電話を一番使ってる法人のお客さんは使うわけないよね、と誰もが思っていた。
そんなものだから、圧倒的な強さを誇っていた固定電話の企業が採用するわけが無い。
日本でも、最初に消費者向けに採用したのは、アタッカーのソフトバンクだった。

ところが今や、個人の電話どころか、固定電話の人たちが「ここは堅い」と思ってた大手企業の社内電話すら、ほとんどIP電話でしょ。

もちろん、電話の場合、どの国でも既存事業者が色々と有利な点があり、「完全に市場を奪われる」というところまでは至ってない。
日本の場合、光ファイバーのおかげもあって、既存事業者の方が強いしね。
それでも、固定電話の契約者数は減り続け、IP電話にとってかわられつつある。
そしてIP電話でのシェアは高くない。
昔の電話会社の圧倒的な優位性に比べれば、だいぶ破壊された。

ちなみに、日本企業は過去にたくさんの「破壊的イノベーション」を生み出し、米国企業が独占する市場を破壊してきた。
クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」に取り上げられてるだけでも、
アメリカのオートバイ市場を独占していたハーレー・ダヴィッドソンを、超高級セグメントだけに押しやってしまったホンダ。
HPがレーザープリンタで高いシェアを持っていたプリンタ市場を、インクジェットで破壊したキヤノン。
カメラ市場でのソニーのデジタルスチルカメラも破壊的。
そして今は、日本企業がその市場での優位性を、他国のメーカーに破壊されつつある時代だ。

破壊的イノベーションは、自社内で生まれることも非常に多い。
ところが多くの場合、そのイノベーションを製品化したり、さらにそれをうまく売ることが出来ずに失敗する。
第一に、破壊的イノベーションがターゲットする市場は最初は小さく、既存顧客にも刺さらないので、経営上無視されがち
HPでインクジェットビジネスが育たなかったのは、社内から技術が出てこなかったからではない。
むしろ逆で、この技術はHPから出てきたのに、同社のメインであるレーザープリンタ市場に比べて小さいから、経営上の優先順位が下げられ、ちゃんと投資されなかったのだ。
投資ってのは、お金の面だけじゃなく、優秀なエンジニアが投入されない、とかいう意味でもそう。
結果として、新規参入のキヤノンに負ける。

あるいは、携帯CD・MDプレーヤーでリーダーだったソニーがMP3プレーヤーで後れを取ったのも同じ。
MP3なんて最初は、音質を大事にするソニーファンから見ても、どうでも良い存在だったんじゃないか。
お客さんが無視してるんだから、メーカーが無視することは責められないよね。
で、90年代までは世界的に圧倒的なブランドだったウォークマンが、iPodに負ける、と。

第二に、だんだん重要性がわかってきた頃には、すでに自社製品とカニバリはじめており、参入のタイミングが更に遅れる
マーケットリーダーであればあるほど、この決断は難しい。
例えば、東芝に「ネットブックに参入せよ」といってもなかなか難しい。
参入したけど、値段が高すぎるしね。

社内からもイノベーションの芽は出ても、自社が勝ってる商品を、わざわざ価格破壊するような商品を、投入するのを渋るのは普通だろう。
むしろ、絶対に価格破壊が起こらないよう、あの手この手で新規参入者を阻害する方向に行くんじゃないか。

第三に、いざやろう!としても、コスト構造とか、売るのに必要とされるスキルや価値観とかが全く違うのでうまく行かない
クリステンセンの例だと、アメリカの有名デパートのKresgeなどが、ディスカウントストアの経営に乗り出して失敗してる。
高級品を、懇切丁寧に説明できる売り場スタッフをつけ、高所得者層に高く売るのがデパート。
ところがディスカウントショップは回転率が命。
売り場にはできるだけスタッフを置かず、販管費を削減し、中・低所得者に安く売る。
そんな「懇切丁寧に」なんてやってたらうまく行かないのだ。
同じ組織の中に、従業員に違う価値観を求める二つのビジネスが並存するのは難しい
結果としてディスカウントストアは撤退。

日本で卑近な例だと、消費者金融に乗り出してことごとく失敗している都市銀行などがそうかな。
(そして規制を駆使することで、消費者金融というイノベーション自体をつぶしちゃったけどね。)

他にも色々理由があるが、「破壊的イノベーションの多くは、社内から芽が出てくるが、まっとうな経営判断と組織的理由によってつぶされる」のである。
敵は身内にあり、なのだ。

クリステンセンはそれに対する解として、「破壊的イノベーションを担う事業はスピンオフしろ」と言う。
同じ組織の中にあったのでは、上記の理由などでつぶされてるうちに、アタッカーにやられて終わってしまうから。

そして同じ組織の中で、破壊的イノベーションをマネージするのがいかに難しいかを述べる。
例えばMicropolisという8インチディスクドライブの企業では、今までの顧客を捨て、売り上げを減らしてまで、5.25インチのディスクドライブに社内の気鋭のエンジニアを投資。
で、新しい5.25インチの市場で少しずつ売り上げを上げてくのだ。

そんな、「今までの顧客を捨て、売り上げを下げてまで、社内のベストの人材を海のものとも山のものともわからない新しい技術に投資する」なんて、普通できるか?
(そーゆーことができる人を、パラノイアという。by アンディ・グローブ)
それが出来ないのが普通だから、スピンオフしろ、とクリステンセンは言うのだ。
スピンオフすれば、その会社にはその事業しかないわけだから、一生懸命優秀な人材を集めて、経営資源のすべてをつぎ込んで頑張るはずだ。

で、スピンオフさせても、資本は持ち続け、その企業が市場のメインになってきた頃に乗り換える、というのが大企業の正しいやり方。

と、ここまでが「教科書」なんだが、この瞬間、自社市場を破壊しかねないイノベーションに対面してる企業にとって、そんなこと言われても困る、というのが実際のところ。
例えば、ネットブックの脅威にさらされてる東芝はどうすればいいのか。
クラウドの法人向けソフトに負け始めているSAPはどうすればいいのか。

一般論にとどまらず、でも個別論に陥らずに、この問題の解を探すのは、なかなか大変な作業だ。

うまくまとまりきれてないんだけど、かなり時間使ったので、また明日にします。

とりあえず、ほんの紹介。
(投票も忘れずにお願いしまーす♪)
イノベーションのジレンマの問題提起をしてるのが、この本。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
クレイトン・クリステンセン,玉田 俊平太
翔泳社

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そして、「スピンオフしろ」という以上に個別の解について議論してるのが、この本。

イノベーションへの解 収益ある成長に向けて (Harvard business school press)
クレイトン・クリステンセン,マイケル・レイナー,玉田 俊平太,櫻井 祐子
翔泳社

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7 Comments

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Unknown (だいすけ)
2009-09-10 21:13:25
この理論は本当になるほどと思ったけど、僕はこれのせいで翻弄されまくってます。。。
何でもそうだけど”過ぎたるは及ばざるが如し”だなと。
しっかりと理解して自分の言葉で話せるようにならんと。
と、自戒も含めて感じますわ。

そうだ。
S.Tさんとランチしました。
雰囲気分かりました。紹介有り難うです。
返信する
むむ!? (Lilac)
2009-09-10 23:45:42
>だいすけさま

>僕はこれのせいで翻弄されまくってます。。。
な、何があったんですか~?

>S.Tさん
良かったです。私も久しぶりに会いたいな~。元気でいらっしゃるのか。
返信する
遷移行列 (Willy)
2009-09-11 01:11:14
新たな商品が出たときに、新規顧客から得られる利益と、既存顧客が乗り換えることによって起こる利益の変化幅は同じではない。で、既存の企業と新規参入では、新規/既存顧客の比率が違う。そして、この比率は企業側ではあまりコントロールできない。従って、前提条件が異なるので意思決定も同じにならない、ということではないかと思いました。
返信する
その通り (Lilac)
2009-09-11 03:45:21
>Willyさま

全くおっしゃるとおり、既存事業者が破壊的イノベーションに苦しむ理由は、既存事業者は既存のお客さんからの実入りが減ることで実質売上・利益が減る。
新規事業者は、ゼロから新規顧客を開拓することからはじめるので、ノーリグレットで、がんがん攻めていけますからね。
意思決定は全く正反対のものになるでしょう。
クリステンセンが「スピンオフ」しろと言っている真意は底にあるわけです。

さらに、遷移行列とはうまいこといいましたね。
実は、数値経営学者で、イノベーションが起こることによって既存・新規の競合優位性がどのように代わるか、というのを行列で表現し(シェアとか売り上げが指標になる)、その行列の固有値の正負を求めることで、イノベーションが持続的なのか、破壊的なのか、を分類する、っていう研究をしてる人がいますよ。
私も先学期の授業の課題で、これをやりました。

そんなの式にしなくても考えりゃわかるじゃん、と思ったんですが、経営学者は数値的な方法を使うことで、もっともらしくしたいらしいです。
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キヤノンのジレンマ (freedom)
2009-09-11 04:05:30
>HPがレーザープリンタで高いシェアを持っていたプリンタ市場を、インクジェットで破壊したキヤノン。
これってガラパゴス島に限ってのこと? それでも微妙かな。
インクジェットのシェアは世界でみればキヤノンのシェアはHPの半分にも達していないはず。だから破壊したのはHPともいえますよね。
それとHPのレーザープリンター(Laser Jetシリーズ)ってずっとキヤノンが作っていたと思いますよ(最近のシリーズでは他社製に切り替えているようですが)。キヤノンはアップルにも供給(Laser Writerシリーズ)していたのでメーカーとしてはかなりのシェアだったでしょう。イノベーションのジレンマってベンダー単位でみるなんてことはないですよね。
>HPでインクジェットビジネスが育たなかったのは、・・・
の説明はキヤノンにもいえるでしょう。開発や特許はキヤノンが先行していたがHPが先に製品化したのでシェアをとられたのでは。(キヤノンで製品化が遅れるのはイノベーションのジレンマよりも他の原因の方が大きいと思いますが。SEDもそうですしね(遅れたので結局製品化の機会を失ったように見えます。最終的には有機ELだと思うから))もっともサーマルヘッドとは方式の違うインクジェットはエプソンが先行していました。(日本では普及の当初はキヤノンの商標であるバブルジェットがインクジェットプリンターの普通名詞となっていましたが)
だからHPとキヤノンを入れ替えてもロジックは成立するのでは。

そういえばガラパゴス島では携帯音楽プレーヤー市場でウォークマンがiPodを抜きましたね。シェアはこの1年iPodはずっと微減傾向にあり、ウォークマンは伸びていたのでついにという感じですね。音質も省電力機能もウォークマンの方が優れていますからね。でも本当のところはiPodユーザーや予備軍がiPhoneに流れていってるのでしょうけどね。

イノベーションのジレンマの本は経済学を学んだことのない人でも読み物としておもしろいと思います。
返信する
キヤノンとソニー (Lilac)
2009-09-11 04:42:21
>freedomさま

>これってガラパゴス島に限ってのこと? それでも微妙かな。

おっと、自分でちゃんとシェア確認してませんでした。すみません。
この例は授業で出てきたんですが、それを調べなおさずにそのまま書いちゃった・・。

ただ、イノベーションのジレンマって、業界全体の構造変化を見ますので、OEMやベンダーもプレーヤーとしてちゃんとカウントしますよ。
例えば、液晶テレビで言うと、ソニーとかよくトップになってますが(流石にもうサムソンに抜かされたかな)、業界全体のValue add(付加価値)を見ると、液晶パネルに根こそぎ持ってかれてますから、これは典型的なイノベーションのジレンマと言えます。
破壊的イノベーションは、こういう業界の産業構造やコスト構造まで根こそぎ変えることで、既存プレーヤーの取り分を減らす、というケースがほとんどです。

>本当のところはiPodユーザーや予備軍がiPhoneに流れていってるのでしょうけどね。

そうだと思いますよ。
事実、すでにApple自身、もうiPhoneを主力商品として移行を図っており、iPodは「ローエンド・エントリー向け」に位置づけなおしてるのかな、と思ってます。
今回の新製品発表からもそういう印象を受けました。

ウォークマンはiPod追いつけ追い越せをやってるうちに、本当の潮流に乗り遅れないといいんだけど。
せっかくソニーエリクソンとかグループ企業があるんだから、生かしてほしいですよね。
組織の壁なのかなあ・・・
返信する
Unknown (だいすけ)
2009-09-11 17:28:57
今度はなしますよ。
東京来たら、連絡してください。
S.Tさんも僕も同じくらいしゃべるので1時間半で結構濃かったですよ。
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