言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

規制を用いた経済成長戦略

2011-11-23 | 日記
水野和夫・萱野稔人 『超マクロ展望 世界経済の真実』 ( p.214 )

萱野 ここでは、市場が飽和化してしまった低成長時代においてなおどのような経済戦略がありうるのか、ということを議論したいと思います。
 議論の入り口として、環境規制と経済との関係をとりあげたいと思います。最近の先進国ではどこも環境規制が厳しくなり、それをクリアしないとそもそも市場に参入できないようになっていますよね。環境そのものが産業化され、よりすすんだ環境対策の技術をもったところが利益を得たり、市場で優位にたてるという状況になっている。
 こうした市場のあり方は、これまでの市場のあり方とはかなり異質です。これまでは人びとの欲望を刺激して需要を拡大していくというのが市場のあり方でした。これに対し現在は、環境規制そのものが市場をつくりだしている。かつてなら経済活動を阻害するものと考えられてきた規制が、逆に技術の市場価値を高めたり、新しい産業を育成したりするビジネスチャンスに変わってきたのです。

水野 自由競争とは逆向きですよね。

萱野 そうなんです。これまでは国家の規制と市場における経済活動は対立するものだと考えられてきました。少しまえの、規制緩和を求める新自由主義者たちはそうした考えの最後の担い手ですね。
 しかし今後、環境の産業化がすすめば、こうした市場と規制の関係は大きく変わることになるでしょう。規制こそが市場をつくりだし、新しい利潤をうみだす回路になっていくのです。これからは産業界のほうから規制強化を求めるようなことだってあるかもしれません。環境規制がなくなれば、それまでの環境技術への投資が無駄になってしまいますから。
 こうした特徴はおそらく、市場が飽和化した低成長時代における新しい市場のあり方になっていくでしょう。さまざまな消費財があらゆる領域へと浸透してしまった低成長社会では、欲望を刺激することではもはやなかなか市場は拡大しません。欲望の自由な展開という、八〇年代から九〇年代にはやったポストモダン的なスローガンは過去のものになったということですね。これからは逆に、何らかの規制によって付加価値をつけた市場を創設していくことが重要な経済的営為になっていくでしょう。そこでは、規制をいかに市場における価値創出や利潤獲得のための因子として活用できるかが、新しい経済戦略になっていくのです。
 日本経済を振り返っても、一九七〇年代以降、先進国全体が低成長社会になっていくなかで日本だけが比較的パフォーマンスがよかったのは、省エネ技術をいち早く経済のなかに組み込むことができたからですよね。

水野 七〇年代のマスキー法がまさにそうですね。ひじょうに厳しい排ガス規制を定めた法律ですが、アメリカでは当初の目標からかなり後退して実施されたのに対して、日本では目標どおりの規制が実施されました。そのことで省エネ技術がずいぶん進歩しましたからね。

萱野 すでにその時点で日本の自動車産業はマスキー法の排ガス規制をクリアするような技術をもっていたんですよね。でもそれまでは、その技術に市場価値を与えてくれるような回路がなかったので表にはでてこなかった。マスキー法という規制がそうした回路をつくりだしたんです。
 こうした事態を考えると、国家による規制と市場での競争との関係を問い直すことが、おそらく低成長時代における経済戦略を考えるときのひとつの切り口になると思われるのです。

水野 そうですね。オイル・ショックを経ても日本の自動車産業が強かったのは、高騰した原油価格を省エネ技術によって実質的に安い水準におさえることができたからです。原油価格は第一次オイル・ショックで一バレル三ドルから一二ドルに上がり、第二次オイル・ショックで四〇ドルに上がっていくんですけれど、日本はコストの上昇分を販売価格にある程度転嫁できたうえに、省エネ技術によって相対的には一バレル三ドルよりも安い石油を手にすることができました。一方、アメリカは小型車の開発に乗り遅れてそれができなかった。アメリカの自動車産業はそれによってどんどん衰退していきました。
 もちろん現在は一バレル一〇〇ドルにまで原油価格が上がっていますので、さすがに省エネ技術でも対応しきれません。しかしこうした資源価格の高騰が日本の低成長や所得移転の背景にあることを考えると、環境規制によって技術の市場価値を高め、新しい利益の領域をつくりだしていくことは必須の課題なんだと思います。たとえばここまで原油価格が高騰してしまうと、環境規制によってどこまで脱化石燃料の市場分野を創出できるかというのは、不可避的に今後の鍵となってくるでしょう。
 先進国ではゼロ成長が常態だとしても、今後世界的にも規制強化されてくる環境の分野でアドバンテージをもつことができれば、それによってプラスアルファの利潤を獲得することができるでしょうから、そういう点でも環境規制による産業の育成は重要だといえますよね。


 市場が飽和化してしまった低成長時代においては、環境規制などの「規制」が市場を創出する。かつては経済活動を阻害するものと考えられてきた規制が、逆に技術の市場価値を高めたり、新しい産業を育成したりするビジネスチャンスに変わってきたのである。今後の経済戦略は、「規制」を活用する方向で考えなければならない、と書かれています。



 この考えかた、いけるかもしれません。

 私はこれまで、この本の内容(著者らの主張)について、次々に批判・反対意見を提出してきましたが、この主張は、正しいかもしれません。

 とはいえ、ここでもやはり、著者らの主張には「おかしな」点がみられます。



 まず第一点。

 「アジア共通通貨は必要ない」において引用している部分には、著者らがアジアへの輸出が日本経済の成長にとって重要である、と考えていることが示されています。

 とすれば、アジア諸国の市場、アジアの消費者の立場に立った「品質」が重要になります。ここで思い出していただきたいのは、いま、日本ではガラパゴス化が問題になっているということです。端的に言えば、日本企業の製品は「高品質すぎる」わけです。アジア諸国の人々からすれば、「そこまで高品質でなくともよいから、価格が安いほうがよい」わけです。

 したがって、「規制」が成長戦略になる、という考えかたには、すこし疑問があります。

 けれども、欧米などの「先進国市場」は巨大ですから、いかにアジア地域が経済成長著しいとはいっても、その「将来性」ではなく「(現在の)市場規模」でみた場合には、欧米市場は重要です。この点では、欧米市場はアジア市場とは比べものにならない、と言っても過言ではないでしょう。

 とすれば、欧米などの「主要市場」に向けた戦略、日本の成長戦略としては、「規制」が成長戦略になるという考えかたには、一理も二理もあると思います。



 次に第二点。

 著者らは「規制緩和を求める新自由主義者たち」と述べていますが、この主張は誤っていると思います。新自由主義者は、「むやみやたらに」規制緩和を求めてきた(求めている)のではなく、「合理的な範囲での」規制緩和を求めているにすぎません。つまり新自由主義者は、「対象は何でもいいから規制緩和しろ」とは言っていないわけです。

 私は基本的に競争政策を支持しています。したがって、私の主張は新自由主義そのもの、あるいは、新自由主義に近いと言ってよいと思います。

 しかし、私の観点、あるいは新自由主義の観点からも、環境規制には「価値がある」と考えられます。

 その私からみても、政府が一定の環境基準を定めて、それを市場参入への条件にするのはいかがなものかと思います。しかし、私がこのように考える理由は、著者らとは異なります。私がこのように考えるのは、それでは「効率が悪い」からです。

 基本的には、税(金銭)による方法が一番だと思います。たとえば排ガス規制であれば、一定の基準を満たさなければ販売を禁止する方法(著者らが主張している方法)ではなく、排ガス一単位あたりの税率を定めたうえで、排出された排気ガスの総量に対して課税する方法(経済学者らが主張している方法)がよいと思います。

 もちろん「一定の基準」そのものが重要な場合には、一定の基準を満たさなければ市場への参入が認められないことは、いうまでもありません。たとえば医師免許を持たない者が医療行為に参入することを認めない、といった規制は当然だと思います。

 しかし、「最低限の制約」を超えて、「さらなる制約」を課す場合には、市場原理を活用することが合理的だと思います。



 以上をまとめれば、
  1. 「最低限の制約」の場合には、参入規制がよいが、
  2. 「それを超えた制約」の場合には、税などの金銭負担を課したうえで、市場に委ねるのがよい
ということになります。

 ここで本題たる、経済成長戦略としての「規制」という話に戻れば、これは当然「最低限の制約」ではないので、参入規制は好ましくありません。税などの金銭負担を課したうえで、市場による解決に委ねるべきだと思います。私は、「ピグー税」または「汚染許可証」を導入し、戦略的な成長を考えるべきだと考えます。



 なお、なぜ、「ピグー税」または「汚染許可証」が効率的なのかは、下記の関連記事をお読みください。



■関連記事
 「金融緩和は「確実に」需要を増大させる
 「ガラパゴス化の原因
 「外部性と市場の非効率性
 「当事者間による外部性の解決法と、コースの定理
 「ピグー税と汚染許可証
 「ピグー税と汚染許可証を比べれば
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 前原政調会長、最低保障年金... | トップ | 来年、中国の最高指導部は大... »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。