石油と中東

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(ニュース解説)OPECの現状に嫌気が差したサウジ石油相?-第165回総会をめぐって

2014-06-17 | OPECの動向

 6月11日、オーストリアのウィーンで第165回OPEC総会が開かれた。会議では現行生産枠3千万B/Dを引き続き維持することを決定、また次回総会を11月27日にウィーンで開催すること、リビア出身のバドリ現事務局長の任期を来年1月からさらに半年延長することも決まった 。OPEC最大の生産国サウジアラビアのナイミ石油相は総会前の記者談話で需給バランスは均衡しており100ドル超の北海ブレントの原油価格も満足すべき水準であると語っている 。これに対して強硬派と目されるイランやベネズエラからは特段のコメントは無かったこともあり、表面的に見る限り至極平穏な総会だった訳である。

 しかし内実を見ると最近のOPECは年2回の総会が惰性に流れており、また世界の石油市場における支配力を失いつつある。そのような状況に対してサウジアラビアはいらだちを覚えているように見受けられる。それが証拠に今回の総会でのナイミ石油相の言動がこれまでとは異なっていたことを外電は報じている。一つはナイミ石油相が総会当日遅れて出席したことであり、もう一つは彼が席上で総会は年1回で十分ではないか、と提言したことである 。これまで総会を皆勤し、定刻を厳守していたナイミ石油相の遅刻は意図的と見て間違いあるまい。そして3千万B/Dの生産枠は2011年12月の第160回総会で決定されたものであるが、その後今回を含めて5回の総会では何ら7突っ込んだ討議もなく生産枠3千万B/Dが据え置かれたままと言う事実に対してナイミ石油相は総会開催減を提言したのである。

 2011年以来石油価格は100ドル台を維持しているが、OPEC加盟国はいずれもその価格水準に満足しており生産枠を変更する必要は無い、と言えそうだが、実は現在のOPECは3千万B/Dの生産を維持することが精一杯の状況なのである。OPEC加盟国特に中東北アフリカの加盟国ではリビアが「アラブの春」を乗り越え、イランは政権交代による欧米禁輸緩和が期待され、イラクは石油生産が回復するなど増産のプラス要因と目される状況が続いた。このためOPEC加盟国が増産競争に走るのではないか、と言う憶測すら生まれ始めていた。

 しかし最近の動きを見る限りイランは経済制裁解除が遅々として進まず、イラクはアルカイダ系過激派組織の武装闘争とこれに乗じた北部クルド勢力がキルクーク油田を支配下に収めイラク全体の安定生産が危惧される事態である。またリビアでは部族勢力と中央政府の対立により石油生産量が激減している。これらの国々では石油増産どころではなさそうだ。MENA以外のOPEC主要生産国であるナイジェリア、ベネズエラも現状維持が精一杯で増産どころではない。前者は部族闘争に加えイスラム過激派「ボコ・ハラム」の暗躍でニジェール・デルタの油田地帯の治安が悪化している。ベネズエラでは米国のシェール石油増産により自国の輸出がままならない状況である。

 このように見ると石油の増産・輸出余力があるのはサウジアラビアだけである。実際同国はIEAの増産要請にその都度応じた結果、現在の生産量は1千万B/D前後に達しているが、それでもなお2百万B/D程度の増産余力を有している。同国の増産によりOPECは何とか世界シェア3割台を維持しているのであり、OPECの威光を守っているのはサウジアラビアただ一国である。世界経済が徐々に回復傾向を見せており、世界的な石油の増産圧力が高まった場合、その標的となるのはサウジアラビアである。ナイミ石油相は消費国から圧力を受け、他のOPEC加盟国からは一方的に頼られ、常に矢面に立たされる自国の立場に割り切れない思いを感じているに違いない。それが総会の開催を年2回から年1回に変えたいと言う提案の真意であろう。勿論サウジ以外の加盟国はこの提案に難色を示し結局次回は11月に開かれることになったことは冒頭に触れたとおりである。

 もう一つ表面には出ていないが、ナイミ石油相がOPEC総会に嫌気がさしているのはバドリ事務局長の後任問題であろう。バドリ事務局長は2012年12月に交代の予定であったが、後任事務局長にサウジアラビア、イラン及びイラクの3カ国がそれぞれ候補者を立てて三つ巴となった。そのため任期が既に2回延長されている。今回は半年の延長である。今後どうなるかは予断を許さないが、ナイミ石油相としては名実ともにOPECの主導権を握るため事務局長ポストをイラン、イラクに譲る訳にはいかないのである。

(完)

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