マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

あっぱれ、アユソ氏

2021-05-10 13:30:00 | スペイン日記

勝利を噛みしめるアユソ氏(左)と国民党首カサド氏

 54日にマドリード州議会選挙がありました。選挙結果は国民党(PP/ペーペー)の現州長アユソ氏(Ayuso)の圧勝でした。この選挙は「大怪獣とそれに立ち向かう勇敢な女性との戦い」が絵になったのか、マドリード州民だけではなくスペイン国民が固唾を飲む選挙となりました。大怪獣はサンチェス首相(Sanchez)の中央政府で勇敢な女性はマドリード州長のアユソ氏です。

 

 選挙運動が始まるとサンチェス首相とアユソ氏の戦いになりました。首相が州選挙に顔を出してくるのもただ事ではありません。その結果、副首相を辞めてこの選挙に打って出たポデモス党(Unidas Podemos )のイグレシアス氏(Iglesias)やサンチェス首相の指名を受けた社会労働者党(PSOE/ペーセーオーエ)のガビロンド氏(Gabilondo)らの影が薄れてしまいました。六党がそれぞれの立候補者をたて、ほとんどの党の選挙スポットは立候補の彼ら彼女らがこぶしを上げてマニフェストを叫び、そのスーパーが画面下にでるステレオタイプでした。それをテレビやネットで見ましたがまことにやかましいスポットでした。

大敗したサンチェス首相

 ところがアユソ氏の選挙スポットはマドリード市内を彼女がジョギングする姿だけで、マニフェストも口から唾の演説もなしでした。彼女が走るバックではバルや商店がオープンし、市場の八百屋の笑顔やコロナウイルス病院などが流れるだけの穏やかな映像だけでした。州庁のあるソル広場に着いたアユソ氏がニコリと笑い、唯一のスローガンは「自由/Libertad」だけでした。これは若者には受けたようです。

 

 この「自由」が功を奏したのか、136議席がマドリード州議会数ですが、彼女は65議席を取りました。過半数(69)には届きませんでしたが、サンチェス氏やイグレシアス氏などが集まった左派三党の合計は58議席数でした。議会の州長選投票の時はアユソ氏と同じ右派のヴォックス党(Vox/13議席)に援助を頼まずに、彼らに投票の棄権を頼むだけで十分勝てます。組閣に参加を頼む必要もなくなりました。もし2回目投票になってもイエスがノ―を上回ればよいだけのことです。

政界を去ったポデモス党首イグレシアス氏

 今回の選挙でサンチェス首相の党は13議席を失い24議席数の歴史的惨敗をしました。総選挙にしても地方選挙にしても今までは高投票率は社会労働者党には有利に働きました。首相は選挙演説の終わりには「ともかく投票所へ行きなさい」と叫びました。「あんたがそこまで言うなら投票に行くよ」と大半(45%の州民)はアユソ氏に票を入れに行きました。なんと76,3%の投票率でした。いつもは60%でした。

 

 このようにマドリード州民だけではなく、国民もサンチェス首相にはうんざりしています。彼の政策を“サンチスモ/Sanchismo”と呼び、社会労働者党のシンパの間でもうんざり組が生まれました。彼らの票はアユソ氏に流れた噂もあります。サンチェス内閣の副首相を辞めてまでして出馬をしたイグレシアス氏ですが、宿敵の右翼ヴォックス党に負けたので、政界から逃げ出しました。7年前にポデモス党を立ち上げ政界入りをしましたが、何も成果を果たせず、国会をかき回しただけで勝手に去りました。

影が薄かった社会労働者党ガビロンド氏

 今回アユソ氏の州内閣の第一党野党に躍り出たのは、そのポデモス党と袖を分かったマス・パイス党(Mas Pais)の“子分”マス・マドリード党(Mas Madrid)です。党首のエレホン氏(Errejon)がたてたのが、麻酔医で主婦のガルシア氏(Garcia)です。彼女もアユソ氏のように庶民と膝を交える選挙活動をしました。そのお陰か、マス・マドリード党は議席数ではサンチェス首相の党と同じ24ですが投票率では上回りました。

 

 アユソ氏の国民党から分かれたのが右翼のヴォックス党です。党首はアバスカル氏(Abascal)ですが、立候補者のモナステリオ氏(Monasterio)は13議席を獲得しました。左翼・ポデモス党(10議席)を超えたので、大満足です。

マス・マドリードのガルシア氏(右)と党首エレホン氏

 今回の大敗者は中道派のシウダダノス党(Ciudadanos)でした。サンチェス首相とマドリード州議会の不信任動議を企てたのが党首のアリマダス氏(Arrimadas)です。アユソ氏とパートナーを組んでいましたが、裏切りました。マドリっ子たちが下した罰は議席数0でした。今回の選挙で一挙に26議席を失い、マドリード州議会から消え去りました。庶民は義理を守る仁義を無くした党には容赦をしません。

 

 お先が真っ暗になったシウダダノス党は議員給料の収入源も無くなるのでマドリードにある党本部の今月の家賃は党貯金をはたいて払いました。アユソ氏の勝利は彼女のコロナウイルス対策をマドリっ子たちが評価したからです。サンチェス首相は非常事態令を出して、ダメなものはダメ、と小学校の先生が生徒を叱るように国民を小学生扱いしました。

ヴォックス党のモナステリオ氏(左)と党首アバスカル氏

 アユソ氏は州民を大人扱いしました。「自由にするけど責任も取って下さい」と訴え続けました。商店や市場は営業を続け、バルは夜の11時までオープンしました。小売店やバルは日銭を稼いで生きています。客数は減ったとは言えオヤジが自分ひとりだけででもバルを開けられれば、少なくとも家賃ぐらいは稼げます。経済活動を完全にストップをさせませんでした。感染者を極力増やさないためにレストランのテラスのテーブル数を減らし、深夜の外出禁止は0時から6時までにしました。それでも増えたら州ロックダウンはせずに区単位、村単位の“スポットロックダウン”で感染が広がるのを抑え、そこの住民に羽目を外さないように自制を促しました。それでも感染はするので、コロナウイルス感染患者の病院を建てました。

 

 僕が感心したのは、アユソ氏がコロナウイルスに感染して2週間の隔離をした時です。家族に感染しないように一人でホテルに引きこもり、そこからネットで州の行政をこなしました。ガッツのある人だなぁ、と思いました。ジャーナリスト出身の彼女にはネットはお手の物ですが、そこまでするか、です。僕なら、これ幸いと寝ています。

 

 そんなアユソ氏なのでマドリード州の南部の社会労働者党の縄張りの労働者地区でも勝ちました。「私は社会労働者党に票を入れたけどアユソ氏には感謝しています」とパン屋さんはマイクにこたえていました。極左翼のポデモス党の生まれた地区でも勝ちました。アユソ旋風がマドリード州を駆け巡り、勝利を手にした国民党です。

州議会から消滅したシウダダノス党首アリマダス氏(左)と立候補者バル氏

  この黄金のご褒美を背中に背負ったのが党首・カサド氏(Casado)ですが、次回の総選挙まで黄金の輝きを持ち続けられるのでしょうか?フランケンシュタイン内閣(害を伴う党との“縫い合わせ”内閣)と比喩されるサンチェス首相は今回の失敗を肝に銘じて脇を固めました。党首として早速アンダルシア州社会労働者党(PSOE-A/ペーセーオーエ・アー)の次回州長選の立候補選を発表しました。それをニュースで知ったPSOE-Aの党員たちはビックリしました。寝耳に水でした。慌てすぎですよ、サンチェスさん。

コメント (1)
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