マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

時間よ、止まれ!減っていく制作時間

2019-06-24 13:00:00 | スペイン日記

作品の試作

 6月末になってしまいました。今秋の個展は10月末ですが、作品の組み立てを日本でするので、10月の初めには帰国します。なので、残りの制作日数は7月、8月、9月の3ヶ月間です。今朝もマドリードの都心へ行きました。銀座通り(Gran Via)でバスを降りましたが、行ったのは一歩奥に入った小便臭い職人街です。そこの大工屋に行きました。4月の初めに女大工のアナ(Ana)さんに「カマボコの板みたいなもの」を注文しました。2週間でできる、と請け負ったアナさんですが、3ヶ月後に受け取ったのは注文数の半分でした。


 家具とか額縁とかの仕事に追われているアナさんなので「2週間」は「口先」と受け取って、まぁ45日間、5月半ばには全ては仕上がっているだろう、と僕は見繕って注文を出しました。制作の精神的プレッシャーの上に納期の遅れのイライラが雪のように降り注ぎ、不安が氷のように固まりました。それを溶かすのに、ついついワインを飲みすぎました。運の悪いことに、年に一度の老人の健康診断の月とぶつかりました。この検査を受けないと常用の薬が支給されません。


 浴びるように飲んでいたワインを3週間禁酒して、検査を受けました。それが功を奏したのか、検査結果は「良」だけではなく、コレステロール値が下がりました。「善玉コレステロール」が多いので、薬は服用しなくても良くなりました。が、半年間は様子を見て半年後に再び検査です。良かったのか?僕には面倒が増えただけです。ここは、今まで三種類の薬を飲んでいたのが、血圧を下げる薬と尿酸を下げる薬の二種類に減ったのを喜ぶことにしました。


 その合間に車検(ITV)に持って行った車が落ちました。排気ガス検査で落ちました。今年で20年になる三菱のミニバンです。走行距離はたった12万キロなので、足回りは新車同様なのに「排ガス」を制御するコンピューターのチップスが壊れました。「日本へ部品を発注」となったので3ヶ月間三菱の修理工場にミニバンを預けました。スペインでは自分で車検場に車を持ち込みます。車種にもよりますが、乗用車の車検代は4千円~5千円くらいです。車の保険会社が手数料無料で車検場へ持って行くサービスをしていますが、落ちた後の再検査には5千円くらいとられます。


 この数年間毎回「排ガス」で落ちるので、僕は自分で持ち込んでいました。落ちたら三菱の修理工場で調整してもらい、再検査は受かっていました。今回はコンピューターの故障なので、お手上げでした。こんなに排気ガス規制がうるさくなったのは、ヨーロッパ議会が決めた年間の汚染量数を超える都市には罰金が課せられるからです。なので、お上(ヨーロッパ議会)に弱い新米(とは言え、70歳半ばの元判事のお婆さん)のマドリード前市長は20年以上古い車(僕の車)の都心進入を禁止にしました。


 僕の車のような年代物のガソリン車だけではなく、もう少し若いディーゼル車も禁止にしました。そこには、排ガス量の科学的根拠はありません。2000年を境にナンバープレートがヨーロッパ仕様に替わりました。それまでは州の頭文字に数字と文字(マドリード州ならM1234AB)のナンバープレートだったのが、数字と文字(1234BBB)だけになりました。つまりポリスが見分け易いから2000年で線引きをしただけです。


 女大工のアナさんも迷惑を被った一人です。大工さんは木材や家具の運搬にトラックは欠かせません。トラックなどの商業車はディーゼルが当たり前なのがスペイン(ヨーロッパ全国も)です。トラックが入れなくなったら商売あがったりです。入ったら1万円の罰金です(その場でポリスに払うと半額の5千円です)。でも、先月、5月末の地方選挙でマドリードも新しい市長になり、来月、71日から都心進入が再び自由になりました。とりあえず以前に戻して、9月までの3か月間市民で徹底的に話し合い、処置を決めることになりました。


 マドリードは都心に車で行くドライバーは本当に減りました。メトロやバスの公共機関が便利になったし、きれいになりました。ともかく安いので僕もそれを利用しています。それでなくても飲酒運転の取り締まりが厳しくなったので、車は置いて飲み屋街へ行きます。もし終電、終バスに乗り遅れてタクシーで帰ってもマドリード市内なら3千円くらいです。罰金や免停を考えたら安いです。


 そうそう、僕のミニバンはくだんの部品を交換してどうにかパスをしました。今回は制作に追われて時間がないので、再車検は三菱のディーラーに頼みました。来年はダメかもしれません。スペインでは乗用車の場合は新車から4年目で車検です。その後は2年おきに車検で、10年を過ぎると毎年です。


 他にもハプニングは色々とありました。セントラルヒーティングの暖房機の水漏れ、トイレのサイフォンが壊れた、玄関先にある下水道の蓋が膨れ上がった、10年おきの家の検査(ITE-車検の家屋版です)等々、アトリエで静かに制作をしているだけなのに何かと時間と金が消えていきました。


 そうそう、まだありました。近所の銀行のATMへ行った帰りにマイナンバーカード(身分証明書/スペインではDNI)を落としました。家に戻ってから気が付いたので、すぐに歩いたルートを戻りました。路上にはありませんでした。銀行のATMの隣はガソリンスタンドなので、身分証明書の落し物が届いてない?と、そこでも聞きました。それらが入っている箱を見せてくれましたが、僕のカードはありませんでした。それにしても、ガソリンスタンドに銀行カードや身分証明書を置き忘れるスペイン人の多いこと、20枚くらいありました。


 仕方ないので、警察に電話をしました。電話に出た警察官(声からしておばさん)が、最寄りの警察署へ行って紛失届を出して下さい。その時点でコンピューター管理されるので、拾った人から届け出があれば貴方に連絡が入ります、と親切に最寄りの警察署も教えてくれました。ヤレヤレ、とバスに乗って向かっている途中に僕の携帯に拾い主から電話がありました(身分証明書の入ったビニールケースに名刺も入れてあります。この時は、スペインでは車内での携帯会話がフリーなのに助けられました。でも、スペイン人の携帯おしゃべりは、本当にやかましい!)。


 近所の人で、僕が警察に向かう途中で家に居ないことを知らせると、自分も出かける途中なので待てない、とうちの郵便受けに入れておいてくれました。ラッキー!新しい身分証明書を交付してもらう煩雑さと無駄な時間を考えると、その拾い主は神様です。


 このように、庶民は色々と起きる些細な出来事に振り回されるだけでもうんざりしているのに、アメリカのトランプ大統領はなぜ?あっちこっちにちょっかいを出すのでしょう? 中国と経済戦争を始め、イランとは核戦争をしようとしているトランプ米大統領はそんなに暇を持て余しているでしょうか?


 それに比べたら、スペインは4月の総選挙、5月の地方選挙が終わったのに組閣されていない、吞気さです。州や市はそれぞれの議会が出来上がったのに、国会は休暇中です。大工のアナさんではありませんが、スペイン人は仕事が遅いです。マドリードは今週は40度を超える暑さになります。末とは言えまだ6月です。この夏の酷暑は昨年より厳しくなりますが、心配なのは水不足です。春に雨が降らなかったので、農地はカラカラです。老人は干からびてしまいます。

コメント (1)
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