マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

ドロボー

2018-10-30 16:30:00 | スペイン日記

トマティージョ


 家の周りに空き巣狙いが増えました。「お隣さん2軒が被害にあったわよ」とジョギング帰りのスーパーで隣人のローリーおばさん(Loli / 名前Doloresドローレスのニックネーム)が教えてくれました。ご主人を2年前に亡くしましたが、それから“気ままな老後をエンジョイ”しているのが手に取るように分かるくらい若返りました。


 もう70半ばのローリーですが、しまりやの亭主から解放されたのでジムにも通い始めました。亡くなったご主人は絵にかいたような亭主関白のスペイン人(関白度?は日本人の10倍)でした。他の隣人たちからもローリーはよく尽くすよなぁ、と感心され労われていました。「トミオの三軒隣の、ほら、“フランス人”の家よ、そこから入って、私の隣もやれたのよ」と早口でしゃべりました。管理人に「隣人たちに注意を促す手紙」を届けるように言っておいたから郵便受けを覗いて、ととてもスペイン的親切(余計なお節介が玉にきず)に溢れたローリーおばさんです。


 我々のおしゃべりを聞いたのでしょう、買い物に来ていた見知らぬおばさんが「うちの近所でも先週4軒がドロボーに入られたわよ」と話しに入って来ました。ほんと、ここスペインではどこででも知らない人が他人の会話に“当たり前顔”で入ります。まぁ、“とてもオープンな日本的井戸端会議”と受けと取って頂ければ話がはやいです。夏の夜は窓も戸もオープン、戸締りもいい加減になるので空き巣狙いは増えます。でも、おばさん達の話によると、秋になってから我々の住んでいるバリオ(barrio / 地区)だけが被害に遭っているようです。


 そうそう、隣人の“フランス人”とは、旦那さんはスペイン人で奥さんがフランス人の夫婦の家のことで、近所のフランス学校に通ってる小学生の女の子が二人います。その家ではフランス語が家族の共通語なので“フランス人”なのです。引っ越してきて3年か4年です。そこの猫はうちにも遊びに来ますが、ニャ~はスペイン語です(笑)。

妖怪展の絵巻


 その隣の家にも空き巣狙いは“ついでに”入った訳ですが、この夏に引っ越してきたばかりです。先月やっとリニューアル工事が終わったばかりです。赤ちゃんを抱えた若い夫婦ですが、引っ越し早々災難なことです。僕の家もドロボーに入られましたが、もう10年か20年も前の話で、ヴァカンスでひと月も家を空けていました。今回僕が驚いたのは空き巣狙いが“土曜日の昼間”だったからです。人通りが絶えた夜中なら、「ありえる」ですが、真昼間です。なぜ?家に誰も居ないのが分かったのでしょうか?家族の日常生活を窺っていたとしか思えません。


 うちの前には道路を隔てて修道院があります。そこでは毎日昼食の時間前に恵まれない人々のためにボカディージョ(bocadillo/スペイン版サンドイッチ)を配ります。配る時間は11時半からの30分間、多くても1時間です。その時は人が集まりますが、バラバラに来て、10人、多くても20人くらいです。その中にドロボーが混じって様子を窺っていたのでしょうか?


 配るのは、その修道院の勝手口で、空き巣狙いに入られた隣人宅はその前です。貰いに来るのはスペイン人よりも外国人が多く、特にルーマニア人が言葉で目立ちます。被害に遭った隣人宅前ではプラタナスの木が日陰をつくるので、配られる時間まで彼らがたむろしています。さて、僕が住んでるのは“チャレッ・アドサド(chalet adosado/庭付きの一戸建ての棟続き)”と呼ばれる家が繋がったタイプの住宅です。日本で言う、テラスハウスでしょうか?それが22軒繋がっています。


 昔は、我々のチャレッとその修道院(ここの造るジャムは美味しい!修道院の中には果樹園もあります)があるだけで、通りは行き止りでその先は野原でした。5月には真っ赤なポピーが咲き乱れ、それに白や紫の黄色の野花も混じるので、ルノアールの絵のような野原でした。遊びに来たスペイン人は「都心近くにもこんな自然に囲まれたところがまだあるんだぁ」と田舎を訪れたような口ぶりでした。通りに入ってくる車は顔見知りの隣人たちので、市のゴミ回収車はお尻から入ってきていました。それでも回収作業ができてしまう、その程度の長さの道路でした。私道もあるので法規通りに頭から突っ込んできても車の方向転換はできますが、車の通行がないのでそのほうが楽ちんだったのでしょう。だから通行人も隣人とモンハ(monja / 修道女。修道院は女子修道院です)だけでした。

妖怪展 スペイン人も来ていました


 それが20年前だったか、野原にブルドーザーが入るようになって碁盤の目ように整地されました。そこに10年前から雨後の筍のようにチャレッが建ち並び、大住宅街に変貌しました。すべて建て売りの屋根裏部屋付きの三階建て造りで、地下はガレージのタイプです。コンパクトだけど使い勝手の易い21世紀タイプのチャレッが“ずら、ずらずらぁ~”と並びました。外見は田園風、ローマ風、北欧風、等とバラエティーに富み、どれもこれもとてもオシャレです。我が家のように古いタイプのチャレッは肩身が狭くなりました。


 一階の上は三階で二階はその中間の横に張り出した、ひと昔前のタイプです。外から見ると二階は空中に浮いているような造りです。敷地は“オシャレなチャレッ”の2倍です。お蔭で階段は緩やかだけど無駄なスペースが目立ちます。それを“ゆったり間取り”と受け入れるのか、“もったいない”と取るのか、を微妙に迷う中途半端な広さの家です。暖房や照明の消費を考えると、機能性、合理性は凄く劣ります。


 そのオシャレなチャレッが並ぶニュータウンは碁盤の目の中心だけにマンションが数軒建ち、その1階に僕が毎日行くスーパーが開きました。メリットは生まれました。うちの前の通りも20倍くらいに伸びました。番地も40番止まりだったのが3倍の120番地まで増えました。でも住宅街の性格は残ったままで通行人は少し増えた程度で、通る車の数も少し増えた程度でデメリットと言うほどではありません。ゴミ回収車も大きな顔して“法規通り”に走るようになりました。それも三台、三種類のゴミ回収車です。チャレッ用のゴミ箱は生ごみ用とプラスチック用のゴミ箱の他に“庭の落ち葉用”が増えて、三分別となったからです。面倒な仕分けになりました。


 このような環境なので、土曜日だけではなく平日の真昼間も人通りはなく静かな住宅街なのです。それと、我々の22軒は家の奥にある共有の庭でも繋がっているので、通り側の玄関から家宅侵入されたら隣へは庭側から侵入は簡単です。とくに夏は庭側のテラスの戸をほとんどの隣人が開けっ放しです。日本人の僕は“日本の安全”が抜けないのか、マドリードでも戸締りはいい加減です。東京は知りませんが、僕の住んでいた地方では戸に鍵はかけるけど「一応閉めました」程度の戸締りでした。


 マドリードでも門は閉めますが、昼間はカギもかけません。夜の戸締りの時に門も玄関も窓もカギをかけます。警備会社のセキュリティは取り付けていません。隣人たちはちゃんと設置して入り口にデカデカと警備会社のワッペンを張っています、神社の厄払いのお守り札のように。僕の家だけ張ってないので、警備会社のセールスマンが勧誘に来ます。(加入すれば)家の保険代も安くなりますよ、一年間はサービス料金ですよ、安心を考えたらタダみたいなものですよ、等々と、でも一切断ります。なぜか?


 この手の仕事は-警備(モニターをじ~と睨む)とか、ネジをしっかりと締めるとか、遅刻しないで毎日出社するとか―単純だけど基本的に重要なことを責任もって務めることです。まず、スペイン人には向いていない、が僕の50年間近くなるスペイン生活から得た感じです。もちろん、中には例外的なスペイン人はいますが、仕事は適当にやっておいてワイン片手にワイワイやる輩が多いのです。僕はそんなスペイン人が大好きなので友達としては最高です。でも警備は任せられません。

安倍首相とフェリペ国王


 今回の空き巣狙いにあった隣人宅にもセキュリティシステムが設置されていました。セキュリティが正常に作動してドロボーは慌てて退散したのなら分かります。でも、その隣の家にも入って荒らす時間的余裕があったのは、作動しなかったか解除されてしまったのです。最近多いのは東欧の窃盗/泥棒/空き巣狙いグループです。ほとんどが民兵くずれです。銃の扱いや扉の破壊などにはプロです。だから彼らにはセキュリティ解除は赤子の手をひねるようなものです。うちの玄関の扉は木製ですが厚い鉄板がサンドイッチになっています。扉枠も金属でカギはコピー不可能のアナログタイプです。


 でもプロは簡単に開けるでしょう。すべての窓、一階も二階も三階も、鉄格子が入っています。でもプロは鉄格子も簡単に壊すでしょう。狙われたらお手上げです。彼ら、東欧の泥棒団は祖国の家族の為にクリスマスプレゼントが欲しいので、スペインへ出稼ぎに来ています。12月になったら皆でポーランドとかルーマニアとかセルビアへ盗品を担いで引き上げて行くでしょう。彼ら、空き巣狙いが大繁盛するのは夏のヴァカンスシーズンです。


 何回も入られているマドリードの都心マンションに住んでいるお爺さんの空き巣狙い対策が傑作です。ヴァカンスを地中海のリゾートで過ごすのが生きがいなので、8月はマドリードの家を空けます。お爺さんお婆さんはマンションの居間に手紙とお金を置いて出かけます。「金目のものはもうありません。どうぞこのお金で勘弁してください。扉は閉めて帰って下さい」とカギをかけないそうです。警備会社への年間費用と居間のお金が大差ないなら、いい手かもしれませんね。ただ、空き巣狙いが手紙を読めるスペイン人だといいのですが、ヤレヤレ、です。


 話は変わりますが、日本の妖怪展があったので観て来ました。江戸時代でしょうか? 妖怪の話を描いた絵巻物がメインでした。“日本のもの”に興味があるのか? かなりのスペイン人たちが見に来ていました。そうそう、安倍首相がマドリードに立ち寄りました。新聞にちょこっと載った程度で、ニュースにはなりませんでした。ちょっと寂しかったです。


 再び、スペインの話にもどりますが、この1028日にヨーロッパは冬時間に換わりました。ヨーロッパの国々が一斉に時間を変えるのはこれが最後です。スペインはこの冬時間を“固定”スペイン時間にするのか、さらにもう一時間遅らせるのか、あるいは夏時間にするのかは来年の春までに決めます。まぁ、アスタ・マニャ~ナ(Hasta mañana / 明日まで)です。現在適用しているスペイン時間は中央ヨーロッパ時間です。本来はロンドン・リスボン時間(冬時間をもう1時間遅らせる)がスペイン人には“自然な”スペイン時間です。この冬の間は、日本との時間差は8時間です。

赤いトマティージョを剥いて割りました


 最後になりましたが、冒頭の写真です。椀に入った赤いのはエクアドルのトマティージョ(tomatillo / エクアドルのトマト)をハンドミキサーで砕いたものです。ドロ~としていますがトマトではありません。もう一枚の写真のように赤いトマトのような姿ですが、皮をむくと桃に似ています。割るとパパイヤみたいですがパパイヤの香りも甘味もなくトマトの酸味がする、不思議な果物?野菜?です。種から赤色が出るので砕くと全体が真っ赤に染まります。


 これをエクアドルの人はミルクに混ぜて飲みます。とても健康的な飲み物のようです。僕はヨーグルトに混ぜました。ヨーグルトがギリシャヨーグルトのような“さっぱり酸味”になりました。面白半分で、ヴァージンオリーブオイルで溶いたトマティージョを焼いた牛肉にかけてみました。肉の味は変わりませんが肉汁が“すっきり”しました。ヴァカンス帰りのエクアドル人から貰ったのでマドリードにはありません。

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