マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

10年遅れて光ファイバー

2018-04-19 10:00:00 | スペイン日記

フェリア

 ことの始まりは3月の半ばの平日でした。ルーターに異常を知らせる赤ランプが点きました。固定電話も不通です。携帯でモービィスタ-電話局に電話をしました。音声ガイドに従って固定電話番号を入力すると「お客様の地区は電話回線の復旧工事中です。復旧しましたら連絡をします。ご迷惑をお詫びします」と、これも音声ガイドで答えてきました。  表に出ると、家の前の歩道にある数軒先のマンフォールから黄色い梯子の先が顔を出していました。近づいて、作業服のおっさんに「モービィスタ-の人?」と聞くと、「そうだよ」でした。「どうしたの?」「雨で電話線が水浸し。水をくみ上げて、修理中です」「どのくらいかかるの?」「今日中は無理。早くて明日中、まぁ、明後日だね」。つまり、明後日は週末なので、4~5日間はネット難民です。


 隣人のホセさんに「ネット、繋がってる?」と聞きました。「繋がってるよ」の返事に僕は「え~?」となりました。再び、マンフォールへ行っておっさんに聞きました。「光ファイバーは大丈夫なの?」「お宅は銅線?」「そう」「銅線は水に弱いけど、ファイバーは大丈夫」。ガ~ン。近所でまだ光ファイバーにしていないのは僕だけでした。でも金曜日の夕暮れ時に復旧して土曜日にテクニコ(técnico/ 修理人)が家に来ました。


 名前はホセさんですが、彼が回線を調べても電話が繋がりません。マンフォールから出た電話線はやはり歩道にある配電盤に行きます。その配電盤から各家庭の門にある電話線ボックスを通って家に入ります。そのルートの“我が家の銅線”には故障はありません。どうやら、復旧工事後の接続間違いなのか、我が家の銅線に我が家の電話番号が乗ってない(?)ようです。「こんな復旧工事をした奴は誰だ!」とブツブツ言いながらホセが中央センターへ接続の確認へ行きました。再び戻ってきて配電盤に電話番号を入れてやっと電話は復旧しました。


 行ったり来たりのホセは「だからマドリードは嫌なんだ」とぼやきます。訳を聞くと、かれは長い間カナリア諸島(Islas Canarias /モロッコの大西洋側にあるスペイン領)のランサロテ島(Lanzarote)の勤務でしたが、最近マドリードへ転勤になりました。「あっちはおおらかで時間に追われないし、いつも暖かい。マドリードはせかせかしすぎだよ」と、今すぐにでもランサロテ島に飛んで帰りそうでした。僕が「(銅線を)光ファイバーにするよ」と言うと、彼がモービィスタ-に電話をしてくれました。彼に2ユーロ(250円)のチップを渡しました。


 僕の固定電話はスペインのモービィスタ-電話会社(Movistar)、ネットはフランスのオレンジ電話会社(Orange)、携帯はイギリスのボーダホン電話会社(Vodafone)です。なぜこのようにバラバラなったのかは忘れましたが、自分の胸に手を当ててみるときっと景品付きの甘い勧誘に釣られたのです。この際、モービィスタ-の光ファイバーにしてネットもスマホも同社にまとめることにしました。

光ファイバー用の溶接機

 モービィスタ-が「固定電話無料+ネット50メガ+スマホ2ギガで月60ユーロ(7500円)のお得なセットはいかがですか?」と勧めるで、すぐに釣られて電話で契約をしました。僕は昼の定食もセットメニューを選ぶ性格なので引っかかり易いのです。「電話番号は今までのままで」と注文を付けると、モービィスタ-で電話会社の乗り換えはしますが「その後の解約はお客様でして下さい」だった。結果的にはこれが失敗で数日が無駄になった。


 即解約にして新電話番号が最短でした。携帯は「新しいSIMカードを翌日の午後以降に最寄りのモービィスタ-・ショップで受け取って下さい。明後日から使えます」だった。ファイバーは「雨で工事が遅れているので早くて2日以内、遅くても一週間以内」だった。ところがここはスペイン、ことがスムーズには運んだら奇跡です。新しいSIMカードを今まで使っていたサムスンのガラケーにセットして、シークレット番号も入れました。ところが“携帯回線ブロック解除ナンバーを入力せよ”と出ました。初めて耳にする“解除ナンバー”ですが、携帯が使えないとお手上げです。


 翌日再びショップへ行くと「以前がボーダホンだったので、そこで解除してください」と言われ、近くのボーダホン・ショップへ行くと「あ~、それは“解除屋”でやって下さい」とたらいまわしにされました。“解除屋??”なんだぁ?それは? リベラァル・モビル(liberar movil / 直訳すると“携帯の解放”です)と言う仕事があるのを初めて知りました。大通りに胡散臭そうなデジタル商品ショップがあったので、そこで聞くと裏通りにある“解除屋”を教えてくれました。時間は昼休みの閉店まで1時間もありません。


 早足で探して行った“解除屋”は怪しげな小さい店でした。ショーウインドーに並んでるのは中古のスマホで壁にはパソコンの部品やスマホのアクセサリーがぶら下がってます。どうみても堅気の仕事人には見えない先客と話しながら店の人がすぐに解除してくれました。携帯が繋がるのを確認して8ユーロ(千円)でした。その“解除人”は30代の中南米人でしたが、盗品のスマホも解除するでしょう。スマホ用の格安バッテリーもあり、ノートパソコンも修理するので、いい店を見つけました。


 僕はボーダホンと別のスマホも契約してます。もっぱら“ナビ”と“あまり友達になりたくない人”用に使ってます。持ち歩きは小さいガラケーだけです。これもきっとボーダホンの契約持続キャンペーンのプレゼントだったと思いますが、10年以上も使ってます。でも今回の事でキャリア提供の端末は乗り換えると新品を買わせるように、同業者内での取り決めがあるのが分かりました。

ロセタ

 携帯のほうが一段落したと思ったら今度はネットです。「オレンジ社からの乗り換えをしてますが、いったんモービィスターの銅線用ルーターをセットして貰ってから乗り換えを終えます。その後に光ファイバー用のルーターに取り替えが可能になります。2日以内に銅線用ルーターを宅配します」と連絡を受けました。届いたルーターを接続してもネットは繋がらず固定電話も再び不通です。


 またモービィスターに電話をすると翌日に他のテクニコが来ました。今度はアルフォンソさんです。点検後再び中央センターへ行き、繋がりました。チップに2ユーロ渡しました。その数日後、やっとファイバーを敷くテクニコが来ました。今度は30歳前の若いアレックスさんでした。歩道にある大型配電盤からファイバーケーブルを我が家へ敷きますが、間にある2軒の隣人宅の電話線ボックスを通さなければなりません。門の内側にあるので、隣人宅に入れさせてもらい我が家の門のボックスまでに届くのに2時間かかりました。


 ボックスとボックスの間は地中のパイプにケーブルを潜らすので、沈んだり浮かんだりの繰り返しです。ここからポーチと呼ばれる前庭の地下に埋まってる樹脂製のパイプにファイバーを通すのですが、すでに銅線が入ってます。それも電話回線が3本入る太目です。90年代に2本の電話回線を入れました。一本は電話用、もう一本はファックスとインターネット用でした。今はWi-Fiが普及したので一本は解約をしましたが電話線はそのままです。門から玄関までは1213メートルくらいですが、アレックスが誘導用ケーブルを入れても通りません。玄関側のパイプから入れてもだめです。


 あきらめたアレックスの答えは「上の責任者に連絡します」だった。「責任者が来てもパイプに通らないと地上に敷くので、カナレタ(canaleta/溝)を用意したほうが賢明ですよ。今回のファイバー敷工事は新規契約なので割安だけど、裸の状態で敷いたファイバーケーブルが故障した場合の修理代は高額になりますよ」と脅かされた。つまり、裸のケーブルに着せる服は僕が用意するのです。門までは電話会社がやるが敷地内の設備は客持ちで、それにファイバーを入れて電話やネットに電話会社が繋げるのです。


 マンションは設備が整ってるけど個人住宅は何かと面倒です。カナレタも聞きなれない言葉なのでアレックスに書いてもらいました。まだ銅線のネットは使えるので裸の状態でのケーブル敷はやめましたが、はて? お隣さんはどうしてるのかなぁ? と覗いてみました。左隣(フェルナンドさん宅)は樹脂製チューブを花壇の上に敷いてあります。右隣(エミリオさん宅)はなんと!裸で玄関まで敷いてあります!大胆なエミリオです。アレックスにも2ユーロ渡したら、ニッポン人?とニッコリとしました。若いスペイン人は漫画の影響でハポン(Japón)よりもニッポンを使います。

セマナ・サンタ

 そんな訳で翌日に東急ハンズのような日用品センターでカナレタを買いました。一本が2メートルの四角いチューブのようなものですが、上が蓋になってます。それを7本買いました。その翌日に責任者のおっさんテクニコ・アントニオさんが来ました。彼が持ってきたのは細めの誘導ケーブルで長さもアレックスの倍はあります。僕も手伝いましたが1時間もかからずにパイプを通り、誘導線を敷きました。カナレタは使わずにすみました。ところがアントニオは「わしの仕事はここまででファイバーは他のテクニコが来て敷くから」と道具を片づけ始めました。「(社に)戻ったら準備万端と報告するので、早ければ今日の午後、遅くても明日には他のが来るよ」と言うアントニオに「必ず報告してよね」と、チップ2ユーロを渡しました。


 ところが、そのアントニオが帰った後に不通になりました。銅線に傷でもついたのでしょうか? 困ります。再びモービィスターに電話をして、すぐ直すようにせっつきました。翌日にテクニコ・フアン・カルロスさんが来ました。結果を先に言うと光ファイバー工事は彼で終わりましたが、4時間もかかりました。アントニオが敷いた誘導線にファイバーを繋げて引きますが、パイプを入ったところで詰まります。フアン・カルロスは銅線を抜いてしまうと万が一の場合に“回線なし状態”になるのを嫌がります。


 最悪の場合はカナレタを使って地上に敷けばよいので、僕が責任を取るので銅線を抜いて貰いました。再び引っ張り続けるとやっと玄関脇のパイプに地下を通ったファイバーが顔を出しました。それを再び床下の管に潜らして台所の壁の管から出てきました。歩道のマンフォールから台所まで地下に潜ったり地上に出たりを繰り返してやっと繋がりました。


 このファン・カルロスは昔、マドリードの東芝で働いていたので、僕が日本人とすぐに分かったようです。今は“離婚ホヤホヤ”だそうです。“新婚ホヤホヤ”は聞きますが、離婚にも“ホヤホヤ”があるのですね。東芝のあと、奥さんのお父さんの会社で働き、離婚でモービィスターに移りました。まぁ、離婚の原因は知りませんが、アルゼンチン生まれの48歳のスペイン人です。全くアルゼンチン訛りのないスペイン語を話すので訳を聞くと、二十歳の時に両親と引き上げて来ました。4時間もあれば色々な人生話で盛り上がります。


 台所の壁にロセタ(roseta )と呼ばれる分配器みたいな箱を取り付けますが、その中に素っ裸にしたファイバーをグルグル巻きます。ファイバーグラス線は毛よりも細いけど丈夫です。それが数層にコーティングされてます。それを層別にそいでいき繋げるのはかなりデリケートな作業です。アントニオがしなかったのが納得です。そのファイバーグラス線の“溶接機”が3000ユーロ(40万円)だそうです。ハンダで繋げていた銅線とは大違いです。それが終わり、光ファイバー用のルーターをセットしてから、中央センターと接続のやり取りがありました。

フェリア

 すでに親しくなったファン・カルロスが「トミオさんは300メガを契約した? 」と聞きます。僕が契約したのは50メガです。ところがうちの回線に届いてるのは300メガでした。それだと基本料金が上がります。再びモービィスターからの電話に僕が契約内容の再確認をすると50メガまでに下がりました。これから次の仕事へ向かうファン・カルロスに3ユーロ渡しました。


 これで終わりましたが、ひと月まではいきませんが3週間以上はかかりました。電話でのやり取りも疲れましたが、何人のテクニコが来たのでしょうか? それにも疲れました。ひと昔から比べるとスペインのモービィスター電話会社はサービスのレベルが良くなりました。テクニコも訪問時間に遅れる場合は連絡が入りました。やっとネットも正常に使えるようになったので、あとはオレンジ社とボーダホン社の解約と、新しいスマホの購入です。その間に、バレンシアの火祭りがあり、ヨーロッパは夏時間になりました。


 お騒がせプイデモン前首長はドイツで捕まり、仮釈放の身でそこに居ます。そうそう、プイデモンの愛称が“プッチィ”なので日本ではプチデモンと呼ばれてます。かなり昔にプッチィと呼ばれるバイクメーカーがスペインにありました。そしてセマナ・サンタ(Semana Santa/聖週間)があり、セビージャの4月祭り“フェリア”(Feria del Abril)が始まりました。あっという間過ぎた23月ですが、マドリードは長雨が続きました。うんざりしました。今回はちと長くなりましたが、次回も宜しくお付き合い下さい。

コメント (1)
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