レフティやすおの新しい生活を始めよう!

50歳からが人生の第二段階、中年の始まりです。より良き老後のために良き習慣を身に付けて新しい生活を始めましょう。

私の読書論183-トールキン『指輪物語』70周年-楽しい読書364号

2024-04-19 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年4月15日号(vol.17 no.7/No.364)
「私の読書論183-トールキン『指輪物語』(第一巻・第二巻)70周年」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年4月15日号(vol.17 no.7/No.364)
「私の読書論183-トールキン『指輪物語』(第一巻・第二巻)70周年」
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 今年1954年から70年となります。
 この年には、偉大なる人々や偉大なる創作物が生まれています。

 最初に、1月生まれの
 “ユーミン”の愛称で知られる荒井由実、現・松任谷由実さん。

 かつてオリンピックの野球の「長嶋ジャパン」で、
 長嶋さんが倒れて代役の監督を務めた、
 現役時代は「絶好調男」と呼ばれた、元プロ野球巨人軍の中畑清さん。

 歴代最長の任期を記録した元首相、故・安倍晋三さん。

 (もう一人、一部の人々――主に左利きの、
  そのまた一部の人たちの間では、
  左利き界の“第一人者”とか“大師匠”とか呼ばれる、
  「レフティやすお」さんも1月生まれです)

 創作物でいいますと、最新作がアカデミー賞を受賞したことで
 改めて話題となっている<ゴジラ>シリーズの第一作「ゴジラ」。

 海外では、そう、今回取り上げます『指輪物語』です。

 『指輪物語』は全三巻(普及している邦訳版では全六巻)ですが、
 その第一巻(邦訳版「旅の仲間」上下)、
 第二巻(同「二つの塔」上下)が、本国イギリスで出版されたのが、
 この年でした。ちなみに、第三巻(同「王の帰還」上下)は翌1955年。

 ということで今回は、
 J・R・R・トールキンの『指輪物語』について――。

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◆ 1954年の奇跡!? ◆

  ~ 『指輪物語』『ホビットの冒険』の作家トールキン ~

 『指輪物語』第一巻・第二巻出版(1954年)から70周年
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 ●『最新版 指輪物語』文庫版・全六巻(評論社)



2022年に、『指輪物語』の邦訳版の出版元・評論社から、
『最新版 指輪物語』の文庫版・全六巻が出ました。

2022年9月、AmazonのPrime Videoプライム・ビデオ
『ロード・オブ・ザ・リング――力の指輪 第1シーズン』
の配信に合わせたもののようで、その広告の帯が付いています。

出版社の紹介文にも、

《ファンタジー文学の最高峰『指輪物語』が
 日本で初刊行された1972年から奇しくも50年目の2022年、
 訳文と固有名詞を全面的に見直した日本語訳の完成形として、
 本最新版をお届けします。》


この文庫のことは知らなかったのですが、
これという気になる本がないなあ、と近所の本屋さんをのぞいていて、
見つけました。

従来あった文庫版は、活字が小さくて、文庫派の私でしたが、
買う気になれずにいたものでした。

本屋さんにあったのは、この全六巻だけでしたが、
第七巻「資料編」も2023年に出ています。


『最新版 指輪物語1 旅の仲間 上』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《遠い昔、魔王サウロンが、悪しき力の限りを注ぎ込んで作った、
 指輪をめぐる物語。全世界に、一億人を超えるファンを持つ
 不滅のファンタジーが、ここに幕を開ける。》
631ページ

『最新版 指輪物語2 旅の仲間 下』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 黒の乗手の追跡から、辛くも逃れたフロドが目を覚ましたところは、
 「裂け谷」のエルロンドの館。翌朝、モルドールに抵抗する種族――
 魔法使い、エルフ、人間、ドワーフ、ホビット――の代表が参加する
 会議がエルロンドの主催で開かれ、指輪をどのように扱うかについて
 話し合われた。さて、その決定は……》
547ページ

『最新版 指輪物語3 二つの塔 上』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 ガンダルフを失った悲しみを、ロスローリエンで癒した一行は、
 大河アンドゥインを漕ぎ下り、とうとう別れ道へ差し掛かる。
 フロドの指輪棄却の決意を知ったボロミルは、それを奪おうとする。
 逃げ出すフロド。悔悟したボロミルは、オークとの戦いに倒れ、
 メリーとピピンはさらわれる。ここに旅の仲間は離散した……》
545ページ

『最新版 指輪物語4 二つの塔 下』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 ボロミルから逃れて一人モルドールに向かおうとするフロド。
 しかし、忠実なサムは、出し抜かれずに後を追う。
 大河アンドゥインの東側に連なる急峻エミュン・ムイルの荒涼たる
 山中を、やっとのことで抜け出した二人だったが、
 その後ろに忍び寄る一つの影が……》
418ページ

『最新版 指輪物語5 王の帰還 上』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 堕落した魔法使いサルマンが所持していたパランティールを、
 好奇心に勝てずに覗き込んだピピンは、魔王サウロンの見出すところ
 となる。ガンダルフは、パランティールをアラゴルンに預け、
 ピピンを連れてミナス・ティリスへ。
 一方ローハン軍召集のためにエドラスに向かう騎士たち。
 空にはナズグールが飛び交い、風雲急を告げる中、
 物語は佳境へと近づく。》
436ページ

『最新版 指輪物語6 王の帰還 下』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 フロドをオークの手から奪い返した忠実なサム。
 二人は、助け合いながら最後の使命を果たすべく滅びの罅裂を目指す。
 一方、冥王の目をフロドたちから逸らすべく、黒門前に兵を進めた
 ガンダルフやアラゴルンをはじめとする西国の勇士たちは、
 圧倒的な兵力の差のため暗黒の渦に吞み込まれようとしていた……
 ここに「一つの指輪」をめぐる物語の大団円を迎える。》
403ページ

『最新版 指輪物語7 追補編』J・R・R・トールキン/著 瀬田貞二,
田中明子/訳 評論社文庫 2023/5/30

《瀬田、田中訳の完成形として、日本初刊行以来50年の
 2022年に刊行を始めた『最新版指輪物語』の最終巻。
 固有名詞と訳文の見直しを行った。本編では語られていない
 歴史の記述、固有名詞便覧など、『指輪物語』世界の案内書。》


 ●著者J・R・R・トールキンについて

――出版社より(著者について)
1892~1973年。南アフリカのブルームフォンテンに生まれ、3歳のとき、
イギリスに移住。オックスフォード大学卒業。第一次世界大戦に従軍後、
1925年からオックスフォード大学教授。中世の英語学と文学を中心に
講じた。『指輪物語』は、20世紀最高のファンタジーとされる。
これに先立つ物語として『ホビットの冒険』『シルマリルの物語』
『ベレンとルーシエン』があるほか、児童向けの作品に
『トールキン小品集』『サンタ・クロースからの手紙』などがある。

というわけで、2023年に没後50年として出版されたのが、

『ユリイカ 2023年11月臨時増刊号』総特集◎J・R・R・トールキン
 ―没後50年――異世界ファンタジーの帰還― 青土社 2023/10/5
(Eureka 2023 no.811 vol.55-14)



《『指輪物語』や『ホビットの冒険』といった作品において壮大かつ
 緻密な世界を構築し、様々な”読み直し”の旋風を巻き起こしてきた
 J・R・R・トールキン。後続世代による模倣と継承から、映像や
 ゲームがもたらしたビジュアライズの時代を経て、没後から半世紀が
 経つ本年、終わらざりしトールキン論に臨みたい。》

目次
❖異世界は何度でも /上橋菜穂子 /小谷真理 /井辻朱美
 /パトリック・カリー(訳=鏡リュウジ)
❖汲み尽くしがたい源流 /鶴岡真弓 /一條麻美子 /石野裕子
❖座談会 /大久保ゆう+川野芽生+逆卷しとね
❖遠く聞ゆるは懐かしき調べ /伊藤尽 /清水知子 /宮本裕子
 /木澤佐登志 /森瀬繚
❖テーブルを囲んで /上田明
❖創造のカレイドスコープ /辺見葉子 /髙橋勇
 /アラリック・ホール(訳=岡本広毅)
❖エルフ語入門 /伊藤尽
❖言葉は輪廻する /山本史郎 /小野文 /小澤実
❖叙述から始めよ /桑木野幸司 /勝田悠紀 /岡田進之介
 /石倉敏明 /渡邉裕子
❖資料 /髙橋勇 編



 ●『指輪物語』の思い出

私がこの作品を読んでのは、1979年6月から7月の初めについて。
この作品を読もうと思ったのは、山口の女子大生からお便りをもらい、
その中にオススメ本としてこの本のことが書かれていたからでした。

これではよく事情がおわかりにならないでしょうから、
もう少し説明します。

当時の私の愛読雑誌のひとつだった、
故やなせたかしさん編集の『詩とメルヘン』の読者投書欄に、
私の投書が掲載され、それを読んだ人が手紙をくれたわけです。

以前このメルマガでも紹介しました、ハヤカワSF文庫から出た、
ゼナ・ヘンダースン『果てしなき旅路』のような作品を書いてみたい、
というのが私の投書でした。

疎外された立場の人たちが仲間を得て、彼らの手助けもあり、
自分を肯定できるようになり自立して行く、といった内容の作品で、
私のお気に入りの作品でした。


*参照:
【ゼナ・ヘンダースン <ピープル>シリーズ
  『果てしなき旅路』『血は異ならず』ハヤカワ文庫SF】



『果てしなき旅路』ゼナ・ヘンダースン/著 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF ピープル・シリーズ 1978/7/1(1959)

・2023(令和5)年1月15日号(No.334)「私の読書論165-
私の年間ベスト3・2022年フィクション系(前編)総リスト&再読編」
・『レフティやすおのお茶でっせ』2023.1.15
私の読書論165-私の年間ベスト3・2022年フィクション系(前)総リスト&再読編
-楽しい読書334号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/01/post-ce3d4b.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/963db458297d62363a53bf4aaefe9930

・2023(令和5)年1月31日号(No.335)「私の読書論166-
私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後編)再読編&初読編」
・『レフティやすおのお茶でっせ』2023.1.31
私の読書論166-私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後)初読編
-楽しい読書335号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/01/post-059ad0.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/3d8f4210a27677ac55d433cea1778596


それに対して、お返しにご自分のお気に入りの作品として、
この『指輪物語』が紹介されていました。

さっそく図書館で借りて読み始めました。
長い作品でしたが、面白く読んだ記憶があります。

その後、この作品の前作というべき児童向けの『ホビットの冒険』も
楽しみました。

45年前の思い出話です。


『ホビットの冒険 上』J・R・R・トールキン/著 瀬田 貞二/訳
岩波少年文庫58 2000/8/18
《ひっこみじあんで、気のいいホビット小人のビルボ・バギンズは、
 ある日、魔法使いガンダルフと13人のドワーフ小人に誘いだされて、
 竜に奪われた宝をとり返しに旅立つ。79年刊の新版。》
336ページ

『ホビットの冒険 下』J・R・R・トールキン/著 瀬田 貞二/訳
岩波少年文庫59 2000/8/18
《魔法の指輪を手に入れたビルボとその一行は、やみの森をぬけ、
 囚われた岩屋からもなんとか脱出に成功。ビルボたちは、
 いよいよ恐ろしい竜スマウグに命がけの戦いを挑む。79年刊の新版。》
282ページ

『新版 ホビット――ゆきてかえりし物語 <第四版・注釈版>』
J・R・R・トールキン/著 山本史郎/訳 原書房 2012/11/12
《映画「ロード・オブ・ザ・リング」で世界中にブームをまきおこした
 J.R.R.トールキンの『指輪物語』。 その前章の物語『ホビット』の
 定本(第四版)の新訳決定版! 著者自筆の挿絵および各国語版の挿絵を
 収録。 時代を越えて読み継がれる“名作"の理解を助ける詳細な
 注釈付の愛蔵保存版。 2012年12月、3部作の第1弾
 「ホビット 思いがけない冒険」がついにロードショー!》
470ページ

(文庫)
『ホビット〈上〉―ゆきてかえりし物語』J・R・R・トールキン/著
山本史郎/訳 原書房 2012/11/1
《時代を越えて読み継がれる不朽の名作『ホビット』を、
 さまざまな角度から詳細な注釈をつけた新訳決定版。
 トールキン自筆の挿絵つき。持ち歩きしやすい文庫判。》
362ページ

『ホビット〈下〉―ゆきてかえりし物語』J・R・R・トールキン/著
山本史郎/訳 原書房 2012/11/1
422ページ


 ●『指輪物語』の内容について

『指輪物語』は1960年代に欧米の若者たちのあいだで大いに読まれた、
といわれています。
1960年台後半、ベトナム戦争に嫌気したアメリカの若者たちのあいだで、
カンターカルチャーとしてファンタジーが流行し、
『指輪物語』のペーパーバックが300万部も売れたといわれています。

日本では、1972年に翻訳刊行されました。

『ゴジラ』が水爆実験の影響で出現した、とされているのに対して、
この作品は「指輪」が核兵器を表している、という読み方もあります。

実際には、戦時中から書かれた物語ということなので、
その時代背景が著者に影響している、
というのが本当のところではないか、といわれています。


さて、なにしろ45年ほど前に読んだっきりですので、
詳しいストーリーも今は忘れてしまい、
あらためて『ホビット』から読み直している状況で、
まだ第一巻「旅の仲間」(上)巻を読んでいるところですので、
具体的な感想などはまだ書けません。

『ホビット』も昔読んだ、岩波少年文庫版『ホビットの冒険』ではなく、
20年ほど前に手に入れたまま放置してあった旧版、
『ホビット―ゆきて帰りし物語― 第四版注釈版』のほうです。



図書館で岩波少年文庫版の方ものぞいてみましたが、
Amazonのレヴューにもあるように、
ひらがなが多くおとなにはちょっと読みづらく感じました。
おとなが読むなら、
原書房版のおとな向けの翻訳の方が適しているかもしれません。


 ●おとな向けファンタジー『指輪物語』

『ホビット』と『指輪物語』の違いについて書いておきましょう。

一言でいえば、「子供向け」と「おとな向け」ということになります。
その分、ストーリーがより複雑になり、
背景となるムードもより深刻になっています。

『ホビット』は、ホビット族のビルボ・バギンズが主人公で、
ドワーフの王様とその一行がドラゴンに奪われたお宝を奪回にゆく旅に、
魔法使いガンダルフの推薦を受けて「忍び」役として同行し、
お宝を奪い返したご褒美と、偶然手に入れた指にはめると姿を消せる、
魔法の「指輪」を持って帰って来るという、副題にあるように、
文字通り<ゆきてかえりし物語>で、
その途中で出会う冒険の数々を語るものです。

『指輪物語』は、このときの「指輪」が実は、
魔王サウロンが探している魔法の指輪で、
この世界を統べることができるというしろもので、
これを奪われないようにどうにかしよう、とビルボから指輪を預かった
養子のフロド・バギンズが仲間たちと旅に出る、というものです。

「黒の乗手」という悪の一味たちから追われる旅です。

――私は、今はまだその辺までですね。

今どきの小説と違って、会話の応酬で進め、
ジョットコースターのようなストーリー展開で読者を離さない、
といったものとは異なり、
詩というか歌も交えて、ゆったりとした地の文で読ませるお話、
というイメージです。

『ホビット』も子供向けにしては長いお話でしたが、
『指輪物語』もまた長大な作品です。

残り5巻とちょっと。
何ヶ月後になるかわかりませんが、読み終えたら
具体的なストーリーの紹介や感想など書いてみたい、と思います。

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本誌では、「私の読書論183-トールキン『指輪物語』(第一巻・第二巻)70周年」と題して、今回も全文転載紹介です。

『指輪物語』の映画化作品三部作もありました。
そちらで知っているよ、という人も多いかと思います。
あるいはゲームも出ているそうで、そちらで知ってるという人もいるのかもしれません。

映画にしろゲームにしろどちらにしろ、それはそれでいいのですけれど、やはり本の方を読んでいただきたいと思っています。
それがそもそもの始まりだから。
小説というのは、言葉の芸術なのです。
歌なども言葉の芸術の一つですけれど、これには音、あるいは声が伴います。
しかし、小説のほうは、言葉のみ、それも文字のみの世界です。

それは、人間だけが楽しめる世界といっても過言ではありません。

そういう頭の中だけの空想の世界で遊ぶのも楽しいものなんですよ。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論183-トールキン『指輪物語』70周年-楽しい読書364号
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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)「園田の居に帰る五首(其三・四)」-楽しい読書363号

2024-04-02 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年3月31日号(vol.17 no.6/No.363)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年3月31日号(vol.17 no.6/No.363)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」」
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月末発行の「楽しい読書」は、古典作品の紹介です。
 現在は、中国の古典から漢詩の名作を読んでいます。

 今月の「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」は、前回に引き続き、
 六朝時代(東晋末~南朝宋初)の詩人・陶淵明(とう えんめい)の
 「園田の居に帰る五首」の後半部分から「其の三・其の四」です。

(陶淵明 第1回)
2023(令和5)年9月30日号(No.351)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.9.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)
「五柳先生伝」-楽しい読書351号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-b68999.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d371c2c2141932565db7fac1a67c1150

(第2回)
2023(令和5)年10月31日号(No.352)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首 其の五」-楽しい読書353号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-7e3a1c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/fb0ed419e609fae5ca4d419eb039fc2a

(第3回)
2024(令和6)年2月29日号(No.361)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.2.29
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首(其一・二)」-楽しい読書361号


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◆ 隠居生活の思い ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)

  ~ 陶淵明(4) ~

 「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」

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今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「九、達観を目指して――陶淵明の世界」より



 ●陶淵明「園田の居に帰る五首」

40歳過ぎで官職をなげうって、故郷に帰った陶淵明。
その隠居後の生活をうたった42歳頃の連作「園田の居に帰る五首」。

今回は、窮屈な生活から解放された開放感にあふれた第一首とは違い、
農業生活の悩みを実感するようになった思いがあらわれ始めたころの、
後半の三首から、第三首、第四首を紹介しましょう。


 ●「園田の居に帰る五首 其の三」陶淵明

・第三首目は、第一首と並んで有名になった歌だそうです。
そこでは、《「其の二」より少し深刻で、自分の経験不足で農作業が
 うまくゆかない悩みを告白しています。》p.344


帰田園居五首(其三)
           園田(えんでん)の居(きよ)に帰(かへ)る
            五首(ごしゆ) 其(そ)の三(さん)

・前半四句は、《農作業の大変さを述べる。》p.344

種豆南山下  豆(まめ)を種(う)う 南山(なんざん)の下(もと)
草盛豆苗稀  草(くさ)盛(さか)んにして
        豆苗(とうびよう)稀(まれ)なり
晨興理荒穢  晨(あした)に興(お)きて荒穢(こうわい)を理(おさ)め
帯月荷鋤帰  月(つき)を帯(お)び 鋤(すき)を荷(にな)うて帰(かへ)る

 山のふもとに豆を植えたが
 その畑には雑草ばかりはびこって、かんじんの豆が育たない
 それで私は毎日、夜明けから畑に出て、
 夜になるまで畑の手入れをしている


・後半四句は、《“農作業は大変だが、どうかうまくいきますように”と、
 祈るような気持ちを述べます。五・六句めはたとえを使って、
 計画通りにゆかないむずかしさを述べたもの》p.344
 
道狹草木長  道(みち)狹(せま)くして草木(そうもく)長(ちよう)じ
夕露沾我衣  夕露(ゆうろ) 我(わ)が衣(ころも)を沾(うるほ)す
衣沾不足惜  衣(ころも)の沾(うるほ)ふは惜(をし)むに足(た)らず
但使願無違  但(ただ) 願(ねが)ひをして
        違(たが)ふこと無(なか)ら使(し)めよ

 帰り道は狭く、余計な草や木ばかりが茂って邪魔をする
 その上、夜露が私の服をぬらす
 着物がぬれるのは、いやがるほどのことではない
 ただひとえに、私の願いが背かれることのないようにさせてほしい 

《夜の帰り道の描写であるとともに、農耕に生きる道の大変さのたとえ》
で、
《自分で選んだ農耕生活が今後もうまくゆくよう、それだけが願い》だ、
ということだろうといいます。


 ●「園田の居に帰る五首 其の四」陶淵明

帰田園居五首(其四)
           園田(えんでん)の居(きよ)に帰(かへ)る
            五首(ごしゆ) 其(そ)の四(し)

・《最後の二句に重みがあります。或る日、
 子どもたちや甥を連れてピクニックに行った時に廃屋に出くわし、
 そこから人生の無常に思いを巡らす――ちょっと深刻な展開です。》
pp.345-346

・第一段は、《隠居直後の正直な感慨か》。p.346

久去山沢游  久(ひさ)しくる山沢(さんたく)の游(あそ)びを去(さ)り
浪莽林野娯  浪莽(ろうもう)たり 林野(りんや)の娯(たのし)み
試携子姪輩  試(こころ)みに子姪(してつ)の輩(はい)を携(たづさ)へ
披榛歩荒墟  榛(しん)を披(ひら)いて荒墟(こうきよ)を歩(ほ)す

 私はもう、長いこと山水を楽しむ遊覧から遠ざかっていて
 森や野原を歩く楽しみなど、ぼんやりとしか考えていなかった
 今日試みに、子どもや甥たちを連れて
 雑木を掻き分け押し分けて、荒れた村里を歩いてみた


・第二段の「丘隴(きゅうろう)」を「墓場」ととる説もあるそうですが、
特別な行事の場合は別として、
《墓場にピクニックに行く、というのはどうかなあ。》p.346

徘徊丘隴間  徘徊(はいかい)す 丘隴(きゆうろう)の間(かん)
依依昔人居  依依(いい)たり 昔人(せきじん)の居(きよ)
井竈有遺処  井竈(せいそう) 遺処(いしよ)有(あ)り
桑竹残朽株  桑竹(そうちく) 朽株(きゆうしゆ)残(ざん)す

 ぶらぶら歩き回る、小高い丘の辺り
 どうやらここらには、昔の人の家があったようだ
 井戸やかまどがその名残りをわずかにとどめている
 農家につきものの桑や竹は、枯れ朽ちた株が崩れてしまっている


・第三段は、廃屋について、
《ちょうど通りかかった木こりにようすを尋ねます。》
その答えを聞いて、《一挙に無常観に突き落とされます。》p.346

借問採薪者  借問(しやくもん)す 薪(たきぎ)を採(と)るの者(もの)
此人皆焉如  此(こ)の人(ひと) 皆(みな) 焉(いづ)くにか如(ゆ)くと
薪者向我言  薪者(しんじや) 我(われ)に向(むか)つて言(い)ふ
死没無復余  死没(しぼつ)して復(ま)た余(あま)す無(な)しと

 ちょっと尋ねてみた、通りすがりの薪を取る人に
 ここにいた人たちはみんな、いったいどこに行ってしまったのですか
 すると木こりは答えた
 いや、みんな亡くなって、跡を継ぐ人もいないんですよ


・第四段、「一世」は三十年の意味。「当(まさ)に~べし」は、
「必ずや~なるであろう」と、《確実性の強い推量です。》

一世異朝市  一世(いつせい) 朝市(ちようし)を異(こと)にす
此語真不虚  此(こ)の語(ご) 真(まこと)に虚(きよ)ならず
人生似幻化  人生(じんせい)幻化(げんか)に似(に)たり
終当帰空無  終(つひ)に当(まさ)に空無(くうむ)に帰(き)すべし

 三十年のうちに、朝廷も市場も、がらっと様変わりするという
 その言葉はまったく正しい
 人が生きるというのはまぼろしであり、
 実態がないもののように思う、結局は無に帰するのであろう


「一世異朝市」という慣用句があったようで、「一世代三十年のうちに、
 宮廷や市場が入れ替わるほどの変化がよくある」と、
世の中の移り変わりやすさと取る説もあるといいます。

 《隠居後一年、“こういう人生を選択したけれどいいのかなあ”と
  壁にぶつかった時にたまたま見た廃屋、
  それが自分のこれからの人生に重なって、
  あまり深い思想からではなしに、
  ついこういうことを書き付けてしまったのか……。》p.347

時の流れというものは、無常なもので、
鴨長明『方丈記』の冒頭にもありますように、
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」と。

仏教の無常観というものの表れですが、
陶淵明の時代には、そこまでのものがあったかどうか、
宇野さんの解説では、
後漢の「古詩十九首」あたりから出ているといいます。

 《“人生は朝露のようにはかないものだから、
  夜じゅうろうそくを灯して遊ぼう、酒を飲もう”という考え方が
  見られ、実はそこにも仏教思想が影を落としている
  と言われています。》p.347

ただ、
 《来世に望みを託するということはなく、
  その当時の中国に人々の仏教の受け止め方なんでしょうか――
  もしかしたら来世を考えない儒教の影響が
  大きいかも知れませんね。》p.347
と。


 ●田舎生活の陰影

ここでは紹介しませんが、
「其の五」では、
悲しみを抱えたまま険しい道をたどり、山の水で足を洗い流す。
新たな酒と鶏を潰して近隣の人を呼び、酒宴を開き、朝を迎える。

というふうに、隠居し移住した地で新たな生活を送る、
その生活の起伏を描いています。

政治の世界を離れた寂しさも感じさせる反面、
世相の荒波を超えた日常的な田舎の生活――
新たな農家の生活に、日々の収穫の多寡に一喜一憂するような、
そういう生活の陰影も感じさせる詩編です。

 ・・・

次回は、隠居後二年で火事にあい、引っ越すこととなり、
その直後に使った詩「居を移す二首」を。

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本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」 」と題して、今回も全文転載紹介です。

近年、UターンとかJターンとか、あるいは故郷とは別個に地方への移住をする人も増えていると聞きます。
田舎暮らしのスローライフというのでしょうか。

この陶淵明さんもそういう一人だったようで、都での役人の世界を捨てて故郷に帰って農業に励むという暮らし。
政治や役人の世界も大変でしょうが、農業は農業でそれはそれで楽しみもある反面、自然が相手では思うにならぬむずかしい面もあり、ある種の無常観にとらわれることもあったのでしょう。
酒でも飲まないといられない、ということも……。

まあ、どこで、どのような世界で暮らすにしても仲間がいれば、それで解消される部分もあるでしょうから。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)「園田の居に帰る五首(其三・四)」-楽しい読書363号
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私の読書論182-渡瀬謙『一生使える「雑談」の技術』から-楽しい読書362号

2024-03-18 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】

2024(令和6)年3月15日号(No.362)
「私の読書論182-渡瀬謙のビジネス書の新刊
『一生使える「雑談」の技術』から」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年3月15日号(No.362)
「私の読書論182-渡瀬謙のビジネス書の新刊
『一生使える「雑談」の技術』から」
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 いつも新刊が出ると本を贈っていただいている、
 友人で左利き仲間の渡瀬謙さんの新刊を取り上げます。

 彼の著作を取り上げるのは、昨年の6月と8月の二度ありました。

 「営業のノウハウを処世術として人生に活かす」という趣向でした。

 今回は「雑談術」を扱ったもので、
 必ずしも「営業のための」、というものではありません。

 近所付き合いでも職場での付き合いでも、またお友達付き合いでも、
 その他色々な場面で応用できるかなあ、ということでご紹介します。


・2023(令和5)年6月15日号(No.344)
「私の読書論171-渡瀬謙のビジネス書の新刊
『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』から」
・『レフティやすおのお茶でっせ』2023.6.15
私の読書論171-渡瀬謙『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』
から-楽しい読書344号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/06/post-929a0f.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/59ae185f3daf8eebaec62cad6639e4f4

*渡瀬謙『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』
日本実業出版社 2023/5/26


2023(令和5)年8月15日号(No.348)
「私の読書論173-友人・渡瀬謙の新刊・
 静かな人のための『静かな営業』を読んでみた」
2023.8.15
私の読書論173-友人の新刊・静かな人のための『静かな営業』を
読んでみた-楽しい読書348号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/08/post-a3c1f9.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/18d2f67eff14d96378e59e618cd888a3

*渡瀬謙『静かな営業 「穏やかな人」「控えめな人」こそ選ばれる
 30の戦略』PHP研究所 2023/7/20

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

◆ 平常心――「常にまわりが見える」観察の力で… ◆

  ~ 営業のノウハウを処世術として人生に活かす(3) ~

 渡瀬謙『一生使える「雑談」の技術』(大和出版)から

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●『一生使える「雑談」の技術』全体の概要

『どんな場面でも会話が途切れない 一生使える「雑談」の技術』
渡瀬謙/著 大和出版/2024/2/16


目次

 序章 発想さえ変えれば、誰もが“雑談上手”になれる!
 第1章 これだけは押さえておきたい! 雑談の基本&大原則
 第2章 最初が肝心! 話のきっかけづくりと話題の見つけ方
 第3章 ストレスがかからない! 不自然にならない雑談の進め方
 第4章 会話がどんどん弾む! 話の上手な広げ方・掘り下げ方
 第5章 もう、あわてない! 話につまったときの切り抜け方
 第6章 こんなとき、どうする? [シーン別]困った状況での雑談術 
 終章 雑談の技術をマスターできれば、人生が大きく変わる!


(出版社の紹介文)
--
ムリに話さなくてもOK!
生来の口下手人間が試行錯誤の末につかんだ
「話のきっかけづくりと見つけ方」「話の広げ方と掘り下げ方」
「困った状況の切り抜け方」etc.を事例とともに初公開。
「雑談が苦手な人」ほど効果がある決定版!
--
カギは「相手ファーストの雑談」にある!
 ◎雑談には5つの目的と効果がある
 ◎「相手ファーストの雑談」の構造は、じつにシンプル
 ◎話題に迷ったときの「新鮮なネタ」の選び方
 ◎オンラインでの雑談にはコツがある
 ◎相手がもち出した話題はこうフォローしよう
 ◎雑談で話が広がらない人の3つの特徴
 ◎自然と距離が縮まる「教えてもらう雑談」
 ◎雑談での沈黙には、この3つで対応しよう 他、全49項
--


 ●著者・渡瀬謙さんからの言葉

次に、渡瀬謙さんのメールにあった文章を紹介しましょう。

--
この本の特徴は、読んだ翌日からすぐに使える即効性にあります。

・雑談が苦手な人でも翌日からすぐに使える!
・練習不要!難しいセリフを憶える必要がない!
・相手からの信頼度がグンと上がる!
・人付き合いが一気にラクになる!

そもそも雑談力がゼロだった私がこの方法を実践したとたん、
「雑談が得意」と言えるようになりました。
いまでは、雑談を教える講師もやっています。

もちろん、売れない営業にもおススメです。
--


 ●雑談の秘訣は「相手ファースト」

 序章 発想さえ変えれば、誰もが“雑談上手”になれる!
 第1章 これだけは押さえておきたい! 雑談の基本&大原則

ここまでで、「雑談」とは何か、何のために行う行為か、
という大前提について語り、どのような「雑談」が正解かを説きます。

くわしい内容については本書をご覧いただくとして、
正解は「相手ファーストの雑談」。

それは、
 《がんばって自分がしゃべるのではなく、
  いかに相手に気持ちよくしゃべってもらうかに集中する――。》p.56
というもの。

第2章以降が、「相手ファーストの雑談」の具体的な方法の解説です。

第2章以降第6章までの35項目で、それぞれ、
雑談のきっかけや話題作りから、その後の雑談のすすめ方、
話題の広げ方、つまったときの切り抜け方、
困った状況でのシーン別対処法などの具体的な説明が続きます。

ここでも詳しい内容は本書をお読みいただくとして、
その中からいくつか気になった項目を見ておきましょう。


 ●「天気」の話題はなぜNGなの?

「第2章 01 雑談で「天気」の話をするのはNG」とあります。

私は雑談の第一歩は「天気」の話題だろうと考えています。

雑談の話題としては、
(1)誰もが知っていること・感じていること・興味があること
(2)相手がよく知っていること・感じていること・興味があること
(3)話者本人がよく知っていること・感じていること・興味があること
(4)本人と相手だけが知っていること・感じていること・興味があること
といったことでしょう。

「天気」の話題は最もポピュラーなもので、
いつでもどこでも可能なもので、一番手っ取り早いものです。
これを利用しない方法はありません。

これは、軽い立ち話で終わる日常的な挨拶の次の雑談の話題として、
最適かつ有効な話題です。

ところが、この本書に於いては、
必ずしもそういう「軽い雑談」について論じているわけではないので、
ここでは「NG」だというわけでしょう。

「天気」の話題が有効なのは「異常気象」の時だ(p.72)というのです。
そういうときこそ、誰もが話したくなるものですからね。


 ●「平常心」が良いパフォーマンスを生む

次に大いに気になった項目は、同じ第2章の
「09 まわりを観察するために必要なのは“平常心”」です。

渡瀬流の雑談のポイントは、この「平常心」をいかに保つか、です。

雑談のきっかけとなる話題を見つける上で大切なことで、
それは、広い視野でまわりを見られるかどうか、
そうして、いかに相手にふさわしい内容の話題を見つけられるかどうか、
という面で。
さらに、実際に雑談に入ってからのパフォーマンスにおいても重要です。
雑談が緊張したものでは、何のための雑談か分からず、
そのあとに続く本題の商談への逆効果となり、本末転倒です。

 《「自分が平常心でいられるときに、
  最も高いパフォーマンスを発揮できる」》p.98

からです。

昔読んだ松井秀喜さんの本
(『不動心』新潮新書 2007/2/16)

の中で、「平常心」について書いておられたと記憶しています。

メジャリーガーとしてワールド・シリーズでMVPとなった、
あの松井秀喜さんの言葉です。

自分がチャンスに強いのではなく、相手の方が負けているだけ。
相手がピンチだと思って、勝手に追い込まれていて、
平常心を保てずにふだんの実力を発揮できないでいる。
一方、自分は平常心で、普段通りの実力を発揮できている、
その差が出るのだろう、と言った内容の言葉でした。

どんなときも動じない、平常心でいられる『不動心』が大事なのだ、
といったお話でした。


このお話を渡瀬さんにしますと、
イチローさんも同じような話をしているとのこと。

名選手、天才、偉大な才人等々と呼ばれる人たちはみな、
チャンスに実力を発揮できるように、
どんなときも平常心を心掛けて実践している、ということなのでしょう。


 ●「営業に雑談は不要」と考える人もいる

実は、私は「営業に雑談は不要」と考える人間です。
よく「会話が途切れない雑談のコツ」等の文字が並ぶ
『雑談術』の本があります。

あれっ、この本の副題? にも
「どんな場面でも会話が途切れない」とありましたね。

私は「会話が途切れて何が悪い」とも考えています。

が、それはさておき、まずは「雑談不要論」について――。

私は昔、下請けの町工場で「工場長兼雑用係」のような立場でした。
仕事の最中に飛び込みで営業に来る人がいますと、
甚だうっとしいものでした。
こちらは一個組み立てて工賃がいくらといった仕事をしています。
時間=工賃、すなわち「時は金なり」の仕事です。

時間泥棒はお金泥棒です。
営業なら、雑談する閑があるのならさっさと商談を始めなさい、
というわけです。

もちろん、すべての雑談を排除する気はありません。

ルートセールスのような、すでに取引関係がある場合なら、
新商品の紹介とか、偶然近くに来たので挨拶に、とか、
関係を維持するための潤滑剤としての訪問ならば、
相手のようすを伺ったうえで、余裕がありそうなら、
ちょっとした雑談をはさむというのは、有効です。

あくまでも人間関係の潤滑剤が雑談です。

で、大いに感心したのが、
「第3章 06 こんな人には雑談は禁物」p.118 という項目です。

雑談をしていけない場面を説明しています。
忙しい人には雑談をしない、というわけです。

ほかの著者が書いた雑談術の本を読んだことはないのですが、
当たり前と言えば当たり前のことですが、
こういう雑談は禁物発言は、意外と書かれていないような気がします。


 ●しゃべりが止まらない人

次にその逆? で、
しゃべりすぎる人を相手にしたときの対処法が次の項目です。

「第3章 07 しゃべりが止まらない人への対処法」p.120
詳しくは本書をご覧ください。

一言言えば、私はこんな言葉を知っています。

 《誰かと会話をはじめる時は、
  まずその相手がこっちの話を聞く性質の人か、
  それともこっちがそのお喋りを聞くほかない人か、
  見きわめることが大切だ。 ――リチャード・スチール――》
    加島祥造『会話を楽しむ』岩波新書 2004/10/20

(加島さんは、英米文学者で、
 晩年は信州に住み「伊那の老子」と呼ばれた詩人でした。
 現代語の自由詩訳の『老子』で有名です。)

この『会話を楽しむ』では、
会話というものは、二つの基本認識が必要だ、と言います。
対等観と心を開くこと。

この対等観とは、福沢諭吉の有名な『学問のすすめ』の冒頭の、
「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」という時の
「人間としての平等」としての対等な関係という意味です。

目上とか年上とか上役であるとかの形式とは別の意味でのこと。

たかが雑談といえども、本格的な会話と同じことだと思っています。
一人の人間として対応して相手の考えをつかみ、自分の考えを伝える。
それが大事だといいます。

雑談でも、技術的な雑談ではなく、
心のこもった雑談であって欲しいなあ、と私は思いますね。


 ●沈黙を恐れるな

次に沈黙について。

「第5章 01 雑談での沈黙には、この3つで対応しよう」

沈黙には、「いい沈黙」と「悪い沈黙」と、
さらには「必要な沈黙」がある、といいます。

私も、沈黙を恐れるな、と言いたいですね。
特に「考えている間」というものは絶対必要です。
お互いに考えなしにダラダラ話し合っても意味はありません。

さきほども言いましたように、会話とは互いの考えを披露し合うもので、
理解し合う手段です。

当然、相手の言葉に対しても、考える時間も必要になります。
考えている間の沈黙は、必要な沈黙となります。


 ●自分で動く

「第6章 05 大勢の飲み会で孤立しそうなとき」の中にあった言葉が、
ガーンときています。

それは、
 《孤立するのがイヤだったら、自分で動くこと。》p.191

ここでは、パーティーなどでの対応を述べています。
しかし、人生に置き換えてもいいかもしれません。

私は<左利きライフ研究家>を自称しています。
もう34年ほどになります。
その間、はじめの頃も今も、ほぼ一人で動いてきました。

残念ながら、思うほどには同志は得られませんでしたが、
それは動き方が足りなかったからか、と思われます。

動いた分だけ、何かを得たことは事実です。
もう一度、動いてみたほうがいいのかなあ、という反省はあります。


 ●「自信」があれば何でもできる

最後に、「おわりに」にあった言葉「自信」について。

まあ、何事もそうなのですが、人間にとって一番大事なのはこの「自信」。

どんなときも「平常心」でいられるというのも同じで、
これも「自信」にもつながることです。

自分は今までこれだけのことをしてきたのだから――といった意識が、
そのまま自信につながっていて、それがそのまま自分の力になっている。

自信があるので、常に平常心でいられ、何事にも積極的に挑んでいける。


雑談に於いても、
本人の精神状態というものが如実に現れてしまうものなのですね。

「平常心」とか「自信」とかは、いきなり身につくものではありません。
色々と経験を積むことで、自然と生まれてくるものなのでしょうけれど、
意識的に極めることはできると思います。

渡瀬さんは、雑談によって人生にこんな変化が生まれた、
といくつかの嬉しい成果を上げています。

しかし、これを見て打算的に雑談の腕を上げようとするのではなく、
人間としてのグレードを一段階上げるのだという、
真摯な気持ちで取り組んでほしいと思います。

この本を読んで各項目の内、一つでも納得のいくことがあれば、
それを実践してゆく。

その結果、何かしら一つでも身につける事ができれば、
それでいいのではないでしょうか。

雑談に関して、その方法論を書いた本でした。

 ・・・

えっと、私から最後に一言――

私は、日々きちんと状況に応じた「挨拶」ができるならば、
その延長として、「雑談」もクリアできるように思いますけれど、ね。

「挨拶から始めよう!」って。

*参照:「コラム4 “あいさつ言葉”はありがたい」p.124

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本誌では、「私の読書論182-渡瀬謙のビジネス書の新刊『一生使える「雑談」の技術』から 」と題して、今回も全文転載紹介です。

本文でも書いていますが、私は基本的に「雑談」というのが嫌いです。
なんとなく「雑な談話」みたいで。

本当の意味は、雑誌の「雑」で、いろんなジャンルのものといった意味なのでしょう。
でもね。

できるなら、意味のある「会話」、もしくは「対話」にしたいものです。

とはいえ、雑談は「挨拶」同様、「人間関係の潤滑剤」なのでしょう。

有効な雑談術を身につけましょう。
おしまい。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ

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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論182-渡瀬謙『一生使える「雑談」の技術』から-楽しい読書362
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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)「園田の居に帰る五首(其一・二)」-楽しい読書361号

2024-03-03 | 本・読書
(まぐまぐ!)古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2024(令和6)年2月29日号(No.361)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年2月29日号(No.361)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」」
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 昨年10月以来の「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」です。
 26回目は、前回に引き続き、陶淵明の第3回です。

(陶淵明 第1回)
2023(令和5)年9月30日号(No.351)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.9.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」-楽しい読書351号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-b68999.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d371c2c2141932565db7fac1a67c1150

(第2回)
2023(令和5)年10月31日号(No.352)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)「飲酒二十首 其の五」-楽しい読書353号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-7e3a1c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/fb0ed419e609fae5ca4d419eb039fc2a

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆ 故郷に帰って新しい生活を ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)

  ~ 陶淵明(3) ~
 「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「九、達観を目指して――陶淵明の世界」より



 ●田園に帰る

40歳過ぎで官職をなげうって、故郷に帰った陶淵明。

その隠居後の生活をうたった連作「園田の居に帰る五首」は、
42歳頃の作とされます。

 《隠居直後の開放感、新しい生活に入る覚悟から、
  農作業が思うようにゆかない悩み、本当にこういう生活でいいのか
  という心細さなど、いろいろの感慨が詠まれています。》p.335

題「園田の居に帰る」は、「耕作地がついている実家に帰る」の意。
使用人も大勢いて、ある意味事業を始めるような感覚に近い、
といいます。

「園田」の「園」は果物能義や野菜など、草木が植わっている広い庭で、
「園田」は「耕作地が備わっている実家」の意味で、
「田園」は、素朴に「田畑や庭」の意味に使う、といいます。


 ●「園田の居に帰る五首 其の一」陶淵明

第一首は、《窮屈な役人生活を辞め、故郷に帰ってやっと安らぎを
  取り戻したようすを詠んでいます。》p.337


★「園田の居に帰る五首」陶淵明 ★

帰園田居五首 其一
  園田(えんでん)の居(きよ)に帰(かへ)る五首(ごしゆ) 其(そ)の一(いち)

・最初の四句は、
 《本心に反して長いこと役人生活を続けてきたことの告白》p.338

少無適俗韻  少(わか)きより適俗(てきぞく)の韻(いん)無(な)く
性本愛丘山  性(せい) 本(もと) 丘山(きゆうざん)を愛(あい)す
誤落塵網中  誤(あやま)つて塵網(じんもう)の中(うち)に落(お)ち
一去十三年  一去(いつきよ) 十三年(じゆうさんねん)

 私は若いときから世俗にかなう気質がなかった
 もともと山や丘などの自然、俗世間を離れた環境が好きだった
 それがなにかのはずみで間違って役人生活に入り込み
 十三年が経過してしまった


・次の四句では、《本心に素直になって役人生活を辞めたことを、
  鳥や魚のたとえを使って述べます。》p.338

羈鳥恋旧林  羈鳥(きちよう) 旧林(きゆうりん)を恋(こ)ひ
池魚思故淵  池魚(ちぎよ) 故淵(こえん)を思(おも)ふ
開荒南野際  荒(こう)を南野(なんや)の際(さい)に開(ひら)かんとし
守拙帰園田  拙(せつ)を守(まも)つて園田(えんでん)に帰(かへ)る

 かごの中の鳥は、
  自分がもといた森をいつまでも忘れられずに思い続けるものだ
 池に飼われている魚も、自分がもといた川のふちを思い慕うものだ
 今、自分は南の野原の片隅で荒れ地を開墾しようと拙を守り、
 そういう自分の個性を大事にして、農村に帰って来た 


・第三段からは、
 《具体的な描写に入り、自分の家を簡単に紹介します。》p.339

方宅十余畝  方宅(ほうたく) 十余畝(じゆうよほ)
草屋八九間  草屋(そうおく) 八九間(はちきゆうけん)
楡柳蔭後簷  楡柳(ゆりゆう) 後簷(こうえん)を蔭(おほ)ひ
桃李羅堂前  桃李(とうり) 堂前(どうぜん)に羅(つら)る

 田舎の家の四角い敷地は十畝余りである
 茅葺(かやぶき)の屋根の家は八つか九つの部屋しかない
 楡(にれ)や柳の木が裏側の庇(ひさし)に覆いかぶさっている
 桃や李(すもも)が表座敷の前に並べて植えてある


・次は、《家からの村里の眺め。まずは遠景。》p.339

曖曖遠人村  曖曖(あいあい)たり 遠人(えんじん)の村(むら)
依依墟里煙  依依(いい)たり 墟里(きより)の煙(けむり)
狗吠深巷中  狗(いぬ)は吠(ほ)ゆ 深巷(しんこう)の中(うち)
鷄鳴桑樹巓  鷄(とり)は鳴(な)く 桑樹(そうじゆ)の巓(いただき)

 我が家からぼんやり見える、遠くの人々が住む村
 かすかにゆらめくかまどの煙
 犬は奥まった路地で吠えており
 鶏は桑の木のこずえで鳴いている

犬や鶏は、戦国時代以後、理想社会の象徴だと言います。


・最後の四句は、《新しい生活への満足感を述べます。》p.340

戸庭無塵雜  戸庭(こてい) 塵雜(じんざつ)無(な)く
虚室有余間  虚室(きよしつ) 余間(よかん)有(あ)り
久在樊籠裏  久(ひさ)しく樊籠(はんろう)の裏(うち)に在(あ)りしも
復得返自然  復(ま)た自然(しぜん)に返(かへ)るを得(え)たり

 家の戸口や庭に、煩わしいごちゃごちゃした事は入り込んで来ない
 余分な物のない部屋にはゆとりある空間がある
 私は長いこと、檻やかごのような、
  本性を押さえつける俗世間に居続けたが、
 今やっと再び本来の自分に帰ることができた

樊籠の「樊」とは鳥かご、「籠」は鳥や虫を入れるかご。
束縛されていた役人時代の生活を意味します。


 ●「園田の居に帰る五首 其の二」陶淵明

一首目は、《観念的に理想を追う形で官職を辞した》陶淵明の
まだ開放感に溢れた内容でした。

二首目からは、
 《農作業の実体験をつむうちにいろいろなものが見えて来て、
  それとともにさまざまな思いがわき起こるようになりましたが、
  (略)それを素直に吐露している作品》です。


帰園田居五首 其二
  園田(えんでん)の居(きよ)に帰(かへ)る五首(ごしゆ) 其(そ)の二(に)

・まずは、《自分自身の今の生活環境から歌い始めます。》p.341

野外罕人事  野外(やがい) 人事(じんじ)罕(まれ)に
窮巷寡輪鞅  窮巷(きゆうこう) 輪鞅(りんおう)寡(すくな)し
白日掩荊扉  白日(はくじつ) 荊扉(けいひ)を掩(とぎ)ひ
虚室絶塵想  虚室(きよしつ) 塵想(じんそう)を絶(た)つ

 町から外れた辺りでは、人の世のいろいろな面倒なことが少ない
 奥まった路地にいるから、車や馬が入って来ることも稀である
 私は昼日中にいばらの粗末な扉を閉めたまま
 余分なもののないがらんとした部屋にいて、
  面倒な雑念も湧き起こらない

《車や馬に乗るのは、貴族や政府高官で、そういう人の訪れもなく、
気楽である》という状況です。
「塵想」は、「ごちゃごちゃつまらない俗念」の意味です。


・次の四句は、《村人たちとの関係です。》p.342

時復墟曲中  時(とき)に復(ま)た墟曲(きよきよく)の中(うち)
披草共来往  草(くさ)を披(ひら)いて共(とも)に来往(らいおう)す
相見無雜言  相見(あいみ)て雜言(ざつげん)無(な)く
但道桑麻長  但(ただ) 道(い)ふ 桑麻(そうま)長(ちよう)ずと

 時おり村の片隅にいて
 草を掻き分け、踏み分けるようにして、近所の人々と交流する
 お互いに出会っても余計な話はしない
 ただ桑や麻の具合を語り合うだけである

《農業関係の話しかしない》と、《貴族社会への批判が入っている》。


・最後は、《体験から滲み出たのか、新しい視点が入っています。》p.342

桑麻日已長  桑麻(そうま) 日(ひ)に已(すで)に長(ちよう)じ
我土日已広  我(わ)が土(ど) 日(ひ)に已(すで)に広(ひろ)し
常恐霜霰至  常(つね)に恐(おそ)る 霜霰(そうさん)の至(いた)つて
零落同草莽  零落(れいらく)して
        草莽(そうもう)に同(おな)じからんことを

 日に日に桑や麻は成長し
 わが耕作地もだんだん広がってゆく
 いつも心配しているのは、霜や霰に見舞われて作物が枯れ萎み、
 ただ草むらのような意味のない、無駄なものになってしまうことだ


陶淵明の生きた東晋の時代はやたら天災の多かったといい、
それが彼の家が没落した理由の一つでもあるのでは、と
宇野直人さんは推測しています。
それだけに気になるというわけですね。

 ・・・

今回はこの辺で。

次回は、引き続き、「園田の居に帰る五首 其の三・四」を。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」 」と題して、今回も全文転載紹介です。

40歳すぎで役人を辞めて故郷に帰り農家をやる、今時でもありそうなUターンのパターンですが、当初の開放感はいつまでも続くことなく、故郷といえども土地の人に馴染めるのか、農作業に馴染めるのか等、その土地にはその土地ならではの色々な悩みがあるものでしょう。

さて次回はこの続きとなります。
その辺のところはどうなんでしょうね。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)「園田の居に帰る五首(其一・二)」-楽しい読書361号
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私の読書論181-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(後)初読編-楽しい読書360号

2024-02-16 | 本・読書
(まぐまぐ!)古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2024(令和5)年2月15日号(No.360)「私の読書論181-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(後編)初読編ベスト3 」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和5)年2月15日号(No.360)「私の読書論181-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(後編)初読編ベスト3 」
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 「私の年間ベスト3・2023年フィクション系(後編)」です。

 <フィクション系>は、文字通りフィクション、
 小説等の創作ものを指します。

 今回はいよいよ「初読編ベスト3」を。


「再読編」
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
2024(令和5)年1月31日号(No.359)「私の読書論180-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(前編)総リスト&再読編 」
『レフティやすおのお茶でっせ』2024.1.15
私の読書論180-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(前)総リスト&再読編-楽しい読書359号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/01/post-244657.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/24ab2ce38b836145b195398a2c4197f6


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 - 青春ミステリか? 老人探偵団か? -

  ~ 私の年間ベスト3・2023フィクション系(後編) ~

  2023年フィクション系ほぼ全書名紹介&初読編ベスト3

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ●<初読編ベスト3>候補

<初読編ベスト3>の候補となる、
初読のフィクションの全書名を紹介してみましょう。

例年のように簡単に分類してみましょう。

(1)メルマガ用のお勉強の本
(2)それ以外の古典の名作
(3)小説や左利き本等著作のための勉強本
(4)個人的な趣味で、好きな作家、
 ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

 ・・・

(1)メルマガ用のお勉強の本

・『曹操・曹丕・曹植詩文選』川合 康三/編訳 岩波文庫 2022/2/17
――読書メルマガ『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』の
参考資料。
*参照:『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
2023(令和5)年3月31日号(No.339)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(21) ―曹丕(そうひ)」
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.3.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(21) ―曹丕(そうひ) -楽しい読書339号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/03/post-849fb1.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e03d798d0eb5364d8cd88d8d0fc20004

(2)それ以外の古典の名作

・『八犬伝(上・下)』山田風太郎 山田風太郎傑作選・江戸篇 河出文庫
2021/2/5
――江戸時代の戯作本、滝沢馬琴『南総里見八犬伝』の「虚の世界」と、
それを書く馬琴が画家・葛飾北斎等を相手に、日常の作家として、一人の
世帯主としての葛藤を語る姿を描く「実の世界」を交互に綴る、風太郎版
『八犬伝』。


・『世界推理短編傑作集6』戸川安宜編 創元推理文庫 2022/2/1
――2018年にリニューアルされた江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集』
全5巻を補完する第6巻。未収録作家13人の古典的名作を収録。冒頭、
1870年発表のエミール・ガボリオ「バティニョールの老人」は、左手に
よるダイイング・メッセージという<左利きミステリ>。既刊の短編集や
アンソロジーに収録されているものも多いが、まとめて読めるのは便利。


(3)小説や左利き本等著作のための勉強本

特になし。

(4)個人的な趣味で、好きな作家、
 ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

【新井素子】
・『二分割幽霊綺談』講談社 1983
――パラレルワールドにつながる?トンネルの向こうとこちらで
繰り広げる奇想冒険談。
『二分割幽霊綺談』講談社文庫 1986/3/1

・『・・・・・・絶句(上下)』早川書房 新鋭書下ろしSFノヴェルズ
1983/12/15, 1984/1/15
――異星人の起こした事故で、新井素子の創作したインナー・スペースが
現実化して大混乱……という奇想SF。

・『あなたにここにいて欲しい』文化出版局 1984/7/1
――自分一人ではなにもできない女性と、彼女の世話をすることに自己の
存在意義を認めてきた女性。小学校以来の二人の友人同士の交流に、
新たな人物が現れ、互いの相互依存があらわになる……。

――80年代、本屋さん時代に買ってそのままになっていた本たち。
当時の人気作家でしたが、今では現行本がほとんどないようです。


【リチャード・オスマン】
・『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』羽田詩津子訳 ハヤカワ・ミステリ
2022/11/2
――第一作では謎の人物だった、老人探偵グループ〈木曜殺人クラブ〉の
中心メンバーのエリザベスと、死んだはずのかつての同僚英国諜報員の
事件。彼はダイヤを持ち逃げし、諜報組織とマフィアから追われていた。
メンバーは、この国際的陰謀との戦いに乗り出す。
一方で、メンバーの一人元精神科医のイヴラヒムが一人で町に出たとき、
若者に襲われスマホを奪われる、という事件が起きる。このとき、肉体の
負傷以上に、精神的にまいってしまう。それを老人仲間たちが支え、
励ます姿の美しさ。さらに精神科医の彼が女性警官の相談を受けたときの
回答も読ませます。

・『木曜殺人クラブ 逸れた銃弾』リチャード・オスマン 2023/7/4
――第三作では、かつて大規模詐欺事件を追求するうちに事故死した
女性キャスターの事件を、有名キャスターと捜査を始める。
一方エリザベスは、マネーロンダリングにまつわる事件に巻き込まれる。

以上、イギリスの高級高齢者施設に住む老人たちの探偵クラブ
〈木曜殺人クラブ〉の面々による探偵冒険譚のそれぞれ第二作と第三作。
老人たちの会話が読ませます。著者は第一作を書く前に、高齢者施設で
取材もしたというのですが、老人の仲間入りをした現在の私が読んでも、
迫るものがあって、単なる娯楽小説に終わらず、読む価値ありの作品に
なっているように感じます。


【ホリー・ジャクソン】
・『自由研究には向かない殺人』服部京子訳 創元推理文庫 2021/8/24
出版社の紹介文《イギリスの小さな町に住むピップは、大学受験の勉強と
 並行して“自由研究で得られる資格(EPQ)"に取り組んでいた。題材は
 5年前の少女失踪事件。交際相手の少年が遺体で発見され、警察は彼が
 少女を殺害して自殺したと発表した。少年と親交があったピップは彼の
 無実を証明するため、自由研究を隠れ蓑に真相を探る。調査と推理で
 次々に判明する新事実、二転三転する展開、そして驚きの結末。
 ひたむきな主人公の姿が胸を打つ、イギリスで大ベストセラーとなった
 謎解き青春ミステリ!》

・『優等生は探偵に向かない』服部京子訳 創元推理文庫 2022/7/20
出版社の紹介文《人の兄ジェイミーが失踪し、高校生のピップは調査を
 依頼される。警察は事件性がないとして取り合ってくれず、ピップは
 仕方なく関係者にインタビューをはじめる。SNSのメッセージや写真
 などを追っていくことで明らかになっていく、失踪当日のジェイミーの
 行動。ピップの類い稀な推理で、単純に思えた事件の恐るべき真相が
 明らかに……。『自由研究には向かない殺人』待望の続編。この衝撃の
 結末を、どうか見逃さないでください!》

・『卒業生には向かない真実』服部京子訳 創元推理文庫 2023/7/18
出版社の紹介文《わたしはこの真実から、決して目を背けない。『自由
 研究には向かない殺人』から始まったミステリ史上最も衝撃的な3部作
 完結編!
 大学入学直前のピップに、不審な出来事がいくつも起きていた。無言
 電話に匿名のメール。首を切られたハトが敷地内で見つかり、私道には
 チョークで首のない棒人間を書かれた。調べた結果、6年前の連続殺人
 事件との類似点に気づく。犯人は服役中だが無実を訴えていた。ピップ
 のストーカーの行為が、この連続殺人の被害者に起きたことと似ている
 のはなぜなのか。ミステリ史上最も衝撃的な『自由研究には向かない
 殺人』三部作の完結編!》

――数々のミステリベスト10で上位にランクインした、女子高校生ピップの
探偵譚三部作。さわやかな青春ミステリとして、謎解きミステリのように
開幕したシリーズでしたが、第三作では、意外な展開になります。
ストーカー行為を受けたピップが反撃に転じるのですね。真実とは何か?
非常に重たい問いかけです。彼女の選択を肯定できるかどうかが、
その人の人間としての一つの試金石ともいえます。
その時その時で人は意外な行動を取ることもあります。最終的に、人は、
起きてしまったこと、済んでしまったことを変えることはできません。
その時点で、人は自分の信じる道をただ前へ、前へと向かって進むしか
ないのです。


・『マジック・ミラー』有栖川有栖 講談社文庫 1993
新装版 マジックミラー (講談社文庫) 文庫 – 2008/4/15
――双子の兄弟による兄嫁殺しのアリバイ・トリックもの。
被害者の妹が推理作家とともに謎に迫る。

・『不吉なことは何も』フレドリック・ブラウン 越前 敏弥 訳
創元推理文庫 2021/9/21
――《『真っ白な噓』に続く巨匠の代表的ミステリ作品集》という
【名作ミステリ新訳プロジェクト】の一冊。アリバイ・トリックものの
中編「踊るサンドイッチ」がお目当てで読んだ一冊だったが。


・『スペースマン―宇宙SFコレクション(1)―』伊藤典夫、浅倉久志編
 新潮文庫 1985/10/1
・『スターシップ―宇宙SFコレクション(2)―』伊藤典夫、浅倉久志編
 新潮文庫 1985/12/1
――この二冊は本屋さん時代に買ってそのままだった、宇宙ものSFの
アンソロジー。ハインライン「地球の緑の丘」やアシモフ「夜来たる」等
名作も多く散りばめられた好アンソロジー。

・『ラブ・フリーク 異形コレクション(1)』井上雅彦監修
広済堂文庫―異形コレクション) (廣済堂文庫 い 6-1 異形コレクション 1) 文庫 – 1997/12/1
――書き下ろしの恐怖小説・怪奇小説・幻想小説のアンソロジー第一弾。
異常な状況下の恋愛を描いたもの。集中一番のオススメは、岡崎弘明
「太陽に恋する布団たち」。明るく優しい気持ちになれる名作だろう。


・『下町ロケット ヤタガラス』池井戸潤 小学館文庫 2021/9/7
――『下町ロケット ゴースト』に続く、帝国重工・財前との共同事業、
準天頂衛星「ヤタガラス」を利用した無人農業ロボット開発での、
下町中小企業との競争物語。


以上17点ほどでした。

思いのほか少なく、ベスト3を選ぶのも結構大変と思われます。

といいつつ、勝負は決まっている感じです。


 ●2023年フィクション系<初読編べスト3>

今回の<初読編ベスト3>は、以下の作品となります。


 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡

   【2023年フィクション系<初読編べスト3>】

  (1)【ホリー・ジャクソン】
・『自由研究には向かない殺人』服部京子訳 創元推理文庫 2021/8/24
・『優等生は探偵に向かない』服部京子訳 創元推理文庫 2022/7/20
・『卒業生には向かない真実』服部京子訳 創元推理文庫 2023/7/18


(画像:【ホリー・ジャクソン】女子高校生ピップ三部作
『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』『卒業生には向かない真実』創元推理文庫―創元推理文庫のサイトから)

  (2)『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』リチャード・オスマン
羽田詩津子訳 ハヤカワ・ミステリ 2022/11/2


(画像: リチャード・オスマンの老人探偵グループ〈木曜殺人クラブ〉メンバーによる探偵冒険物語の第二作『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』羽田詩津子/訳 ハヤカワ・ミステリ 2022/11/2)

  (3)『八犬伝(上・下)』山田風太郎 山田風太郎傑作選・江戸篇
 河出文庫 2021/2/5

(画像: 図書館本『八犬伝(上・下)』山田風太郎 山田風太郎傑作選・江戸篇 河出文庫 2021/2/5)

 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡


(1)と(2)は、真逆の主人公たちを描いています。
方や高校生、方や70歳を越えた老人たち。
(3)の<実の世界>の馬琴たちももう老人です。

ハツラツとした高校生たちの探偵冒険の世界と、同じ現代を舞台にして、
SNS等を活用する探偵物語でも、主人王がこれほど異なれば、
読む側の私も高齢者であり、感情移入的には、後者に軍配が上がっても
おかしくありません。

ただ一種の憧れに似た何かがあり、こういう青春ものには
肩入れしたくなるのも事実です。

老人への親近感と青春へのあこがれといった、個人的な読者として
感情的な評価は別にして、作品本来の評価として、
三部作込みの評価というのも、ちょっと卑怯な気もしますが、
あえて<ベスト1>に、この<ピップ三部作>を上げてみたいものです。

真実はいずれ明らかになるだろうし、正義は必ずまっとうされるもの、
と私は信じています。
ピップにもそう信じて生きていってほしいと思います。

2位には、老人の心理といったものをたっぷり書き込んだ探偵物語の、
『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』の方を上げたいと思います。

第三作も面白いのですが、ここでは、個人的な感情移入的な評価で。

元精神科医で80歳のイヴラヒムと女性警官のドナとの対話の一部を
引用しておきましょう。

 《「時間は戻ってこないことは知っているね?
  友人、自由、可能性も?」
  (略)
  「時間を取り戻すことはあきらめよう。過去は幸せだった時間として
  記憶するんだ。きみは山の頂上にいた。今は谷間にいる。今後も
  数えきれないほど、そういうことは起きるだろう」/
  「じゃあ、今は何をすればいいんですか」/
  「もちろん、次の山を登るんだ」/
  「ああ、そうか、そうですよね」シンプルだ。
  「そして次の山を登ったら?」/
  「うーん、それはわからないよ、そうだろう? きみの山だ。
   他の誰も今まで登ったことはないんだから」
   (略)
  「きみは好きなようにすればいいんだ。だが、前を見ろ、
   後ろを振り返るんじゃない。そして、きみが登るあいだ、
   わたしはここにいるよ。その肘掛け椅子は、
   必要とあらばいつでもきみのものだ」
   (略)
  「孤独はつらいものだ。大きな苦しみのひとつだ」
   (略)
  「きみはちょっと迷子になっただけだよ、ドナ。
   そして、人生で一度も迷わなかったら、まちがいなく、
   おもしろい場所には一度も旅をしなかったということだ」》pp.358-360

そして、若者の襲撃によるケガの後、一人では町に出られなくなり、
落ち込んでいるイヴラヒムに、今度はドナがいいます。

 《「あなたは悲しそうに見えます」/
  「ちょっと悲しいんだ、たしかに」イヴラヒムは白状する。
  「怯えているし、そこから抜け出す方法が見つからずにいる」/
  「次の山に登る、というのが、あたしからのアドバイスです」/
  「それだけのエネルギーがあるのか、自信がない」
  (略)
  「肋骨は痛むし、そのせいで胸まで痛い気がするんだ」/
  「あなたが登るあいだ、あたしはここにいますよ」》p.360

3位には、『八犬伝』を。馬琴の『八犬伝』のダイジェストに当たる、
<虚の世界>と、それを語る<実の世界>での、作家として、
世帯主として家庭第一を心掛けながら執筆に励む馬琴と、
家庭を顧みることない北斎。さらに、鶴屋南北らとの会話の中に出て来る、
芸術論や人生論のおもしろさ。
『八犬伝』のおもしろさはもちろんですが、この芸術論や人生論に
著者・山田風太郎の思いも重なっているようで、
読むほどに迫ってくるものがありました。

以上、<ベスト3>でした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論181-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(後編)初読編ベスト3 」と題して、今回も全文転載紹介です。

前回に引き続き、<フィクション系>の後編、初読編のベスト3発表でした。

改めて、三部作をひっくるめるのはどうか、という気もします。
しかし、この作品に関しては、一冊ずつもいいですし、しかも、三作で到達するところというものもある、という意味で、これは致し方ないという気もします。
<木曜殺人クラブ>も二作上げています。
こちらの方は、昨年二作読んだということで、ついでに上げているだけで、正味は第二作による結果です。

『八犬伝』も二巻本でしたし、今年は、冊数的には<ベスト3>が3冊ではなくなったというのは、ちょっとした事件だったかもしれませんね。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論181-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(後)初読編-楽しい読書360号
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私の読書論180-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(前)総リスト&再読編-楽しい読書359号

2024-01-28 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

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2024(令和5)年1月31日号(No.359)「私の読書論180-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(前編)総リスト&再読編 」


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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和5)年1月31日号(No.359)「私の読書論180-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(前編)総リスト&再読編 」
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 「私の年間ベスト3・2023年フィクション系(前編)」です。

 <フィクション系>は、文字通りフィクション、
 小説等の創作物を指します。

 まずは、「再読編」から。

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 - 昔の感覚に間違いはなかった!? -

  ~ 私の年間ベスト3・2023フィクション系(前編) ~

  2023年フィクション系ほぼ全書名紹介&<再読編ベスト3>候補作
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●傾向と分類

2023年は、冊数が40冊程度でした。
うち約半数の20冊が再読ものでした。
これは昨年と同数となります。

そこで今年も、<再読編ベスト3>と<初読編ベスト3>とに分けて
紹介してみましょう。

 ・・・

例年のように簡単に分類してみましょう。

(1)メルマガ用のお勉強の本
(2)それ以外の古典の名作
(3)小説や左利き本等著作のための勉強本
(4)個人的な趣味で、好きな作家、
 ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

*(再):自分の蔵書の再読本、[再]:作品そのものは再読、本は新本


 ●(1)メルマガ用のお勉強の本

・[再]『雨月物語』上田秋成/長島弘明 校注 岩波文庫 2018/2/17


2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.6.30
私の読書論172-2023年岩波文庫フェアから上田秋成『雨月物語』
「蛇性の婬」-楽しい読書345号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/06/post-ec8330.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/417d68371321fb4e635a0fa83166e4d2


・[再]『時をかける少女』筒井 康隆 角川文庫 新装版 2006/5/25


・(再)『カドカワ フィルム ストーリー 時をかける少女』筒井康隆原作
大林宣彦監督作品 角川文庫 1984(昭和59年)/11/1

・(再)『タイム・トラベラー』石山透 大和書房 1984/2/1


――1972年、NHKドラマ『タイム・トラベラー』全6話、と
 続編『続・タイム・トラベラー 』全5話のシナリオ集。巻末に
 「NHK少年ドラマシリーズ放送作品リスト」、主題歌楽譜を収録。

2023(令和5)年7月31日号(No.347)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(2)角川文庫・
筒井康隆『時をかける少女』わが青春の思い出の一冊」
2023.7.31
[新潮・角川・集英社]
<夏の文庫>フェア2023から(2)角川文庫・筒井康隆『時をかける少女』
-楽しい読書347号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/07/post-ea808e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/51993cafbd23c48808fba514944ef122


・(再)東野圭吾『白夜行』集英社文庫 2002/5/25


2023(令和5)年8月31日号(No.349)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・
 東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」
2023.8.31
[新潮・角川・集英社]
<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・東野圭吾『白夜行』-楽しい読書349号
17:36 2023/08/23
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/08/post-68005b.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/a591675405b6e87c3e89a1653c2d3316


 ●(2)それ以外の古典の名作

・(再)『親友(パル)・ジョーイ』ジョン・オハラ 田中小実昌訳
 講談社文庫 1977
――戦前のアメリカの風俗小説、表題の連作短編とその他の短編集。
表題作はペンフレンドに送る近況報告の手紙の形式で、
昔『ミステリ・マガジン』でそれぞれの短編として紹介されていた。
当時は面白い小説として読んだが、今回読んでみると、昔ほどの魅力は
感じず、まあまあ、というところか。私の主人公に対する見方が変わり、
真実の姿を理解できるようになった、というところでしょうか。

・[再]『少女地獄』夢野久作 角川文庫 1976
――同じく戦前の日本の小説短編集。


(3)小説や左利き本等著作のための勉強本
特になし。


 ●(4)個人的な趣味で、好きな作家、
 ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

【新井素子】
・(再)『あたしの中の……』集英社コバルトシリーズ 1981
・(再)『グリーンレクイエム』講談社文庫 1983
・(再)『ひとめあなたに……』双葉ノベルズ 1981
・(再)『扉を開けて』CBSソニー出版 1982
・(再)『ラビリンス<迷宮>』トクマ・ノベルズ 1984
・[再]『いつか猫になる日まで グリーン・レクイエム』日下三蔵編
柏書房<新井素子SF・ファンタジー コレクション1> 2019
・[再]『扉を開けて 二分割幽霊綺談』日下三蔵編
柏書房<新井素子SF・ファンタジー コレクション2> 2019
・[再]『ラビリンス<迷宮> ディアナ・ディア・ディアス』日下三蔵編
柏書房<新井素子SF・ファンタジー コレクション3> 2019
――『あたしの中の……』は、記念すべきデビュー作。
『扉を開けて』『ラビリンス<迷宮>』は、異世界ものの女性が主人公の
ヒロイック・ファンタジー。『ひとめあなたに……』は地球最後の日もの。
柏書房版は、今や多くが絶版・品切れとなった初期新井作品の名作を
資料とともに復刊するもの。

<海洋冒険もの>
【セシル・スコット・フォレスター】
・(再)『スペイン要塞を撃滅せよ』ハヤカワ文庫NV 1973
・(再)『トルコ沖の砲煙』ハヤカワ文庫NV 1974
・(再)『パナマの死闘』ハヤカワ文庫NV 1974
――以上、帆船時代の英国海軍の<海の男ホーンブロワー・シリーズ>。
最初に書かれた『パナマの死闘』が好評で海軍士官候補生時代から出世
してゆく過程が順次シリーズ化されたという人気シリーズ。
人間的な弱みを持つスーパー・ヒーローでないところが、海外で人気の
シリーズというのも理解できます。なかなかのエンタメ作品。


(再)『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン 村上博基訳
 ハヤカワ文庫NV 1972
――第二次大戦中のドイツ海軍と連合国側の輸送船団の護衛艦、
イギリス海軍ユリシーズ号との激闘。


<その他の冒険もの>
(再)『大洞窟』クリストファー・ハイド 田中靖訳 文春文庫 1989
――日本人の地質学者が主要登場人物となる洞窟で発掘中、
地震で閉じ込められ、いかに脱出するか、というサバイバル物語。

【ディック・フランシス】
(再)『重賞』菊池光訳 ハヤカワミステリ文庫 1976
(再)『追込』菊池光訳 ハヤカワミステリ文庫 1982
――元女王陛下のお抱え障害競馬騎手だった著者が書いたことでも有名な、
<競馬スリラー・シリーズ>の中期の作品。
毎回異なるヒーローを主人公に、競馬がらみの犯罪を暴いてゆく展開で、
そのヒーロー像の造形にしびれます。イギリスでは最も有名な探偵役
シッド・ハレーを主人公にテレビドラマも制作されていました。
私の大好きな作家でした。
中期以降の作品の手持ちの文庫本が十冊程度ありますので、
もう一つと思う作品は処分しようと思い、再読を始めました。


<その他>
・[再]『刑罰』フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一訳
創元推理文庫 2022
――ドイツの刑事弁護士が実際に経験した事例を元に描く犯罪物語集。
この作家の著作はみな問題意識が高い作品集で、読み応えがある。
ハードカバー本の文庫化で、また読んでしまった。

(再)『怪奇と幻想 第一巻 吸血鬼と魔女』矢野浩三郎編 角川文庫 1975
――怪奇小説・恐怖小説・幻想小説のアンソロジーの第一巻。
このアンソロジー全三巻は、創元推理文庫の『怪奇小説傑作集』全五巻、
近年新版『新編 怪奇幻想の文学』が出ている、その元版のアンソロジー
などと並ぶ、名アンソロジーではなかったか、と思っています。


 ●<再読ベスト3>候補

以上がほぼ全再読書です。

この中から<再読ベスト3>を選ぶにあたって、
まずは候補としていくつか上げてみましょう。

新井素子作品では、以下の三作。
1.『グリーンレクイエム』――昔読んだとき同様感動の一作。
以前紹介したゼナ・ヘンダースン『果てしなき旅路』同様、
マイノリティーの悲劇を扱う悲しい作品です。
2.『ひとめあなたに』――地球はあと一週間(だったか?)で滅ぶ
という状況で人はいかに生きるのか、という重いテーマのれん作短編。
以前読んだときよりも、重さを感じたという気がしました。
ちょっと気になる一作でした。
3.『ラビリンス<迷宮>』――かつて繁栄していた文明を失った人類が
新たなスタートにつくというストーリーですが、迷宮で待つ<怪物>を
いかに対応するか、生け贄にされた少女たちの戦い。

メルマガで扱った三作は、それぞれに印象に残る作品で候補作です。
4.『雨月物語』――古典中の古典で、今回取り上げた「蛇性の婬」は、
集中最長の中編といったところで、一番の名作かと思います。
5.『時をかける少女』も、表題作の中編は、青春のまぶしさを描いた
永遠にの名作という気がします。
6.『白夜行』は、三編中唯一の長編ですが、長さを感じさせない名作で、
これはゆがんだ青春の物語で興味深いノワールという感じです。

次に<冒険もの>では、
7.『女王陛下のユリシーズ号』――マクリーンの処女作で、
戦争ものの長編ですが、男たちはなんのために戦うのか、という
戦争に対する見方と人間としての生き方を考えさせる反戦文学です。
8.『大洞窟』は日本人が主人公になっている点がポイント高く。

9.『怪奇と幻想 第一巻 吸血鬼と魔女』――<怪奇もの>の
アンソロジーとしては、名作揃いの好アンソロジーです。
珍しいダシール・ハメットの怪奇小説アンソロジーの「序文」を借りて、
作品もモーパッサン「オルラ」、M・R・ジェイムズ「マグナス伯爵」、
F・マリオン・クロフォード「血は命の水だから」等々。


 ●2023年フィクション系<再読編べスト3>

さて、では、<再読編べスト3>です。
やはりむずかしいですが、メルマガで扱った三作は、
そちらで書いてきましたので、今更選ぶのもどうかと思います。


 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡

   【2023年フィクション系<再読編べスト3>】

  (1)新井素子『グリーンレクイエム』新装版 講談社文庫 2021/4/15


  (2)アリステア・マクリーン『女王陛下のユリシーズ号』ハヤカワ文庫 NV 7 1972/1/1


  (3)矢野浩三郎編『怪奇と幻想 第一巻 吸血鬼と魔女』角川文庫

 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡


「読む価値あり」という意味で、この辺を上げておきましょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論179-私の年間ベスト3-2023年〈フィクション系〉(前編)総リスト&再読編」と題して、今回も全文転載紹介です。

今回は、本文中にもありますように、再読した<フィクション系>の本についてです。

もう何年も前から、蔵書を少しずつ処分しています。
今までもとにかく本箱?本棚? が二本しかないので、押し出し整理法でここからはみ出す分はその都度処分するようにしてきました。
ここんところ古本屋さんも減ってきて、近所の一軒ぐらいしかない状況で、そこがなくなれば、処分もむずかしいということになります。
今は少しずつその近所のお店に持ち込んでいます。

今までは聖域としていた青春初期の本も最近は、処分しています。
そうは言いましても早半世紀という本もあり、赤茶けて、ほとんど値の付かないようなものも多いようです。
でも、売れるうちは売って何かの足しになればと思っています。

処分のために再読をしているというところです。
聖域だった、新井素子さんの本や、冒険小説などもそういう一環の本で、昨年末に処分してしまいました。
ディック・フランシスはこれから再読を続けて選定に入ります。

残念と言えば残念ですが、いずれは処分しなければならないので、今のうちに少しずつ減量を、というところです。

といいつつも、毎年20冊程度は購入していますので、実数はなかなか減ってはいませんね。
まだ、本箱からオーバーしている本の段ボール箱が大小6個ぐらいありますから。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ

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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論180-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(前)総リスト&再読編-楽しい読書359号
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私の読書論179-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』-楽しい読書358号

2024-01-20 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

(まぐまぐ!)登録・解除

2024(令和6)年1月15日号(No.358)
「私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)
田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年1月15日号(No.358)
「私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)
田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 前回、長くなりすぎてしまい分割した後半です。

(前編)
2023(令和5)年12月31日号(No.357)
「私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(前編)」
2023.12.31
私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(前編)
-楽しい読書357号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/12/post-d85a13.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/b7d1b868920116ee23459ec47dfdd66e


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 - メルマガの為に読んだ本ばかり? -

  ~ 私の年間ベスト3・2023年〈リアル系〉 ~

  田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』
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 ●(4)個人的な趣味、仏教や空海・弘法大師に関する本

・『マイ遍路』白川密成 新潮新書 2023/3/17


四国の八十八カ所の霊場を巡礼するお遍路旅を、
第五十七番札所・栄福寺の住職が、六十八日をかけて歩いた記録。
弘法大師の著作の言葉を引用し、その場その場のようすをたどりながら、
綴る「四国遍路」の実践的な旅日誌。
弘法大師空海のどういう言葉をどういう場面で引用しているのか、
といった興味で買ってみました。

出川哲朗さんのテレビ番組でのお遍路の旅で、
この方が住職をしているお寺をお参りされた際に、
著者が出演されたのを見た記憶があります。
まだ若いお坊様ですが、こういう著作のような活動も、
今の時代には信仰を広げる意味でも大いにありだと感じました。

生きることは悩むことでもあり、
そこに信仰というものが必要となる部分があると思います。


・『ぼくのミステリ・マップ―推理評論・エッセイ集成』田村隆一
中公文庫 2023/2/21


私の趣味であるミステリ――
特に海外ミステリ(翻訳ミステリ)についてのエッセイ集。

1923(大正十二)年生まれの著者の生誕100年記念出版としての
増補改編版。

海外ミステリ専門誌だった『(ハヤカワ)ミステリマガジン』
(通称HMM)の愛読者である私には、
『HMM』の前身『(日本語版)EQMM』の創刊前後、
それに先立つミステリ叢書「ハヤカワ・ポケット・ミステリ・シリーズ」
(通称<ポケミス>)の立ち上げに関連した部分が、
興味深く楽しめました。

 《生島 金はなかったけど、ただよかったのは社長以外は、
     編集長もくそもないって感じだったことだね。
  田村 社長だってないよ。あるはずないんだよ。
     もう前に会社つぶしているんだから。》p.342

 《生島 こっちは若いし、もうストレートに企画は通る。
     しかしおもしろいから企画出すと、
     全部てめえのしょいこみになっちゃうんだよな。
  田村 でも、ぼくがやめてから、君らががんばったからね。
     それで、ほんとの意味でいまの早川つくったんだから。》
   pp.343-344

かつては<海外文学の早川書房>として、
今やノーベル賞作家カズオ・イシグロの翻訳本の版元として、
大手に負けない出版社となった、
早川書房の草創期の物語の一つでもあります。


また文学について、田村さんは

 《田村 実際文学というのは、ユーモアのセンスなんですよ。
     文学というと、何か、しかめっ面しちゃってるけど、
     そんなものと文学は関係ないんだからね。
     どういうユーモアのセンスで言語表現していくかというのが、
     文学の鉄則ですからね。》    

と言うのです。そして、14,5のときから詩を書いていたが、
そのときから、《ユーモアのセンスで書いてるわけです》と。

田村さんの詩を読んだ学生さんは、
シリアスに詩を書いていると思っているが、
実際の田村さんは詩のイメージと全然違うので驚くという。

《そういうことと言語表現は関係ないんだから。》と。

「文学は、ユーモアのセンス」なんだそうです。

なるほど、私の好きな北杜夫さんなどは、その見本のような気がします。
高級な文学ほどユーモアのセンスに優れているのではないか、
という気がしますね。
海外の優れたミステリなどでも、しゃれた会話があったり、
ユーモアのセンス溢れる会話が魅力だったりします。

そういうところでセンスを磨くのも一法かもしれません。

以上、引用は本書「Ⅲエッセイ・対談
(×生島治郎「諸君、ユーモア精神に心せよ」)」より。


 ●私の2023年〈リアル系〉ベスト3候補

今年は「ベスト3」といいましても、
以上上げてきたような本の冊数ですので、数的にも選びにくく、
またそのほとんどをメルマガに利用していますので、
「この本を!」と改めてオススメするのは、むずかしく感じます。

候補としてあげておく程度にしておきましょう。

<2023年〈リアル系〉ベスト3候補>

・『文学のレッスン』丸谷才一 聞き手・湯川豊 新潮文庫 2013/9/28

・『美しい本屋さんの間取り』エクスナレッジ X-Knowledge 2022/12/29

・『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 
新潮文庫 2021/6/24

・『鍵盤ハーモニカの本』南川朱生(ピアノニマス)春秋社 2023/4/19

・『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』大路 直哉/著
PHP新書 2023/9/16

・『ぼくのミステリ・マップ―推理評論・エッセイ集成』田村隆一
中公文庫 2023/2/21

『文学のレッスン』は、丸谷才一さんの文学論です。
とにかくメルマガ誌上でも紹介しましたように、
歴史的な視点からそれぞれの文学ジャンルの特徴などを
説いてくれていて、文学論などまともに学んだことのない私には、
とても役に立つといいますか、ヒントになるといいますか、
文学の理解に役立つ知識を得られた、という気がします。

『美しい本屋さんの間取り』は、<本屋さんになりたい>は、
<元本屋の兄ちゃん>として夢見たことでもあり、
妄想本屋さんは、今でも楽しめる遊びになりそうです。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では、
以前から気になっていた本で、こういう機会に読めてホントに良かった、
という一冊でしたね。
人種や文化の違いをどう乗り越えるか、あるいはどう受け入れるか、
じゃあ、最終的に実際にはどうするか、
という問題で色々考えるヒントをもらった感じです。

『鍵盤ハーモニカの本』は、とにかく力作です。
一つのことをここまで突き詰めていることがスゴいと思います。
この辺でまとめておかないと失われる情報も多かったろうと思います。

『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』は、前作同様、
丹念に調べた結果を基に、将来への展望などを語っています。
<左利きライフ研究家>として、色々参考になる部分も多く、
反面、「言い分」という表現にちょこっと引っかかる部分があったり、
本としての評価の面ではちょっとむずかしいところがありました。

『ぼくのミステリ・マップ―推理評論・エッセイ集成』は、
先にも書きましたように、私の中高生時代からの趣味である、
海外ミステリに関する教科書的なエッセイを含む本で、
楽しく読みました。
昔話など若い人には、あまり心惹かないものでもあるかもしれませんが、
歴史というものは、そういう部分があるものではないか、と思われます。

若い人には、常に、昨日があって今日があるのだということを、
忘れないようにしてほしいものです。

『鍵盤ハーモニカの本』や『左利きの言い分』にしても、
そういう歴史というものを語りながら、
その先に現状と未来を捉えているように思います。

こういう読み方をできるようになったのも、
自分が年を重ねた結果かも知れません。


 ●私の年間ベスト―2023年〈リアル系〉

2022年も〈リアル系〉は、以下の一作のみでした。

『生きがい―世界が驚く日本の幸せの秘訣―』茂木健一郎
 恩蔵 絢子/訳 新潮文庫 2022.5.1
―脳科学者が英語で世界に向けて出した日本人の生き方をめぐる小著。


今年も、同様に一作のみをオススメとしておきましょう。


 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡

   私の年間ベスト―2023年〈リアル系〉

 (1)『ぼくのミステリ・マップ―推理評論・エッセイ集成』
    田村隆一 中公文庫 2023/2/21

 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡


出版社紹介文より――

《『荒地』同人として鮎川信夫らとともに日本の戦後詩をリードした
 国際的詩人にして、早川書房の初期編集長兼翻訳者として
 海外ミステリ隆盛の基礎を築いた田村隆一(1923-1998)。
 アガサ・クリスティの翻訳に始まり、
 「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」の出発、
 「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」の創刊……
 その比類なき体験による、
 彼にしか語りえない数々の貴重なエピソードとユーモアは、
 詩(ポエジー)と戦慄(スリル)の本源的考察を通して、
 やがて21世紀の我々をも刺し貫く巨大な文学論・文明論へと至る――
 人類にとって推理小説(ミステリ)とは何か?

 聞き書き形式でポーからロス・マクドナルドまでの
 クラシック・ミステリをガイドするロング・インタビュー
 (旧版『ミステリーの料理事典』『殺人は面白い』所収)を中心に、
 クロフツ『樽』やクイーンの四大『悲劇』といった翻訳を手がけた
 名作の各種解説、クリスティとの架空対談、江戸川乱歩や植草甚一に
 まつわる回想、生島治郎・都筑道夫ら元早川出身者との対談など、
 推理小説に関する著者の文章を単著初収録作含め精選し大幅増補した、
 まさに田村流ミステリ論の決定版。生誕100年記念刊行。》

【目次】
Ⅰ クラシック・ミステリ・ガイド(インタビュー)
Ⅱ 訳者解説(F・W・クロフツ/アガサ・クリスティ/
 ジョルジュ・シムノン/エラリイ・クイーン)
Ⅲ エッセイ・対談(×生島治郎「諸君、ユーモア精神に心せよ」/
 ×都筑道夫「EQMMの初期の頃」)
Ⅳ 資料編
〈解説〉押野武志

田村隆一
一九二三(大正十二)年東京生まれ。詩人。明治大学文芸科卒業。
第二次大戦後、鮎川信夫らと「荒地」を創刊。戦後詩の旗手として活躍。
詩集『言葉のない世界』で高村光太郎賞、『詩集1946~1976』で無限賞、
『奴隷の歓び』で読売文学賞、『ハミングバード』で現代詩人賞を受賞。
ほかに『四千の日と夜』など。推理小説の紹介・翻訳でも知られる。
一九九八(平成十)年没。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論179-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』」と題して、今回も全文転載紹介です。

前回も書きましたように、「メルマガの為に読んだ本ばかり?」で、そのため改めて<ベスト3>に上げるのはどうかと思いつつ選んでいます。

読んだ十数冊のなかでは「ベスト3候補」として上げた6冊が一段上というところでしょう。

今年のベスト1はそういう中では、一番自分の趣味に合った本ということで、勉強の本とか、自己啓発といった意味合いもなく、単純に「楽しめた本」といえるかと思います。

最後に、本文中に書き忘れましたが、昨年が生誕百年だった田村隆一さんの訳書として私が持っているのは、弊誌<クリスマス・ストーリーをあなたに>の

2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム
クリスマス・ストーリーをあなたに~『サンタクロースの冒険』ボーム
(「作文工房」版)

でも紹介しました

『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム/著 田村隆一/訳 扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]
―『オズの魔法使い』の作者ライマン・フランク・ボームの描くサンタ・クロースの生涯を描く、サンタさん誕生物語

があります。

他に<左利きミステリ>の一冊でもある、エラリー・クイーン『Zの悲劇』(角川文庫)、
ロアルド・ダールのポケミス版『あなたに似た人』(Hayakawa Pocket Mystery 371 1957/10/15)もそうでした。





 ・・・

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私の読書論179-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』-楽しい読書358号
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私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(前編)-楽しい読書357号

2024-01-11 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

(まぐまぐ!)登録・解除

2023(令和5)年12月31日号(No.357)
「私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉
田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』」


------------------------------------------------------------------

2023年もおしまいです。
今年も一年本当にご愛顧ありがとうございました。

コロナ禍以降、色々とあちこち体調不良が出ていますが、
終わってみると、思いのほか頑張れているので、
来年も精一杯頑張って続けてゆく所存です。
よろしくお願いいたします。

レフティやすお <(_ _)>

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2023(令和5)年12月31日号(No.357)
「私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(前編)」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 今年も早一年の最終日となりました。
 年末年始恒例の「私の年間ベスト3」を。

 その年、もしくは前年に私が読んだ本から
 オススメの「私の年間ベスト3」を選ぶという企画です。

 まずは、「リアル系」から。

  ・・・

 長くなりすぎましたので、途中で半分に分けることになりました。
 というわけで、今回は「前編」です。

  ・・・

 「リアル系」とは、いわゆる論文やエッセイ系の著作、
 実用書のような解説系のものも含めて、を言います。

 それに対して、小説や詩等の文芸作品は「フィクション系」。

 「フィクション」に対しては
 「ノン・フィクション」という言葉があります。

 でも「ノン・フィクション」というと、
 またそれで一つのジャンルのようになってしまうので、
 あえて、どなたかが使っていた
 「リアル系」という言葉を使っています。

 エッセイの中には、フィクションと見まがうような、
 ホラ話的な内容の境界線上の作品もありますけれど。

 まあ、ここでは、論文に準ずるような著作とお考えください。
 言わんとすることは分かりますよね。

 ――と、これは毎度の台詞でした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - メルマガの為に読んだ本ばかり? -

  ~ 私の年間ベスト3・2023年〈リアル系〉(前編) ~

  ニーチェ「血でもって書く」→ 私「汗をかく」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●2023年の傾向

ここ数年コロナ禍の影響で読書量が減り、少しずつ回復してきましたが、
2020年同様で、特にリアル系の読書が減ってしまっています。

そこで、例年なら二回に分けて発表してきましたこのリアル系でしたが、
今回は一回で終了です。
(予定では……。ウソ書きました。二回になってしまいました!)

15冊程度しか読んでいないうえ、
そのほとんどを私の二つのメルマガ用に読んできたものでした。

例年通り内訳をみておきましょう。


 ●(1)メルマガ用のお勉強本―中国漢詩、読書、左利き関連

◆メルマガ『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』向け――

・『中国の隠遁思想 陶淵明の心の軌跡』小尾郊一 中公新書902 1988/12/1


2023(令和5)年10月31日号(No.353 xNo.352)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」
2023.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)「飲酒二十首 其の五」
-楽しい読書353号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-7e3a1c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/fb0ed419e609fae5ca4d419eb039fc2a


・『文学のレッスン』丸谷才一 聞き手・湯川豊 新潮文庫 2013/9/28


2023(令和5)年3月15日号(No.338)
「私の読書論168-丸谷才一『文学のレッスン』から(1)」
2023.3.15
私の読書論168-丸谷才一『文学のレッスン』から(1)-楽しい読書338号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/03/post-a5ffed.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/aeb4fbdcc4586cd16650027aa268dc7a

2023(令和5)年5月15日号(No.342)
「私の読書論170-丸谷才一『文学のレッスン』から(2)」
2023.5.15
私の読書論170-丸谷才一『文学のレッスン』から(2)-楽しい読書342号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/05/post-484913.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/73a80988fd042284cb712d8a510cdc80


・『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』渡瀬謙 日本実業出版社 2023/5/26


2023(令和5)年6月15日号(No.344)
「私の読書論171-渡瀬謙のビジネス書の新刊
『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』から」
2023.6.15
私の読書論171-渡瀬謙『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』
から-楽しい読書344号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/06/post-929a0f.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/59ae185f3daf8eebaec62cad6639e4f4

・『静かな営業 「穏やかな人」「控えめな人」こそ選ばれる30の戦略』渡瀬謙 PHP研究所 2023/7/20


2023(令和5)年8月15日号(No.348)
「私の読書論173-友人・渡瀬謙の新刊・
 静かな人のための『静かな営業』を読んでみた」
2023.8.15
私の読書論173-友人の新刊・
静かな人のための『静かな営業』を読んでみた-楽しい読書348号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/08/post-a3c1f9.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/18d2f67eff14d96378e59e618cd888a3


・『図説 本の歴史(新装版)』樺山紘一/編 河出書房新社 ふくろうの本/世界の文化 2022/4/23

・『世界の美しい本屋さん』清水玲奈 エクスナレッジ 2015/4/18

・『美しい本屋さんの間取り』エクスナレッジ X-Knowledge 2022/12/29


2023(令和5)年12月15日号(No.356)
「私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ
―『美しい本屋さんの間取り』から」
2023.12.15
私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ―
『美しい本屋さんの間取り』-楽しい読書356号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/12/post-bf19e5.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/79bec3e02805048065d5ea41387e2c55

2023(令和5)年11月15日号(No.354)
「私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと」
2023.11.15
私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと
-楽しい読書354号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/11/post-7462e0.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d498bde194e54d8e97a5d018d683f607

2023(令和5)年10月15日号(No.352)
「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」
2023.10.15
私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと-楽しい読書352号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-d8d8ec.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/7b9a38985fcfd574650e4c54eba355c1


◆メルマガ『週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書』コラボ企画――

・『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮文庫 2021/6/24


2023(令和5)年7月15日号(No.346)
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
 新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫
 左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ
 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』」
2023.7.15
[新潮・角川・集英社]<夏の文庫>フェア2022から(1)新潮文庫
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』-楽しい読書346号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/07/post-e456f6.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/0b8a7ee570ee5e37305515ff046faddc

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第646号(No.646) 2023/7/15
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
 新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫
 左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ
 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』」
2023.7.15
左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ『ぼくはイエローで…』
-週刊ヒッキイ第646号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/07/post-e456f6.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/bef4ad5a52cfa242388eb430fbc39b3f


◆メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』向け――

・『初心者のためのキーボード講座 ゼロから始められるあんしん入門書』自由現代社 2022.8.30 


第643号(No.643) 2023/6/3
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(13)キーボード演奏での指使い」
2023.6.3
[左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)]
楽器における左利きの世界(13)キーボード演奏での指使い
-週刊ヒッキイ第643号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/06/post-5691ca.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/12dd668304395546320d2e53f4c38893

・『鍵盤ハーモニカの本』南川朱生(ピアノニマス)春秋社 2023/4/19


第648号(No.648) 2023/9/2
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(15)
 左利きの知らない 鍵盤ハーモニカの世界」
2023.9.2
[左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)]
楽器における左利きの世界(15)鍵盤ハーモニカの世界(1)
-週刊ヒッキイ第648号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-e4540c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/b48069538edf0c84d684ff6fd4aa2b8a


・『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』大路 直哉/著
PHP新書 2023/9/16


第654号(No.654) 2023/12/2
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(17)
 大路直哉著『左利きの言い分』の音楽家たちについて」
2023.12.2
[左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)]
楽器における左利きの世界(17)『左利きの言い分』の音楽家
-週刊ヒッキイ第654号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/12/post-ae5d74.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/be026931242af6380336a9c53468744f


 ●(2)その他の古典系のお勉強本

・『ツァラトゥストラはこう言った』フリードリヒ・ニーチェ 森 一郎/訳 講談社学術文庫 2023/6/12


以前、光文社古典新訳文庫版の丘沢 静也さんの訳本
『ツァラトゥストラ〈上〉〈下〉』の二巻本で読み、大いに読みやすく、
哲学書というよりは文学書という感じで、楽しめた作品でした。
ただ、二巻本というのは、やはり扱いにくく感じます。
通しで読むだけなら問題はないのですが、何か調べたり、
ペラペラ読みするときは、一巻本の方が便利で扱いやすく思います。

で、改めて新訳本が出たので買いました。
通しではまだ読んでいませんが、ペラペラめくりながら、その都度、
気になるところを読んでいます。
一冊手元にあると、何かと楽しめる良い作品です。

私も以前、『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』で
一部を引用しています。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第649号(No.649) 2023/9/16
「創刊18周年記念号――明日のために」
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.9.16
左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii創刊18周年記念号-第649号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-11afb6.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/c423b47b3f2aa28f44fd87f1e3193b92
--
 ●最後に――明日のために、今書くこと

 《およそ書かれたもののなかで、私が愛するのは、
  血をもって書かれたものだけだ。血をもって書け。
  そうすれば君は、
  血こそ精神だということが身に沁みて分かるだろう。》
  『ツァラトゥストラはこう言った』フリードリヒ・ニーチェ
    森一郎訳 講談社学術文庫 2023/6/12
   「第一部 ツァラトゥストラは語る」<読むことと書くこと>p.66

「血でもって書く」とまでは行かないかもしれませんが、
「汗で書く」―「汗をかく」ぐらいなら私にもできそうです。

それぐらいの意気込みで無理せず続けていきたいと思っています。
--

(3)小説や左利き本等の著作のためのお勉強本

特になし。

 ・・・

以上、(前編)でした。
(後編)は、来年第一発になります。ご了承ください。

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本誌では、「私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(前編)」と題して、今回も全文転載紹介です。

長くなりすぎましたので、途中で半分に分けることになりました。
というわけで、今回は「前編」です。

今回は、まだ読んだ本を全部紹介し切れていないのですが、本文でも「メルマガの為に読んだ本ばかり?」と書きましたように、今年の場合は、本自体数を読んでいないため、メルマガを書くために読んだ本が大半になっています。
そのため、改めて<ベスト3>に上げるのはどうかと思い、ちょっと気が引けるという感じで、選びにくい状況でした。

次号の(後編)では、「●(4)個人的な趣味、仏教や空海・弘法大師に関する本」を紹介し、その後、いよいよ
「●私の2023年〈リアル系〉ベスト3候補」、「●私の年間ベスト―2023年〈リアル系〉」を紹介します。

お楽しみに!

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


--
『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(前編)-楽しい読書357号
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私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ―『美しい本屋さんの間取り』-楽しい読書356号

2023-12-17 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

(まぐまぐ!)登録・解除

2023(令和5)年12月15日号(No.356)
「私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ
―『美しい本屋さんの間取り』から」


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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年12月15日号(No.356)
「私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ
―『美しい本屋さんの間取り』から」
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 例年では、この12月・1月は、
 その年(または前年)に私が読んだ本の中から、
 リアル系とフィクション系のオススメを紹介する「私のベスト3」を
 お届けしてきましたが、コロナ禍以来読書量が減り、
 今年はリアル系の本をほとんど読んでこなかったので、
 リアル系は一回で済ませそうです。

 そこで今回は、
 リアル系の本の中で二、三冊読んだ本屋さんに関する本から、
 個性的な本屋の作り方を取り上げている本を紹介しながら、
 本屋さんの魅力について考えてみましょう。

 ここ何回か本屋さんに関して書いてきました。
 その総決算という形になればいいのですが……。

2023(令和5)年9月15日号(No.350)
「私の読書論174-消えゆく書店と紙の本」
2023.9.15
私の読書論174-消えゆく書店と紙の本-楽しい読書350号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-f7ab5e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/a65f07da56cc868147fbd49d01c3c4bf

2023(令和5)年10月15日号(No.352)
「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」
2023.10.15
私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと-楽しい読書352号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-d8d8ec.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/7b9a38985fcfd574650e4c54eba355c1

2023(令和5)年11月15日号(No.354)
「私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと」
2023.11.15
私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと-楽しい読書354号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/11/post-7462e0.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d498bde194e54d8e97a5d018d683f607


 (今回の参考書)
『美しい本屋さんの間取り』エクスナレッジ X-Knowledge 2022/12/29



――編集部を辞めて、本屋さんになる! と決めたワニ田さんのために、
 本屋さんの作り方を教えてくれる本。
 実際に営業中の全国の書店の中から個性的な本屋さんを、
 その間取りの平面図も含めて、それぞれの特徴を紹介するとともに、
 本屋さんを開業するために必要なあれやこれやの基礎知識も含めて、
 教えてくれる本。
 Amazonのレヴューにもありますように、
 《開業するかどうかはともかく、自分だったらどんな本屋を作るか
  想像するだけでも楽しいと思います。》
 私も同じように色々考えてみました。そういう本です。

出版社サイトでの紹介情報:内容・概要
https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767830957

《この本では、/店内の間取りや本のジャンルの分け方や並べ方、/
 什器や内装に関することから立地の選定、/開業予算の目安、
 クラウドファンディングや/SNSの活用など運営に関することまで、/
 本屋さんにまつわることをまるっと紹介します。/
 また、書店でよく使われる用語解説もイラスト付きで紹介!!/
 これを読めば、本屋さんの全体像がなんとなく分かります。/
 本屋さんに興味のある方や、これから本屋さんをはじめたい
 と考えている方、/「本屋さんってどういうところ?」という方にも/
 目からウロコ満載の、本屋さんワールドを楽しんでいただけましたら
 幸いです。/この本は、「建築知識2020年1月号」の[本屋さん特集]
 を大幅に加筆、再編集したものです。》

 掲載店40店

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 私の読書論177 -

  ~ 個性的な本屋の作り方を学ぶ ~

  『美しい本屋さんの間取り』(エクスナレッジ)から
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●現物の魅力

本屋さんの魅力といいますと、なによりも、
<思いがけない本との出会いがある>という点でしょう。

欲しい本を買うだけなら、ネットで十分です。
在庫があれば、Amazonなどではホントにすぐに送ってきてくれます。

でも、自分が欲しい本が必ずしも、選んだ本だった、とは限りません。
色々な情報を手にしたうえで吟味して選んだつもりでも、
ホントに自分に合ったものかどうかは、
実際に手に取って読んでみなければ分からないものです。

その点、本屋さんではある程度立ち読みで現物を確認する事もできます。
内容だけではなく、実際の“もの”としての魅力という側面もあり、
自分で納得のいくものに出会えるという点では、
リアルの世界の持つ力は、捨てがたいものがあります。

本屋さんで本を探していると、予定していた本以外にも、
もっと適切な本が見つかることがあります。

さらに、考えてもいなかった本と出会うこともあります。
自分の中にそんな欲望があったのか、と思うような、
異なるジャンルの本との出会いも。


 ●本屋さん開業の夢

最近結構、私は本屋さんに関する本を読んだり見たりしています。
図書館で借りたものですが(本書もそうです)、
『世界の美しい本屋さん』清水玲奈(エクスナレッジ 2015/4/18)とか。

機能的な本屋さんも魅力的ですが、
本の美術館みたいな本屋さんを作ってみたい、という気持ちがあります。
入館料を取るようなですね。で、もちろん本も買える。
見て楽しく、買って嬉しい――そういう本屋さん。

若い頃はホントに色々間取りや選書なども考えたものでした。
実際には何もできませんでしたが。

実際にあるとき、本屋さんが儲かるらしいと聞いた、
他業種のある社長さんからいい出物があるので、
本当にやる気があるのならやってみないか、
と誘われたこともあったのです。

その後、実際に勤めていた本屋さんを辞め、
自分でやってみたいと思ったこともありました。
資金がないので先の社長さんに話すと、
もう遅い! といわれましたが……。


 ●『美しい本屋さんの間取り』主な目次

本書でもワニ田くんが本屋さんをやりたい、というのですが……。

簡単に、目次を見ておきましょう。



序章 本屋さんになりたい(本屋に必要なもの、他)
1章 設え方 来店者を増やす(小さく維持しやすい本屋、安定経営には
 複合型を、特定分野を共有する場に、移動本屋は一期一会、ときめく
 本棚をつくる、立地に合ったファサードを、本屋は内装で勝負する、他
 Qレジの位置はどこに? Qどうする? 万引き対策 他)  
2章 見せ方 美しく本を見せる(本の回転率を上げる書籍の陳列、
 来店者を誘引する並べ方、棚は「本屋の顔」と心得る、独自の企画を
 本屋の強みに、ある本屋さんの一日、他 Qどんなスタイルにするか?
 Q場所はどう選ぶ? Q開業資金に必要なのは? Q経営持続に必要な
 ことは? QSNSの上手な活用法は? 他
3章 基本 知っておきたい基礎知識(本の大きさと重さを知ろう、
 飲食物提供には条件あり 本と流通の仕組み Qどこから仕入れるか?
 Qコロナ禍で変わったことは?) 
用語集 書店の全体像がおおよそわかる(新刊書店、古書店 QSNSの
 使い分けは?)

これが主なところです。

本屋さんに関して、初めての人にも分かる内容という感じです。

本屋のあれこれの知識がどうかということより、この本の醍醐味、
読みどころはなんと言っても、各お店の間取りとその棚構成について、
といった具体的な店内の通路やレジ位置、棚のサイズを含めて、
カラーの図版と写真で説明されている点が光っています。

さすが、建築雑誌の特集記事をもとにした本らしさ満載ですね。

以前、私自身が本屋さん時代に実戦したことも含めて、
私自身の考える売れる本屋へ変える方法を書いてみました。

ここでも当然のごとく、
売れる、人の集まる、そういう本屋の実践例を紹介しています。
目次をご覧になっても分かりますよね。


 ●間取りの図版が楽しい

結論的に言いますと、
タイトルになっている間取りの図版が気に入っています。

各お店の間取りの図版は、
通路や棚のサイズまではきっちりと計測されていて、
さすがに建築雑誌らしく、非常に詳しくて楽しめます。

思わず自分ならどうする? と考えてしまいますね。

小さくても本専門の書店もあれば、複合店もあり、それぞれの立地と
店主さんの目指すものとによって、異なっているのでしょう。

私もジャンルを限って、例えば一つは、
翻訳ミステリとSF、ファンタジーの専門店をやってみたいものです。

美術館的な美しい本屋さんが理想ですね。
ギャラリー的な部分と本が買える本屋さん的な部分がある、
というような。

昔は、東京にミステリ専門店などというものもありましたし、
アニメ関連グッズのお店と併設しているところもありました。

本書では、基本的に小さな本屋さんで、自分のやりたい本屋さんを!
 というものですね。


 ●1章 設え方 来店者を増やす

本書について気になる部分を見ておきましょう。

「1章 設え方 来店者を増やす」では、
まずは「レジの位置」から始まっています。
基本的に一人でやるような小さなお店では、万引き対策も込めて、
全体を見渡せて、かつ個々のお客様とやりとりできる位置が重要です。

安定経営には、やはり複合型を提案しています。
本のみを売るだけでも、新刊のみの店や古本も扱う店があります。
あるいは、専門書店という行き方もあります。
ここでは建築書専門店を例に上げていますが、
児童書や絵本の専門店もあります。

本だけで無く、粗利の高い雑貨も扱うという方法もあります。
粗利でいいますと、やはり飲食店がいいでしょうね。
本屋さんとマッチするものとしては、カフェがよく活用されます。

ファサード、店の表まわりですね、これや内装を工夫する、
ということを書いています。
通りかかるお客様にどれだけお店をアピールできるか、
入店したお客様に居心地良く感じてもらえるか、といった意味合いです。

移動本屋についても書いています。
クルマの後ろに本をのせて売りに行くという、
キッチンカーの本屋さん版ですね。
出店先のテーマと客層で本を選んで持っていく、
ということがポイントになります。

「ときめく本棚をつくる」というのは、選書ではなく、
本棚そのものの体裁――木箱を重ねるとか本箱型ではなく平板だけとか、
平積みや面陳(表紙を見せて立てかけて飾る)等の
平台や棚での本の飾り付け方やポップなどなどのことですね。

お客様の目を惹くようなハード面の魅力の演出の仕方を工夫しよう、
ということです。


 ●2章 見せ方 美しく本を見せる

「棚は「本屋の顔」と心得る」とあります。
これは非常に大事なことだと思っています。
私が本屋さん時代は、とにかく、毎日「顔」――
店頭の一番目立つ部分――に変化を持たせるように心掛けていました。
雑誌は毎日のように新しい号が出て来るものです。
その日に出たものを中心に店頭を飾っていくようにしました。
もちろん、雑誌にも序列があります。
昨日出た雑誌の方が序列が上位(より売れているもの)であれば、
動かせません。
しかし、そうでなければ、常に同じ顔ではなく、
「今日はこれだ!」というものを全面に打ち出していくことが重要です。

「来店者を誘引する並べ方」、これは正味本の並べ方です。
お客様の探している本がすぐに見つけられる陳列法ですね。

出版社別とか、文芸書や人文書や実用書といったジャンル別、
生き方だと愛だとかそれぞれのテーマ別とか。

「独自の企画を本屋の強みに」では、
出版社の用意したフェアをやるとか、
書店のオリジナル・フェアをやるとか、
イベントをやるとか――よくあるのは作家さんのサイン会とかです。
雑貨を取り扱っている場合は、
新商品と連動でテーマにあった本を並べるとか。

「ある本屋さんの一日」とか、Qどんなスタイルにするか?
 Q場所はどう選ぶ? Q開業資金に必要なのは?
 Q経営持続に必要なことは? QSNSの上手な活用法は? 
といったクエスチョンとその答えは、開業の参考になるでしょう。


 ●3章 基本 知っておきたい基礎知識

「本と流通の仕組み」 Qどこから仕入れるか? 「用語集」などは、
<書店の全体像がおおよそわかる>とある通り、
2章の後半の部分ともども、
本屋さんのだいたいのイメージが理解できるようになっています。

「Qコロナ禍で変わったことは?」「SNSの使い分け方は?」などは、
私のころにはなかったことでもあり、いかにも今風な部分です。
ネットを使った販売も増えている昨今を反映しています。

SNSに関しては、今日、お店の宣伝には不可欠の要素であり、
これをいかに駆使できるかどうかが、新規のお客様を開拓する、
店のリピーターを増やす、店を支持してくださる固定客をつかむ、
集客の面で商売の生命線を握っている、ともいえそうです。


 ●本書が見せてくれる自分の本屋さんの夢

総合的にみて本書は、とにかく本屋さんをやりたい、という人に
勇気を与えてくれるような本になっている、ということです。

もちろんこれだけで即本屋さんがやれるというわけではありませんが、
大いに参考になるし、事前に準備するべきことを、
かなり現実に沿って考察できる本になっていると感じました。

また、自分だけの本屋さんを妄想する、
という楽しみ方ができる本でもあります。

この点だけは、絶対的に実現できます。

私も自分なりに図面を引いて、本を並べてみたいものです。

みなさんも、自分なりのこうありたいというお店の図面を描いて、
自分の売りたい本の選書とその飾り方を空想するのも一興でしょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ―『美しい本屋さんの間取り』から」と題して、今回も全文転載紹介です。

本文でも書いていますが、ここ3回続けて、ホント本屋さんについて書いてきました。
そのまとめというほどではないのですが、<私の本屋さん>の夢を描くことができる本を見つけましたので、それについて書いてみました。

実際に、本屋さんをやりたい人はもちろん役に立ちますが、現実の本屋さんの経営はむずかしい時代になっていますので、実際にやるのは大変ですが「夢を見たい」という人には、絶対オススメの本です。

私もたっぷり楽しんでみたいと思っています。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ―『美しい本屋さんの間取り』-楽しい読書356号
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クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:『レフティやすおの楽しい読書』BNから

2023-12-12 | 本・読書
今年もはやクリスマス・ストーリーの紹介の季節となりました。
例年、11月末発行の読書メルマガ『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』では、<クリスマス・ストーリーをあなたに>と題して、古今東西の“クリスマス・ストーリー”――ディケンズの『クリスマス・キャロル』に始まるとされるクリスマスにまつわる、幽霊が登場したり、奇跡が起きたりといった愛と善意とにくるまれたハート・ウォーミングな物語が展開される――の中から、私の心に響いたお話を、海外・国内・新旧の作家による長短の作品を取り混ぜて紹介しています。

ここでは過去のそれらの作品をリストアップしておきましょう。


<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<

 ●過去の ~クリスマス・ストーリーをあなたに~

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


(読書メルマガ)『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
(「まぐまぐ」版)


(画像:(上段左から)(2017年紹介)梶尾真治「クリスマス・プレゼント」収録の『有機戦士バイオム』ハヤカワ文庫JA、(2019年)ジョー・ネスボ『その雪と血を』ハヤカワミステリ文庫、(2012年)アガサ・クリスティー「水上バス」収録のクリスティーのクリスマス・ブック『ベツレヘムの星』、
(下段左から)(2008年)チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』(2016年)『鐘の音』収録の『クリスマス・ブックス』ちくま文庫、(2013年)ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』)

0◆2008(平成20)年12月クリスマス号(No.11)-081206-
『クリスマス・キャロル』善意の季節

『クリスマス・キャロル』ディケンズ/著 中川敏/訳 集英社文庫 1991/11/20
―訳者の解説と木村治美の鑑賞など、資料も豊富。


1◆2011(平成23)年11月30日号(No.70)-111130-善意の季節
『あるクリスマス』カポーティ

別冊 編集後記:『レフティやすおのお茶でっせ』
善意の季節『あるクリスマス』カポーティ

『誕生日の子供たち』トルーマン・カポーティ/著 村上春樹/訳 文春文庫 2009.6.10
―クリスマス短編「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」収録
 「―思い出」はクリスマスの懐かしい、でもちょっと切ない思い出を振り返る愛情あふれる物語で、少年に与えられたクリスマスの贈り物、
 「ある―」は逆に、少年が与えたクリスマスの贈り物の思い出話といえる抒情的名編


2◆2012(平成24)年11月30日号(No.94)-121130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 アガサ・クリスティー『ベツレヘムの星』から

クリスマス・ストーリーをあなたに ―第94号
(「作文工房」版)

『ベツレヘムの星』アガサ・クリスティー/著 中村能三/訳 ハヤカワ文庫―クリスティー文庫(2003/11/11)
―おススメ短篇「水上バス」を含む、クリスマスにまつわる小説と詩を集めた、クリスティーが読者に贈るクリスマス・ブック


3◆2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム

クリスマス・ストーリーをあなたに~『サンタクロースの冒険』ボーム
(「作文工房」版)

『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム/著 田村隆一/訳 扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]
―『オズの魔法使い』の作者ライマン・フランク・ボームの描くサンタ・クロースの生涯を描く、サンタさん誕生物語

(新訳版)『サンタクロース少年の冒険』ライマン・フランク・ボーム/著 矢部太郎/イラスト 畔柳和代/訳 新潮文庫 2019/11/28


4◆2014(平成26)年11月30日号(No.140)-141130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス」

クリスマス・ストーリーをあなたに~『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス ―第140号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「作文工房」版)

「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」収録短編集:
・『マーブル・アーチの風』コニー・ウィリス/著 大森望/編訳 早川書房・プラチナ・ファンタジイ(2008.9.25)
―もう一つのクリスマス・ストーリー「ニュースレター」も収録


5◆2015(平成27)年11月30日号(No.164)-151130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『まれびとこぞりて』コニー・ウィリス」

クリスマス・ストーリーをあなたに―「まれびとこぞりて」コニー・ウィリス ―第164号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「作文工房」版)

「まれびとこぞりて」収録短編集:
・『混沌【カオス】ホテル (ザ・ベスト・オブ・コニー・ウィリス)』コニー・ウィリス/著 大森望/訳 ハヤカワ文庫SF1938 2014.1.25


6◆2016(平成28)年11月30日号(No.188)-161130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』」

クリスマス・ストーリーをあなたに~ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』 ―第188号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「作文工房」版)

・『クリスマス・ブックス』ディケンズ/著 ちくま文庫 1991/12
―落語調訳「クリスマス・キャロル」小池滋/訳、「鐘の音」松村昌家/訳

・『クリスマス・ブックス』田辺洋子/訳 渓水社 2012
―前期(1843-48)のクリスマス中編5編を収録。「クリスマス・キャロル」「鐘の音」「炉端のこおろぎ」「人生の戦い」「憑かれた男」


(画像:『クリスマス・ブックス』渓水社 2012「鐘の精」The Chimes より{左「鐘の妖精たち」ダニエル・マクリース画})


7◆2017(平成29)年11月30日号(No.212)-171130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)「クリスマス・プレゼント」梶尾真治
―第212号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「作文工房」版)

「クリスマス・プレゼント」収録短編集:
・『有機戦士バイオム』梶尾真治/著 ハヤカワ文庫JA 1989.10



8◆2018(平成30)年11月30日号(No.236)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング
―第236号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「新生活」版)

・『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング/著 ランドルフ・コールデコット/挿絵 齊藤昇/訳 三元社 2016.12.1
―1920年刊『スケッチ・ブック』第5分冊(クリスマス編)を基に、コールデコットの挿絵をつけて1876年に刊行された。


(画像:『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング/著 ランドルフ・コールデコット/挿絵 齊藤昇/訳 三元社 2016.12.1 と同作収録の『スケッチ・ブック(下)』ワシントン・アーヴィング/著 齊藤 昇/訳 岩波文庫 2015/1/17)


9◆2019(令和元)年11月30日号(No.260)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(9)
『その雪と血を』ジョー・ネスボ」

クリスマス・ストーリーをあなたに(9)『その雪と血を』ジョー・ネスボ
―第260号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「新生活」版)

・『その雪と血を』ジョー・ネスボ/著 鈴木恵/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2018/11/20
―ノルウェーを代表するサスペンス作家が描くパルプ・ノワール。
 第8回翻訳ミステリー大賞および第5回読者賞をダブル受賞した。



10◆2020(令和2)年11月30日号(No.283)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)
「ファンダーハーフェン老人の遺言状」メアリー・E・ペン」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)「ファンダーハーフェン老人の遺言状」ペン-楽しい読書283号
(「新生活」版)

・メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」Old Vanderhaven's Will(1880)小林晋/訳 (The Argosy誌1880年12月号掲載)
『ミステリマガジン』2020年1月号(738) 2019/11/25 掲載


(画像:メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」を掲載した『ミステリマガジン』2020年1月号(738) )


11◆2021(令和3)年11月30日号(No.307)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-
「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-「パーティー族」-楽しい読書307号
(「新生活」版)

・「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク Party Animal(Playboy 1993-12) 初出『ミステリ・マガジン』2009年6月号
・ドナルド・E・ウェストレイク『<現代短篇の名手たち3> 泥棒が1ダース』木村二郎/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009/8/21 収録


(画像:ドナルド・E・ウェストレイク「パーティー族」収録の『<現代短篇の名手たち3> 泥棒が1ダース』ドナルド・E・ウェストレイク 木村二郎/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009/8/21)


12◆2022(令和4)年11月30日号(No.331)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-
「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-「飾られなかったクリスマス・ツリー」-楽しい読書331号
(「新生活」版)

・「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー 浅倉久志/訳
 『ミステリ・マガジン』1997年12月号(no.501)<クリスマス・ストーリイ集>より


(画像:2022(令和4)年11月30日号(No.331)「クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー」で紹介した、「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー 浅倉久志/訳 を掲載した『ミステリ・マガジン』1997年12月号(no.501)<クリスマス・ストーリイ集>)


(画像:2022(令和4)年11月30日号(No.331)「クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー」で紹介した、「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー 浅倉久志/訳(『ミステリ・マガジン』1997年12月号(no.501)<クリスマス・ストーリイ集>より)冒頭のページ)

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

一回毎、一年ごとに【古典編】と【現代編】を交互に紹介してきました。

【古典編】
 チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』『鐘の音』
 ワシントン・アーヴィング『昔なつかしいクリスマス』
 ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』
メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」
 クリストファー・モーリー「飾られなかったクリスマス・ツリー」

【現代編】
 トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」
 アガサ・クリスティー「水上バス」
 コニー・ウィリス「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」「まれびとこぞりて」
 梶尾真治「クリスマス・プレゼント」、ジョー・ネスボ『その雪と血を』
 ドナルド・E・ウェストレイク「パーティー族」

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:『レフティやすおの楽しい読書』BNから
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クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-「道」もうひとつのサンタ物語-楽しい読書355号

2023-12-03 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年11月30日号(No.355)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-
 シーベリン・クィン「道」もうひとつのサンタ物語」


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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年11月30日号(No.355)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-
 シーベリン・クィン「道」もうひとつのサンタ物語」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 今年もはやクリスマス・ストーリーの紹介の季節となりました。

 昨年は古典編でしたので、今回は現代編です。
 といいましても、必ずしもつい最近の作品というのではなく、
 過去の現代編でもそうでしたが、二十世紀の後半や
 前半の作品も含まれていました。
 今回もそういう一つと思われる作品で、正確な発表年代は不明です。


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-クリスマス・ストーリーをあなたに (13)- 2023

  ~ もうひとつのサンタ物語 ~

  シーベリン・クィン「道」

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 ●過去の ~クリスマス・ストーリーをあなたに~

一回毎、一年ごとに【古典編】と【現代編】を交互に紹介してきました。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

【古典編】
 チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』『鐘の音』
 ワシントン・アーヴィング『昔なつかしいクリスマス』
 ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』
メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」
 クリストファー・モーリー「飾られなかったクリスマス・ツリー」

【現代編】
 トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」
 アガサ・クリスティー「水上バス」
 コニー・ウィリス「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」「まれびとこぞりて」
 梶尾真治「クリスマス・プレゼント」、ジョー・ネスボ『その雪と血を』
 ドナルド・E・ウェストレイク「パーティー族」

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

参照:
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.11.27
クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:『レフティやすおの楽しい読書』BNから


 ●サンタクロース誕生物語

今回は、角川文庫の昭和53(1978)年発行の
クリスマス・ストーリーのアンソロジー全二巻のうち、
『贈り物 クリスマス・ストーリー集1』に収録されている作品
シーベリン・クィン「道」を紹介します。

実は、もうひとつの「サンタ物語」です。

サンタクロースの誕生物語というのが、結構色々あります。

以前紹介しました、『オズの魔法使い』の作者
ライマン・フランク・ボームの『サンタクロースの冒険』も、
そういうものの一つです。

*参照
2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム

『サンタクロースの冒険』
The Life and Adventures of Santa Claus (1902)
ライマン・フランク・ボーム/著 田村隆一/訳 和田誠/イラスト
扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]


新訳版で――
『サンタクロース少年の冒険』矢部 太郎/イラスト 畔柳 和代/訳
新潮文庫 2019/11/28


 ●シーベリン・クィン「道」荒俣宏訳

『贈り物 クリスマス・ストーリー集1』長島良三/編 角川文庫
 1978(昭和53)/11/30



(画像:角川文庫版のクリスマス・ストーリーのアンソロジー全二巻『贈り物 クリスマス・ストーリー集1』、『クリスマスの悲劇 クリスマス・ストーリー集2』)

ボームのサンタ物語は、オズの作者らしく、
童話っぽいファンタジーでした。

一方こちらのシーベリン・クィンの作品は、
パルプ・マガジンの作家だけあって、
おとな向けのリアル系のファンタジーです。

パルプ・マガジンといいますのは、
アメリカの1920年代あたりから始まった、安っぽい紙に印刷され、
ドラッグストアなどで売られていた、お手頃値段の、
主に労働者や子供向けのミステリやSF、怪奇・幻想小説などを掲載した
娯楽読み物雑誌の総称です。
今では文学史にも登場するダシール・ハメットにしろ、
新潮文庫にも収録されたH・P・ラヴクラフトなども、
ここを舞台に活躍していた作家でした。

そういう雑誌に長短いくつもの作品を発表していたのがクィンです。
本編収録アンソロジーの巻末の編者・長島良三さんの
「解説・作者紹介」によりますと、1925~1952年にかけて、
怪奇・幻想小説、冒険小説、探偵小説など145篇を書きまくった
といいます。
本編もそういう一つです。

私は、本編をこの作品集以前にどこかで読んだ記憶があります。
たぶん雑誌、『SFマガジン』だったかと思います。
1970年代だったでしょう。
その時もこういうサンタクロースの誕生までを描く物語という、
クリスマス・ストーリーもあるんだなあ、と思ったものでした。


 ●ストーリー「一 ベツレヘムへの道」

主人公はヘロデ王に仕え、闘技場で多くの剣闘士たちと戦い、
勝ち抜いてきた剣闘士だった男。
ノルウェー式の単純なクラウスという名を
クラウディウスと呼ばれる北方人。
奉仕の期間を終え、故郷に帰る途中、ヘロデ王の私兵が、
ユダヤ人の女から抱いている赤子を奪い殺すところを見る。
その後、エジプトへ逃げる赤子をつれた夫婦を襲う私兵を殺し助ける。

そのとき、赤子の声が心に聞こえる――

 《「クラウス、クラウス」やさしくその声は響くのだった。
  「なんじが余に慈悲を与えたゆえに、なんじの生命を
  幼児の自由のために投げ捨てたゆえに……余はなんじに告げる。
  なんじが余のためになすべき仕事を果たし終えるまで、
  なんじは決して死の暗き翼に包まれることなきを……」》p.199

 《なんじは汝の生命と引きかえに幼子の生命を守った。
  それはなんじの両親の賜物。(略)笑い合う幸福な子供たちが、
  永久になんじの良心と愛の美しさを称えることだろう。
  そして人々が、余の生誕日を祝うかぎり、なんじは永遠にすべての
  幼な子の心に生きるのだ」》p.200

 《「なんじの名を子供たちが口にするかぎり……」/
  「わしは万能の英雄になるのだろうか」/
  「幼い時代のなつかしい思い出を胸にいだくすべての人類によって
  称えられる愛の英雄……」》pp.200-201


 ●「二 カルバリへの道」

その結果、彼は追われる身となり、避難所としてローマ軍の兵士となり、
ヘロデ王の後継者の追っ手に捕まることなく、
いつしか、ローマのユダヤ提督ピラトとともに
イェルサレムの胸壁に立つ百人隊長となる。

ユダヤの僧侶たちは、総督を意のままにしようとするが、ピラトは
一個の軍隊しか持たず、彼らを屈服させることができないことを歎く。

今、ガリラヤから来た説教師がユダヤの王を名乗っているという話が、
ピラトの悩みだという。
しかし、クラウディウスは、彼は我々はみな兄弟、神を畏れ、王を敬い、
ローマ皇帝のものはローマ皇帝に返すのだ、という。

ところが大祭司カヤパは、彼は謀反を企てているので、
帝国への反逆を説いた人物として、十字架刑にかけよ、
と圧力をかけているという。

街の人々からイエスは救世主だと言われているなかで、
ゴルゴタの丘で三人の十字架刑が行われる。

ピラトは、「こはイエス、ユダヤの王なり」と書いたものを
受刑者の頭の上に掲げるように、クラウディウスに持たせる。

クラウディウスは、茨の冠をかぶせられた血まみれの男に
施しの水を与え、足を砕けというカヤパの言葉に逆らい、
人間らしい死に方を与えてやれと、槍を心臓に打ち込む。

その時、彼は声を聞く。
この預言者こそ、そのむかし、
エジプトへ逃げる夫婦を助けたときの赤子だったと知る。

その後、地震に襲われ足を痛めた女を助けるが、
その女は、その朝、処刑された預言者のあとを追うため
卑しい職業を捨てた売春婦だった。

恐ろしい病に犯され、十字架を背負って丘を上る途中、彼に声をかけ、
主の治療を受け、治った、元の汚れのない乙女のように清らかとなった、
という。

しかし、彼女を蔑むクラウディウスに、また声が聞こえる。

 《「女をさげすむのではない。余は彼女に慈悲を垂れた。
  そしてなんじも――余も――彼女を必要とするのだ。
  クラウス、彼女をなんじのものとするのだ》pp.222-223

こうしてクラウスは、彼女をウナと名付け、妻とする。

 《「いとしい妻よ、主はいわれたぞ。わしにはおまえが必要だとな」
  (略)「主ご自身もおまえが必要だと、そういわれたぞ。
  わしたちは主のお声を聞き、主に召されるときはいつでも、
  喜んで応えるのだ。(略)」》p.227


 ●「三 長い長い道」

ピラトと共に過ごしたクラウディウスは、ピラトの死後、
武勇の誉れ高い強者を必要とするローマへ。

今や、かの預言者は広くヨーロッパで信仰されていた。
しかし、クラウスは言う。

 《「この世に生きる人間のうちでも、僧侶ぐらい
  性質を変えん人種はおらんな。あの薄汚い奸計を弄して
  主を十字架にかけたのは、カヤパとその一党だったし、近ごろでは
  主が生命とひき替えにされた真実を偽りに変え、
  秘に付してしまっているのは、なんと主の神官であり奴隷であると
  自称する僧侶たちなのだからな!」》p.233

ときは移り変わり、ある年のクリスマス、
二人はライン川沿いの小さな町に仮の小屋を設け暮らしていた。
その年の収穫は少なく、農家はその日の飢えをしのぐのがやっとで、
クリスマスの宴を祝う気力さえなかった。

貧しい家の子供たちを喜ばせるためにクラウスは、
小さな橇を削り出した。
それを見たウナは、もっと作るようにいい、
自分は倉にある蓄えでお菓子を作るという。

冷たいクリスマス・イヴ、クラウスは赤いマントをまとい、
ささやかな贈り物を積んだ小さな橇を子供たちの家に届けてまわった。
寒さに眠れなかった一人の子供だけがその姿を見かけた。

子供はその体験を語った。
だれもが口をそろえて、聖(サンタ)クラウスと呼んだ。

しかし、聖職者たちは、町の統治者に堕天使の汚れた企みに違いない
と非難し、取り押さえるように進言する。

町の人の知らせに、二人は脱出に成功し、来たの国へと逃避行を続ける。

こうして二人は北欧のラップランドをこえ、土地の人が寄りつかない、
九つの小さな丘が環状に取り囲む谷間に辿り着く。

そこには、古い言い伝えにより人々が恐れる小人たちが住んでいた。
しかし彼らは隣人のために奉仕することを願っていた。 

すると、クラウスに再び、あのなつかしい声がこう告げた。

 《「クラウス、なんじにはこの小さき者たちの手助けが要る。
  なんじの足もとに開ける道を、彼らとともに歩め」》

クラウスは、彼らの職工としての腕を活かし、
おもちゃと作るように提案する。
できた贈り物は自分が、
お前たちの名を呼んで歓んでくれる子供たちのもとに届ける、と。

小人たちをのせて魔法の橇でさらなる北方の地に赴き、一軒の家を建て、
そこでウナの指導もあって、彼らはおもちゃ作りに精を出す。

そして、ふたたびクリスマスの季節が来る。
クラウスは、できあがったおもちゃを魔法の橇に乗せ、
八頭のトナカイを呼び寄せて、おもちゃを配ってゆく。
配り終えたクラウスは家に帰り、妻のウナや小人たちを宴を催し、
子供たちの幸福を祈りながら、杯を重ねるのだった。

 《今日でもクラウスは現に生きている。
  毎年十億人もの幸福な子供たちが彼の訪れを待っている。
  彼はもう百人隊長クラウディウスでもなければ、
  北方の戦士クラウスでもない。幼な子を守護する慈愛ぶかい聖者、
  サンタクロースなのだ。彼の職務は、二千年前のあの夜、
  主が選びたもうたもの。彼の道は、救世主の生誕日が人々に
  祝われるかぎりもどることを知らない、長いながい道――》p.242

―終わり―


 ●リアルでホットな物語

サンタクロースのモデルになったといわれるのが
「聖(セント)ニコラス」または「聖(セント)ニコラウス」。

小アジア(現在のトルコ)のミラという町の司教で、
町の貧しい人たち、特に小さな子供たちを大事にして、
死後、聖人としてあがめられ、亡くなった12月6日は、
「聖ニコラウスの祭日」とされた、とか。

クリスマスやサンタクロースに関しては、色々なお話があります。

だれもがこういう起源についてのお話を書いてみたい、
と思うものでしょう。

クィンもそういう一人だったようです。
彼のお話は、リアルなファンタジーと言えるのではないでしょうか。

「講釈師、見てきたようなウソをつき」とかいいますが、
エジプトへ逃げようとする赤ちゃん連れの夫婦を襲う兵士との戦闘、
ゴルゴタの丘でのイエスの磔の場面など、リアルに描きつつ、
だんだんとイエスの声を通して、
ファンタジーの世界へと導いてゆきます。

リアルでホットな物語という気がします。
機会があれば、一度読んでみても損はないでしょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-シーベリン・クィン「道」もうひとつのサンタ物語」と題して、今回も全文転載紹介です。

本文中でも紹介していますが、過去の「~クリスマス・ストーリーをあなたに~」で紹介した作品をリストアップしてみました。

『レフティやすおのお茶でっせ』2023.11.27
クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:『レフティやすおの楽しい読書』BNから

クリスマス・シーズンの読書ガイドの足しにでもしていただけると嬉しく思います。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

" target="_blank">クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-「道」もうひとつのサンタ物語-楽しい読書355号

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私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと-楽しい読書354号

2023-11-16 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年11月15日号(No.354)
「私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2023(令和5)年11月15日号(No.354)
「私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 先日、新聞に<読書週間>に関する記事が出ていました。
 11月3日の「文化の日」をはさんで、
 10月27日から2週間(9日まで)だそうです。

 産経新聞で見た記事をもとに、思うところを書いてみます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - <読書週間>は読書習慣を付ける機会に -

  ~ より良い人生のために ~

  「本を読むから偉い」のでなく「本を読んだから偉くなれた」!? 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●月0冊が半数

2023年11月5日の産経新聞で見た記事によりますと、

活字離れ、月0冊が半数…本探しの一助に「選書サービス」
https://www.sankei.com/article/20231105-SFM3YMKRGJJZBD4YLJFOCSVJWY/


(画像:2023年11月5日産経新聞記事 活字離れ、月0冊が半数…本探しの一助に「選書サービス」より あなたは一ヶ月に何冊程度本を読みますか グラフ)

 半数の人が月に一冊も読まないというのです。

《9日までの読書週間も残りわずか。
 「秋といえば…」の代表格は「読書」だったが、
 活字離れがさけばれて久しく、あるアンケートでは、
 1カ月間に全く本を読まないとする回答が半数近くを占めた。
 原因の一つは「読みたい本が分からない」こと。
 そんな状況を変え、活字離れに歯止めをかけようと、
 編集者や書店員といった本の「プロ」がお勧めを紹介するなどの
 「選書サービス」がインターネット上で展開されている。》

というのですけれど……。

記事冒頭にもありましたように、
《「秋といえば…」の代表格は「読書」だった》のですが、
昨今では色々な娯楽や時間を潰す遊びも多く、情報源としても、
パソコンやスマホを使ったネットのSNSや動画サービスなども増え、
「本」に頼らなくても良い状況になっています。

そうはいっても、まとまった内容の知識を入手しようと思ったら、
本による方が安定した結果をえられるもの、と考えますけれど、ね。


 ●系統だった情報を入手する方法としては本が上では?

迅速かつ断片的な情報で良いのなら、ネット検索等で得られるものが、
手っ取り早いと思います。

ただ、じっくりと取り組むつもりなら、本による情報の方が、
自分の程度に合わせることもできますし、都合がいいはずです。

自分に合うレベルの情報をネットで探す方が、かえって時間がかかり、
結果的に内容理解までにかかる総時間数では
かなり不利になるのではないでしょうか。

系統だった知識を入手する方法としては、まとまった本による方が
結果的に速くかつ的確なものを得られるでしょう。


 ●「読書週間」と読書習慣

「読書週間」は、

《もともとは読書の力で平和な国家をつくろうと、
 先の大戦後まもなく始まった運動だった。
 文化の日を中心とした2週間は読書週間として定着し、
 読書の習慣をつける一助となってきた。
 しかし、現在、人々の読書に対する姿勢は様変わりしているようだ。》

といいます。

戦争に負けた?――戦争に至った?のは、文化の力の差だ、
という認識だったと記憶しています。

読書によって、物事を考える力を養おうというもの。

読書は習慣化することで身につけられるという考えで、
この「週間」をそのきっかけにしてほしい、ということだったのです。


 ●「本を読むから偉い」のでなく「本を読んだから偉くなれた」

読書について一言言いますと、勘違いしてはいけないこととして、
「本を読むから偉い」のでない、ということ。

ショウペンハウエル(昨今ではショーペンハウアーと表記するようです)
の『読書について』という名著があります。

岩波文庫他いくつかの訳書が出ています。
(私の手持ちの岩波文庫は1960年第一刷、1976年第18刷)



・『読書について 他二篇』ショウペンハウエル 斎藤忍随/訳 岩波文庫
改版 1983/7/1

・『読書について』アルトゥール・ショーペンハウアー 鈴木 芳子/訳
光文社古典新訳文庫 2013/5/14


そこにある有名な言葉――

 《読書は、他人にものを考えてもらうことである。》p.91
   ショウペンハウエル「読書について」
   (『読書について 他二篇』斎藤忍随/訳 岩波文庫)


同書収録の「思索」には、

 《読書は自分の頭ではなく、他人の頭で考えることである。》p.9

ともあります。

要するに、本を読むだけではダメで、
その上で自分なりに思索することで、
初めて自分の思想というものが生まれてくる。

それでこそ、読書の意義があるということなのです。

すなわち「本を読むから偉い」のでなく
「本を読んだから偉くなれた」というのが正しい理屈です。

これは一般人にも当てはまることだ、といいます。

 《作品は著者の精神のエキスである。(略)
  普通の人間の書いたものでも、結構読む価値があり、
  おもしろくて為になるという場合もある。
  まさしくそれが彼のエキスであり、
  彼の全思索、全研究の結果実ったものであるからだ。》p.99
   「読書について」

とも書いています。

私のような普通の人間の場合も同様であることを願っています。
私なりに考えた上で書いている文章ですので、
それなりに読む価値があるのでは、と。


そういう思索につながるものが本来の読書という行為です。


 ●「読む時間が確保できない」

さて、先の新聞記事の話題に戻って――

月に一冊も読まない、というのは、
やっぱり本好き、読書好きの私としては寂しいものがあります。

私自身、仕事で忙しかった時期でも月に一冊は読んでいたものでした。
本を読むことが私の心の安らぎでもあり、
“前進”感(物事を前に進めているという実感)
を抱かせるものでもありました。

読まない理由の最も多かったのは「読む時間が確保できない」、
3番目に多かったのが「読みたい本がない」だそうです。

時間に関しては、これは何事においても言われることですが、
要するに気持ちの問題ですね。
要はやる気があるかないか、です。
切実な理由があれば人はやるものなのです。
そういう切実な理由がない、ということでしょう。

もう一つは、先ほどもいった習慣化しているかどうか。
朝起きて顔を洗うとか、夜寝る前に歯を磨くとかと同じで、
一日に一度は本を開かないと落ち着かない、といったものです。

昨今、小学校では朝読という時間を作って、
子供たちに読書の習慣を付けようとしてきました。
小学生ではそれが一応の成果を出しているようです。
しかし、それが上の学年になるにつれて、失われてしまっている。

その辺の事情が、他の活動や遊びの時間の増加というところに、
原因があるというのでしょう。

しかし、実際には必要性の問題があるのではないか、と考えられます。
必要性を感じさせないので辞めてしまうということ。

勉強したい、研究したいという欲求があれば、
本を読むという行動につながると思うのです。

そういう目標を持たせるものがあるかどうかではないでしょうか。

○○を究める、というものですね。

イチローさんや大谷さんも、
若い頃に目指すべきものを見つけるということが大事だ、
とおっしゃっていますよね。

そういう目標のために本を読んで勉強する、という形ですね。
これなら、時間がない、などという気持ちにはなりませんよね。


 ●「読みたい本がない」について

次に「読みたい本がない」についていいますと、
先ほども書きましたように、自分の求めるものがあれば、
こういう現象は起きません。
よく言われるように、一冊の本から芋づる式に
次はこれその後にあれというふうに、
読むべき本、読みたい本が出て来るものです。

そういう目標を持たない人には、自分の好みにあわせて、
自分なりにガイド本を当たってみる、という方法があります。

自分の好みすら分からない、という人には、
最近、話題が出ている選書サービスというものがあります。

「フライヤー」というのは、ビジネス本、自己啓発本などを
その道の専門家(経営者や出版業界関係者、大学教授など)が紹介する
というもの。

あるいは、書店員やさまざまな経歴を持つ選書のプロが選ぶというもの。

というふうに色々な取り組みがあるそうです。

ただ思うのですが、基本的に本を読もうという意思がなければ、
このような選書サービスも心に引っかからないでしょう。

要は、いかに興味を湧かせるか、ということでしょうか。

いくら種をまいても、条件が整わなければ、芽は出ないわけです。
しかし条件だけ整えても、肝心の種がなければ……、というところです。


 ●書店の新形態――無人の店舗、コンビニ併設

最近テレビの情報番組でも、取り上げていましたが、
近年、急速に減っている書店について、新たな形態の書店が現れました。

この新聞記事にも出ていました。

無人の店舗だったり、コンビニに併設されているものだったり。

人件費が一番のネックという意味では無人店舗は、
これからの商業施設での必須条件になるかもしれません。
ただ、物を買うという行為での楽しみの一つに、
店員さんとのやりとりというものもあると思います。
そういう意味ではちょっと寂しいですよね。


コンビニとの併設なども、昔からあります。
他の物品販売業と協業するというパターンですね。

それは前回も書いたかと思いますが、悪くはないのですが、
あまり大きな変化は期待できません。

絶対的な救世主にはなり得ない気がしています。


 ●本屋さんの生き残りに期待

とにかく、本屋さんがなくなるというのが一番の悲劇だと思っています。
何らかの形で残って欲しい、という強い願望があります。

ふらりと入った本屋さんであれこれ見ることで、
「あっ、こんな本が出てる!」という偶然の出会いがあります。

それが本好きにとっての一番の至福の時間かもしれません。

私は、本屋さんにいるときが一番楽しい時です。
図書館も楽しみですが、本屋さんの方が、より新しい顔を見られる、
という点で楽しみが大です。

今の私があるのは、ひとえに本屋さんあればこそ、と思っています。
私の人生の一番の友、それが本で、その友との出会いの場が本屋さん、
なんです。

最近読んだ本に著者が「謝辞」のなかで
書店員さんにお礼を述べる文章がありました。

 《書店員の方々にお礼を申しあげたい。
  みなさんは読者の手に本を届けるというすばらしい仕事に従事され、
  この一年、信じられないほどの困難に直面しながらもその仕事を
  つづけてくださった。本と読書に対するみなさんの尽きることのない
  情熱と献身、そして<自由研究には向かない殺人シリーズ>の成功に
  おいて計り知れないほど大きな役割を果たしてくださったことに、
  心の底から感謝申しあげる。》

   ホリー・ジャクソン『卒業生には向かない真実』服部京子/訳
    創元推理文庫 2023/7/18


コロナ禍の感染拡大期には、
書店も一部では休業するところもありました。

地方の書店のみならず、都会の書店でも店舗の賃貸料の値上げ等で、
店をたたむところが増えています。

私は、書店・本屋さんは、地域の文化の担い手だと考えています。

がんばれ本屋さん!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと」と題して、今回も全文転載紹介です。

今回は「読書週間」という読書の習慣を付けましょうという、年間行事に関連した新聞記事から感じること、思ったことを書いています。

私にとっては、読書=人生みたいなものがあり、月に一冊も本を読まないという人がいることが考えられない、というのが本当のところです。

そうはいいましても、私も子供の頃は必ずしもそういう人間ではありませんでした。
私が本を読む日々を過ごすようになったのは、中学3年の三学期が始まるお正月以降のことでした。
それまでは時に娯楽として本を読む時期があるという程度で、毎週漫画雑誌を読むことはあっても、毎日のように書籍を読むということはありませんでした。

そういう人間からみて、どうすれば本を読む習慣を身につけられるか、という観点から少し書いています。

どうでしたでしょうか。

 ・・・

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(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

" target="_blank">私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと-楽しい読書354号

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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)「飲酒二十首 其の五」-楽しい読書353号

2023-11-05 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年10月31日号(No.353)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年10月31日号(No.353)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」
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 「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」25回目は、
 前回に引き続き、陶淵明の第二回です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆ 自然のなかに「真」がある ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)

  ~ 陶淵明(2) ~
  「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「九、達観を目指して――陶淵明の世界」より


 ●飲酒二十首 序

まずは、お酒好きの陶淵明さん、
飲酒についての詩が多く残っているそうで、
連作「飲酒二十首」があります。

その中から、まず「飲酒二十首 序」という連作の序文を。

 ・・・

飲酒二十首 序  飲酒(いんしゆ)二十首(にじつしゆ) 序(じよ)

余閑居寡歓、   余(よ) 閑居(かんきよ)して
          歓(よろこ)び寡(すくな)く、
兼比夜已長。   兼(か)ねて此(このご)ろ夜(よる)
          已(はなは)だ長(なが)し。
偶有名酒、    偶々(たまたま)名酒(めいしゆ)有(あ)り、
無夕不飲。    夕(ゆふべ)として飲(の)まざる無(な)し。
顧影独尽、    影(かげ)を顧(かへり)みて独(ひと)り尽(つく)し、
忽焉復醉。    忽焉(こつえん)として復(ま)た酔(よ)ふ。
既酔之後、    既(すで)に醉(よ)ふの後(のち)は、
輒題数句自娯。  輒(すなは)ち数句(すうく)を題(だい)して
          自(みづか)ら娯(たの)しむ。
紙墨遂多、    紙墨(しぼく) 遂(つひ)に多(おほ)く、
辞無詮次。    辞(じ)に詮次(せんじ)無(な)し。
聊命故人書之、  聊(いささ)か故人(こじん)に命(めい)じて
          之(これ)を書(しよ)せしめ、
以為歓笑爾。   以(もつ)て歓笑(かんしよう)と為(な)さん爾(のみ)。


詳しい現代語訳は本書『漢詩を読む1』にはないので、
ごくごく簡単に、私なりに記しますと、

私、世間を離れ、一人で暮らすようになって、喜び事が少なく、
夜がやたらに長い。
たまにいい酒があると、夜はつい飲んでしまう。
興に乗ると詩の文句をあれこれと書き留め、
それがたまると一つ一つの詩にまとめ、
友人に清書させては笑いの種に楽しんでいる。

といったところでしょうか。


 ●飲酒二十首 其の五

次に、代表作とされる「飲酒二十首 其の五」を見てゆきましょう。

 ・・・

飲酒二十首  飲酒(いんしゆ)二十首(にじつしゆ)  陶淵明

其五  其の五(そのご)

結廬在人境  廬(いほり)を結(むす)んで人境(じんきよう)に在(あ)り
而無車馬喧  而(しか)も車馬(しやば)の喧(かまびす)しき無(な)し
問君何能爾  君(きみ)に問(と)ふ 何(なん)ぞ能(よ)く爾(しか)ると
心遠地自偏  心(こころ)遠(とお)ければ
        地(ち)も自(おのづか)ら偏(へん)なり

私は粗末な家を構え、しかし山の中ではなく、
 人通りのある村里に暮らしている
それでいながら、車や馬に乗った貴族たちとのうるさい付き合いはない
あなたはどうしてそんな事ができるんですか
私の心がもう世間から遠くなっているから、どこに住もうとその土地は、
 うるさい場所から遠ざかっているのと同じなんだよ


采菊東籬下  菊(きく)を采(と)る東籬(とうり)の下(もと)
悠然望南山  悠然(ゆうぜん)として南山(なんざん)を望(のぞ)む
山気佳日夕  山気(さんき) 日夕(につせき)に佳(よ)く
飛鳥相与還  飛鳥(ひちよう) 相(あひ)与(とも)に還(かへ)る

或る秋の夕暮れ、私は東の垣根の側で聞くのは名をつんだ
起き上がって、はるかに落ち着いた気持ちで南の山に祈る
山のたたずまいはこの夕暮れ時、まことに美しい
飛ぶ鳥が連れ立って帰ってゆくじゃないか


此中有真意  此(こ)の中(うち)に真意(しんい)有(あ)り
欲弁已忘言  弁(べん)ぜんと欲(ほつ)して
        已(すで)に言(げん)を忘(わす)る

こういう眺めの中にこそ、人生のほんとうの姿が表れているのだ
それを君に説明したいのだけれど、
 そう思った瞬間、言葉を忘れてしまったよ

 ・・・

この詩は、全体として隠者の心構え、生活態度を詠んでいる、と
解説の宇野直人さんはいいます。

第一段では、隠者の心構えです。
騒がしい村の中に住んでいても、粗末な家には貴族は訪ねてこないし、
私の心は世間から遠く離れているので、どこに住もうと同じだ、
と自問自答している。
これは“隠者は山に住むもの”という固定観念への反抗心だ、
と宇野さんの解説。

第二段では、夕暮れの一コマで、有名な部分。
「南山」は、不老長寿の象徴ですので、お祈りをするのです。

《この「南山を望む」の「望む」という字を
 「見る」に作る伝本が多いのですが、「南山を見る」だと、
 ただ単に“南山が目に入る”という意味になって、
 “不老長寿の象徴をじっとみつめて祈る”意味が消えてしまいます。
 ここはやはり「望む」がよいでしょう。》p.334

最後の二句では、人生のほんとうの姿を山の中の風景に見いだしたが、
その言葉は忘れてしまった、と弁舌を重んじる貴族への風刺なのか、と。

《この「真意」とは“人間が生きるほんとうの意味”、
 或いは“私のほんとうの気持ち”などの意味かもしれません。》p.334


 ●「此の中にこそ真意あり」

夏目漱石の『草枕』の冒頭に、この部分が引用されています。

 《うれしい事に東洋の詩歌(しいか)は
  そこを解脱(げだつ)したのがある。
   採菊(きくをとる)東籬下(とうりのもと)、
   悠然(ゆうぜんとして)見南山(なんざんをみる)。
  ただそれぎりの裏(うち)に暑苦しい世の中を
  まるで忘れた光景が出てくる。
  垣の向うに隣りの娘が覗(のぞ)いてる訳でもなければ、
  南山(なんざん)に親友が奉職している次第でもない。
  超然と出世間的(しゅっせけんてき)に
  利害損得の汗を流し去った心持ちになれる。(略)》

これほどに有名な句だというのですね。

で、陶淵明はこのような風景の中に、人生の真意を見たというのです。

この最後の部分について、こういう解説がありました。

小尾郊一『中国の隠遁思想 陶淵明の心の軌跡』
(中公新書902 1988/12/1)



(画像:Amazonより拝借)

 《「此の中」とは、上の夕方の美しい山の気配、
  ねぐらに連れだって帰る飛ぶ鳥の姿である。
  このなかに「真の意」があるという。「真」とは、(略)
  真実であり、老荘のいう道であり、自然であるといえよう。
  この風景のなかに、真実があるというのである。》p.164

それは《人間の作りあげた技巧ではない、自然のままの姿である》。

この日常の風景のなかに真実なる道が存在しているのだ、というのです。

そして、

 《この句の背後には、『荘子』「外物篇」の
  「筌(やな)というものは、魚を捕るものである。
   魚を捕ってしまえば、筌のことは忘れてします。
   蹄(わな)は兎を捕えるものである。
   兎を捕えてしまうと蹄のことは忘れてしまう。
   と同じく、言語というものは、意味を伝えるものである。
   その意味を会得してしまえば、言語は忘れられる」
  ということを踏まえている。
  淵明は、「真の意」があることを会得することが大事であって、
  今や自分は会得したので説明する必要もないというのである。/
  自然の風景のなかに真実があるという自然観は、広くいえば、
  隠遁から生まれた注目すべき収穫であって、
  後世にまで伝わる自然観である。》p.165-166

といい、
自然にあこがれるという場合、山水に隠遁するという風潮であったのが、
陶淵明は、田園に隠遁するという考え方をうみ、
さらに大きな自然観を生んだ、といいます。

 《それはわれわれをとりまく環境の自然のなかに「真」がある
  という考え方である》p.162

 ・・・

次回は、来年になります。

引き続き、陶淵明の詩を取り上げます。
「飲酒二十首」の続き、もしくは「田園の居に帰る五首」当たりを
紹介する予定です。
乞うご期待!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」と題して、今回も全文転載紹介です。

本文にも書きましたが、陶淵明は、われわれの日常的な自然の風景のなかに「真」がある、と考えました。
これが、当時の老荘的な「無為自然」「無私無欲」の人間本来のあるがままの姿を尊重するものであるとする考え方で、官僚世界の儒教的なものの見方にはまったくないものだった、といいます。
陶淵明のこの考え方がその後の自然観を生んだ、というのです。

老荘的な生き方というのは、ちょっと気になる生き方でもあります。
あるがままの姿でいいのだというのは、なにかしら楽な気がしますよね。

ちょっと話は違いますが、仏教の教えとして「悉皆成仏」(「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」)という考え方があります。
「ものみなすべて仏となる」というものです。
こういう風に言われますと、かなり気が楽になりますよね。
むずかしく考えますと、無用な殺生をするなとか、色々大変な部分もありますが。

老荘的な生き方もそれに似た、気楽さにつながるものがあると思います。

儒教的な生き方はある意味で「倫理、倫理」とうるさくなりかねません。
「あれをしてはいけない、これをしてはいけない」と、「戒」が多い感じです。

くわしいことは知りませんが、西洋の『旧約聖書』でも何かと「戒」が出てきて、ついて行けない気がします。

老荘的なものは、その辺でちょっとやさしい生き方になるような気がしています。

 ・・・

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私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと-楽しい読書352号

2023-10-16 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年10月15日号(No.352)
「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年10月15日号(No.352)
「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」
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 前回に引き続き、本と本屋の世界といいますか、業界について、
 「元本屋の兄ちゃん」として、本好き・読書好きの人間として、
 私なりに考えていることを書いてみようと思います。

 前回は、朝日新聞の記事「本屋ない市町村、全国で26%~」を基に、
 書店が生き残る方法など、私なりの考えを書きました。
 再販制度をやめよとか、雑誌販売についてとか、
 書店の選書について等々。

 今回はその続きで、出版業界における改革について、
 私なりの案を書いてみましょう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 日本の本は安い!? -

  ~ より良い本作りのために ~

   本の価格を1.5倍に、著者・出版社・書店に厚く配分する
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●日本の本は安い!?

以前読んだ雑誌の記事によりますと、
海外の本の値段を日本のそれと比べてみると、
およそ1.5倍だというのです。

どのように比較したかといいますと、
どんな作品だったかは忘れましたが、
日本でも海外でも翻訳されている古典の名作を比較したわけです。

たとえていえば、ドストエフスキーだとか、ですね。
日本なら文庫本で出ていますが、
海外でもポケットブック判で出ていたりするわけです。

それを比較する。
翻訳作品ですから、著書以外に翻訳者の翻訳料も含まれるわけです。
編集や営業やらなんやらの出版社の取り分と、
それに物の本としての原材料費のようなものが加算されます。
そこに、流通業者の取次や書店の取り分が加算されたものが、
最終的な本の値段になるわけです。

日本の本は海外のものに比べて安い、というわけです。
本の値段が安いと何が問題かといいますと、
それぞれの段階で取り分が少なくなる、ということです。
取り分が少なくなれば、それだけ経済的に生活が苦しくなる、
ということになります。


 ●本の値段を上げてみれば?

そこで、本の値段を上げてやれば、それぞれの取り分が増え、
余裕ができ、やたらと仕事をしなくても生活が楽になるわけです。

本を書く人(著者や翻訳家など)は、
じっくり時間をかけて作品と取り組むことができます。

出版社は、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとばかりに、
本をやたら点数出す必要もなくなります。
売れる本の冊数が少なくなっても一冊当たりの取り分が増えれば、
その分補うことができます。

こうして著者や出版社側の条件をよくすることができます。
すると、よりよい作品が生まれる可能性が高まります。


次に、流通側です。

流通側の取次は、現状では基本的に本を動かせば(送品・返品)、
お金が入ることになっています。
また、どちらかといえば、比較的大きな会社がやっていますので、
現状でも本さえ出版され、時に売れれば、もうけは出るはずです。

取次は現状のままでも本の値段が上げれば、
もちろん、取り分も少しは上がるはずです。


問題は、今急速に減少している本屋さん(書店)です。

パパママストア的な地方の小さな書店や、
それに毛が生えたような中小の書店でも、
本が売れにくい現状で、一方で出版社がやたら本の点数を出すので、
一冊の本をじっくりと時間をかけて売ることができにくくなっています。
新刊本でいい本があったとして、
次々と本が送られてくるので、限られたスペースでは置ききれず、
一定の期間でどんどん本を置き換えていくことになり、
口コミで徐々に読者が増えてきている状態になったとしても、
すでに地元の本屋さんには現物がない、という状況が生まれてきます。

また、都市部の繁華街にある大手の有力書店でも、
店舗の賃貸料が高騰し、本屋の取り分だけでは
もうけが出ない状況になってきています。

そこで今、新刊書店では、粗利の多い他の物品販売と組み合わせたり、
カフェなどを併設したりして、
もうけの取り分を増やすように工夫しています。

しかし、これも新たな業態への転換といっていいわけで、
新たな勉強が必要になります。

もちろん他の業界でも同じようなことが起きています。
何も書店だけのことではありません。
しかし、従来から大きく変化している業界の一つであることは事実です。


 ●本の価格を1.5倍に

まずは、本の価格を50%ほど値上げします。

で、増やした分の20%を書店の取り分に、
10%を著者に、15%を出版社に、残りの5%を取次に、と分配する。

細かな数字は別にして、大雑把に言ってこんな感じです。

現状では書店のもうけが少なすぎる(22%程度)ので、
専門家を雇うというのが、むずかしくなっています。
パパママストアや店主とアルバイトやパートさんでやっている、
という小さな本屋さんも少なくありません。

すると専門家は店主ぐらいで、後は経営はおろか、
本の知識も十分でない人が店頭に立つ、ということになります。
なにしろ本はあらゆるジャンルにまたがっているのですから。
文学は分かっても科学は分からないとか、
絵本や児童書、学習参考書が分からない、
今はやりのゲーム本やコミックが分からない、
ビジネス書や教養書や実用書のなんたるかが分からないとか、
専門書に至っては……。

スーパーの粗利が25%ぐらいといわれています。
22%ならそれほど変わらないじゃないか、といわれるかもしれません。
本は置いておいても腐らないし、毎日入れ替える必要もないだろう、と。

実は本も生ものなのです。
旬というものがあります。
雑誌はもちろん、新刊書籍であっても。

コロナ禍の際に、怪しげな内容のものも含めて、
いろんな感染症の本が出ました。
タイムリーにその時その時、読者が求めているものを供給する、
というのも出版の在り方です。

人気作家の売れ行き良好書や人気シリーズ、
古典だ名作だといった定番商品だけ置いていても、商売にはなりません。

インチキ本や怪しい本も色々出版されますし、ボーダーの本もあります。
そんななかで、
新しい時代の名著名作をフォローしていかなくてはいけません。
見極めるための勉強が必要になります。

本が売れない時代だといわれながらも、
一方で、爆発的に売れる本――ベストセラーが生まれることもあります。
何が売れるか分からない部分があります。
だからこそ、下手な鉄砲式に出版社はあれこれと点数を出すのです。

書店のことはその辺にして、次に進みましょう。


 ●より良い本作りが可能に

出版社と著書について。

著者の取り分は、印税と呼ばれて、平均10%といわれていました。
ところが、昨今ではこれがだんだんと下がってきているといわれます。
特に新規の(実績のない)著者の場合はかなり押さえられる、と。

これではいい本を書こうとしても、時間をかけて資料を準備し、
文章を推敲し、よりよい原稿にしようすることがむずかしくなります。

日本の場合は、出版エージェントといった職業がないので、
多くの作家が個別に出版社と交渉することになります。
どうしても作家側の力関係は弱くなり、
専業作家は数をこなすような仕事になり、自転車操業になってしまい、
よりよい作品を生み出すことがむずかしくなります。

出版社は、本の部数が出れば出るほど、一点の本が売れれば売れるほど、
もうけが増えるようになっています。
ベストセラーのような本が出れば、初めてもうけが増えるのです。

本が売れないといわれる時代になり、一点当たりの売上部数が減り、
本の価格が低ければ、もうけも減ってしまいます。
そこで、本の点数を増やして一発を当てようとするのです。
あるいは、数でなんとかもうけを出そうとします。
著者への印税を押さえ、経費を節減して。

出版社が点数を出す理由の一つに、
各書店の売場の割り当てを確保する、という意味合いもあります。

大手といわれる出版社の場合、
新刊売場の自社の面積を確保・維持するために
毎月同数の本を出す必要があるわけです。

そのため、常に一定の水準の本を確保するというのはむずかしいもので、
実績のある人に原稿を依頼するということが多くなります。
結果、同じ著者の似たような本があちこちから出る、
という現象がおきます。


せめて本の価格が高くなれば、
経費を差し引いたその分、もうけの幅が増えます。

本のもうけが増えれば、
ムダに本の出版点数を増やす必要もなくなります。
いい本だけを出そう、とすることが可能になります。


 ●「軽い」本は電子版で

今の出版社は、先ほども書きましたように
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」というような傾向を感じます。
とにかく点数を出して一発当ててやろう的な。
この業界は一発当たれば一気に儲かる、
という仕組みになっているそうです。

しかし、実際にはそんなに玉はないものです。
確かにネットにはいろんな文章があります。
名のある人が色々と書いているのは事実です。
それらを適当にまとめても本になります。
そんな風に作られた本もかなりあります。

あるいは、
昔なら総合雑誌などに一本の記事として出されたような文章が、
色々と実例やデータを交えたり、
イラストや図表をいれてよりビジュアル的にわかりやすく読みやすく、
ズバリ言えば水増しをして一冊にまとめる、
といった本作りもされています。

そういう私から見ると、軽い本が多く出されています。
こういう本は紙の本で出す必要はありません。
どうしても出したいのなら、電子版で出せば、
資源の無駄遣いも減るだろうと思います。

それでも売れるような「良い本」と認められれば、
その時点で「紙で残す」という選択肢を採ればいいのです。

電子版についていいますと、
日本の電子版は紙の本に比べてお高いようです。

といいますか、紙の本の方が安いという言い方もできますね。


 ●「良い本」を作れる環境を!

まとめ的にいいますと、
現状ではまず本の値段を上げてそれぞれの取り分を増やす。

そうして、著者・出版社の「良い本」を作れる環境を整え、
書店がそれらの「良い本」をじっくり時間をかけて売れる状況にする。

――というところでしょうか。

 ・・・

書店の改革といいますか、最近の書店の傾向といいますか、
カフェを併設するとか、専門店化するといったことについては、
また次の機会に考えて見たいと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」と題して、今回も全文転載紹介です。

今回は、主に書店側から出版社・著者について考えてみました。

ふだんから思っていることの一つが、本を出しすぎじゃないか、ということでした。
35年ほど前、本屋さんで働いていたころから感じていることです。
当時で、年間4万点ぐらいだったかと思います。
それでも多いと感じていたのですが、今では8万点を越えているそうです。
それでも最近では少し反省されたのか、横ばいになっているとか。

色々なレベルの本が出るのはいいことですが、点数が多くなりますと一般の書店では置ききれません。
売れる前に返品せざるを得ないというケースも出てきます。
そうしないと毎月次々と新刊が送られてくるからです。
この本は売れると持っても、次の新刊が出て来ると考えなければいけなくなります。

お客様が新聞の書評など切り抜いて、この本ありますか、と来られるのは、本が出てたいてい二ヶ月後ぐらいです。
書評が新聞や雑誌に出るころには、書店の店頭にはない、というケースも少なくありません。
その際、注文を出してもこの段階では返品にまわっているケースが多く、出版社品切れで帰ってくることもよくありました。

本を選んで出して欲しい、というのが書店員側の希望でしたね。
今も同じです。
著者や編集者のみなさまでどうしても出したい本があるというのなら、まずは電子版で出して、ようすを見るというのをオススメしたいものです。
それで「売れ(てい)る」となったら、紙で出す、というぐらいでちょうどいいのではないか、という気がします。

 ・・・

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私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと-楽しい読書352号
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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」-楽しい読書351号

2023-10-01 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年9月30日号(No.351)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年9月30日号(No.351)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」
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 5月以来の「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」24回目です。

 今回は、いよいよ陶淵明を読んでみましょう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

◆ 直接に自分を語る、李白・杜甫のお手本となった大詩人 ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)

  ~ 陶淵明(1) ~

  「五柳先生伝」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「九、達観を目指して――陶淵明の世界」より


 ●陶淵明のこと

いよいよ陶淵明を読みます。

中国の詩人で、このシリーズを始める前に知っていたのは、
唐の杜甫、李白、白居易(白楽天)と、この陶淵明、
『楚辞』の「離騒」の屈原ぐらいでした。

もともと詩は苦手な上、漢字が苦手だった私には、
漢詩というのは苦以外のなにものでもないというところでした。

先の<中国の古代思想を読んでみよう>で、
少しは漢字コンプレックスを克服できたようなので、
かなり楽になってはいるものの、
今でも相当苦しい時間を過ごしています。

当初、杜甫、李白、白居易(白楽天)とか陶淵明で
それぞれ1,2回ずつやってみるつもりでした。

でも、もう少し本格的に勉強したいという気もあり、
ああいうスタートになりました。

「漢詩とはなにか」と、
一海知義さんの『漢詩入門』を参考に始めました。

途中から、今参考にしています、
『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』江原正士、宇野直人/著
(平凡社 2010/4/20)と出会い、
これを基に進めてゆくことにしました。

そうして24回目、ようやく当初から知っていた(屈原は別ですが)
詩人・陶淵明の登場、ということになりました。


 ●陶淵明について


(画像:室町時代後期の画家、等春が描いた陶淵明像――『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20 より)

『漢詩を読む 1』の宇野直人の解説によりますと――

陶淵明(365-427)は、李白や杜甫よりも約300年前の人で、
彼らのお手本となった大詩人です。

詩の中に自分自身を表現するという、
西晋末あたりから始まった流れの大きな結実といいます。

それまでの詩では、一部の例外をのぞき、
屈原のような大詩人でも、暗示的に遠回しに表現してきたものでした。

それが陶淵明あたりからは、すべてを振り捨てて、
生身の自分を詩に投げ出して行くという、
自分の人間性を前面に出す作風の詩となり、作品の幅も広くなります。

陶淵明は、東晋の末から宋代への交代期に、
長江の下流、南中国の呉に生まれました。
軍人を輩出した南方豪族の家で、名将軍が出ている家柄ながら、
一族は軍閥同士のせめぎ合いに巻き込まれ、多くの人が殺されました。

それゆえ、彼の人格形成にも影響を与え、
屈折した性格となったのかもしれない、といいます。

南方の知識人の特色として、思想の基盤は儒教でした。

彼の詩は時代の流れの要素を反映しているだけでなく、
『論語』もたくさん引用されています。

ただし、制作年代が不明で、詩の詠みぶりで、
彼の考え方の変化を跡づけることができない、といいます。


 ●代表作から――「五柳先生伝」陶淵明

まずは、彼の自叙伝と言うべき散文で、
歴史書の書き方に従って書かれ、
司馬遷『史記』に始まる「伝」という文体を取った、
代表作の一つ「五柳先生伝」から紹介しましょう。

 ・・・

五柳先生伝  五柳先生伝(ごりゆうせんせいでん)  陶淵明

先生不知何許人也。亦不詳姓字。宅辺有五柳樹、因以為号焉。   

 先生(せんせい)は何許(いづく)の人(ひと)なるかを知(し)らざるなり。
 亦(また) 其(そ)の姓字(せいじ)も詳(つまびら)かにせず。
 宅辺(たくへん)に五柳樹(ごりゆうじゆ)有(あ)り、
 因(よ)りて以(もつ)て号(ごう)と為(な)す。

先生はどこの人かわからない。その名字も字(あざな)もはっきりしない。
ただ家のそばに五本の柳の木があるので、
それにちなんで呼び名としたのである。


閑静少言、不慕栄利。

 閑静(かんせい)にして言(げん)少(すく)なく、
 栄利(えいり)を慕(した)はず。

気持ちはいつも静かで安らかで、口数が少なく、
栄達利益を望むこともなかった。


好読書、不求甚解。毎有会意、便欣然忘食。
 
 書(しよ)を読(よ)むを好(この)めどども、
 甚解(じんかい)を求(もと)めず。
 意(い)に会(かい)すること有(あ)る毎(ごと)に、
 便(すなわ)ち欣然(きんぜん)として食(しよく)を忘(わす)る。

好んで書物を読むが、細かく解釈することを求めない。
ただ、気に入った表現が見つかるたびに、
嬉しくて食事を忘れるほど熱中してしまう。


性嗜酒、家貧不能常得。親旧知其如此、或置酒而招之。
造飲輒尽、期在必酔。既酔而退、曾不吝情去留。        

 性(せい) 酒(さけ)を嗜(たしな)む
 家(いへ)貧(ひん)にして常(つね)には得(う)ること能(あた)はず。
 親旧(しんきゆう) 其(そ)の此(かく)の如(ごと)くなるを知(し)り、
 或(ある)いは置酒(ちしゆ)して之(これ)を招(まね)く。
 造(いた)り飲(の)めば輒(すなは)ち尽(つく)し、
 期(き)は必(かなら)ず酔(ゑ)ふに在(あ)り。
 既(すで)に酔(ゑ)うて退(しりぞ)くに、
 曾(かつ)て情(じよう)を去留(きよりゆう)に吝(やぶさ)かにせず。

先生は心底、酒を好んだが、
家が貧しいのでしじゅう手に入れることができない。
親族や友人はそれを知って、時に宴会を設けて先生を招待する。
出席して飲めば、出される酒をそのたびに飲み尽くし、
お目当ては必ず酔うことにあった。
酔ってしまえばすぐに座を退き、自分の気持ちを、
ここで退席するか留まるかで決して悩ませることはなかった。


環堵蕭然、不蔽風日。短褐穿結、箪瓢蕭空、晏如也。  
      
 環堵(かんと)蕭然(しようぜん)として、
 風日(ふうじつ)を蔽(おほ)はず。
 短褐(たんかつ)穿結(せんけつ)し、
 箪瓢(たんぴよう)屡(しば)しば空(むな)しきも、晏如(あんじよ)たり。

先生の狭い家はがらんとして、
風や太陽の光をさえぎるものもないほどだ。
粗末な布で作った衣は、開いた穴をつくろってあり、
めしびつやひさごはしばしば空になるほど貧しかったが、
先生の心はいつも安らかであった。


常著文章自娯、頗示己志。    

 常(つね)に文章(ぶんしよう)を著(あらわ)して
 自(みづか)ら娯(たの)しみ、
 頗(すこぶ)る己(おの)が志(こころざし)を示(しめ)す。

先生は常に詩や文章を書いて自分だけで楽しみ、
しかしその中でいささか抱負を示した。


忘懐得失、以此自終。
   
 懐(おも)ひを得失(とくしつ)を忘(わす)れ、
 此(これ)を以(もつ)て自(みづか)ら終(を)ふ。

心から世俗の損得を忘れて超然とし、自分なりに一生を終える。


賛曰、
黔婁有言、不戚戚於貧賤、不汲汲於富貴。酣觴賦詩、以楽其志。
無懐氏之民歟、葛天氏之民歟。
   
 賛(さん)に曰(いわ)く、
 黔婁(げんろう) 言(い)へる有(あ)り、
 貧賤(ひんせん)に戚戚(せきせき)たらず、
 富貴(ふうき)に汲汲(きゆうきゆう)たらず、と。

黔婁は奥さんに次のように言われた。
自分の身分が低いことに悩まず、
かといって裕福になろうとあくせくしなかった。


其言茲若人之儔乎。

 其(そ)れ 茲若(これかくのごとき)
 人(ひと)の儔(ともがら)を言(い)ふか。  

こんなふうに奥さんが黔婁を論表した言葉は、
まさに五柳先生の仲間について言ったのであろうか。


酣觴賦詩、以楽其志。無懐氏之民歟、葛天氏之民歟。

 酣觴(かんしよう)して詩(し)を賦(ふ)し、
 以(もつ)て其(そ)の志(こころざし)を楽(たの)しましむ。
 無懷氏(ぶかいし)の民(たみ)か、葛天氏(かつてんし)の民(たみ)か。

先生はいつも酒を楽しんで詩を作り、自分の抱負を満足させていた。
そういう先生は、かつての理想的な天子の無懷氏、
或いは葛天氏の世に生きていた民衆のように純朴な人ではなかろうか。

 ・・・

彼が理想とする人間像、人生観を述べたもので、宇野さんの意見は――

 《読んでみると、抽象的、観念的、或いは理想に走っていて、
  長い人生経験から得たものがあまり感じられません。
  また反俗精神が強く出ていますので、
  これは若い頃の作ではないかと思います。》p.329

全体が七つの要素からなっていて、
まず先生の姓名と来歴の説明から始まります。

中国の歴史書の形式で、
伝記はまず主人公の名前と出身地の紹介から始まる。

隠者の伝記には、
「何許(いづく)の人なるか知らざるなり」という表現が多く、
ここでは陶淵明は「五柳先生は隠者ですよ」といっているわけで、
これは家柄や門閥を重んじる貴族社会への皮肉だ、と宇野さん。

次に、その人間性についても、口数少なく、栄達利益を望まないという、
弁舌や名誉を重んじる貴族とは対極的で、貴族の価値観に反対している。

そしてお酒。お酒を飲むこと自体が好きで、
社交辞令や儀礼はお構いなしで、
ただ酔うだけで、酔えばさっさと引き上げる。

次に衣食住を説明する。
清貧に安んずるということで、ここでも貴族の豪華な生活とは正反対。

創作活動では、抱負を示すと言い、
 《当時の、抱負を述べることを忘れた、
  形式だけの詩を批判する意味もあるのかな。》p.331

死については、
 《心から世俗の損得を忘れて超然とし、自分なりに一生を終える》同
と、
 《そういう人に私はなりたい。
  全体を通して、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を思い出します。》同
と。

歴史書のパターンで最後に「賛」がついています。

「賛」では、《伝の要旨をまとめて主人公の美点をほめます。》p.332

むずかしい表現ですが、
「黔婁」は春秋時代の隠者で、奥さんは彼について述べたのですが、
 《“奥さんの言葉はそのまま五柳先生にも通ずるなあ”ということ》。

宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のようというのですが、
さてどうでしょうか。

人の生き方というものは、いつの世でも大きな違いはないもので、
「清貧」といいますか、やはり「足るを知る」というような生き方が
一番シンプルでいいのかもしれません。

読書とか詩作とかちょっと一杯とか、
自分の好きなことだけをボチボチ遊ぶ、そんな日々を楽しむ。

えっ、お前の生活にちょっと似てないかって、
まあそう言われると、そうかもしれませんけれど……。(おいおいっ!)

 ・・・

上の詩にもありましたようにお酒好きの陶淵明ですが、
飲酒についての詩が多く残っているそうです。

次回は、その中から「飲酒二十首」を紹介しましょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」と題して、今回も全文転載紹介です。

本文にも書いていますように、このシリーズを始めた当初に知っていた数少ない中国の詩人の一人、陶淵明の登場です。

何回か取り上げてみよう、という気持ちでいます。

まだこれからお勉強の開始です。
飛び飛びの連載ですので、さて、いつまで続くことになるのでしょうか。

 ・・・

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『レフティやすおのお茶でっせ』
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