セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「レベッカ」

2012-03-11 00:35:06 | 外国映画
 「レベッカ」(1940年・米)監督アルフレッド・ヒッチコック 出演ローレンス・
        オリヴィエ、ジョーン・フォンテイン、ジュディス・アンダーソン 
        音楽フランツ・ワックスマン 撮影ジョージ・バーンズ

 ヒッチコックと言えば「北北西に進路を取れ」とか「裏窓」、「サイコ」辺りが
代表作になるんだと思います、僕も大好きです。
 でも僕は何故か、この「レベッカ」という作品が一番印象深い。
 ヒッチコキアンや評論家筋には今イチ評価の低い作品で、曰く、「スリラー
(ヒッチコック)よりメロドラマ(セルズニック)が勝ってしまった作品」だとか。
 まあ、それに間違いはないし、ヒッチコック自身、自分の作品群に入れる
べきか迷ってるような所があります。

 この映画が印象深かった理由は実に簡単明瞭。
 ヒロインのJ・フォンテインが清楚で可憐だから。(笑)
 「家柄、教養、金の無いアンタに貴族の奥様が務まる訳ないわ」と言う旧
雇い主ヴァン・ホッパー夫人の送り状付きで、疾風のようにモンテカルロか
らマンダレーの大邸宅に辿り着く内気なヒロイン、玄関のドアを入った瞬間、
まるで猛スピードで厚い壁にぶち当たったような衝撃を受ける。
 時間が止まってるような古い屋敷の薄暗い大ホール、居並ぶ召使い達、
色調も「明」から「暗」へ急転。
 そして、次第に纏わり付いて濃厚になっていく夫マキシム・ド・ウィンターの
死んだ先妻「レベッカ」の影。
 「知性、家柄、美貌」全てに勝ると言われるレベッカに対して劣等感に苛ま
れ、自縄自縛に陥っていくヒロイン「わたし」。
 果たして「わたし」は、夫マキシム・ド・ウィンターと本当の「わたしたち」にな
れるのか?
 この物語はスリラー仕立てなのですが、芯の部分は「わたし」の成長物語、
但し、後半の改変によりダフネ・デュ・モーリアの原作ほど「成長物語」の印
象は濃くありません。

 今回、久し振りに見直して思ったのは、J・フォンテインの美しさもさることな
がら、L・オリヴィエの上手さです。
 中盤のクライマックスでオリヴィエが5分近く殆んど一人で喋るんですが、こ
こが凄い。
 確かにカメラ・アングルの変化、J・フォンテインが合いの手を入れることで
起こる自然な切り返し、更に音楽で変化を付けてはいますが、基本はオリヴ
ィエの一人芝居。
 レベッカの言葉、表情、雰囲気、自分の感情、怒り、屈辱、悲哀を長い台詞
と仕草、時折みせるイラ付きで再現していく、まるで、そこにレベッカが立って
喋っているように。
 5分近く一人で場を保たせるだけでも凄いのですが、更にクライマックスに
相応しい緊迫感と盛り上がりを作っていく力量があります。
 さすが本場のシェークスピア劇で鍛えられた人、後にイギリスの国宝級役者
になったのも必然という気がしました。

 他の役者陣も健闘しています。
 まず、誰もが言うダンヴァース夫人のジュディス・アンダーソンの好演、それ
に劣らない小悪党ファベルのジョージ・サンダース、グラディス・クーパーが演
じたマキシムの姉ミセス・レイシーは小説からそのまま出て来たみたいだし、
フローレンス・ベイツのヴァン・ホッパー夫人も、いかにも俗物という感じが出
ていていいんじゃないでしょうか。
 そして、忘れてならないのが撮影を担当したジョージ・バーンズの仕事ぶり、
とても1940年の仕事とは思えません、素晴らしい。

 ヒッチコックらしさが少ない作品と言われますが、安定した構図に時折挟ま
る不安定なカット、流麗なカメラワーク、不信の種を成長させ、一気に花開か
せるテクニック、紛れも無いヒッチコックの世界だし、この「レベッカ」という作
品は、やっぱりヒッチコックにしか撮れない作品だと思います。
 ただ一つ難を言えば、J・フォンテインが美しすぎて、彼女が足元にも及ば
ないレベッカの美しさというのが、想像力の乏しい自分には今ひとつピンとこ
ない所でしょうか。(笑)


※ヒッチコックは、この作品にもっとユーモアを入れたかったそうですがセル
 ズニックが拒否。この一件、僕は、まあ、ちょっとセルズニックの肩を持ち
 たいと思います、この作品に、これ以上ユーモアは要らないんじゃないでし
 ょうか、コメディ・リリーフの要素があるG・サンダースの存在で充分。
※映画では説明されてなかったと思う壁の肖像画、描かれている人は、ド・ウ
 ィンター家の先祖キャサリン・ド・ウィンターでレベッカではありません。
 ヒロインはレベッカの真似をしたのではなく、ダンヴァース夫人の巧みな教
 唆によってレベッカと同じ事をさせられてしまったのです。
※DVD廉価版は画質、翻訳、余りに酷くお薦め出来ません。
 廃盤になったリマスター版、300円くらいで買えるのが出回ってるから今更、
 品質が良くても高価なリマスター版は復刻しないでしょうね、悲劇です。
コメント (5)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「ダウンタウン物語」 | トップ | 「カサブランカ」 »
最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして☆ (miri)
2012-06-21 11:13:56
本日は私のブログにご訪問下さり、コメントを有難うございました☆
早速コメントさせて頂いています。
(ご訪問は初めてではないので・・・すみません)

>この映画が印象深かった理由は実に簡単明瞭。
>ヒロインのJ・フォンテインが清楚で可憐だから。(笑)
>ただ一つ難を言えば、J・フォンテインが美しすぎて、彼女が足元にも及ば
>ないレベッカの美しさというのが、想像力の乏しい自分には今ひとつピンとこ
>ない所でしょうか。(笑)

とても思い入れのある女優さんなのですね~。
もう、この女優さんをスクリーンで見られるということ「だけ」でも、
みゆき座が楽しみでしかたないですね~♪

>5分近く一人で場を保たせるだけでも凄いのですが、更にクライマックスに
>相応しい緊迫感と盛り上がりを作っていく力量があります。

素晴らしい俳優さんですね!
次回再見の機会があれば(DVDに保存したのでいつでも見られますが)
この点に注意して鑑賞しますね~。

私はヒッチさんの作品は好きなのも そうでないのもありますが、
「泥棒成金」が、美しい南フランスと仮面舞踏会、そして
主演ではなく助演女優(ブリジット・オーベール)の魅力で、一番好きです☆

初めてでおしゃべりしすぎたかな?
では、今後もどうぞ宜しくお願いいたしま~す。(ペコリ)
返信する
追伸です☆ (miri)
2012-06-21 11:50:15
あ、すみません、リンクの名前はブログの名前だったので、いくら私でも読めました(爆)。

でもお管理人さんのお名前をハッキリと教えて頂けると助かりますので
よろしくお願いいたします。(私はそのままmiri(みり)です)
返信する
ようこそ! (鉦鼓亭)
2012-06-22 00:51:15
お出で頂き、ありがとうございます。
また、相互リンクにして頂いた事、重ね々々になりますが、ありがとうございました。

「だけ」でも>女性がイイ男に弱いように、男もイイ女、可愛い女にはイチコロですから。
僕は、昔のミーハーから全然成長してないんです。(笑)
だから、「みゆき座」楽しみ。

オリヴィエで印象に残ってるのは、これと「哀愁」、「探偵<スルース>」
取り立てて個性的な顔というわけではないのに、何か印象に残る、僕にとっては不思議な人です。
と言いながら、「ロミオとジュリエット」冒頭の序詞を読んでるのはJ・ギールグットだと、つい最近まで思い込んでました、「レベッカ」のお陰で、やっとオリヴィエなんだと・・・(汗)

ヒッチさんでは、「レベッカ」、「裏窓」、「北北西に進路を取れ」が好きです。
いずれも美人がヒロイン。(笑)
「疑惑の影」、「断崖」はダメです。
口先と要領だけで生きてる男は、苦手というか大嫌いの部類。
「断崖」はともかく、「疑惑の影」は作品として悪くないんですが、あのJ・コットンを見てるとムカムカしてきて・・・。

「レベッカ」>映画は、「わたし」が「わたしたち」になるまでのラブ・ストーリー。
小説は、何も知らないオボコ娘が、一人の大人の女になっていく、「成長物語」でした。

HNは「しょうこてい」です。
好きな作品、良いと思う作品を、鉦(かね)や太鼓鳴らして宣伝しよう、そんな積りで付けました。

コメント、長くても全然、大丈夫です。
ご覧頂いたように、僕のレス(本文も)長いですから。(笑)
返信する
ヒロインが可憐でしたよね (宵乃)
2015-07-10 13:57:47
>J・フォンテインが美しすぎて、彼女が足元にも及ばないレベッカの美しさというのが~今ひとつピンとこない所でしょうか。(笑)

ですよねー。屋敷での演技は猫背で場違いな雰囲気を出してたものの、それでも品があってお美しい方なので、それ以上ってどういうこと!?となりました(笑)
ドレス姿も華やかに着こなしてましたし。

>中盤のクライマックスでオリヴィエが5分近く殆んど一人で喋るんですが、ここが凄い。

マキシムのキャラが好みじゃなかったので、ぜんぜん気付きませんでした。初見だったのもあるかな?
いつか再見する時は、イギリスの国宝級役者の実力を見せてもらいます!(偉そう!)

>品質が良くても高価なリマスター版は復刻しないでしょうね、悲劇です。

さっきamazonで確認したら、超高画質版のブルーレイが出てるみたいでしたよ。復刻かどうかはわかりませんが、”超”とか言ってるくらいだから期待できるかも?
返信する
可憐な彼女は東京生まれ (鉦鼓亭)
2015-07-11 02:04:07
 宵乃さん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

ヒロインが可憐
>この作品はJ・フォンテーンを観るのが目的。(笑)
まァ、それは流石にないですけど、半分くらいはそうかもしれません。(汗)

ダンヴァース夫人>TVアニメ「小公女セーラ」のミンチン先生は、この方がモデルと言われてるとか。

ソフト>
ずっと「お買いものリスト」に入ってるのですが、もう何年も入ったままで・・・。(笑)
情報、ありがとうございます。

ヒッチさんは、これが一番好きです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
原作ネタバレもあるので、以下スルー自由です。

レベッカはマキシムを本当は愛してたのかもしれない>
原作のレベッカは「愛」の概念を持たない(理解出来ない)女と書かれてました。

素晴らしいご主人様に使える素敵な私(レベッカとミセス・ダンヴァース)>
結婚前、乗馬好きのレベッカは誰も乗りこなせない荒馬を見事に乗りこなした。
しかし、厩舎に戻って来た馬は、鞭で激しく叩かれ続けて皮膚が破れ血まみれになってた。
馬を降りたレベッカは、脅える馬に目もくれず勝ち誇ったようにダンヴァースの元へ。
それを「素晴らしいレベッカ様」と出迎えるダンヴァース。
(これを嬉しげに「わたし」へ語って聞かすんですよ、あのオバハン)
レベッカの自尊心は対等と言うのを許さない、人でも動物でも常に自分の下に置く人間。
異常な心と、もう一つの異様な心が主従となりアクセルだけの車になったのがレベッカ。

そんなミセス・ダンヴァースだから、マキシムを尊敬するはずが無い、女中頭の地位と生活の為、腹の中で嗤いながら、しおらしい顔をしてるだけ。
(勘は悪いようで、ファべルに言われるまで事件の真相に気付かなかった)

マキシムがダンヴァースを解雇しなかったのは、「真相を知ってるのでは」と恐れたから。
(原作はレベッカの嘲笑に耐えきれず・・・なんだけど(レベッカの策略に嵌った)、昔のハリウッドだから、主人公が「それ」をしでかしちゃ倫理に反するという事で変えられた~だから、映画はちょっと無理があるというか隔靴掻痒の所があると思います)

小説の結末
下巻のラストはロンドンから帰途(深夜)、マンダレーの方向に異変を感じた車中の二人、スピードを上げる車。(原作では、「わたし」も一緒に行ってて、フランクが留守番)

そして海からの風に乗って、灰が飛んできた。

で終わるのですが。
「話」の本当の終わりは、上巻のP100手前にあります。(そこまでに、何度か後日談が短く挟み込まれてる)
二人は本当の「わたしたち」になり、望み通り二人だけの静かで幸せな時間を手に入れてます。
二人の愛情も変わっていないように見えます。
しかし、マキシムは火事の際の怪我で片足がやや不自由になり、マンダレーの再建を諦め土地を処分、今はイギリスを離れヨーロッパの一流と呼べないホテルを転々とする根なし草の生活。
すっかり生気を失ってしまったマキシム、どんどん逞しく大人の女へ成長していく「わたし」
そんな描写が、後日談の最後として書かれてます。
(「わたし」はマキシムの愛を得るけど、レベッカの怨念がマンダレーでの二人の生活を許さなかったし、「わたし」が得たものは廃人手前のようなマキシムだった)
返信する

コメントを投稿

外国映画」カテゴリの最新記事