セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「オリエント急行殺人事件」

2016-08-12 19:23:28 | 外国映画
 「オリエント急行殺人事件」(「Murder on the Orient Express」、1974年、英)
   監督 シドニー・ルメット
   原作 アガサ・クリスティ
   脚色 ポール・デーン
   撮影 ジェフリー・アンスワース
   美術 ジャック・ステファン
   衣装デザイン トニー・ウォルトン
   音楽 リチャード・ロドニー・ベネット
   出演 アルバート・フィニー
       ローレン・バコール
       ジャクリーン・ビセット
       マーティン・バルサム  

 余りに有名な原作の映画化作品だから話の説明は要らないでしょう。

 ベトナム戦争も終焉に向かい、そのカウンターカルチャーの側面を持つ
アメリカン・ニューシネマも下火となり、次を模索していた時代。 
 「ポセイドン・アドベンチャー」(‘72年)というオールスター・パニック映画
が大当たり、その2年後、役者の数と知名度をグレードアップしたオールス
ター作品が二つ世に出ました。
 一つが「タワーリング・インフェルノ」、そしてもう一つが古典回帰のような
アガサ・クリスティ原作の本作。
 正統派、個性派、演技派、織り交ぜて総勢14名のスターを使い、誰もが
知ってる原作で世間の耳目を集めました、「タワーリング・インフェルノ」程
のメガ・ヒットとはいかなかったけど、これも、かなり稼いだ作品だったと記
憶しています。
 アルバート・フィニーのポアロは、今となっては見慣れたD・スーシェに較
べ熱演派なので芝居掛かってて、慇懃さも少なく違和感を感じるけど、当
時、動くポアロは他で見る事なかったから、僕は有名なポアロってこんな人
間なんだと知ったつもりになりました。(笑~推理小説はA・ルパンを読み終
わった頃でポアロは未読でした)

 この作品、オールスター映画の醍醐味を存分に味わえる作りになってい
ます、それが、長所であり短所にもなってる、今回、約40年振りに再見して、
僕は、そう感じました。
 有名な役者達がそれぞれ持ち味を表現していくシーンの数々は流石で、
もうそれ自体が見もので楽しいのですが、14人それぞれに時間を与えねば
ならず、どうしても展開にモッサリ感を感じてしまう。
 特に序盤、事件が起きるまでの登場人物達紹介だけで30分以上の時間
が掛っていて、確かに必要なんだけどジリジリしてしまいました。
 ここを、もっと簡潔に纏めればリズムも出ていいのだけど、スター達を使う
以上そうもいかない。(笑)
 素敵な映画なんだけど、そういうジレンマに縛られてルメットらしからぬ散
漫さがあり記憶に残りづらい。
 40年の間、イメージだけはしっかり残っていたけど、細部を殆ど忘れてし
まってたのは、そんな所に原因が有ったのかなと思いました。

 最近、この作品で「やりとり」した事があり、「ファンだったJ・ビセットは影が
薄くて記憶に殆ど残っていない」と書いたのですが、40年振りに再見したら
ビセットどころじゃなくアルバート・フィニーと大ファンのR・ウィドマーク以外、
ほぼ全員印象に残って居なかった。(大汗~正確に言えば、フィーニーも「ナ
イル殺人事件」のP・ユスティノフと混ざってた)
 本作はポアロを中心にした群像劇で、何だか群像達が「一山幾ら」で丸ご
と抜け落ちてました、救いは雰囲気とカメラの色調だけはしっかり覚えてた
事くらい。(犯人は知ってたけど)
 ま、今回でそんな事は無くなると思いますが、印象順で言うとL・バコール
>V・レッドグレイブ(こんなにイイ女だったんだ)>W・ヒラー>ジョン・ギー
ルグッド(この人もファンで、見慣れた役柄だけどやっぱり良い)>J=ピエ
ール・カッセル>I・バーグマン>J・ビセット(やっぱ、綺麗だった、何で記憶
に残らなかったのか不思議)
 本作でI・バーグマンがアカデミー助演女優賞を獲得した理由を確認したく
て再見したのですが、アカデミー賞を渡すのならL・バコールじゃないかなぁ、
と思いました、イメージ・チェンジというならバコールも同じで、再見しても、こ
の作品のバーグマンの良さを余り見つけられませんでした、凄くはあったけ
ど。(バコールの場合、主演女優賞になるのかな)

 映画のポアロでは「ナイル殺人事件」も観ています。
 雰囲気はこの作品の方が好きですが、作品としては犯人二人の哀切を感
じる「ナイル~」の方が好きですね。

※70年代オールスター映画の成功は「大地震」まで続き、「史上最大の作
 戦」の大ヒット再現を狙った「遠すぎた橋」の大コケで終焉を迎えました。
 オールスター映画は、その性質上、芸術作品より娯楽作向き。
 大勢のスター達を使った娯楽作なら、やはりカタルシスが必要条件、「遠
 すぎた橋」はノルマンディ以降、快進撃を続けていた連合軍が大きく躓い
 た失敗作戦、カタルシスの得ようがない。
 アメリカン・ニューシネマやヌーヴェル・ヴァーグに飽きが来ていた観客の
 嗜好を読み違えたし、観客は既に5、60年代のようにスター達の顔さえ見
 られれば満足という時代ではなかった。
 (「タワーリング・インフェルノ」でファースト・アーティスト・プロ所属のスター
 達の高額ギャラ要求が、現在の法外ギャラの原点で、もう、この当時、大ス
 ターを大勢出演させるオールスターシステムの限界が来ていたのも一因だ
 ったと思います)
※死ぬまで一度「オリエント急行」に乗ってみたい。(笑)
 船旅と同じで女性は何着もドレスを用意しないといけないのかな。

 2016.8.11
 DVD
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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは☆ (miri)
2016-08-12 21:28:26
PCを閉じようと思ったらアップされていたので、お邪魔いたします☆
日に2回もすみません、ほほほ・・・。

>全部、一発勝負だから今より集中して観てたかもしれません。

絶対にそうだと思います! そして、若かったしね♪

>最近は映画館でボンヤリしてても、「DVDになったら確認しよう」と思ってしまいます。

悲しいけど、そう思うこと、私もあります・・・。

>「ファントム」と「オリエント急行~」へのコメントは深夜か明日になると思います。

「オリエント急行殺人事件」の私の記事は大昔のノートの写しだけですので、こちらでお話いたしましょうネ~!
「ファントム」って何?と思ったのですが、「ファントマ」でしょうか? 楽しみにしてお待ちしています!

>本作でI・バーグマンがアカデミー助演女優賞を獲得した理由を確認したくて再見したのですが、アカデミー賞を渡すのならL・バコールじゃないかなぁ、と思いました、~中略~凄くはあったけど。

私はローレン・バコールさんはこの作品ではどうしても「演技」というより
「お笑いの方」のように思ってしまって(笑)すみません。

バーグマンさん、凄かったけどあまり良くなかったのですね? 
人それぞれですし、女優さんへの目線は男女で違いますものね~!
でもジャッキーの美しさに共感していただいて、嬉しかったです♪

>映画のポアロでは「ナイル殺人事件」も観ています。
>雰囲気はこの作品の方が好きですが、作品としては犯人二人の哀切を感じる「ナイル~」の方が好きですね。

私はこの映画を見るとセットで「ナイル殺人事件」も見てしまうんです(笑)。 毎年2月の恒例行事で(笑)。
「ナイル~」は初見が映画館でメチャ印象が良いのです☆
好感度はどちらも同じかなぁ? ポワロさんも3人とも(テレビの方含めて)同じくらい好きです!

では良いお盆休みをお過ごしくださいね~♪


.
返信する
(男優だって)長いですよ (汗) (鉦鼓亭)
2016-08-13 00:23:28
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

若かったしね♪>爆笑!

そう思うこと>最近では「あの頃、エッフェル塔の下で」で重要な台詞を流し聞きしてしまいました。

「お笑いの方」>そうでしたか。
彼女のイメージって凄みの有るアイスドールだったので、今回は新鮮でした。(初見時、彼女の事は名前だけだったので)
僕は良かったと思います。
ついでに(笑)
V・レッドグレーブ>この人は当時、名優認定だったけど、僕には何故か印象の薄い人でした。
一番の印象は「裸足のイサドラ」かな、あれも長いマフラーをして乗り物に乗るのは危険、と、そこだけが妙に強烈で。
あの作品の奔放で高慢なイメージが・・・。
何作か観てはいるのですが。
R・ウィドマーク>あの顔が大好物。(笑)
「アラモ」のジム・ボウイ役が一番好き。
ジョン・ギールグッド>執事役でよく見掛ける方ですが、オリヴィエと並ぶイギリス演劇界の大御所。
あの姿勢のいい慇懃無礼な感じの大ファン。
今回も顔芸ですが、目の動きと唇の形だけで感情を表現していて流石だと思いました。
イギリスのアカデミーでは彼が受賞してたのですね。
A・パーキンス>ああいう役は十八番(笑)
マイケル・ヨーク>結構、贔屓にしてた役者さん、今回はいつもの知ってる顔じゃなくて、よく見なければ解らないくらいでした。
M・バルサム>この人とジェームス・メイスンって僕の中でイメージが重なってて困る、区別はつきますが。(汗)
J・ビセット>この作品でこんなに美しかったのに、何で印象に残らなかったのか・・・。
バーグマンは地味な役ながら風貌を憶えてたのに。

セットで「ナイル殺人事件」も見てしまうんです(笑)。
>流石にセットでは観れないけど、今年中に再見してみます。(TVでつまみ食いは何度もしてるのですが、気合いを入れて再見した事はないので)

ポワロさんも3人とも(テレビの方含めて)同じくらい好きです!
>英グラナダTV版のホームズもそうですが、存在感にユーモアのあるD・スーシェが僕は好きです。

盆休み>午前中は家族サービス、午後、昼寝、漸く疲れが取れてきました。
ありがとうございます!

※これからオリンピックを観るので、申し訳ありませんが「ファントマ」(汗)は明日にさせて下さい
返信する
こんにちは☆ (miri)
2016-08-13 10:14:55
>V・レッドグレーブ

若い頃の私から見たら、カッコ良い大人の女性の代表格でしたね~「ジュリア」とか良かったです♪

>R・ウィドマーク>あの顔が大好物。(笑)

・・・何と返事して良いやら?「アラモ」恥ずかしながら未見で・・・。

>ジョン・ギールグッド

大好きですよ、今年もいくつか見たような気が・・・この映画でも素敵でしたね☆

でも男性なら、私はショーン・コネリーさんが、昔嫌いだったのに、この年になって見たら素敵でビックリしました!
特にこの映画と「マーニー」で、演技もできるんだなぁ~と(笑)。

>D・スーシェが僕は好きです。

テレビ版の「オリエント急行殺人事件」は、役者の皆さんがイギリスではともかく
日本では全然知られていない人々だったので、顔と役柄が一致しにくく、
終わった後も、この映画のように和気あいあいとせずに、ポワロさんの怒り心頭のお顔のアップで
とっても後味の悪い嫌な作品でした・・・もちろん、殺人はいけないのですが、
原作はともかく、多くの人がリビングのテレビで見るような作品なら、この映画のようにしてほしかったです。

なので、オールスターの映画にはいろいろな見方があるにはあるけど
この映画の場合は、役柄と俳優の特性が合っていて、とても見やすく
分かりやすい作品になっていると思って、好きなのです♪
私にとっては、映画を見るというより、一首の「娯楽」のようなスタイルだと思います(笑)。


.
返信する
顔が覚えられない私には (宵乃)
2016-08-13 13:17:08
オールスター映画って面白さの半分も伝わってなかったりするんですよね~。

この作品も初見時の印象は「スーシェさんと違って厳つい!」というもので、面白いとは思いませんでした。人間関係の把握も苦手で、未だにわかってないし(汗)
なんだそのオチ!とは思いましたが…。ミステリーとしては反則もいいとこです。

>もっと簡潔に纏めればリズムも出ていいのだけど、スター達を使う以上そうもいかない。(笑)
>現在の法外ギャラの原点で、~オールスターシステムの限界が来ていた

スターがたくさんだと大変そうですよね。思わず「アメリカの夜」の「パメラを紹介します」がオールスター映画だったら…と考えちゃいました。きっと監督は血を吐きます(笑)
返信する
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2016-08-13 21:58:16
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

V・レッドグレーブ>調べたら、「裸足のイサドラ」、「トロイアの女」、「オリエント急行殺人事件」、「ジュリア」を観てました。
「ジュリア」はJ・フォンダ絡みで観て、微かに記憶(話の内容)がありますがレッドグレーブの方は全然、記憶に残ってません。(汗)
やっぱり「裸足の~」以外、彼女の記憶は綺麗に消えてました。

「アラモ」恥ずかしながら未見で・・・
>それほどメキシコ側を悪く描いてないけど、やはり、アメリカ人の為の「アメリカ万歳!」の映画だし、尺も長いので、余りお薦めはしません。
只、ウェインを筆頭にしたフォード一家とR・ウィドマーク、ローレンス・ハーヴェイのアンサンブルとテーマ曲が良くて、僕は好きです。(初見が高1の頃なのが良かったのかも)
ウィドマーク、A・ボーグナイン、L・マーヴィン、J・ケネディ、極端に悪党面なのに笑うと愛敬が有る。
顔見てるだけでご飯3杯ってやつです。(笑)

ショーン・コネリー>中々、渋くて性格もいい役で格好良かったです。
今、観ればそれ程でもないけど、これロードショウで観たので、その頃は、まだ007のイメージが強すぎたのだと思います。

あのシャンパングラスを片手にしたカーテンコールはオールスターならでは。
粋で楽しかったです。

「娯楽」のようなスタイルだと思います(笑)。
>そうですね、多くの知ってる俳優が只の「顔見せ」じゃなく、文字通り「競演」してる楽しさ、面白さ、僕も実は今回満足してるんですよ。(汗)
返信する
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2016-08-13 22:37:28
 宵乃さん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

オールスター映画って面白さの半分も伝わってなかったりするんですよね~。
人間関係の把握も苦手で
>41年振りとは言え、犯人も動機も憶えてるから今回、人間関係の方だけに集中出来ました、この後の夕食時、家族とまた観たので、宵乃さんと同じく識別の苦手なカミさんにラストのカーテンコールで一人一人説明して、ほぼ完全になったと思います(終了後、プロローグシーンの再生をして追加説明)。
只、41年前の初見時は全て把握出来ず、一部曖昧だったと思います。

僕は公開当時、スター達の顔を10人知ってたから馴染みの薄い宵乃さんより断然有利でしょう。
miriさんも仰ってますが、TV版の知らない俳優10人以上だったら、僕も混乱したと断言できます。
こういう多人数が入り乱れる話は半分以上、目印がわりにスターを使った方が解り易いのかもしれません。
流石に本作は作品の完成度から見れば使い過ぎの弊害も感じられるけど、当時の映画ファンなら混乱を最小限にする効果が有ったと思います。

ミステリーとしては反則もいいとこです
>「忠臣蔵」みたいな動機と犯行でした。

きっと監督は血を吐きます(笑)
>「市民ケーン」だけじゃ追いつかないですね。(笑)
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