セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「たそがれの維納」

2013-04-17 22:54:02 | 外国映画
 「たそがれの維納」(「MASKERADE」1934年・オーストリア)
   監督 ヴィリ・フォルスト
   原作・脚本 ヴィリ・フォルスト
   撮影 フランツ・プラナー
   音楽 フランツ・グローテ  ウィリー・シュミット=ゲントナー
   出演 アドルフ・ヴォールブリュック
       パウラ・ヴェセリー
       オルガ・チェホーア
       ペーター・ペーターゼン

 謝肉祭の舞踏会で、アニタ(O・チェホーア)が引き当てた1等賞のチンチ
ラのマフ(両手用のカバー?)。
 そのマフを借りた婚約者の義姉が、スキャンダルで有名な色男画家(A・
ヴォールブリュック)のヌードモデルになった事から起こる騒動。
 やがて騒動は、本来、無関係なはずの伯爵夫人付き朗読係の純情な娘
(P・ヴェセリー)を巻き込み・・・。

 スキャンダラスな色男に純情娘、そして嫉妬に駆られる捨てられた女。
 ちょっとビリー・ワイルダーが好みそうな艶笑話になる所を、この監督は品
の有るメロドラマにしています。
 しっかりした構図と陰影の深い画調、落ち着いて端正なカメラワークと演出、
そして監督の美的センス。
 それらが相まって、一歩間違うとグチャグチャになってしまう話が、実に気
品ある作品に仕上がってる。
 流石に80年近く残ってる作品だと思いました。
 ただ、貴族制度の無くなった現在、これをリメイクしても無理が出て駄目だ
ろうし、余程、上手く作らないと通俗メロドラマの域を出ないと思います。
 そういう意味では、やはり戦前の映画と言えるのかも。

 ラスト近くで義兄がアニタへ、そっとピストルを返すシーン。
 何人かの感想を読んだのですが、義兄が大人になって全て丸く納ったと
捉える方が多いですね。
 僕は、あのシーン「黙ってるから、弟の元から去れ」と捉えました。
 これは、リアル生活で僕が「兄」だからなのかな。(笑)

 このアニタの義兄(予定)が、僕に似て「しつこい!」
 当時の上流階級の人間だから、体面が何より大事なのは解かるけど、こ
の兄貴一人が掻き回して面倒を作り出してるんですよね。
 (まァ、この人が詮索しなくても、社交界の小雀達がほっとかないから、い
ずれモデルが誰か耳に入るだろうけど)
 おまけに、弟には「決闘」を強制する癖に、火の粉が自分に降りかかると、
 「立場上、決闘は出来ないから、他の方策を考える」って、一体、アンタ何
なの?(この辺も、僕に似てる~笑)
 弟とはネガとポジなだけで、この兄弟、五十歩百歩に見えます。

 後一つ付け加えると、この話、ちょっと「カルメン」が入ってる気が。
 画家の女執事の名前が「カルメン」だし、アニタの性格には、かなりカルメ
ンが入ってるんじゃないかな。
 純情そうなヒロインにしても「会ってないと、あの人を他の女に獲られそう
で怖い」ってジェラシー満載だし。(笑)
 これは「カルメン」に関係ないけど、芸術家から毒が抜けたら他人に強い
印象を与えるような作品は出来なくなると思うんですよね、「ベニスに死す」
の指揮者みたいに凡庸になっちゃう。
 ジェラシーの強いヒロインと毒の抜けた画家、う~ん、余りハッピー・エンド
の話に見えないんですよ、困った事に。
 折角、洒落たエンド・マークが付いてるのにね。
 まァ、この辺は僕が捻くれてるだけなんですけど。(笑)

 散々な事も書いたけど、解説の淀川さんが仰るように、戦前のオーストリ
ア映画のレベルの高さが窺い知れる立派な作品だと思いました。

※A・ヴォールブリュックは本当に貴公子然とした二枚目で、何処となくC・ゲ
 ーブルな感じもするのですが、やっぱりゲーブルは逆立ちしてもアメリカ男
 だよなあ、と。(笑)
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2 コメント

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おはようございます☆ (miri)
2013-04-18 08:53:55
マフ、っていうのは、なんというか両腕の肘から下の部分を温かく保温するのとともに、
お洒落のワンポイントだったのではないでしょうか??? 
(現代ならスカーフとかで個性を見せる女性が多いですものね・・・私はお洒落には疎くてよく分かりません)

>しっかりした構図と陰影の深い画調・・・実に気
品ある作品に仕上がってる。
>流石に80年近く残ってる作品だと思いました。
>そういう意味では、やはり戦前の映画と言えるのかも。

ハイ、製作時の「現代の感覚」があふれていると思います。
いやらしくなっていない・・・上品な感じの作品ですね~♪

>折角、洒落たエンド・マークが付いてるのにね。

雪が降り積もるエンドマーク・・・あんなにお洒落な「おわり」って見た事なくって、お気に入りです♪

>まァ、この辺は僕が捻くれてるだけなんですけど。(笑)

受け止め方は、人それぞれで良いと思いますが、
あのラストシーンのあとに、彼女が彼と離れるってあんまり想像したくないです(笑)。
私は単純なので(爆)。

>戦前のオーストリア映画のレベルの高さが窺い知れる立派な作品だと思いました。

この監督さんしか知らないかもしれないけど
「ブルグ劇場」も「未完成交響楽」も、それぞれに良い作品だと思います。
この国がナチスに併合されたのは、芸術の面から見て、とても辛く苦しいことだったと思います。。。
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こんばんは! (鉦鼓亭)
2013-04-18 23:38:32
 miriさん、コメントありがとうございます

マフ>中のハンカチを取り出そうとしてたから、ポケットか小物入れ兼用だったのかも。
(僕も、ファッションには縁遠いオッサンなんで、よく解かりません~笑)

いやらしくなっていない>そうなんですよ、これを凡庸な監督が撮ったら間違いなく下品になると思います。

・あんなにお洒落な「おわり」って見た事なくって、お気に入りです♪>
あれは、僕も思わず知らず頬が緩みました。

画家と令嬢は「つつましやか」にやっていくなら幸せになれるかもしれないけど、今の生活を維持しようとしたら悲劇になりそう。(笑)
それに、あれだけの男前、結婚したって女性がほっとかないだろうし、それは、彼女の美貌にも言えるから、時限爆弾抱えてるようなもの~美し過ぎるのは災いを招きます。(笑)

「ブルグ劇場」は、いつか観たいと思ってる作品なんです。
(昔読んだマンガに出てきた(爆))
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