セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「ライアンの娘」

2015-09-08 23:13:27 | 外国映画
 「ライアンの娘」(「Ryan's Daughter」、1970年、英)
   監督 デヴィット・リーン
   脚本 ロバート・ボルト
   撮影 フレディ・ヤング
   美術 ロイ・ウォーカー
   音楽 モーリス・ジャール
   出演 サラ・マイルズ
       ロバート・ミッチャム
       トレヴァー・ハワード
       ジョン・ミルズ
       クリストファー・ジョーンズ

 1970年代、「世界の現役5大監督」に数えられてたD・リーン監督(他
にフェデリコ・フェリーニ、イングマール・ベルイマン、黒澤明、インドのサ
タジット・レイ)。
 「旅情」、「戦場にかける橋」、「アラビアのロレンス」、「ドクトル・ジバゴ」
に続く5本目の観賞になります。
 前・中期は「旅情」以外観てないし、恋愛映画の名作と言われる「逢び
き」も未見、只、後期5作中、これで4本観た事になります。
 その後期4本に共通してるのは、「時代の大波の中、力の限り自分の
信じる道を進みながらも時代に翻弄され、のみ込まれていく無情」でしょ
うか。
 第二次世界大戦、第一次世界大戦、ロシア革命、そしてアイルランド独
立戦争。
 普通の映画のように主人公達だけを追っていくと、もしかしたら「片手落
ち」になってたのかもしれません。
 主人公と同じくらい時代を一緒に描いていく「叙事」的作品、それがリー
ン監督の持ち味なのかなと(後期)、本作を見て漸く理解できた気がしまし
た。

 アイルランド独立戦争が始まる3年前、ロージーは子供時代から憧れ続
けた教師チャールズと目出度く結婚。
 しかし謹厳実直を絵に描いたような夫との生活に、充実感を感じる事が
出来ないでいた。
 そんな時、あろう事か、アイルランドと敵対するイギリス軍駐屯地に赴任
して来た将校と恋に堕ちてしまう・・・。

 この作品、最後の神父の言葉に「救い」を暗示していますが、多くの観客
はどうだったのかな?
 「そんなに上手くいく訳ないっしょ!」
 僕は、どうしても否定的に見えてしまったのですが、「愛する」だけではな
く「愛される」事の意味を知ったロージーには、気持ちとして神父の「言葉」
の通りになって欲しいと思いました(結構、ロマンチストなんですよ、幾つに
なっても(汗))
 神父の傍にいつも居る薄弱のマイケル。
 この二人は神と、その子キリストの役割を与えられてる気がします。(「道」
のジェルソミーナと同じ)
 自分の感情だけに生きていたロージーが様々な出来事を通じて本当の
大人となり、他人を真に受け入れられるようになる。
 あのバス停でのマイケルとの抱擁は、「神の子」との抱擁であると考え
られなくもない、だから、あながち神父の言葉も否定できない気がするん
です。
 (何の為にマイケルは登場するのか、狂言回し以上の意味が有るはず)

 ・・・と、物語の中の視点で見ていくとそうなるのですが、俯瞰的に見ると
疎外、排斥されるロージーの姿が、そのままアイルランドの置かれてる状
況になり、石を投げつける愛国的な村民がイギリスに逆転してしまう。(笑)
 或る時(時代)、イギリスと密通して一緒になるが(歴史的には征服だろ
うけど「例え」として)、そこから決別して独り立ちしていくロージーはアイル
ランドの「望み」そのまま。
 そう考えれば、夫の立ち位置も何となく理解出来る気がします、誰だって
母国は真面目で優しく、忍耐強くて包容力が有り、見放さない、そう思いた
いものです、立場が不遇なら尚更。
 ・・・やっぱり、神父の言葉とおりになるのかな。(笑)

 この作品、「アラビアのロレンス」と同じくカメラが素晴らしい!
 「アラビアの~」での、何も無い砂漠の中、遥か彼方、熱気の揺らめきか
ら滲み出るように現れ近づいて来るラクダに乗った男、あの印象的な導入
部に似て、アイルランドの荒涼とした海岸線、飛ばされる日傘、青黒い海と
一艘の小舟、どこまでも続く砂浜、そのどれもが溜息が出る程に美しい。
 それは、荒れる海の中、村民達が命懸けで武器を引揚げる動的でダイナ
ミックなシーンでさえ一遍の叙事詩のように見せてしまうセンスと技量にも
現れていると思います。
 最適のアングルからくる格調高い画、収められたシーンの力強さ、その
いずれもが「巨匠」の仕事と呼ばれるのに相応しい。
 勿論、それに負けないストーリーと緩急自在の演出は言うまでもない事。
 演技に関してはデヴィット・リーンの作品ですから、言うのも野暮。
 アカデミー賞を獲ったJ・ミルズは勿論、S・マイルズ、R・ミッチャムも良か
ったし、僕の好きなT・ハワードの渋い演技が観れたのも嬉しかった。
 監督に徹底的に嫌われたと言うC・ジョーンズも僕には好印象でした。

 公開時、評価が分かれたと聞いてます、確かに「アラビアのロレンス」の
ような大傑作とは較べられないかもしれないけど、巨匠の作品らしい風格
を備えた名作だと僕は感じました。

※R・ミッチャムはアメリカ映画で見慣れてるせいか、どうしてもアイルラン
 ド人に見えなかった。(笑)
 アイルランド系なのかな?

 2015.6.21
 TOHOシネマズ日本橋

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 独りより 二人でいれば 尚更に 吹き抜ける風 我が身に凍みる
 
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4 コメント

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こんにちは☆ (miri)
2015-09-09 09:57:29
鑑賞後1年半経っているので詳細はあまり覚えていませんが、
大まかにはよく覚えている作品です☆ 詳細についてのコメントは難しいので、
いつか再見してから またお邪魔させて頂きますね~195分♪

>1970年代、「世界の現役5大監督」に数えられてた

エッ?そうだったんですか? たしかに巨匠ですよね~。
他の方々も納得の・・・ですが、そう言われていた事は知らなかったです☆

>恋愛映画の名作と言われる「逢びき」

・・・まぁ人それぞれですよね~。

>主人公と同じくらい時代を一緒に描いていく「叙事」的作品、それがリーン監督の持ち味なのかなと(後期)

勉強になります。

>この作品、「アラビアのロレンス」と同じくカメラが素晴らしい!
>そのどれもが溜息が出る程に美しい。

本当に素晴らしくって、プロの(になりたい)映画人の皆さまには必ず見て頂くべき作品ですよね♪

>勿論、それに負けないストーリーと緩急自在の演出は言うまでもない事。
>演技に関してはデヴィット・リーンの作品ですから、言うのも野暮。

私もこの作品については全く異論ないです、
ミルズさんが一番だったけど、全員良かったし、演出は「言う事ない」です。
でも、この監督だからと言ってそういう作品ばかりではないのだな~と、
ある作品を見てガックリしています・・・それがこの監督の最後に見た作品で、
それ以降ちょっと立ち直れないでいるから・・・だからこの作品を再見したいです、なるべく早めに
・・・まぁロレンスでも良いのですが、とにかくどれもこれも長いですからね~笑。

>R・ミッチャムは

スコットランド=アイルランド系の父親とノルウェー系の母親の間に、
コネチカット州にて生まれる。ってネットに書いてありました。

>独りより 二人でいれば 尚更に 吹き抜ける風 我が身に凍みる

多くの誰もが、ひとりだったら二人になりたいのでしょうけど、
二人になるとまた違う孤独がある事を知るのですよね~。
皆がそう思える・・・良いうたですね☆


.
返信する
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2015-09-09 23:13:06
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

今週は今日、明日だけ時間があるのですが、金曜~月曜まで、いよいよ祭礼ですので音信普通になると思います。(汗)

いつか再見してから またお邪魔させて頂きますね~195分♪
>楽しみにしています!195分♪

「世界の現役5大監督」に数えられてた
>たま~にですが映画雑誌で見掛けていました。
最初は「(現役)世界5大監督の一人ベルイマンが~」とかで、そういう認定が有るんだ、へぇ~」
5人の名前が解ったのは、結構、後でした。
それから、又、時間が経って、誰かが、
「5大監督、或いは巨匠の条件とは何でしょう?」と聞いたら
淀川さんだったか双葉さんだったか(とにかく、そのクラスの重鎮)、
「まず第一に、画の格調の高さ」って答えてて、
「何だ、カタチなのか・・」と笑っちゃった憶えがあります。
でも、今、振り返ってみると、確かにそうなんですよね。
しっかりした画にスカスカの内容ってのは見た事がないし、
皆、その、しっかりした画に負けないドラマとパワーが内包されてるから、やっぱり比例するもんなんだなと、今は思っています。
(何でヴィスコンティが落ちた?(笑))

本当に素晴らしくって、プロの(になりたい)映画人の皆さまには必ず見て頂くべき作品ですよね♪
>シネコンの余り大きくないスクリーンでしたが、開始5分で「元は取れた」と思いました。(笑)

ある作品を見てガックリしています
>地雷が有りましたか・・。
誰だってパーフェクトとはいきませんね。
(この監督のデビュー作、ググってみたら「陽気な幽霊」なんですね、原作の方ですが英語の授業のテキストでした~見事「赤点」で再試(笑))

スコットランド=アイルランド系の父親。ってネットに書いてありました。
>やはり、血は入ってるんですね。訛りとか、下地があった方が、やり易いかもしれませんね(実際に触れれたか解りませんが)

皆がそう思える・・・良いうたですね☆
いつも、ありがとうございます!

返信する
Unknown (追伸)
2015-09-09 23:14:26
音信普通→音信不通(汗)
返信する
こんばんは☆ (miri)
2015-09-12 20:51:04
お陰さまで良い再見になりました♪
いつか、ゆっくりと読んで頂ければと思って、初見時記事に追記しました。
お忙しい時にすみませんでした。 このコメントに返信は結構です☆

何事もなく、明日まで無事に終わりますように・・・。


.
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