セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「或る夜の出来事」

2012-05-31 23:10:10 | 外国映画
 「或る夜の出来事」(「IT HAPPENED ONE NIGHT」1934年・米)
   監督 フランク・キャプラ
   脚色 ロバート・リスキン
   原作 サミュエル・ホプキンス・アダムス
   撮影 ジョセフ・ウォーカー
   出演 クラーク・ゲイブル
       クローデット・コルベール
       ウォルター・コノリー 

 1934年の作品です、監督は名匠フランク・キャプラ。
 スクリューボール・コメディという分野を開拓した記念碑的作品。
 Wikによれば、スクリューボール・コメディとは「常識外れで風変わりな
男女が喧嘩をしながら恋に落ちるというストーリー」だと紹介されています。
 ただ、これは厳格な定義で、今日的には「激しい台詞の応酬をしながら
恋に落ちる」、そんな感覚で大丈夫だと思います。
 「激しい台詞の応酬」が顕著なのは「おかしなおかしな大追跡」(1972
年)の元ネタである「赤ちゃん教育」(1938年・監督ハワード・ホークス)
で、僕はスクリューボール・コメディの感覚は、むしろ「赤ちゃん教育」の方
が強いと思っています。
 「或る夜の出来事」はスクリューボール・コメディ風味のロマコメで、ロマ
ンティック・コメディ、ラブ・コメディという分野の元祖として記念されるべき
作品であり、第一作にして、この分野の傑作に必ず数えられる作品。
 「ローマの休日」は、この作品のバリエーションにすぎない。そんな言い
方もある程です。(僕は、ちょっと、それは言い過ぎじゃないかと思ってま
すが)
 確かに話の骨格はそっくりで、ワイラー監督が、この作品を参考にして
るのは間違いありませんけど。

 お金持ちの令嬢エリー(クローデット・コルベール)が、父親の反対に反
抗して、監禁されていたマイアミのヨットから脱走、NYに居る婚約者の元
へ向かいます。
 その旅で出会ったイケスカナイ新聞記者の男(C・ゲーブル)との物語。

 この映画で一番素晴らしいのは、キャプラ監督が語る映画のリズムです、
緩急自在、1シークエンスの長さも、長すぎず短すぎず、殆んどピッタリ、
名人技の実例と言ってもいいでしょう。
 小道具の「ジェリコの壁」も憎らしいほど粋で冴えています。
 また、途中、歌われる「ブランコ乗りの歌」は陽気で楽しく、僕がアメリカ
人なら一緒に合唱してるかもしれません。
 ヒロイン、エリーを演じたクローデット・コルベールは、ちょっと髪型、服装、
顔立ちがサイレント時代の女優さんって感じがして、最初は馴染めない方
も多いと思います、それ程、美人にも思えないし。
 僕が40年前にこの作品を初めて観た時、ストーリーは凄く面白いんだけ
どヒロインが可愛くないので、完全にノリきれなかった覚えがあります。
 (僕は基本、ミーハーですから)
 でも、見直してみると、もうヒロインの顔は解ってるので気にならないし、
よく見れば、可愛い所もあるし、何より上手な事に気がつきました。
 まあ、前半、高慢チキな金持ち娘を余り可愛くない顔で演じてるから、余
計、嫌になったんだと思います。
 C・ゲーブルは、この作品で大スターになった訳ですが、充分に芸達者な
ところを見せてます、有名なヒッチ・ハイクのシーンは中々の見ものです。
 追っ手を誤魔化す為に、エリーのシャツボタンを外して肌けさせ、首尾よ
く落着した後は、真っ先にボタンを元に戻してあげる。
 口は悪いけれど、ちゃんと優しさを持ち合わせているのが解るシーン。
 ゲーブルがやるからサマになるんですが、好きなシーンの一つです。
 そして、エリーの父親で「問題は金で解決する」が信条の大銀行家アンド
リュース。
 イイトコ総取りの儲け役をウォルター・コノリーが、実に楽しそうに演じてい
ます。
 (あの役だったら、誰だって大喜びしちゃいますけど)

 戦前の映画だからって馬鹿になんか出来ませんよ。
 映画の演出法というのは、パンフォーカスを含め殆んどと言っていいくらい、この
時代までに出来上がっているのですから。
 アメリカやヨーロッパは勿論、後発国の日本でさえ。
 そして、いつの時代にも名人は居るのです。


※「用語解説」
 ジェリコの壁>「ヨシュア記」に出てくるエピソード。
          主の声に従い、イスラエルの民が、ジェリコの城壁を7日間
          一日も休まず回った後、一斉に角笛を吹くと城壁が崩れ落ち
          たという伝説。
 
 これ、子供の頃、NHKで放映してた「タイムトンネル」に、この話が有ったの
 で、直ぐにピンと来たけど、でなければ、キリスト教徒じゃない日本人には説
 明が要る気がします。
コメント (7)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「野良犬」 | トップ | 「ロミオとジュリエット」(... »
最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは☆ (miri)
2012-07-26 12:52:38
良い映画ですよね~。
最近再見しまして、記事を読んで下さったようで有難うございます☆

キャプラ監督へのフクザツな想いがあっても、この作品は「別」です!!!

>僕はスクリューボール・コメディの感覚は、
>むしろ「赤ちゃん教育」の方が強いと思っています。

その言葉をずっと知らなかったのですが、
知る前も知った後も「赤ちゃん教育」だけが当てはまると思っています。

単に他の作品を知らないだけだとは思いますが、
「或る夜の出来事」は、そうは言わないような気がします。

>また、途中、歌われる「ブランコ乗りの歌」は陽気で楽しく、
>僕がアメリカ人なら一緒に合唱してるかもしれません。

これこれ、これね~!
一緒に歌いましたよ~もちろん歌詞は分からないから、ハミングで♪
長年聞いていなかったのに、すーっと分かってしまいました☆

>追っ手を誤魔化す為に、エリーのシャツボタンを外して肌けさせ、
>首尾よく落着した後は、真っ先にボタンを元に戻してあげる。

ココは、パクリの帝王のあのヒトの「古畑任三郎」での、
松たか子と山城新吾のシーンを思い出しました。きっとパクッたに違いないと今回思いました。

・・・なのでこの時点で、すでに、
彼は彼女を、(お金ではなく)大切な存在と認識しているのですよね~♪

>映画の演出法というのは、パンフォーカスを含め殆んどと言っていいくらい、
>この時代までに出来上がっているのですから。

ですよね~。
私は30~50年代のフランス映画が一番好きなのですが、
「巴里の屋根の下」なんか見ると、全部入っているな~って思います。

現代の「きらびやかな素晴らしい映画」も、もちろん良いけれども、
ツールの少ない時代に、人間が工夫してきた演出法も、演技の仕方も、
学ぶところが多いっていうか、そこからしか学べない事がいいのではないかな~?って思います☆

長々失礼しました~☆
毎日暑いので、睡眠時間を大切にいたしましょ~う♪
返信する
間違えました (miri)
2012-07-26 12:54:53
誤:そこからしか学べない事がいいのではないかな~?って思います☆



正:そこからしか学べない事が多いのではないかな~?って思います☆
返信する
こんばんは! (鉦鼓亭)
2012-07-27 01:14:34
いらっしゃいませ!コメントありがとうございます。

大好きな作品の一つです。
スクリューボール・コメディ>僕は入ってると思います。
特に、前半部。
二人の出会いから初めてジェリコの壁が築かれる辺りまではスクリューボールだと思っています。

「ブランコ乗りの歌」>あの場面、特に合唱の所では自然と身体が揺れてしまいます。(みんなと一緒になって~笑)

あはは!「古畑任三郎」でやってましたか。
余りTVドラマを見ないもので・・・。
でも、あの人の「王様のレストラン」は大好きなんですよ。
あれにも、随分、いろんなのが入ってましたね。(笑)

僕も大好きな作品を並べるとヨーロッパの映画の方が多いんです。
フランス映画も好きです(大好きな作品と、まるで合わない作品、極端に分かれますね、中間が少ない感じ)

幾ら技術が進歩しても、見せるものは「人間のドラマ」なんですよね。
爆発とか、車の壊れ方とか、何発撃ったかは副次的なもの。
昔の監督さんの方が「人間」に向き合っていたと思います。

今日も遅くなってしまって・・・、明日、お訪ねすることにします、すいません。
返信する
Unknown (宵乃)
2013-12-06 10:21:59
こんにちは!
やっと観ましたよ~。いい作品でした♪
記事は月曜日になると思います。

>今日的には「激しい台詞の応酬をしながら
恋に落ちる」、そんな感覚で大丈夫だと思います。

わたしもスクリューボール・コメディの意味をずっと知らなかったんですよ。そういう意味で使われてたのか~。勉強になりました。

>確かに話の骨格はそっくりで、ワイラー監督が、この作品を参考にしてるのは間違いありませんけど。

やっぱりそうだったんですね。「或る夜の出来事」は王道を作り上げた作品だと思うし、出来も素晴らしくて最初から最後まで面白かったけど、私的にはやっぱり「ローマの休日」の方が好きかな。「或る夜~」はラストでお父さんが酒を飲みまくってる描写がよくわからなくて、もやっとしたので…。娘の幸せな結婚が嬉しいと、一人で酒盛りするんですかね?

>真っ先にボタンを元に戻してあげる。

このシーンはわたしもお気に入りです。紳士というよりお父さんという感じでした(笑)

ところで、12月もブログDEロードショーを開催いたします。
作品は「オペラ座の怪人:THE PHANTOM OF THE OPERA」(2004年アメリカ・イギリス製作、ジョエル・シューマカー監督)
オペラ座に暗躍する怪人と可憐な歌姫の愛憎模様が、豪華絢爛な美術と音楽をバックに展開するミュージカル作品です。
開催は 12月13日(金)~15日(日)。ちょうどDlife(BS258)で12/14(土)24:00からオンエアがあります。
DlifeはBS放送が観られる環境なら誰でも観られますので、よかったらまたみんなで一緒に映画で盛り上がりましょう♪
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2013-12-06 22:23:50
 宵乃さん、コメントありがとうございます!

ご覧頂き、ありがとうございます。
この作品、何年か後に再見すると、もっと良くなると思いますよ。(笑)
僕も、ヘップバーン&ペッグのコンビの方が好きですけど、
これはこれで、とても魅力的な作品で大好きです。

ラストでお父さんが酒を飲みまくってる描写がよくわからなくて>
やっぱり男親は、(娘が)どんなにイイ男と結婚したって、盗られた感じを消せなくて、淋しいんですよ。(笑)
勿論、結婚して幸せになってくれるのを心の底から願ってるのですが、直ぐには割り切れない。
まァ、あの酒は淋しさを紛らす「ヤケ酒」の一種でしょう。
(そんな気持ちを押し殺して「落とせ!」と言えるだけ大人で、立派!)

このシーンはわたしもお気に入りです>いいシーンですよね。
(卵焼いたり、あのカイガイシサは見習わないと~もう遅いけど(笑))

今月の「お題」、了解しました。
超有名な作品なのに、恥ずかしながら未見なんです。
楽しみです!
返信する
Unknown (宵乃)
2013-12-07 12:41:19
>やっぱり男親は、(娘が)どんなにイイ男と結婚したって、盗られた感じを消せなくて、淋しいんですよ。(笑)
>まァ、あの酒は淋しさを紛らす「ヤケ酒」の一種でしょう。

あ~、そういうことだったんですね!
ありがとうございます、すっかり納得できました。
わたしはどうも酒に悪いイメージを持ちすぎていて、「こんな良き日にそんなに飲んで記憶があやふやになったりしたらどうすんの」とか思ってしまいました(笑)
母親がいなかった気もするし?余計に寂しかったんでしょうね~。
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2013-12-08 01:47:13
 宵乃さん、こんばんは!

最初は「祝杯」だったかもしれませんよ。(笑)
でも、その積りで飲み始めたって、その内、湿っぽくなるんです。
笑い上戸が、フッと、泣き上戸に突然変身!(笑)

レス、「落とせ」じゃなく「崩せ」が正解でした。
スイマセン。
返信する

コメントを投稿

外国映画」カテゴリの最新記事