story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

金縛り

2022年06月17日 20時37分34秒 | 詩・散文

暑い夜、部屋の窓を開けて網戸で虫を遮っているが
部屋には風も吹きこまない

それでも昼間の疲れからか長くもんどり打った後、睡眠に落ちたようだ
ぐうっと意識が引きずり込まれていく
「やばい」と思ったもののどうにもできない

起きなければ・・
だが身体が動かない
「来たのか」と悟った

その人は僕の身体の上に覆いかぶさっている
手足は強い力で抑え込まれる
そしてまるで平安朝のような和服に身を包み
長い黒髪が僕の顔の上に垂れ下がる

だが僕は、この人が悪意を持ってないことは知っていた

夏の暑い夜
仕事で疲れて帰ってきたときに年に数度現れる
その女性はいったい誰なのか、考えてもわからない

僕の両手足を強く抑えたその女性は
やがて僕の身体をゆっくりと舐め始める
声を出したいが声は出ない
身体を動かしたいが、身体は動かない
嫌なはずなのに
なぜか僕はその愛撫とも思える行為を受け入れてしまう

恐怖心というものはない
ただ身体が動かず声が出ず
それが嫌なだけだ

やがて僕の上に乗りかかった女性は
僕がその快感に酔いしれると
ふっと力を緩める

がバッと僕は起き上がり、女性を探す
「またね」
そう言われた気がした
「うん」
頷いてしまう自分が情けない

世間一般の金縛りとはイメージが全く違う
僕に来る空中を彷徨う和装の女性

この女性は僕が加古川、須磨や垂水に住んでいた時には年に何度か表れた
しかし今、神戸市西郊に3年ほど住んでいるが
全くその気配すら感じない

あれは、なんだったのか
僕の夢の中の欲求不満だったのか
それとも、何かを知らせる使いであったのか

ふっと、これまで住んでいたところがみな
大昔、戦国期、あるいは源平時代には
戦場であったことを思い出す

今住んでいるところに、そういうきな臭い過去は存在しない
ではあの人は、そういうところで亡くなった女性の霊なのだろうか

殆どの人が怖がるシーンで
僕が怖がらずに受け入れたことを
すくなくとも彼女は、嫌っていなかっという事なのだろうか

コメント
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