story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

あたためあう癒しに

2022年01月17日 17時00分07秒 | 詩・散文

清楚である
いや、清楚という以前に色気を感じないというのだろうか
見た目は確かに女性だというのは失礼な言い回しだろうか

頭の良い女性だ
古文にも造詣が深く
自作の短歌などもする
そして周囲が驚くほど花の名を知っている

そんなあなたの表情が見せるかわいらしさは
たぶん、よほどあなたという人間を知らないと出てこない秘密の森の中
あなたは固くガードをして
自分を女であることが見破られないようにしているのだろうか

だが、その森へ分け入り
よく見れば、目元は理想的な形をしていて
大きな瞳は美しく澄んでいて
鼻も程よく美しく
きちんと紅をいれれば化粧映えするだろう口元も美人のものだ

眉の形も美しい円弧を描くが、やはりもう少し細く見せること
そして少しは肌にも化粧っ気があれば今の流行りの美人になるのだろう

ただ、セミロングの髪型があなたを女性足らしめていたわけではないことに
僕はあなたをじっと見つめてしまう
「え?なに?なんですか・・そんなに見つめて」
恥ずかし気にはにかむ表情は
僕が初めてあなたを女性としてみた時ではなかったか

だが、あなたは無頓着で、僕には単に写真趣味のお付き合いでしかない
出会うときはいつも活動のしやすい服装で
そして活発に動くのだけれど
例えば、花畑の中にいる時
例えば、夕日の沈むのを目にした時
例えば、夜のイルミネーションのただなかにいる時

あなたは時に、ほうっとしているかのように立ちすくむときがある
ご本人曰く「ああ、心の中が真っ白になる」のだそうで
心底その場所、そのシーンに酔いしれているときだったのだろう
感受性の強さ、そしてそれを写真のモノにできる力量の持ち主
それが僕があなたに抱いたごく初期の印象でもある

ある時だ
僕は夜の町中で
あなたのシルエットを撮影した
それはほんの悪戯心ではあったのだけれど
デジタルカメラのモニターに再生されたそのカットは
あなたがまぎれもない美しい女性のシルエットを持っていることを
思い知らされた

そうか、この人は被写体としても原石なんだ
僕はあなたのポートレートを
それもかなり難しい表現が必要なそれを
撮ることが好きになっていった

僕には女性としてのあなたの魅力は少しずつ分かってきてはいても
あなたから見た僕などは
ただ、気軽なお友達であり
写真のことを教えてくれる便利な友達と思っていたはずだった

仕事や家事のことで心底疲れ切った時期だった僕は
「どこかで休ませてくれる女性がいればなぁ」と口走った
「あら、今からでもいいですわよ」と答えられ
僕はかなり焦った
要らぬことを言ってしまった
その時のあなたは「まだ機が熟していないようですわね」などといい
結局、いつもの通りお茶を飲んで分かれた

けれど、その日は意外に早くやってきたのだ
かなり、きつい状況を僕が乗り越え
それでも、夏の海の輝きをあなたと共にカメラに収めた日
その場所のすぐ近くの宿へ
どちらが誘うともなく、手を繋いで入ったあの日

痩せぎすに見えたあなたは
ベッドの上で薄いブラウスの下に
意外なほど美しい肌があることを僕は知ってしまった

滑らかで美しく白い肌
小ぶりだが年齢を感じさせない張りのある胸
美しい肩のライン

僕は夢中になってあなたの身体を泳いだ
切ない声を漏らし
あなたは汗を輝かせる
暗い部屋の中で
僅かに光るオレンジのダウンライトに照らされた
あなたの身体はため息が出るほどに美しい

出会いというものは不思議だ
人は出会ってみないと、その相手とどこまでの関係になるかわからない
肌を重ね、お互いの体熱を感じながら
静かな時間を共有できる
それはまさしく相手が異性だから可能なことであり
そうすることでお互いを癒すことが出来るということなのだろう

若いころに、いや、少年の頃に夢見た、いや妄想した
あのセックスという概念は今の年齢になると遥か彼方に消え去り
そこにあるのは人と人の得難い熱さではないだろうか

快楽ではなく
癒しを求めて
そしてそれがやっとわかった僕はすでに
人生の終盤戦への入り口に立っているということなのだろうか

 

コメント
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