story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

機関車磨き

2023年09月02日 18時25分08秒 | 詩・散文

神戸駅前の大きなD51機関車を磨く
数人の仲間とともに無心だ
機関車は磨けば磨くほどに黒光りして

カッコよくなっていく
ハーバーランドへ買い物や遊びに来た人が
足を止めてスマホで撮影していく
機関車を磨いている僕たちに
いろいろ質問を投げかけてくれる人もある
そう言えば、地元兵庫県のラジオやテレビ
大阪の関西キー局のテレビなどでも報道された
それを見た人たちだろうか
興味深そうに僕らの作業を見つめている

作業をしている中心は六十歳台だ
だが、若い人もいるし女性もいる
無心になれる
何も考えず汗をかける
それは現代においては苦痛などではなく

むしろ喜びなのだと僕は後から参加した人に教えてもらった

 

ボランティアと人は言う
でも仲間は言う・・好きな機関車を触ってボランティアと呼んでもらえる
鉄道ファンとは不思議な人たちで
電車や機関車を写して悦に入っているだけだと思っていたのに
その人たちが機関車を嬉々として磨いている
最近、撮り鉄と言われる鉄道ファンが
世間を困惑させ、驚かせ、迷惑をかけ
それゆえに世間から疎まれる存在になってきたのを僕は哀しく思っていた
だけど、こうやって機関車磨きをすればそれは街のシンボルを守ることであり

世間の方々に少しは鉄道ファンが認められることになるのではないかとも

思うようになってきた

 

磨かれ、その都度一部を補修された「デゴイチ」は美しい
こうして夕陽に照らされる彼の姿を一番に写真に収めること

それは撮り鉄冥利に尽きる

 

作業を終え、作業後の歓談も終え
僕は仲間とはずれて一人、デゴイチを眺める
日の暮れた都会の真ん中で
昨年、ライトアップされるようになった二十一メートルの巨体が
光を浴びて堂々としている
もう、君はあの北海道の山野を走ることはない
いや、この神戸でも真横のJR神戸線を走るなんてことはない
だが、半世紀もの間

ここでこうしてたくさんの市民に視てもらっていた
それも一時期、君がサビサビの姿になって
哀しく佇んでいた頃には人は君の周りに集まらなかった
君を避けて人々は歩いていたんだ

だが、美しくなり

男の色気を全身に漂わせたいま

君はたくさんの市民に写真を撮ってもらっている

人の流れは変わった
君の横を通って元町の方向へ
さぁ、これからだ
君が看板を続けてきた神戸・元町の再発展は

 

ありがとう
僕たちにこんな仕事をくれて
ありがとう
デゴイチ君よ、こうして磨かせてくれて


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