story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

暖かな夢

2014年12月26日 20時18分06秒 | 詩・散文
暖かい、そのありがたさを僕は心底喜んでいた。
身体がというより、足の指の先、手の指の先までもがしみじみと
久しく味わったことのない暖かさに
僕は喜んでいた。

オレンジの照明が満ちる部屋の
ゆったりとして柔らかいベッドの上の僕はいた。

「ねぇ、あげる・・ほら・・」

なぜ、貴女はここに居るのだろう、僕の部屋であるはずのここに

だが、その疑問を咀嚼する余裕もなく
貴女は僕の上から悪戯っぽい目をして微笑みかける

「ほら、あげるよ・・」

僕は視線を正面に向けた。
そこには実りのよい果物のような
しっかりと熟れて膨らんだあなたの胸がある
貴女はどうやら僕に四つん這いで跨っているらしい

ああ・・だから貴女は僕を上から見下ろしているんだ。

体の芯から湧き上がる喜びはさらに暖かさを膨らませ
僕の歓びはこれまでに味わったことのない大きさにいたり
僕を支配する

丸い大きな胸乳の、それでも貴女が僕に跨っていることで
その先の可愛い乳首は優しく垂れて今まさに僕の目の前にある

「ほら・・あげるよ・・」

貴女はくすりと微笑みながら僕の目を見る。
「食べていいの・・」
「ほら・・せっかくアタシがその気になっているのに」

僕はもう迷わない
貴女の桃色のその突起に赤子のようにむしゃぶりつく

「あぁ・・そう・・そう・・」

貴女は体をのけぞらせながらも
僕のに乳首を与えるその姿勢は崩さない

うれしい・・うれしい・・
まったく手に届かないと思っていた貴女が
こうして僕に胸乳を与えてくれる

夢にまで見たとはこのことか・・

いや・・まてよ・・貴女ははいつもの貴女のはずで
確かに最近、そういうことは殆んど無くなっていたけれど
でも僕は貴女の身体は決して初めてじゃない。

手に届かない相手とは貴女ではないはずで
それは僕が遠い昔に出会ったあの女性のことではないのか

そうだ、あの女性の胸は小さかったはずだ。
小さくて形のよい可愛い胸
触ると見た目以上の弾力と
ヘビースモーカーだとは思えぬ
色白で木目のこまかい肌の
まるで少女のような羞恥心を持っているかに見える
あの女性は確かに貴女ではない

でも僕は今、貴女こそが僕が最も求めていた女性であるのだと
豊かで柔らかい胸の先端を頬張り
なだらかな稜線のまるで上質の絨毯のような
柔らかく温かいその斜面に顔をうずめる

幸せと言えばこれほどの幸せがあろうか
欲しいものと言えばこれほど欲しいものがあろうか

これまで生きてきた中で最大の満足を感じながら・・

ん?
僕は貴女とは何度もそういう関係になっているのに
なぜ今、そう思うのだろう。
なぜ、貴女は僕の前に居るのだろう。

でも、また貴女は僕に切れ長の目で微笑みを投げかけて
今度は僕の顔に貴女の顔を寄せてきた

優しく口づけと言うがそんなものではない。
貴女の口が僕の口に覆いかぶさるかと思えば、
貴女は強引に僕の口を開けて冷たい唾液を送り込んでくる。
次の瞬間、貴女の濡れた舌が僕の口の中をまさぐる

快感とはこういうことを言うのだろうか。
僕はただ、言葉になるはずもない声を出して唸るしかない

なぜか、涙があふれ出る
求めていたその瞬間こそが今なのだ・・

いや、ちょっと待ってくれ・・
僕は貴女とは何度もこういう関係になっているのに
なぜにいまさら、そう思うのだ?
なぜに僕は貴女に支配されているのだ?

いつもの貴女は寂しがりやで恥ずかしがりやで
僕が誘っても色よい返事をくれることなどなく
それでもなぜか雰囲気だけはそういう雰囲気になって
そしてその時は喘ぎ楽しみながらも
終わるとまるでまったく見知らぬ他人でもあるかのように
よそよそしく分かれていくはずなのだ。

貴女は僕の口から貴女の口を離した後、
僕の首筋から胸元、腹へと貴女の舌を沿わせていく

ああ・・もう駄目だ。
なにも考えることができないほどに僕は貴女に支配されている

あの女性ではないはずの貴女が
僕をここまで歓ばせてくれているのだが、僕は抗う気持ちすら起こせない

いつもは僕の下にあって従順な貴女が
今日はずっと僕をリードし続けるのはなぜだろう・・

その時だ。

ぴりりょーんりょーん。

無機質で遠慮のない音が僕の耳に入る。
そうだ・・携帯電話をマナーモードにしないで寝てしまっていた。
今日は仕事は休みなのに何てことだ。

飛び起きた僕の前に貴女の姿などあろうはずもなく
灰色の天井と使い古した布団。
けれど、不思議に体は温かく、あの余韻が残っているような気がする。
「夢だったか・・それにしても何とリアルで、なんとエロティックな・・」
そう独り言を言いながら僕は頭の上にあった携帯電話をとった。

メール着信を知らせるLED赤表示が点滅している。
「おはよう、今日、散歩していいよ」

昨夜、「明日、散歩でもしようよ」と貴女にメールを送って
けれどいつまで待ってもそのメールの返事が来ないことに
なぜか僕は非常な焦りを覚え
部屋にあったウィスキーを飲みほして、倒れるように寝たのだ。

「昨夜はごめん、テレビ見ていて貴方のメールに気がつきませんでした」

メールを読んで窓を見た僕には
朝の光は眩しくて目に痛い・・
そう、もしかしたら僕は
貴女にはあの女性をはるかに超える思いを持ってているのかもしれない。
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高速道路の濡れた路面に

2014年12月04日 20時43分22秒 | 詩・散文

未明といえる時間の帰り道
冷たい雨に
体の奥にたまった熱が冷まされていく
そんな快感を覚えながら
高速道路を越える橋の上から
オレンジの光が濡れた路面を照らすのが
なんとも切なくて

きみは今、
生きていますか・・・
きみは今夜、
生きていますか・・・

会いたい人に会えない
一緒に居たい人と一緒に居ることのない
その時間の長さは
きみではない別の
会いたい人に出会い
一緒にいたい人と一緒に居るという
そんな現実を作り上げ

そして僕はその現実に満足しながら
ふと、ハンドルを握りながら
ふと、歩きながら
ふと、空を見上げながら
ふと、息をしながら

きみの名前を呼んでしまうことが
いまでもあるのです

高速道路の濡れた路面を
テールライトをにじませながら
走り去るトラックの
その行く先に
きみがいるはずもないのに
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